「宇宙開発の新潮流」

秘密保護法成立で、より秘匿される偵察衛星の取得画像(その1)

IGSと広域災害監視衛星ネットワーク――機能がだぶる2つの衛星計画

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2013年12月16日(月)

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地上の40センチの物体を識別可能

 まずIGSについておさらいしておこう。IGS計画は、1998年8月31日に北朝鮮が打ち上げたテポドン1号が、日本列島を飛び越え、太平洋に落下(北朝鮮は衛星打ち上げに成功したと発表)したことから、当時の小渕内閣が急遽導入を決定した。4機の衛星が1組となり、地球上の任意の地点を1日1回以上撮影する能力を持つ衛星システムである。

 衛星は太陽光で地上を観測する光学衛星と、夜間や曇天時も地表を観測できるレーダー衛星からなる。現在は、地上にある60センチの物体を識別できる(分解能60センチ)第3世代光学衛星を2機、同1メートルの第3世代レーダー衛星を2機、分解能を40センチにまで高めた第4世代光学衛星試験機を1機運用している。衛星は三菱電機が製造を担当。設計寿命は5年だ。

 IGSで使用する衛星の仕様は民間で使われている地球観測衛星と基本的に変わるところがない。分解能60センチ(光学)と1メートル(レーダー)というのは、米民間企業が運営する高分解能地球観測衛星と同等だ。第4次世代光学衛星の分解能40センチも、米民間の次世代衛星と同程度である(ただし米民間企業は、商務省がかけた制限により分解能50センチ以上の画像データを販売できない)。

 日本政府はこれらの衛星の軌道を公開していない。だが、光学衛星とレーダー衛星がそれぞれ1機ずつ、衛星軌道直下の地方時が午前10時30分と午後1時30分の太陽同期準回帰軌道(回帰周期4日)に投入されていると判明している。つまり、これらの衛星は4日ごとに同一地点の上空を通過し、その時、直下の地方時は午前10時30分と午後1時30分というわけだ。

 地球観測衛星は多くの場合、地方時が一定の軌道を使用する。中でも、午前10時前後に目的地を通過する軌道を使用するのが一般的だ。この軌道は、太陽光によってできる影の条件が揃うので、取得したデータの画像解析が容易になる。午前10時前後ならば、地面が太陽に暖められて陽炎が出る前に観測ができる利点がある。IGSの場合、撮像チャンスを増やすために、正午をはさんで影の条件が同一になる午前10時30分と午後1時30分の軌道を使用している。

 運用は内閣官房・衛星情報センターが東京・市ヶ谷の防衛省庁舎内で担当している(現場の業務は民間企業に業務委託している)。同センターのセンター長は防衛省からの出向だ。同センターは、北海道苫小牧市、茨城県行方市、鹿児島県阿久根市の3カ所に設置した地上局で衛星から送られてくるデータを受信している。

 その他、衛星運用コマンドを送信するための地上局も存在する。コマンドが多い場合は、緯度が高く上空を衛星が通過する機会が多いスウェーデンの地上局も利用しているという。

 衛星情報センターには、取得データを解析し、得られた情報を内閣に上げる機能がある。だが取得する画像データの量に比べて、解析能力が不足している。内部での解析要員育成が必ずしも順調ではないことがうかがえる。地球観測画像の解析経験者を対象に、しばしば募集をかけている。

 また、センターには関係官庁から出向者が集められている。通常の任期は2年。衛星の特性を十分に理解し、業務を熟知する前に出身官庁に戻っていることが推定できる。

 IGSの実績は一切公表されていない。しかし宇宙関係者の間では、「際立った実績を上げていないのではないか」とする推測が一般的だ。過去、2006年7月に北朝鮮が多数のミサイルを日本海に向けて発射した際、取得した画像に日本海に落下して漂流する破片が写っていたにもかかわらず見落としてしまったという話がリークされている。アメリカ防衛当局者との事後の情報交換の場で、衛星画像に破片が写っていることを指摘されたという。衛星画像の解析には、経験から蓄積されるノウハウが物言うという事実を象徴するエピソードである。


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