住宅政策。ほとんど語られていませんが、ひじょーーーに重要なキーワードだと思っています。そんな折り、ビッグイシュー基金が「住宅政策提案書」をとりまとめ、その発表会が行われていたので取材をしてきました。当日のお話をダイジェストで書き起こしてみましたので、関心がある方はぜひご一読ください(約12,000字)。
冒頭挨拶
主催のビッグイシュー基金の高野さん:本日はお集りいただきありがとうございます。本日は『住宅政策提案書』の発表シンポジウムということで、平山先生たちにお話を伺っていきます。
語られにくい住宅問題ですが、これは誰にとっても人ごとではありません。第3部ではみなさまと一緒に議論していきたいと思います。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
続いてビッグイシュー日本の佐野代表:ビッグイシューは雑誌を作っております。有限会社は10周年、基金は7周年を迎えました。ホームレス問題をやっている我々ですから、もっと早くやりたいと思いつつ、今日になったというかたちです。
住宅政策ということでお集りいただいたみなさまと一緒に、住宅政策について考えていきたい。それはホームレス問題の解決にも繋がると思っている。
これはあくまでスタートなんです。政策提案書をどんどん叩いて、使っていただいて、市民の活動、運動を展開していく第一歩にしていただけると嬉しいです。
つづいて「もやい」の稲葉さん:こんにちは、もやいの稲葉です。年末というと「年越し派遣村」を思い出します。5年が経ちました。派遣会社で働いていた人たちが文字通り路頭に迷った、という話です。
雇用、労働の問題でありながら、住宅の問題でもあると考えて、住まいの貧困について様々な活動を行ってきました。しかし残念ながら、住宅の問題は雇用や福祉の付属物、という扱いを受けてしまいがちです。そうして、ここまできました。
何度か「ビッグイシュー」でも誌面で住宅政策について紹介していただき、委員を組んでまとめてきました。その成果が今日の政策提案書になります。なかなか進まない分野ですが、将来振り返って、今日がきっかけの日になればいいと思います。
第1部「いま、なぜ住宅政策?」:料理研究家 枝元なほみさんによる平山洋介委員長へのインタビュー
枝元さん:こんにちは、料理研究家の枝元です。料理と住宅…関係があるようでない、のでしょうか(笑) 今日、私は平山先生に簡単なことばでお話を聞いていく役割です。よろしくお願いいたします。まずは先生、自己紹介をお願いいたします。普段何をしているのか、など…。
平山さん:神戸大学の平山です。よろしくお願いいたします。普段は…学校に勤めております。仕事して、勉強したりしています(笑)日本には住宅政策を研究している人が少ないんですよね。専門に教えたり、勉強したりする学部や学科がないんです。色んな授業をやりながら、「裏で」というと変ですが、副業的に研究している感じなんです。
枝元さん:今なぜ住宅政策が必要なのか、という点についてお話をお願いいたします。
平山さん:
思い返しますと1990年代の前半だったと思いますが、家がない人がどっと増えました。それから色々なこと、派遣切り、ネットカフェ難民、脱法ハウス…住まいの問題がずっと続いているが、この問題は雇用と福祉の問題だ、という考え方が主流だった。
しかしこれは住居の問題です。政府は何もしないわけではないが、「働けば何とかなるでしょう」、と就労支援をする。厚労省が家賃補助をなさっているけれど、失業している間に補助をする制度。失業しないと使えない。
生活保護を受給すると住宅扶助があるが、生活保護受給までいかないと扶助が受けられません。大事なのは、雇用と福祉のオマケではなく、逆に、住宅が安定することが、雇用や福祉の基盤だと考えて、提案書を作りました。
住まいの安定があって、初めて仕事を探すこともできるし、暮らしの再建もできる。政府だけではなく、一般の人々、研究者も含めて、住居の重要性が気づかれていない、と考えています。
なぜか安くならない日本の家賃
枝元さん:
私は居候生活を2回したことがあるんですが、住む場所がないというのは不安なことだなぁ、と思います。先に向かって建設的なことが考えられなくなります。家賃を払えるようになったが、本当に高くて…1万円をかき集めて。
