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第五十七話 腕比べ。
「ルールは、日が落ちるまでに狩猟と採集で得た成果の評価額だ。五日間あるから、ペース配分を忘れるなよ」

 翌日の早朝、元ベテラン冒険者であったブランタークさんの挨拶から、仕切り直された勝負が始まろうとしていた。

 参加チームは、俺とカタリーナと導師は個人で一チームとなり、エル達は五人でチームを組んで戦う。

 昨日、珍しくカタリーナの暴言にキレたイーナであったが、さすがに一人では彼女に勝てるはずもなく。
 五人でチームを組んだのは、仕方の無い事であった。

 そのくらい、強力な魔法使いとは圧倒的な力を持つのだから。

「イーナ、無理するなよ」

「勿論、私だってそこまでバカじゃないわよ」

「というと?」

「うちは、数で補う。あと、採集をメインにね」

 なるほど、実に上手い手を考えたものだ。
 大型の魔物を狩ると単価は高いが、手間がかかる。
 ならば、狩猟は自衛的手段に限定して、フルーツ類や高価な薬草などの採集に絞って数を稼ぐべきであると。

 冷静なイーナらしい作戦でもあった。

「上手く、単価が高い物がある場所を見付けるのがポイントね」

「随分な啖呵を切ったかと思えば、随分とセコい手ですわね」

「あなたこそ、冒険者は派手に魔法をぶっ放して魔物を狩れば良いとだけ思っているのだから、単細胞よね」

「何ですって!」

 カタリーナがイーナを挑発するが、逆にイーナに反論されて逆上してしまう。
 確かに、イーナの言う事は正しい。
 冒険者が派手に強力な魔物を討伐すれば、素人目には格好良く見えるのであろうが、何もそれだけが冒険者の仕事ではないからだ。

 冒険者の仕事とは、とにかく売れる物を獲得する事にある。
 それは、竜や強力な魔物を倒せればお金にはなるが、そんな事が出来る冒険者は少ないわけで、実は大半は採集物から得られる収入の方が多かったりする。

 冒険者ギルド側としても、無謀な討伐で大怪我をしたり死なれてばかりでは困るわけで、なるべく長期に渡ってコンスタントに稼ぐ冒険者は大歓迎であった。

 超一流の冒険者とは、少数しかいないから超一流なのだから。

 実際、一度も魔物の領域に入らず、地味に人里離れた森などで高価な産物を効率良く集め、生涯収入が一千万セントを超えた冒険者なども過去には存在している。

 そういう人は超一流冒険者の影に隠れてしまうが、隠れた成功者であるのは事実であった。

「お嬢ちゃん方、喧嘩は禁止だからな。勝負でそういうのは晴らすように」

「わかりました」

「わかりましたわ」

 さすがのカタリーナも、高名な冒険者であったブランタークさんの注意には素直に返事をしていた。
 文句の付けようがない実績を持っているので、下手に反論などできないのであろう。

「それじゃあ、スタートだな」

 ブランタークさんの合図で勝負は始まるのだが、俺は特に変わった事をするわけではない。
 魔の森に入り、俺に襲い掛かってくる魔物を綺麗に殺すだけである。

 後背から延髄や急所に、木の枝で作った矢を魔法で突き刺す手法にも変わりはない。
 昨日の夕方くらいから、矢にする前に魔法で木の枝を全体的に圧縮する方法を思い付いたので、刺さる威力が増して魔物達には不幸が増えただけだ。

「しかし、こいつらは学ばないというか……」

 もう少し頭が良いと思っていたのだが、魔物は相変わらず俺が展開した魔法障壁を破ろうと、ガリガリと爪を立てていた。
 そして、後ろから急所を刺されて死んでく。

 他の魔物も、先に攻撃した魔物の最後を見ているのだから諦めれば良いのに、全く同じ攻撃を繰り返し、同じ方法で倒されていく。

 頭が悪いというよりも、闘争本能が高過ぎてそうしないと気が済まないのかもしれなかった。

「ふう、やはりオニギリは梅干だな」

 昨日と同じく、魔物が魔法障壁をガリガリとやっている最中で昼食を取っていたのだが、成果は効率が上がって昨日よりも多く倒せている。

 これなら、あのカタリーナには負けないであろう。
 ただ、彼女もこのまま手を拱いているはずもなく、油断は禁物であったが。

「というか、俺は勝負なんてどうでも良かったんだ」

 あとは、なぜか参戦した導師の事であったが……。

「あの人が死ぬわけないし、戦法も容易に想像がつくな」

 魔物を傷付けないように、この前の飛竜のように首をへし折るか殴り殺しているのであろう。
 先ほど、連続して魔物らしき物の断末魔の声を聞いたが、精神衛生上あまり気にしないようにしていた。

