その後10年間、明は依然として朝鮮を圧迫し続け、日に日に強大になる後金も「兄弟の盟約」を履行することを求めた。朝鮮は、明・後金という「クジラ」の間でつぶされる「エビ」だった。1633年、明の将軍が後金に降伏し、これで後金は水軍と兵船まで手に入れた。1636年には満州人・モンゴル人・漢人の臣下によって皇帝に推挙され、大清帝国を宣言した。しかし情報力に欠けていた仁祖は、清が侵略してきても江華島に逃げて長期戦に持ち込めば勝算はある、と主観的に考えていた。海戦に弱い清が弱点を補強したという事実は、まるで念頭になかったのだ。しかも仁祖は、清軍の急襲のせいで江華島に入ることすらできなかった。
仁祖がどれほど備えを強化しても、清の侵略を防ぐ軍事力を備えることはできなかっただろう。高麗時代の武臣政権が、世界を席巻したモンゴルの侵略を防げなかったのと同じだ。しかし次善、次次善の策はなかったのだろうか。著者は、この事件から学べる教訓は「力を養うということに尽きる」と語っている。世界唯一の超大国・米国、その米国と並ぶG2(主要2カ国)に浮上した中国、経済大国・日本に取り囲まれた韓国は、経済力や軍事力、文化的魅力の点で周辺諸大国が無視し得ない「立派な民主国家」になれるよう尽力すべきというわけだ。
本書の力は、ディティール(細部)にある。1625年、仁祖を冊封するためにやって来た明の使臣が勝手な振る舞いをしても、なすすべがなかった朝鮮の様子を、ありのままに示した。一行が16万両近い銀を持ち去ったせいで朝鮮の財政は荒廃し、日本の侵略を防ぐための水軍の配備すら「やめよう」と建議されるほどだった。明と後金、日本の情勢変化をセットにして、丁卯・丙子胡乱を東アジアの枠組みの中で読み解くという視野の広さも注目される。なお、参考文献は明らかにされているが注釈は省略してあり、小説のようにすらすらと読み進めることができる。各巻396ページ、1万5900ウォン(約1470円)。