家賃を払いにいくときに、本当に大家さんを養っているんだなぁ、と悔しい思いになったのを覚えています。年々、家賃は高くなっていますよね。食は安くなっているのに。なぜ、住宅だけは上がっているんでしょうか。
平山さん:
家賃は不思議な現象で、所得は下がっているんです。市場経済の理屈からいうと、普通は家賃が下がるはずなんです。しかも空家だらけ。なぜか下がらない。
なぜかはよくわからないが、いくつか推測を申し上げると、ひとつは家主さんが、本当だったら空家の家賃を下げるのが合理的だが、様々なリスクを考えると空家にしておいた方がいいと考えたりする。
またはリスクを負ってまで貸し出したりはしない、という話も推測されている。家賃の経済学ではなく、家主の社会学という研究が必要だと思われる。しかし研究者が少なくてですね…。
枝元さん:
新しいビルは建っていて、古いビルは空いてますよね。でも、住めない人がいる。それは何故なんだろう、とすごく疑問に思う。
この政策提案書の「はじめに」がとてもいいと思います。所得さえあればそれで必要なものは買えるが、それは間違いだ、という指摘があります。お金さえあればなんとかなる、というのは間違いだと思っています。これ、「誰が」悪いんですか?(笑)
平山さん:
政治のレベルに暮らしの問題が出てくるようになったのは90年代だと思うんですよ。生活の問題が政治の場面に出てくるようになったのは画期的だと思うんですよ。でも、みなさんの関心は雇用と所得なんですよね。
次に、みなさんの関心は年金、介護、教育、そこで終わりなんですよ。所得さえあればなんとかなる、という考え方がある。それは間違いで、住宅は住宅として提供していかないといけない。家が安定していれば、生活の困難の防波堤になる。住まいの安定の重要性を提言したいです。
住宅は個人の問題ではない
枝元さん:所得が大切だと考えると、カツカツで働くことになりますよね。仕事がなくなったら…と色々考えてしまう。まず寝る場所があって、食べるものがなんとかなって、という基本的なところが必要だと思う。うちのネコを見ていても、そう思います(笑)最後に、今日はどのようなことに伝えたいとお考えですか?
平山さん:
シナリオ全然すっ飛ばしていますが…(笑)住宅を確保するというのが「個人の問題だ」という風になっていると思うんです。日本の住宅政策は家を買ってください、買えない人は借りてください、となる。
本屋にいっても、住宅ローンの借り方、家の買い方、という話しかない。今日のシンポジウムでは、住まいの問題は、社会的な制度と政策の問題だ、ということを伝えていきたいと思います。
枝元さん:ここで、ビッグイシュー基金の水越さんに、なぜビッグイシューが関わっているのかをお話してもらおうと思います。
水越さん:
理事の水越です。販売者(ホームレス)の方々がビッグイシューを売ると、約7万円くらいの収入になります。しかし、これではアパートを借りるのは難しい。数万円でいいので家賃補助があれば暮らしていけるんじゃないか、という話を販売者の方とするようになった。
生活保護は11万とか12万円とか貰えるが、ギリギリにならないと住宅補助が出ないわけです。病気にならないと生活保護が貰えない。ホームレスに限らず、生活に困る方に4万円くらいの住宅手当が出る制度があってほしいな、と考え住宅政策についてやっています。
第2部「これからの住宅政策のあり方」 検討委員会の各委員からの提案
続いて第二部。平山洋介さん、稲葉剛さん、川田菜穂子さん、佐藤由美さん、藤田孝典さんから「これからの住宅政策のあり方」を語っていただきます。
<住宅政策提案・検討委員会>
・平山洋介委員長 (神戸大学大学院 人間発達環境学研究科教授)
・稲葉剛委員 (NPO法人もやい代表理事)
・川田菜穂子委員 (大分大学 教育福祉科学部講師)
・佐藤由美委員 (大阪市立大学 都市研究プラザ特任講師)
・藤田孝典委員 (NPO法人ほっとプラス代表理事)
不安定居住の歴史と現状
稲葉さん:
私の方から「不安定居住の変遷と広がり、というお話をさせていただきました。不安定居住の問題は古くて新しい問題です。1960年頃から「寄せ場」と言われる場所がありました。日雇いで仕事をして、「ドヤ」で寝泊まりしている人たちがいました。」
