■ジャーナリスト・広河隆一さん

 東日本大震災の2日後、東京電力福島第一原発から3キロの双葉町に入りました。とたんに手元の放射能測定器が振り切れました。チェルノブイリ事故後、50回を超える取材でもなかったことでした。

 私は、ペットのえさやりや通帳を取りに帰宅しようとする住民に測定器の数値を知らせ町への立ち入りをやめるよう伝えて回りました。しかし、政府は「ただちに健康に影響はない」と繰り返すばかり。政府も東京電力も原発事故のデータを隠しました。

 取材経験で身をもって知ったのは「加害者は被害を隠す」ということです。情報がないということは、フロントガラスが泥だらけの車に乗せられ、耳元で「安全は保障するから、心配せずにアクセルを踏みなさい」と言われているようなものです。その道は戦争につながっているのかもしれないし、公害が隠されているのかもしれない。薬害エイズの時もそうでした。

 公務員の守秘義務を定めた法律はすでにあります。にもかかわらず、新たな法律を作る納得いく説明はありません。この法律は「知る権利」を著しく狭める、非常に恐ろしい計画だと感じています。

 政府にとって都合が悪くても、人々の「生きる権利」や、それを支える「知る権利」に資するのであれば、秘密を暴き、伝えるのが私たちジャーナリストの仕事です。国益に反すると非難されても、時に抵抗してでも、真実を知らせていくつもりです。