焦点/福島第1周辺除染目標 揺れる「1ミリ」(下)腫れ物扱い、議論停滞
 | 安倍首相に除染目標堅持の要望書を手渡す佐藤知事=11月28日、首相官邸 |
|
福島市で2月中旬にあった政府と福島第1原発周辺12市町村との意見交換会で、佐藤雄平福島県知事が根本匠復興相らに求めた。「達成できる数値を示してほしい」
知事が持ち出したのは、政府の除染目標「年間追加被ばく放射線量1ミリシーベルト以下」に代わる基準の検討だ。
意見交換会では、一部自治体から「1ミリシーベルトに下げるには時間がかかる」との声が出た。会議終了後、首長の一人は「1ミリシーベルトでは10年、20年と戻れなくなる。前進したい」と基準見直しに期待感を示した。
◎「見直し」「維持」定まらず
<関係者らに驚き>
根本氏は3月、政府の原子力災害対策本部(原災本部)会議で「子ども・被災者支援法で適切な地域指定の在り方を検討するためにも、年内をめどに線量水準に応じて講じる防護措置の具体化を検討してほしい」と関係省庁に指示した。
被災者支援法への言及は予定になく、同席した関係者に驚きが広がった。
2012年6月に成立した支援法は、一定の基準以上の線量が計測される地域を支援対象に指定すると定める。政府は当時、一定基準をどう設けるかを決めかねていた。根本氏の指示には「1ミリシーベルトに代わる基準」と「一定の基準」で共通の解を導こうとの決意が見て取れた。
復興庁や内閣府、環境省、原子力規制委員会などは新たな基準となる線量数値の検討に着手した。その過程では、内閣府の担当者が「新たな線量水準が導入されることは否定できない」と発言する局面もあったが、実現しなかった。
<市町村で線引き>
復興庁が8月末に示した「一定の基準」は具体的な線量値ではなく、市町村単位での線引き。「数値で一方的に区切ればコミュニティーの分断につながる」との判断が働いた。避難者や支援団体は1ミリシーベルトを一定基準とするよう強く求めたが政府は10月、方針通りに閣議決定した。
一方、規制委は「線量水準に応じた防護措置」の検討結果として、個人線量に基づく被ばく管理を柱とする提言をまとめた。線量基準は、年間1ミリシーベルトを長期目標とする従来方針を踏襲した内容だ。
低線量被ばくの健康への影響は、専門家でも見解が分かれる。深い議論をためらわせ「腫れ物」のように扱われる。その結果、1ミリシーベルトは「維持」という建前の陰で見直し論がくすぶり続ける。
11月28日、官邸を訪ねた佐藤知事は「除染目標の1ミリシーベルトを堅持してもらいたい」と安倍晋三首相に要望した。知事は「県民の不安を除去するため、国はリスクコミュニケーションに努めてほしい」と語ったが、2月の要望には言及しなかった。
2013年12月14日土曜日