現在は福祉の町として、生活保護を受けている人たちが多い地区になっています。日本の不安定居住、不安定労働のひな形がここにあったのではないかと考えます。周りからの差別・偏見もあり、社会全体で取り組むべき問題として捉えられてこなかった。
これが変わってきたのが1990年代から。バブルが崩壊し、1993年頃から路上生活者が溢れ出した。この写真は新宿の段ボール村です。東京、大阪、地方都市含めて、ホームレス問題が休息に拡大した。
日本ではホームレスというのがイコール路上生活者、という限定されて定義されているが、その背後にはネットカフェ難民、ドヤやサウナを転々としている方々、さらには派遣会社の住み込みで暮らしている人たちがいる。
不安定居住全体の問題として捉えないといけないが、狭い定義がされてしまい、そこだけの問題として語られてきてしまった。ところが、2000年代に入って、若年層にも貧困問題が広がってきた。
路上生活者は減少傾向にあります。支援者や法律家にちょる生活保護の申請同行が進み、統計的に見ても減少しています。一方で、路上一歩手前の人たちは増えつつあるのではないか、と感じています。そもそも調査がなされていないが、実感としてはそういう人たちが増えてきている。
2007年に流行語になった「ネットカフェ難民」。非正規が増えて住む場所を確保できない若者が増えていることが広く知られてきた。東京ではネットカフェ規制条例ができて、ネットカフェにすら寝泊まりできない人たちが出てきた。
そこにつけ込むようなかたちで新しいビジネスが生まれてきたのが、最近の状況。当初私たちはコンビニハウス、押し入れハウスと呼んでいました。貸し倉庫やオフィスビルを細分化して一部屋3万、4万円で貸し出す。
これが新たな不安定居住の形態として広がっているなぁ、と感じていたところ、今年毎日新聞の「脱法ハウス」報道によって社会問題化しました。国土交通省は「違法貸しルーム」と呼び、規制に乗り出しています。
脱法ハウス規制自体には賛成だが、その内容に問題があると考えています。支援策が伴わないまま規制が行われています。建築基準法の「寄宿舎」の定義を当てはめて、仕切りをきちんとしなさい、という話にしている。
良質なシェアハウスやゲストハウスまで規制が掛かりそう、という新たな問題にもなっている。若者が自衛策としてシェアハウスを始めていたりするが、ひっくるめて全部規制されるという事態に。
そうなると、そもそも貧乏人が暮らせない町になってしまう懸念がある。一律に規制するのではなく、支援策を行うこと、若者で広がるシェア居住を制度的に位置づけて線引きを行うべきではないか、という提言を行っています。
日本の住宅事情の知られざる現状
平山さん:
私からは住宅事情全体の話をしたいと思います。不安定居住を生み出す母体はどうなっているのか。これを10分間でざっとご覧頂きます。
これは年齢別で持家率を見せて、左は借家率を見せています。よく分かるとおり、若い世代で持家率の下がり方がはっきり出ている。家を買うことによって住まいを安定させることが難しくなっている、ということです。
持家率は6割で一定だが、中身を見ると、若い人が下がっている。高齢者の持家率が高くなっています。若い世代では民間の借家に住む人が増えている。
賃貸住宅高いし狭いし…でもいずれ家を買おう、と昔は考えることができました。しかし、今は家を買えなくなっている。国際的に見ても、持家と借家の差が大きいのが日本です。日本では、家を買うしかちゃんとした家に住む方法がないんです。
次は家族類型の変化です。「夫婦と子」が減り「単身者」が3割になっている。父子・母子も増えており、こちらは8.7%です。「結婚して子どもを産んで家を買う」という人たちだけではなくなっている現状があります。
単身世帯の内訳でいうと、これから高齢単身者が増えていくわけです。日本では9割の高齢者が家を持っています。1割が賃貸。家を買ってください、という政策でした。この1割が問題。絶対数が増えます。
国民年金では民間の賃貸住宅ではまず住めない(*国民年金は満額でも月6万円程度)。単身、賃貸の高齢者をどうするか、これを考えないと大変なことになります。
