「あちらにはスパークリングでいい」 食材偽装・高級ホテルは客を“選別”
産経新聞 12月15日(日)14時4分配信
ホテルのレストランのメニューに端を発した食材の偽装表示問題。その後、百貨店や高級料亭などにも広がり、ブランドへの信頼を傷つけ、各業界の認識の甘さが浮き彫りになった。一連の取材からは、ホテルの“裏の顔”が浮かび、高級店や人気店舗に潜んでいた「ゆがんだおもてなし」の一端もうかがえた。
■「あちらにはスパークリングでいい」
シャンパングラスの底から立ちのぼる泡の向こうに、眼下に広がる大阪の夜景が揺れる。ある超一流ホテルの高層階にある「クラブラウンジ」。瀟洒(しょうしゃ)なドレスやスーツに身を包んだ客らが、特別な夜を楽しむスペースだ。
しかし、給仕を担当していたホテル関係者の証言からは、ホテルの“裏の顔”が浮かぶ。ラウンジのバックスペースでは、従業員の間でこんな会話が交わされていたという。
「シャンパンのご注文ですが…」
「あちらには、スパークリング(ワイン)でいい」
関係者が打ち明ける。「シャンパンの注文を受けても、客を見てスパークリングワインを出すよう、マネジャーから指示された。グラスに入れて持っていけば、どうせお客さんも分からないと…」。違いの分からなさそうな客を選び、ないがしろにするような悪質な行為が存在していたことを明かす証言だ。
シャンパンは、フランス・シャンパーニュ地方でつくられたスパークリングワインを指し、同国の原産地呼称管理法の規定を満たしたものだけが「シャンパン」と称することができる。価格差は歴然で、同国産の一般的なスパークリングワインが1本千円程度なのに対し、シャンパンは数千〜数十万円もする。
■客の“選別”
ホテルではどうやって客を選んでいたのか。証言によると、インターネットの予約サイトを通じて正規よりも割安な価格で宿泊していた客は、軽く扱っていた。ラウンジの入店時に予約の経緯が分かる仕組み。ホテル入店時にサービスされることがあるウエルカムドリンクも、うやうやしく「シャンパンでございます」と言いながら、スパークリングワインを提供していたという。
一方で、常連客や社会的地位の高い「VIP」にはシャンパンを出す。関係者は「選別の目的はコストカットで、上からの指示。舌の肥えていそうな客には、ちゃんとシャンパンを出していた」と話す。
産経新聞では、こうした証言についてホテル側に取材を申し込んだが、ホテル側は「お話できることはない」と応じなかった。
しかし、別のホテル関係者も、シャンパンの選別提供について「聞いたことがある」と打ち明けた。
証言したホテル関係者は唇をかんだ。「このホテルの従業員であることに、誇りがあった。だからこそ、こんなことをしていたのが悔しいし、情けない」
■信頼回復、再発防止はかなうのか
今回の一連の問題を受け、企業側も“傷ついた看板”の再生に向けて動き始めた。
前社長が引責辞任した阪急阪神ホテルズは、11月7日に弁護士による第三者委員会を設置。外部の視点を生かし、原因究明と再発防止策を報告書にまとめる。組織改革にも着手し、親会社の阪急阪神ホールディングスなどで社外監査役を務める弁護士を自社の社外監査役に招き、社長直轄の新部署「品質管理委員会」を立ち上げた。
「奈良万葉若草の宿三笠」など、子会社直営のホテルや旅館で問題が発覚した近畿日本鉄道も、同様に第三者委員会を置いた。前社長が辞任した「三笠」の運営会社、近鉄旅館システムズは今月5日、利用者への返金が4億円超にのぼることを公表し、抜き打ちチェックの導入など再発防止の取り組みを進めていることを明らかにした。
過去の事例を参考に、以前からメニュー作成のガイドラインを作っていたにもかかわらず、問題が発覚した企業もあった。このため、リーガロイヤルホテルや大和リゾート系のホテルでは、自社のガイドラインを大幅に改定した。
一方、業界団体も改善策を講じ始めた。日本百貨店協会(加盟85社)は、百貨店のテナント飲食店での虚偽表示が相次ぎ、契約店への管理の甘さが露呈したことを受け、加盟社に対し、契約店側から食材の産地証明書の提出を求めたり、年1回以上の定期検査を抜き打ちも含めて行ったりするよう要請。業界を挙げて適正化に努める方針だ。
最終更新:12月15日(日)14時4分
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