 あとは、エル達がどれだけ採集優先で効率良く稼ぎ、カタリーナの成果に迫るかであろう。

「さて、狩りを続けるか」

 その日の午後も効率良く狩りを進め、それが五日間も続く。
 成果を入れた魔法の袋はギルドの職員に預け、前世のクイズ番組のように成績の途中経過発表とかは無いようだ。

「いやあ、これだけの成果。毎日、勝負してくれませんかね」

 今回の勝負に際して、えらくギルド側が協力してくれたのだが。
 彼らからすると、三名もの魔法使いが成果を競うのは実入りが増えて好ましい事のようだ。

「全然、需要を満たしていませんからね」

 魔の森に侵入可能になったのは良かったのだが、難易度が高くて未熟な冒険者であると屍を曝すだけ。
 というか、簡単に一攫千金に飛び付くような冒険者だと、この手の輩が多くてなかなか成果が増えないのだそうだ。

 他の地域から乗り込んで来る超一流のベテランも居ない事は無いのだが、そういう人材の大半は元々活動拠点にしている領域で稼げているので、わざわざここに移る人が少ないというわけだ。

「あと、ここって何も無いですからね……」

 魔道飛行船は定期的に来るが、元々魔の森に潜る冒険者目当てで作った町なので、まだ全く整備されていないのだ。
 冒険者ギルド支部ですら掘っ立て小屋なので、当然とも言える。
 娯楽施設も、同じくまだ掘っ立て小屋の宿屋に、冒険者目当ての行商や飲食屋台くらいであった。

 口の悪い冒険者などは、『町? まだ村にもなってねえよ!』と言っているほどであった。

「資金や資材が無いわけではない。時間が、時間が足りないんだ……」

「他にも、開発が必要な場所も多そうですしね」

 元々何も無い未開地だったので、どうしても最初はバウルブルク周辺を優先してしまうわけで。
 そこは、もう少し我慢して欲しいと俺はギルド職員に話をする。

「今のところは、何とか生活できているから問題は無いですよ。その内に人も集まってくるでしょうし」

「それでは、結果を発表する」

 まず俺であったが、なるべく奥地で大型の魔物ばかりを狩った結果、カタリーナの三倍ほどの成果をあげていた。
 魔物を傷付けないで倒す魔法に慣れたせいもあるのであろう。

 サーベルタイガーも大分狩ったのだが、やはり白子は一匹も混じっていなかった。
 やはり、初日はたまたま運が良かったのだと思われる。

「圧倒的ですね」

「くくっ……」

 カタリーナも懸命に狩りをしたのであろうが、やはり魔力量の差が大きかったようだ。
 成果の中に超高額になりそうな個体も無い事から、オークションにかける前に勝負あったというやつであろう。

「えーーーと、次にエル達だけど……」

 カタリーナの成果にどれだけ迫れたかがポイントであったが、成果のカウントをしているギルド職員は意外な結果を口にしていた。

「カタリーナさんよりも、ほぼ間違いなく評価額は上ですね」

「なっ! どういう事ですの!」

「いや、そこは数で補ったとしか……」

 需要が多くて単価が高いカカオやフルーツ類を大量に採取し、他にも高額になる薬効の高い薬草類を大量に集めていたようだ。
 薬草については、教会で治療の手伝いもしていたエリーゼが大きく貢献したらしい。
 この薬草は、こういう場所に良く生えているとかそういう知識を上手く生かしたようだ。
 さすがはエリーゼ、地味に完璧超人ぶりを発揮したらしい。

 そして、予想よりも狩った獲物の数も多かった。

「サーベルタイガーも何頭かいますね。しかも、傷が無い」

「有るには有るんだけど、ヴェルと同じだね」

 サーベルタイガーは、全てルイーゼが狩ったようだ。
 その突進や攻撃を、優れた動体視力を生かして最小の動きでかわし、後方に回り込んで魔力を篭めた一撃で倒す。
 外傷が無いのは、魔闘流の極意である内部破壊で延髄だけをズタズタに引き裂いているかららしい。