つぎに、持家セクターの変化を見ていきます。可処分所得が減っているのに、住居費が上がっている。返済額が増えている現状があります。政府は家を買ってくれ、銀行はローン借りてくれ、という圧力をかけている。返済負担率がじりじりあがっている。
ご存知のとおり、ここ15年くらいデフレです。デフレということは、借金が重くなるということです。そういう観点から考えると、デフレが続いているのに、住宅ローン借りてくれ、一本槍という政策は、これでいいのでしょうか。
住宅の資産価値がダーッと下がり、負債額は上がっています。家を買って資産になる、という考えからはもう現実的ではありません。
賃貸セクターでも、所得が下がり、住居費が上がっています。不景気で所得が下がれば家賃が下がるはずだが、なぜか家賃が上がっている。低家賃の家がどんどん減っていて、平均値が上がっている、というのがひとつの理由です。
公営住宅や寮や社宅、民間の安いアパートが急激に減っています。都市の中から、安く住める場所が少なくなっているということです。そして家賃負担率が20年で5%も上がっています。確実に住居費の負担は重くなっているのに、なぜか問題になっていない。賃金や失業率が数%変わると大問題になるが、住居はなぜか注目されません。
世帯内単身者の比率が上がってきている。これは1990年代に初めて指摘されたことです。バブル直後ということもあって、当初は、いつまでも親元から離れていない、自立できない人々といったように、ひどい言い方をされていた。時間が経って研究が進むにつれ、むしろ非正規雇用で低賃金であることがわかってきた。
家を出たいのに、お金がなくて出れない、という人が多いと見られる。30代の世帯内単身者の比率がどんどん上がっています。親元に住みつづける人の年齢が上がっている、ということです。生活が安定していていいじゃないか、と思われがちだが、親が定年退職したらどうなるか、本人も低所得です。老朽化した自宅の改修が難しいのではないか、と懸念されています。
最後に住宅の分類です。ややこしい図ですが、要するに、日本では公営住宅が4%しかない。こんなに公営住宅が少ないのになんでやってこれたのか。社宅、寮、親の家がある。それをひっくるめて、住宅を確保してきたという歴史があります。
ところが現在、公営住宅も減り、社宅も減り、低家賃住宅も減っている。唯一増えているのは親の家。社会が壊れずに持っているひとつの理由は、親の家の存在があると考えられるでしょう。
しかし、そういうやり方で社会を維持していくのは健全なのでしょうか。独立して世帯を作りたい人向けに、低家賃の住宅を用意すべきだと考えます。駆け足になりましたが、私からは以上です。
入居倍率400〜800倍の公営住宅
藤田さん:
ほっとプラスの藤田です。埼玉県で困窮した方の支援をしています。不安定就労の人たちが増えています。特に若年層は5割が不安定就労、賞与もない、昇給も難しい、という状況で働いています。
家賃負担をどう考えるか、というテーマでいうと、私たちは家賃負担の割合を聞いています。「12万円しか収入がない」というケースでは、そのうち半分が、約6万円もの家賃を払っていたりする。
住むだけで精いっぱいという2LDKの家でも、家賃8万円。生活保護申請などをしていますが、極めて高い家賃負担になっていることを実感します。公営住宅で1〜3万円程度に住めれば、生活保護も不要になるのではないか。
そういう方々が次々と相談に訪れる。家賃負担をなんとか軽減できないか、という支援を行っているが、公営住宅も減っている。ホームレス状態の人に公営住宅の申込みをするが、当たらない。400〜800倍となっている。
4回5回申請しても通らないという人たちばかり。住宅政策を変えていかないとどうしようもない。保証人が立てられないがために物件を借りられない、というケースも多い。
民間市場だけに任せると、障害者の方々などが住めるバリアフリー住宅が用意されにくい、という問題も。
精神障害がある方などは、隣りの声が聞こえると落ち着いて眠れない、という声もある。住宅上の問題から精神状態が不安定になるという相談者がかなりの割合にいる。簡易的な住居ではない対策も必要だろう。
刑務所からの出所者の相談・支援もやっています。住宅費が払えないがためにホームレス状態になる人たちが多い。そのうち一部が、万引き、無銭飲食をしてしまっている。
