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【秘密保護法 言わねばならないこと】

(2)弱さつけ込む恐怖 劇作家 平田オリザ氏

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 人間というのは弱い生き物であり、特定秘密保護法はその弱さにつけ込むものだ。

 官僚にも志の高い人はいる。国民のために政府の秘密を暴こうと思うこともあるだろう。でも彼らには家族も友人もいる。懲役十年が頭にちらつけば、周りへの迷惑を恐れて行動が鈍ってしまう。周囲の雰囲気にも流される。官僚に無言の圧力をかけるのが怖い。

 この法律は市民を監視する公安警察の権力を拡大する作りにもなっている。私は軍事独裁政権時代の韓国に留学していたとき、デモ隊の横を歩いただけで警察官に呼び止められ、有無を言わせず身分証明書を要求された。恐怖を肌で感じた。日本もそうなっていくのではないか。

 即座に生活に影響は出なくても、無言の圧力によって、気づかないうちにゆっくりと物が言いにくくなっていく。われわれ表現者が最初に苦しくなる。表現のための下調べにさえ応じてもらえなくなったり、自ら規制をかけてしまったりするかもしれない。

 社会がどうなるかを先読みし、人々に分かりやすく示すのが表現者だ。主宰する劇団では毎年この時期、サンタの存在や仕事を面白おかしく議論する劇を公演しているが、秘密保護法の要素を入れることも考えている。例えば、サンタがプレゼントを配るため(特定秘密を知る)政府高官の家に入るのは罪か。権力の問題を命懸けでちゃかすのが使命だ。

 安倍晋三首相は記者会見で「時間をとって説明すべきだった」と反省したが、だったらちゃんと国会で審議すべきだった。今からでも世論の力で廃止させる可能性は十分ある。

 ひらた・おりざ 1962年生まれ。演出家。劇団「青年団」を主宰。大阪大教授。

 

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