 見た目には、まるでわからないのだが。

「何それ、地味に怖い」

「ある程度魔力が無いと使えない技なんだよ。導師の指導も役に立ったね」

 そういえばそうだった。
 ルイーゼは中級から上級の間くらいの魔力を持ち、それを魔闘流で極力節約しながら戦う。
 俺や導師は、敵の攻撃を受けても大丈夫なように予め魔法障壁を張ってしまうが、ルイーゼはその判断が百分の一秒単位で行える。
 かわせる攻撃なら、魔法障壁など張らないで普通にかわしてしまうのだ。

「四人で採集して、ボクが周囲の監視役。数が多いと、ヴィルマやイーナちゃんに応援を頼むのが基本だったかな」

 ルイーゼは、一番の脅威であるサーベルタイガーを専門的に狩っていたようだ。
 他の魔物を見ると、綺麗に首を切り落とされているのがヴィルマの成果で、頭部や心臓部分近くに刺し傷があるのがイーナの成果なのであろう。

「現在、魔の森産のフルーツなどは価格が上昇傾向にありますからね。これだけあると、大商人などがオークションで値を吊り上げると思います」

 大商人は、汎用の魔法の袋を幾つも持っている。
 入れておけば鮮度が落ちないので、生鮮食品でも買える時に大量購入するのだそうだ。
 価格が安い時に購入し、高い時に放出する事で利益をあげるのが目的である。
 在庫を大量に抱えても資金力があるので経営を圧迫しないし、魔の森産の品は暫く価格の下落などはあり得ないらしい。
 何しろ、ここでしか採れないのだから。

 なので、今は買えるだけ買う。 
 他のライバル達に負けないように、オークションで競り値を上げる事にも躊躇しないのだそうだ。

「あとは、ルイーゼさんは運が良いんですね……」

 ギルド職員の視線の先には、サーベルタイガーの白子が一体置かれていた。
 これで二匹目であったが、その大きさは俺が狩った個体よりもまた一回り大きかった。

「しかも、全くの無傷ですし」

「内部は無傷じゃないけどね」

「それを言うと、アームストロング導師なんですけど……」

 もう一人、勝手に参戦した導師であったが、その戦果は驚異的であった。
 恐ろしい数の魔物の死体が、全て苦悶の表情を浮かべた状態で並べられ、数名のギルド職員が懸命に査定を行っていたからだ。

「あの……。導師?」

「昔から、某はこれで大量の魔物を狩っていたのである!」

 導師は、自分の拳を前に突き出していた。
 簡単に言うと、魔力を篭めた拳で殴り殺し、蹴り殺し、首をへし折ったようである。
 単純明快で時間もかからないのであろうが、この世界でそんな事が出来る人は間違いなく導師くらいであろう。

 俺は、その攻撃が自分に向かない事だけを願っていた。

「あと、森の奥に遺跡を見付けたのである! 明日にでも、探索に行こうと思うのだが」

「何だ、導師が圧倒的に一位じゃないか」

 まさしくエルの言う通りであった。 
 獲物の数も俺すら圧倒していて、更に未発見の遺跡まで見付けているのだ。
 さすがは、勝手に参戦しただけの事はあるのかもしれない。