家賃負担が軽ければ、低賃金でも暮らしていけるはずなのに、住宅費が払えないがためにアパートを追い出され、罪を犯さざるをえない、という人たちがいます。
出所者の多くが居住先がなく、「再犯をして刑務所に戻りたい」という人たちが多い。私たちのところに来る人のなかにも、NPOがなければ刑務所に戻っていくような人たちがいます。
犯罪やワーキングプアなど、ほとんどの社会問題は、住宅政策の転換を求めているのでは。社会問題は住宅問題から発生しているのでは、と感じています。
貧困ビジネスの温床となる、日本の不完全な住宅セーフティネット
川田さん:
大分大学の川田です。私からは住宅のセーフティネットの変遷についてお話をしていきます。
2006年には住生活基本法が制定され、ストック重視・市場重視が挙げアレ、2007年には住宅セーフティネット法が制定されました。住宅セーフティネット法は①公的住宅の供給促進、②民間賃貸住宅への円滑な入居促進を掲げている。
住宅セーフティネットの考え方は、公的住宅、住宅手当、公的家賃保証、公的扶助などがあります。
日本では、公営住宅は供給量が絶対的に足りていません。管理戸数は217万戸、募集戸数は9.7万戸で、10年で半減しています。全国平均倍率は8.9倍。都心部になると東京では30倍、人気地区では数百倍となっています。
ヒアリングした母子世帯のお母さんなどは100倍くらいの倍率だった。5年で12回申し込んだが、入居できない。なかば宝くじのような状態になっています。
公営住宅には、地域が偏在している、老朽化している、福祉世帯の集住によってコミュニティが弱体化する、自治体の裁量の拡大によってお金が掛かる公営住宅への関与低下といった問題がある。
つづいて生活保護の住宅扶助。これも簡単に受給できるものではない。住宅扶助の問題点は、質の保証がないこと。一般的に住宅手当は住宅の水準が設定されている。世帯規模などに合わせて面積や設備などが要件になっているが、住宅扶助にはそれがない。
そのため、貧困ビジネスにつながっている。劣悪な物件なのに住宅扶助の上限ギリギリに設定している、という問題があります。生活保護については、今後受給額の見直しもあると思われます。
住宅支援給付について。離職者向けの住宅手当で、日本初めての家賃補助制度。しかし、支援策としては後退しています。問題点としては、認知度が低い、初期費用を捻出する仕組みがない、離職者のみが対象、受給期間が短い。
日本のセーフティネットは、住宅市場をこぼれ落ちた人を救う仕組みとしては、限定的です。穴がある制度になっています。こぼれ落ちた人々が、脱法ハウスなどの貧困ビジネスを頼らざるをえなく、居住権、生存権などが侵害された状況にある。
公的な家賃保証がないことも問題です。賃貸契約をする際に保証人がおらず、それで契約できないという人が増えています。その点からでも、公的家賃保証が課題になっていると思います。
法律が「理念」に留まっている
佐藤さん:
大阪市立大学の佐藤です。テーマは「住宅政策の再構築に向けての課題について」です。所得の低い高齢者が増えていることが問題になっており、これも大きな課題だと思われる。
生活保護、公営住宅制度の改善と、それ以外の第三の道を安定的なシステムとして構築できるのか、これも論点です。
社会福祉依存型ハウジングの増加。川田先生からもご指摘があったが、生活保護受給者向けの民間賃貸市場が形成されてしまっている。
こちらの図をご覧下さい。大きくは、ヒト(コミュニティ)、モノ(居住空間の質)、カネ(住居費負担)の三点から整理できるのではないか。身元保証人問題、収入の減少、低家賃住宅の減少、家賃負担率の上昇など。
こうした問題を解決するために住宅関連の法律改正が進んでいるが、プレーヤーは民間であることを前提にしており、理念を掲げているものに留まっている。実態として見ると、理念は反映されていない。
本来なら悲鳴を上げなければいけないのは自治体であるはずなのに、そこが声を挙げている状態になっていない。自治体や地域が声を挙げ、それを受け止める仕組みが必要。セーフティネットをもう少し予防的に展開していく方策が必要ではないか、と提案しています。
第3部 「市民が語ろう!住宅問題」
