結局、トヨタはリコールを決めて、そのことをNHTSAに伝えた。しかし、問題はそれで済まなかった。NHTSAはリコールだけでは不十分であり、“不具合”が直るまでは製造を止めるように言った。そして、トヨタが製造を1週間止めると、今度はメディアが「トヨタは品質に問題がある」「トヨタの車は安全ではないから、製造をやめた」と反応した。テレビでは、デイビット・レターマン(有名なショーのホスト)が「信号で止まってバックミラーを見ると、何が見えたと思う?トヨタだった。それは止まらずに私の車に向かってぶつかり、私は死ぬところだった」とジョークを言ったりもした。
そこに来て、プリウスのブレーキペダル問題が浮上した。トヨタによれば問題があるのは5台だけだという。ここでもトヨタは安全の問題とは思わなかった。というのも、レギュラーブレーキシステムには問題はなく、横滑り防止のABSが作動するような状況において、その前に少し(ブレーキの効きが)遅れる“感じ”がするというものだったからだ。(その遅れる感じ)は1秒以内だ。ちょっと変な感じはするが、危険ではない。ブレーキは効く。トヨタに限らず、エンジニアならば、リコールに値しないという判断を下すだろう。だが、トヨタはこの問題でも“秘密主義”だと罵しられ、結局はリコールに踏み切った。トヨタは良かれと思って1月に(ABSの)制御プログラムのアップデートを無償で行うと発表した。それがまたネガティブ報道の連鎖を呼んでいるのは周知のとおりである。
ここで疑問がわく。なぜ叩かれるのがトヨタだけなのか、と。なぜならフォードもフュージョン・ハイブリッドで、トヨタと同じブレーキシステムに関する不具合の苦情を受けている。だが、フォードはディーラーに修正の指示をしただけでリコールせず、しかもメディアはそのことをほとんど報じていない。また、ホンダは一部モデルがウィンドウ・スイッチ部分の不具合で発火する恐れがあるとして何十万台という車をリコールした。しかし、このケースもトヨタのような注目を集めなかった。ほとんど無視された。
―なぜトヨタだけがこんなに耳目を集めているのか。