来年4月の消費税率引き上げを決断した時、安倍晋三首相が両立を目指すとした「経済再生」と「財政健全化」。両立の道筋が不透明であるが故に、この二つの目標が別個に作用し、納税する者の明暗を分けた。そんな中身といえるのではないか。
自民、公明両党が、きのう決めた2014年度与党税制改正大綱のことだ。
経済の再生につなげるため、景気好循環の起点となる企業に減税という「明」がともる。
「暗」に沈むのは家計だ。財政健全化に資するため、実施時期は消費税増税と重ならないとはいえ、増税が目立つ。
財政の悪化は社会保障費の膨張だけが要因ではない。歴代の政権が一時的な景気浮揚のため公共事業に頼り、借金を膨らませてきた、そのつけも大きい。
それなのに、さらなる消費税増税に備えて低所得者の負担を軽くする軽減税率の導入を先送りした上、「財政再建」という錦の御旗のもと、家計に負担のみを押しつける。
議員定数削減という身を切る努力もなく、無駄の削減も不十分な中で、この負担増を国民の多くが納得できまい。反発を招くのは必至といえる。
企業減税の一つは、大企業が飲食で支出する交際費の半分を非課税とする制度を2年間設けることだ。接待を活発にし消費を下支えする狙い。復興特別法人税の廃止は、賃上げにつなげるのが目的だ。
いずれも効果が出ることを期待はしたい。だが、消費の促進は大都市中心に限られ、賃上げもどう進むかは分からない。
こうした減税による企業支援とは裏腹に、家計には負担がのしかかる。
一つは軽自動車税。15年10月に予定される消費税10%アップ時に自動車取得税が廃止されるのに伴い、減少する地方税の代替財源として15年度以降に購入する新車の税額が自家用乗用、二輪車で1.5倍になる。地方の「生活の足」が直撃される。
年収1千万円を超すサラリーマンの所得税と住民税も16年から段階的に増税となる。消費税増税で低所得者層の負担感が強まる中、高所得者にも応分の負担を求める。そんな公平論をかざしたとしても、軽自動車税を含め、要は取りやすいところから取るとの魂胆が見え見えだ。
税制改正で焦点となった軽減税率は、大綱に「消費税10%時に導入する」と明記された。だが、時期は10%に引き上げる時とも、引き上げ後とも解釈でき、結局は決着を先送りした。14年末までに結論を得るという。
来年4月の消費税増税に加え、今後も負担増が次々と押し寄せる状況で、多くの国民はこれからの暮らしに不安を抱かざるを得ない。軽減税率の導入は、そうした将来不安を幾かでも和らげる効果があったはずだ。
庶民の暮らしを思いやる為政者の姿勢が、この大綱からはうかがえない。せめて10%引き上げ時の軽減税率導入に向けて、両党は、課題を一つ一つクリアしていくべきだ。