続いて第3部。コーヒーブレイクを挟んで、会場全体でディスカッション。マニアックなテーマにも関わらず、100名以上の方にご参加いただいております。
高野さん:
では3部を始めます。みなさまに休憩中に書いていただいたポストイットを読み上げてみようと思います。
「都内で築50年の都営住宅に住んでいます。年々家賃が上がっています。居住者は年金暮らしが多いです」「コレクティブハウスを作ろうと思うが、規制もあり難しいです。」「ぼったくる大家さんが多く、問題だ」
地域や自分にできることは、という点について。「家賃を払うことができないのでモバイルハウスを作ろうとしています。自分たちで作るしかないと思っています」「明らかで住居を持っていない人を見かけるが、何ができるかわからない」
制度や政策に求めることについて。「家庭の所得に応じて家賃負担率が決まるような政策があればいいのでは」「安い物件のデータベース化」「中古物件にいらないリフォームが多すぎる、これが家賃上昇の原因になっているのでは」
「最低住居基準未満の劣悪な住宅を駆逐するために、そうした住居の入居者を公的住宅に移すことはできないか」「公営住宅の増加は必須だと思う。民間では入居審査時の差別もある」
最後はその他の声。「避難者として公営住宅を使っているが、申し訳ない一方で悔しく思う」「こんなに空家があるのになぜ?」「そもそも日本に住宅政策があったのか疑問です」
会場からの質問
高野さん:会場から何か言いたいことやご質問はあるでしょうか?
枝元さん:セーフティネットを直していくだけでは追っ付かないのでは、と思いました。画期的に変える方法はあるのでしょうか?新しいかたちのみんなで繋がれるかたちは、どんなものなのかなぁ、と思うのですが…。
平山さん:お答えにはならないと思うのですが、ひとつ気づくのは、住宅の分野でセーフティネットという言葉を使うのは、アメリカと日本くらいに見えるんです。セーフではないから、そういう話になるんだろうと思う。
会場から:
空家の活用が鍵だと思う。勇気があれば、若者のシェア居住も、高齢者のシェア居住もできる。これは当面の解決策になります。
一番大切なのは家賃補助なんですね。70年代くらいから議論があるが、国交省などが抵抗をして家賃補助が進んでいない。民主党が政権を取った際ときにマニフェストに家賃補助についての言及があったが、政権交代もあり流れてしまった。
生活保護の住宅扶助を広げることが鍵ではないか。住宅扶助だけを貰えるようにするという解決策が、研究者の間でも言われています。
会場から:基礎的な自治体がなにができるのか、というテーマに関心をもっています。ほっとプラスの藤田さんがやられているような、空家を借りて生活の自立再建をするというのはいいと思いました。
国の法律が変わるなかで、自治体レベルで「生活保護の一歩手前」で自立の再建を制度化し、相談窓口を作り、サポートしていくという考え方があると思う。ここまでの議論は自治体では難しいという流れだったが、何か道があるのか。
藤田さん:生活困窮者自立支援法に関しては、予算の3/4は国が持っている。シェアハウスなどの予算も取ることができるようになっている。法案はあるので、あとは運用。自治体は支援になれていないのでNPOなどと連携しながら地域の居住支援の枠組みを作って欲しい。
稲葉さん:住宅の問題を考える時に、困窮者支援は厚労省の管轄になっている。一方で、住宅セーフティネット法は国土交通省ということになっている。自治体のレベルで縦割りを超えた土俵を作らせる、ということが第一歩だと考えています。脱法ハウスの問題についても、東京都に対して縦割りを超えた協議の場をつくる提案を行っており、かたちになりつつある。
会場から:松戸に住んでいます。木造のアパートを見かけるが、防災上問題があるのではないか。建て替えは必要であるが、そういったことにはどう考えればいいのでしょうか。
平山さん:
仰るとおりです。木造アパートは70年代から問題になって、建て替えを進めている。一方で、住む場所の選択肢になっていた。日本ではホームレス問題が起きるのが、先進国より遅かった。都市のなかで2万円くらいで住める場所があった、というのは日本の大きな特徴。