「導師、あまり若い者の仕事を奪うなよ」

「そうは思うのであるが。実は、二番目の妻と三番目の妻が妊娠していたらしく、転ばぬ先の何とやらで稼いでおこうと思ったのである!」

「ええと? 二十人目だっけか?」

「然り。今度こそは、女の子が欲しいのである!」

 導師の大戦果を見て、ブランタークさんが若い冒険者の稼ぎをあまり奪わないようにと窘めるのだが、それに導師は子供がまた生まれるから物入りだと反論する。

 というか、導師はうちの父以上に家族計画など考えてもいないようだ。
 ただ、甲斐性は超一流なので誰も困らないのであろうが。

「女の子が生まれたら、バウマイスター伯爵に嫁がせても良いのである!」

「えっ?」

「(導師似の女の子が、ヴェルの奥さんに?)」

 導師の娘を嫁にする。
 まず年齢差云々よりも、エルがボソっと漏らした一言の方が気になってしまう。

「(導師似の娘?)」

 すぐに頭の中で思い浮かんだのは、筋肉ムキムキで顔も導師ソックリの女の子であった。

「(それは勘弁して欲しい。というか、勃つ自信ないな……)」

 下世話な話で申し訳ないが、初夜で背骨を折られそうなイメージしか浮かばなかった。

「あの導師様、エリーゼの前でその発言はちょっと……」

「おおっ、そうであったな。子供や孫の婚姻は考えておいて欲しいのである!」

 どう返事をしようかと迷っていた時に、助け舟を出してくれたのはイーナであった。
 可愛がっている姪のエリーゼの名前を出して、遠まわしに断ってくれたからだ。

「(イーナ! 助かった! 凄く助かったよ!)」

「ちょっ! ヴェル!」

 思わずそのままイーナに抱き付いてしまったのだが、導師以外は物凄く納得したような表情を浮かべていた。
 やはり皆、導師の娘のイメージは女装版導師その物であったようだ。

「まあ、勝負は無事についたわけで」

 一位が導師、二位が俺、三位がエル達と。
 導師は元は超一流の冒険者なので、これは仕方が無いであろう。

「別に、順位なんてどうでも良いんだろう?」

 ブランタークさんが傍にいたギルド職員に尋ねると、彼は肯定とも受け取れるような返事をしていた。

「これだけの大量の品が、王都でオークションにかけられて高額の値段がつく。すると、他の地域に噂が流れますからね」

 地元よりも稼げると知れば、超一流の連中が集まってくる可能性は高い。
 だからこそ、冒険者ギルドは勝負を手伝ったのであろう。

「あとは、遺跡か」

「はい。魔の森の探索は始まったばかり、他にも未知の遺跡は複数あるはずです」

 もし導師が見付けた遺跡から多くの成果が挙がれば、これも多くの冒険者達が集まって来るようになる。
 未知の遺跡とは、それだけ稼げる可能性が高いからだ。

 つまり、冒険者ギルドも導師も、魔の森周辺に腕の良い冒険者を集めて開発を助けようとしていたようだ。
 稼げる冒険者が家族と共に来て、そこに家を立てて生活をする。
 高額の納税もするし、彼ら目当てで商売人も来るので、地域の活性化に繋がるわけだ。

「では、明日に遺跡を探索するのである!」

「メンバーは、この面子で良いよな?」

 前の、死にかけた地下遺跡探索よりも、ヴィルマと導師が加わって戦力は増している。
 よほどの事がなければ大丈夫なはずだ。

「では、明日も早いし帰りますか」

「某も、泊めて欲しいのである!」

「俺もだな。瞬間移動で運んでくれ」

「良いですよ。最近、瞬間移動で運べる人数が増えましたし」

 黒い煙のアンデッド巨人との戦闘や、その後の土木魔法の駆使などで魔力量と魔法の精度が上がったらしく、一度に自分を除いて十人まで運べるようになっていたのだ。

「そりゃあ、便利だな。じゃあ、頼むわ」

「わかりました」

 俺達は明日の遺跡探索に備えて早めに休もうと、瞬間移動の魔法で屋敷へと戻っていく。
 だが次第に、何かを忘れているような感覚に襲われてくる。

「ヴェンデリン様?」

「エリーゼ、俺って何か忘れていなかったっけ?」

「一つあるとすれば、勝負をしていたカタリーナさんの事ではないかと」

「忘れてた!」

 そういえば、カタリーナと勝負を何日もしていたのを思い出す。
 最後に導師のインパクトが強過ぎて、俺も含めて全員が彼女の事を忘れてしまったようだ。
 エリーゼが覚えているのは、彼女が導師の姪で免疫が付いているからだと思われる。

「戻りますか?」

「面倒だから、明日で良いでしょう。なあ、ヴィルマ」

「アレ、しぶといから一日くらい放置しても大丈夫」

「お前とヴィルマは、たまに物凄く酷いよな。あの女も、大概口が悪かったけど」

 エルはそう言うが、俺はあの女のためにわざわざ戻る気など全くなかった。
 誰がナンバー1かで勝負だとか、そういう暑苦しいのは勘弁して欲しい。
 勝負を受けたのは、狩りをするついでだったのと、受けないと煩いと思ったからだ。 

