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ジャーナリストにとって大事なことは,
2013/11/22
レビュー対象商品: 僕がメディアで伝えたいこと (講談社現代新書) (新書)
震災後、一部のジャーナリストから所謂「放射能危険デマ」が「マスコミは報じなかった」という枕言葉付きで色々流されました。「ハワイで基準値の何10倍ものプルトニウムが検出されたが日本国内だけ報道されていない(もちろんデマ)」という類のものです。報道批判も必要ですが根拠のないそれは無意味な不安を招き復興の妨げにもなります。「マスコミ」を貶めることにより自分をアピールするありがちな遣り口ですが、残念ながらこの本にもそれが覗けます。
著者曰くNHKを退社した理由の一つにNHKへの不信があり、問題点として福島原発事故時の報道のあり方が記されています。具体的に「3.11の夜9時にはNHKに、福一原発の敷地内からプルトニウムが検出されたという情報が入ってきていたが、報道されなかった」という暴露をしています。
”三月一一日の夜、プルトニウムが漏れているという一報が早くもニュースセンターには入っていた。危険性には十分に気づいていた。”(本書153頁)
事故当日プルトニウムが漏れたと言っているのでこれが本当だとしたら、今現在でも大変な新情報なのですが、現実には3.11の夜には、まだベントも実施されておらず建家の爆発もなかったので、当然放射性物質漏れは観測されません。しかもプルトニウムは検出が難しい核種で特定するのに24時間はかかると言われています。ですから、もしもそのような情報が当日入ってきたなら「ガセ情報」だったということになります。が、著者は情報が偽であった可能性に言及していません。そしてその年の9月にプルトニウムが福島各地から少量検出された件について
”もう一度言うが、三月一一日夜、社会部はプルトニウム漏れの一報を受け、早い段階からニュース原稿まで準備していた。しかし、パニックを起こさせないためだったのだろう、その情報は削り取られてしまった。NHKはそんな自分たちの報道姿勢を反省することなく、識者に言い訳を「代弁」させることで逃げを打った。あまりにも汚いやり方だった。”(156頁)
と、あたかもNHKが本当の情報を隠蔽したかのように記しています(プルトニウムが飛散したのは3月12日以降)。その情報がどこからのものなのか、そして事故後2年以上にわたりその事を著者が何故か述べなかった理由も書かれていません。
素直な読者なら「プルトニウムが震災当日検出された」「NHKはそれを知りながら隠した」とそのまま受け取ってしまうでしょう。
この記述で著者は、ジャーナリストにとって大事な「信用」を大きく損ねていると思います。
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