対馬仏像盗難、韓国内に「返還すべき」の声も高いハードル

　１月２９日、長崎県対馬市から仏像を盗んだ韓国人の男が、韓国警察に拘束され、盗まれた仏像２体が押収された。実行犯には既に有罪判決が出たが、肝心の仏像は、いまだに日本返還のメドが立っていない。韓国では、返還を拒む感情的な世論が根強い一方、「返すべき」と主張する良識派も現れ、行動を起こし始めた。仏像が日本に戻る日は来るのか。

　見つかった盗品は「持ち主」に返っていない。仏像は、いまだに韓国・大田市の文化財庁に保管されたまま。２体のうち、「観世音菩薩坐像」を盗まれた観音寺の田中節孝前住職（６７）は「こんなことで日韓の信頼関係が築けるわけがない。韓国人にとってもマイナスですよ」と嘆いた。

　仏像の「元々の持ち主」と主張する韓国の寺が返還差し止めを請求し、２月に大田地裁が仮処分を決定して以降、対馬市民の対韓感情は悪化した。毎年恒例の「厳原港まつり対馬アリラン祭」からは「アリラン祭」が削除され、「韓国人お断り」と貼り紙をする飲食店も。６月には、財部能成対馬市長が韓国の文化財庁を訪問し、早期返還を求めて島民人口の過半数を超える約１万７０００人分の署名を提出したが、その後、音沙汰はない。

　現在、問題対応は外務省に一本化。だが、アジア太平洋局北東アジア課の古平充首席事務官は「累次（たびたび）返還をするよう呼び掛けている」と答えるにとどまっっているのが現状だ。

　実は今、韓国国内でも「返還すべき」と主張する良識派は現れている。文化財研究のため、何度も対馬市を訪問した檀国大学の鄭永鎬客員教授は取材に「対馬に渡った歴史的経緯などこれから証明するのは無理なこと。盗品を返還しないのは、法治国家として恥ずかしいことです」と話した。

　とはいえ、壁は高い。返還論に対する韓国世論の攻撃はすさまじい。背景には、植民地時代に朝鮮半島から日本に持ち込まれた美術品、文化財の多くが残ったままになっている事実がある。「日本が返さないなら韓国も返すな」という感情論の声だ。

　手詰まり状態の中で行動に出たのは、韓国の僧侶・慧門氏（４０）。１１月２５日に２体のうち、「銅造如来立像」を返還しないのは不当として、早期返還を求める行政審判を提起した。慧門氏は、今回のケースとは逆に、日本に渡った文化財の韓国への返還運動の先頭に立つ身。その慧門氏の立場から見ても、対馬に返さないのは、スジが通っていない。「盗みをしてはいけないのが仏様の教えです。物事は論じるだけでなく、行動しなければ解決しない」

　慧門氏は「銅造如来立像」は６か月後には、対馬に返還されると予想。ただし司法のストップがかかったもう１体の「観世音菩薩坐像」は、原告を訴え取り下げの方向に説得しない限りは戻らない。「韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議」の有光健副代表（６２）は「政府間で解決へのルール作りをする必要があります」と、国同士の話し合いに期待を寄せていた。

　◆仏像盗難事件の経緯　２０１２年１０月８日、対馬市の海神神社から国の重要文化財「銅造如来立像」と、同市の観音寺から長崎県有形文化財の「観世音菩薩坐像」が相次いで盗み出された。

　今年１月２９日に韓国警察が、仏像を盗んで持ち込み、売りさばこうとした韓国人の男（６９）を拘束。４人を在宅で立件した。仏像２体は当局が回収したが「観世音菩薩坐像」については「１４世紀に寺で造られ、倭寇に略奪された」と主張する瑞山市の浮石寺と市民団体が、大田市の地裁に返還差し止めを請求。２月２６日に「仏像が正当な理由で日本に渡ったことが明らかになるまでは日本に返還できない」とする仮処分が出された。

（2013年12月17日06時03分スポーツ報知）