「エルが相手してやれよ」

「嫌だよ。あの女、美人だけど煩いし」

「お前も大概だよなぁ」

 結局その日は、忘れた物は仕方が無いと思い。
 屋敷に戻ってみんなでドミニクが作った食事を取り、ちゃんと睡眠を取って、翌日にまた魔の森近くの冒険者ギルド支部前に集合する。

 するとそこには、あのカタリーナが不機嫌そうな表情で待ち構えていた。

「勝負の結果も言わずに私を放置とは! 一体何を考えていますの!」

「やっぱり、怒っていたか」

「当たり前です!」

 わざわざこちらに喧嘩を売ってくるのだから、無視されるのは嫌だったようだ。

「でもさ、導師の言動に唖然として何も言わなかったじゃない」

「それは……」

 あの時に、『私を忘れるな!』くらい言ってくれれば忘れなかったのだが、彼女が導師に免疫が無かったために、その場で唖然として立ち尽くしてしまったのが良くなかった。

「俺達だってもう何年も付き合いがあるけど、あの人は定期的に衝撃的な事実が判明するから」

 元は超一流の冒険者であったとは聞いていたが、まさかここまで凄いというか、王宮筆頭魔導師なのにたまにアルバイトで狩りをしているのだから衝撃的でもあった。

 というか、誰か止めないのであろうか?
 止めても、無駄なような気がしないでもないのだが。

「それに、勝負は俺達の勝ちでしょう」

 カタリーナの成果は、世間一般では超一流の名に恥じない物ではあった。
 要するに、相手が悪かったという事なのであろう。

「まだ勝負は終わっておりませんわ! ここは一ヶ月間くらいの成果で!」

「導師と一ヶ月も勝負するの?」

「それは……」

 まず勝ち目の無い勝負であろう。
 俺達のパーティーとブランタークさんで組めば間違いなく勝てるが、それはもう勝ちとは言えないであろうから。

「勝てるようになるのは、時間がかかると思うけどね」

「勝負は、暫くお預けですわ!」

 何とか、勝負の件は撤回させる事に成功する。
 しかし何と言う負けず嫌いというか、俺に勝って名を売る事に執着しているというか。

「このまま普通にここで活動していれば、すぐに有名人になると思うけどね」

「それだけでは、駄目なのです!」

「なぜ?」

「あなたは、活躍すればそのまま功績や爵位に繋がるではありませんか! 私は、あなたすら突き破って活躍してもそれがあるかどうか……」

 女性ならではの悲劇というやつであろう。
 いくら活躍しても男性では無いので爵位などは貰えず、稼いだ金目当てに変な連中が擦り寄って来るばかり。
 だから、パーティーを組まずに一人で名を挙げる事に執着している。

 例外扱いされるほど活躍するしか、祖先が失った爵位を取り戻せないと思っているのであろう。
 それすらも不確定ではあるが、今はそれに縋るしかないのだと。

 そう考えると、少し可哀想にはなってくるのだ。

「ええと、役に立つのかは不明だけど……」

 俺はカタリーナに、遺跡探索に参加して欲しいと要請する。
 今回の遺跡探索では導師とヴィルマも加わり、前回よりもよりも圧倒的に戦力は増している。
 だが、この世に絶対などという物は存在しない。
 なので、超一流の魔法使いであるカタリーナにも参加して欲しいと思ったのだ。

 実は彼女、少々口は悪いようだが意外と素直な性格をしているし、勝負の際にも一切ズルなどしなかった。
 後ろから刺される心配も皆無であろう。

 まず最初に、イーナ達には謝って欲しいところではあるが。

「未知の遺跡だから、何が飛び出すかは不明だけど」

「遺跡の探索は初めてですが、私は西部では名の通った冒険者。逃げるという選択肢はあり得ませんわ!」

「それは助かる。前回のような事はゴメンだからね」

「噂には聞いていますわ。先日、暗殺未遂事件に関与して改易されたルックナー男爵家が妨害をしたと」

 事実ではないのだが、彼ならばやりかねないという理由で噂は広がっているようだ。
 自業自得なので、俺は一切訂正する気にもならなかったが。

「では、早速に潜るとするか」

「私の実力をとくと御覧なさい!」

「(口癖だと思えば、可愛い物か……)」

 こうしてカタリーナもメンバーに加わり、再び未知の遺跡探索がスタートするのであった。 


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