目的に海洋監視を含む広域災害監視衛星ネットワーク
ここで視点を内閣府・宇宙戦略室が構築を目指す広域災害監視衛星ネットワークに移そう。防災のための専用衛星システムを構築するアイデアを最初に取り上げたのは文部科学省だった。同省は2005年頃からこれを検討してきたが、当時の宇宙開発委員会が実用性に疑問を投げかけた。結局、「防災目的のための試験衛星」としてレーダー衛星「だいち2号(ALOS-2)」と光学衛星「ALOS-3」のみを開発することになった経緯がある。ALOS-2は今年度中に打ち上げる予定だが、ALOS-3は宇宙戦略室が開発を差し止めた。
文科省から計画を奪うようにして宇宙戦略室が立ち上げたのが広域災害監視衛星ネットワークだ。宇宙戦略室は、防災目的に加えて、船舶移動など海洋監視による安全保障目的を付加した。広域災害監視衛星ネットワークは、地球上のなるべく広い領域を監視して、「どこで災害が起きているか」を調べるレーダー衛星と、レーダー衛星が取得したデータに基づいて「災害現場はどのような状況になっているのか」を高分解能で調べる光学衛星からなる。
宇宙戦略室は「日本は米、独、仏が保有しているような民生・安全保障両用の地球観測衛星システムを持っていない」として、まずレーダー衛星2機の整備を目指し、来年度予算で80億円の予算要求を出した。それが、行政事業レビューで最低の評価を受けたのは冒頭述べた通りである。
実は、IGSと広域災害監視衛星ネットワークは、「地球表面を総合的に観測する衛星システム」として技術的に統合し得る。広域災害監視衛星ネットワークが持つ光学衛星の機能は、そのままIGSの機能と重なっているからだ。しかし宇宙戦略室は「米、独、仏などは政府専用の安全保障目的の衛星システムを民生用衛星とは別途保有している」として、統合に消極的な態度を取っている。
だが、日本の宇宙開発は予算不足に苦しんでいる。「防災」と「安全保障」という2つの目的を同じくする衛星システムを複数保有する重複投資は、賢明な選択だろうか。さらに、特定秘密保護法が成立したことで、IGSは機密の壁の向こう側に隠れようとしている。(続く)