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【コラム】

中日春秋

 その列車が、ロシア極東ハバロフスク駅に到着するのを目撃した時、あまりの異様さに寒けを感じたのを覚えている

▼窓はあるのに、車内の様子がまったくうかがえない。それどころかホームは真っ暗なのに、明かりすら漏れてこない。完璧な遮光措置が施された列車に乗っていたのは、北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記。総書記は二〇〇一年、かの国を象徴するようなこの列車でロシアを訪問し、シベリア鉄道のダイヤを大混乱させつつ、モスクワへ向かった

▼ソ連には、こんな政治小咄(こばなし)があった。首脳らを乗せた列車が突然止まってしまう。スターリンが命じる。「何が起きたんだ。早く動かさないと処刑すると伝えろ」

▼それでも列車は動かない。フルシチョフが指示しても、止まったまま。そこでブレジネフは客室のカーテンを閉めてしまって、言う。「これで列車は動き出した」

▼秘密列車・北朝鮮号の客室では、どんなドラマが演じられているのか。金正恩(キムジョンウン)第一書記の叔父でナンバー2とされてきた張成沢(チャンソンテク)国防副委員長が「売国者」として更迭された。中国と太いパイプを持ち、核実験や弾道ミサイル発射など軍の強硬策に反対していたといわれる張氏の失脚で、列車の運行はどう変わるか

▼窓がふさがれたこの列車には、行き先はおろか、前に進んでいるのかすら分からぬまま、ただ運ばれる二千五百万の民も乗っている。

 

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