【田村剛】「性同一性障害」で性別を女性から変更した男性について、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)は、第三者から提供された精子で妻との間にもうけた子を、法律上の子と初めて認めた。「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する」という民法772条を厳格に適用。血縁よりも、夫婦の実態の有無という婚姻関係を重視し、親子関係の存在を推定すべきだと判断した。10日付の決定。

 性別を変更した人が、非配偶者間の人工授精で子をもうけても、法務省は「血縁がないのは明らか」として、「嫡出(ちゃくしゅつ)子」(結婚している夫婦の子)として認めてこなかった。だが、生まれながらの男女の夫婦が非配偶者間の人工授精による不妊治療で子をもうけた時は嫡出子として受理される実態があり、その差が問題になっていた。

 最高裁は今回、血縁関係にないことが明白な男性と子を戸籍上の「親子」と認定。従来の「血縁重視」の考えにとらわれず、「生まれながらの男性と同じように『父親』と認めてほしい」という訴えに応えた。

 非配偶者間の人工授精による子は、だれを父にするかを定めた法律がない。今回の決定で法務省は対応の見直しを迫られ、議論が立ち遅れている国会にも、早急な法整備が求められる。

 裁判を起こしていたのは、女性から男性に性別変更した兵庫県宍粟(しそう)市の夫(31)とその妻(31)。非配偶者間の人工授精で妻が産んだ長男(4)について東京都新宿区に出生届を出したが、夫の戸籍の記載から、以前は女性だったとわかり、区は戸籍上で「非嫡出子」扱いとし、子の父親欄を空欄にした。夫婦は、結婚した夫婦の子である「嫡出子」として記載するよう訂正を申し立てたが、東京家裁と東京高裁は申し立てを退け、夫婦が特別抗告していた。