ここはジレンマです。神戸は地震で木造アパートがなくなった。問題は解決したが、それによって住む場所がなくなった人がいっぱい出てきて…代替になる住宅を公的に保証してから、再開発をすべきだと思います。
住宅政策は少子化対策にもなる
会場から:諸外国の取り組みや成功事例などがあれば教えてください。
川田さん:
全体的に日本の住宅政策は弱い傾向があり、家族と企業で補完されてきました。法定外福利として、大きな役割を占めてきました。
諸外国については、たとえばオランダだと、所得再分配の機能がひじょうに大きいです。公営住宅も2割程度です。住宅の自助が厳しい地域に関しては、義務として2割供給しないといけない、そうしないと罰金がある。
所得再分配が大きければ貧困が緩和される。それに加えて、少子化対策にもなっている。フランスは高齢化を早期に迎えたが、若年世帯に対する住宅手当をしたということもあり、出生率の改善に繋がったということがある。
住宅の困窮を解消するというだけでなく、家族形成を促し、少子化の解消にもつながる、という役割を担う国もあります。
住宅政策の議論は始まったばかり
司会:委員のみなさまから最後にひと言お願いいたします。
平山さん:
日本の住宅政策はこんなもんなんだ、というのがこびりついている。公営住宅が4%なのはこんなもので、今から増やすのは…という考え方。欧州ではリーマンショック後、公営住宅を増やしている。中国、韓国も増加に向けて動いている。
日本では国の内側だけで変な常識がこびりついている。家賃補助をやろうという話は70年代からやっているが、「日本で家賃補助は無理だよね」というのが常識になっている。それはおかしいのでは。声をあげないといけないと思います。
今日お話をしていて、話を聞いていて、改めて「ひどいなぁ」という気がしてきた次第です。政府が悪いんだ!というのは簡単ですが、まったく世論になっていないわけで、そりゃ政府も何もしないよね、という話です。この問題は社会全体にとって大切だ、と声を挙げることを続ける必要があります。
稲葉さん:提案書の終わりにも書いていますが、この提案書はちょっと取っ付きにくいかもしれませんが、噛めば噛むほど味が出る内容になっていますので、ぜひご活用ください。各地で勉強会、読書会をやっていただけると嬉しいです。
藤田さん:学者がいない、ということをよく話している。住宅政策の研究者にぜひなっていただきたい。後継者になってください。
川田さん:住宅問題に興味関心を持っている人が、こんなにいることに驚きました。多くの方々が問題を抱えているのに、それを問題だと認識していない、これが問題だと思います。こんなにたくさんの人が問題を抱えている、これを認識することが大切です。
佐藤さん:
同じことを大阪でやったときにこんなに集まるのだろうか、と感じました。国レベルの話もありますが、賃貸市場はローカルな事情で変わってくるので、それを鑑みないといけない。
たとえばうちの大学の近くでは、3万円代でお風呂付きに住んでいる学生もいます。生活保護よりも安い値段で、そこそこの物件に住んでいます。地域性が大きいと感じています。
平山さん:今日で終わるのではなく、続けていきたいと思います。福島から来ている方が都営住宅で期限を切られているという話もあった。そんなことがあっていいわけがないので、議論を続けていきましょう。
ビッグイシュー基金のみなさまにはお世話になりました。シンポジウムもたいへん丁寧に作っていただいて…コーヒーとビスケットが出てきて驚きました(笑)ありがとうございました。
当ブログでも住宅政策については追っていきます
というわけで、ひじょうに貴重なお話が展開されました。「住宅政策提案書」はビッグイシュー基金に取り寄せることで入手できます。関心がある方はぜひ。ぼくが編集しているビッグイシュー・オンラインの方でも出していこうと思っています。
住宅政策は大変関心がある分野でして、来年も引きつづき勉強をしていこうと思います。ほんっとに、日本の苦しさの根っこには住宅の問題があると思うのですよ。今の状況は異常だと思うので、より良い環境を作っていきたいですね。
政治の分野でもほとんど関心がないので、まずは情報発信から。拡散にご協力いただけると幸いです。
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