Vol.306 京都と福島の教育機会の格差について
滋賀医科大学医学部医学科4年
細尾 真奈美
2013年12月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
私は今年9月、福島県相馬市の復興のため活動されている先生方に機会をいただき、福島県立新地高校および福島県立相馬高校で京都西陣の歴史に関する講義を
させていただきました。私の実家「細尾」が、元禄時代から西陣で呉服屋を営んでいるため、織物の産地・西陣に伝わる歴史をお話しさせていただいたのです。
生まれてこのかた京都で暮らしてきた私にとって、福島県の高校生に接するのは初めての経験でした。そこで何より驚いたのは、京都と福島の教育機会の格差です。
福島県立新地高校を訪れた際、同校の四年制大学・短期大学への進学率が5.7%(平成24年度)と伺い、本当に驚きました。京都では、高校を卒業すると大
学へ進学するのが「当たり前」という感覚です。私が今まで「当たり前」だと思ってきたことが、ここでは当然のことではない。同じ日本国内にも関わらず、大
変なカルチャーショックを受けました。
日本の大学等進学率(四年制大学・短期大学への進学率)全国平均は53.5%(平成24年度)です。京都府の大学等進学率は66.4%(同)で、全国1位
です。一方、福島県の大学等進学率は43.1%(同)で、全国順位は47都道府県中38位でした。ちなみに京都市の大学等進学率は68.5%(平成21年
度)と更に高くなっており、私の生まれ育った京都市上京区では80.3%(同)でした。
京都と福島の教育機会の格差は、大学等進学率だけではありません。国から国立大学に対して支払われる運営費交付金にも地域格差があります。京都府には国立
大学が3つ(京都大学、京都工業繊維大学、京都教育大学)あります。平成24年度の運営費交付金は、それぞれ565億円、45億円、38億円、京都府全体
で648億円でした。一方、福島県にある国立大学は福島大学のみで、その運営費交付金は37億円、京都教育大学の額にも及びません。
教育機会の格差、中でも大学等進学率において、なぜ京都と福島にこれほどの差が存在するのでしょうか。そもそも福島に大学が少ないという歴史的背景や、各
家庭の経済的な理由が考えられますが、私はその主な理由は「環境」だと思います。147万人の京都市人口に対し、京都市の大学生・院生数は16万人、なん
と京都市の人口の約11%が大学生・院生です(平成23年度)。「道を歩けば学生に当たる」環境で育った子ども達が、自然と大学へ進むのも頷けます。一
方、なかなか大学生に出会う機会がないと、大学へ進むイメージをつかみにくいのではないでしょうか。大学へ進むことだけが進路ではありませんが、未来ある
子ども達により多様な選択肢を示すことはとても重要です。
そんな中、福島県相馬市では東日本大震災後、ユニークな取り組みがなされています。まずは、相馬寺子屋事業。東京大学教育学部の学生が市教育委員会等と連
携し、仮設住宅に入居している小中学生に月2回の定期的な学習指導を行っています。同じ東京大学からは、大学院経済学研究科の松井彰彦教授とそのゼミ生が
相馬高校を定期的に訪問し、学習支援を行っています。こちらの学習支援プログラムには、私も今年12月に参加させていただく予定です。また、相馬高校で
は、代々木ゼミナールの藤井健志先生や安藤勝美先生らが定期的に訪れ、一流予備校講師による受験指導を行っています。この取り組みも今年で3年目です。そ
の成果か、今年の春には相馬高校から12年ぶりに東京大学への現役合格者が出ました。私も相馬高校にて西陣の講義をさせていただきましたが、生徒達の熱心
さ、ひたむきさに心打たれました。色んなことを吸収し、伸び盛りの子ども達にとって、外部からの刺激は良い影響を与えるのではないでしょうか。
東日本大震災からの復興には、人材の育成が欠かせません。相馬市の取り組みは、大学生に出会う機会のなかった子ども達の「環境」を変え、新たな選択肢を与
えるものだと思います。日本国憲法第3条には「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人
種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」と書いてあります。生まれた環境によって大学進学の機会が制限されるこ
となく、子ども達がそれぞれの能力に応じて伸びていける社会を望みます。
【略歴】細尾 真奈美(ほそお まなみ)
西陣織の老舗「細尾」の長女として京都市に生まれる。現在、滋賀医科大学医学部医学科4年に在籍中。