月光の夜、中編
ケインたちが座る椅子の前に立ち、連中を見下ろすと、奴らはワシを見上げてきた。
部下たちが立ち上がろうとするのを止め、ケインが話しかけてくる。
「君は……確かクロードの友達だったかな?」
「妹の金で奢り酒か、いい気なものだな」
部下らしき騎士たちがざわめき、ケインは一気に素面に戻る。
「……根も葉もない言い掛かりはやめてもらおうかな……」
ゆっくりとソファにもたれかかり、グラスを傾けた。
そして、ふぅ、と息を吐くケイン。
ワシの中の何かが完全にぶち切れる。
「貴様と下らん問答をするつもりはない」
手をかざし、レッドクラッシュを念じる。
ワシの右手から生まれる炎塊、それは渦を巻き、ケインに標準を定める。
気づいた部下や女たちは、悲鳴を上げ直ぐに離れて行くが、ケインはグラスを持ったまま微動だにしない。
上等だ。
昏い感情をそのまま解放する。
ーーレッドクラッシュ!
店内で爆音が響き、酒瓶やソファ、テーブルが弾け飛んだ。
爆炎が店内に飛び散り、壁や床が燃え広がってゆく。
煙が辺りを覆い隠す中、ゆらり、と煙が揺れた。
ーー刹那。
ワシが身体を横に躱すと、そこに剣閃が瞬く。
ワシのレッドクラッシュを喰らって反撃をしてくるだと?
熱くなった頭が少しだけ冷え、スカウトスコープを念じる。
何も居ない!?
バカな……
煙は揺らぎ、斬撃は連続して振るわれている。
この煙で向こうもワシが見えていないのだろう、でたらめに剣を振りまわして来るが……鋭い!
「っ!?」
一撃をまともに喰らい、セイフトプロテクションが解けてしまった。
後ろに下がり、煙の中にブラックショットを撃ち込む。
空圧の弾が煙を散らし、ケインの姿を捉えるが、魔導はケインに届くことなくかき消された。
(そういう事か……!)
同時に、ケインはワシまで詰め寄り剣を振りかぶる。
避けようとテレポートを試みる、が足に走る激痛。
「がっ……!?」
ワシの足がケインに踏みつぶされたのだ。
鋼鉄で出来たブーツ、対するワシの靴は革。
靴はぐにゃりと形を変え、足の甲骨はへし割れたか。
(テレポート封じ……こいつ対魔導師戦を知っている!)
テレポートは自分と触れているものを全て、一緒に飛ばしてしまう性質を持つ。(ただし壁や床、動かないものに関してはその限りではないが)
テレポートを持つ相手と相対する場合は、対象に触れていることで、逃げられることを防ぐことが出来るのだ。
ケインはさらにワシの足を踏みにじり、剣を構え、そのまま振り下ろす。
ギィン!!
振り下ろされる斬撃を、受け止めたのは金髪の少女。
互いの剣が火花を散らし、二人は共に苦い表情を浮かべた。
「退け……クロード」
「いやです……っ!兄様!」
ケインの一撃を受け止めたのはクロード。
しかし力に押され、その刀身はクロードの額まで押し込まれている。
「ゼフ君!逃げてください!兄に魔導は効きません!」
やはりそうか。
クロードやケインの持っていた、固有魔道スクリーンポイント、これは魔導を無効化する魔導なのだろう。
先刻、魔導がかき消され、スカウトスコープすら通用しなかったことからそれが伺える。
魔導を無効化された魔導師は、手足をもがれたも同然。
”魔導師殺し”
その手の魔道がいくつか存在する事は知っていたが、ここまで露骨なのはな……
「クロードォォォ……!それまで言ったのか?どれだけレオンハルト家を裏切れば気が済むのだ!?」
ケインの顔が歪み、クロードはさらに押し込まれる。
たまらず弾き、ケインを追い払う一撃も難なく止められた。
弾き返され、それでも直ぐ剣を構えるクロード。
剣戟が響き、その都度クロードは身体ごと弾かれてしまう。
力も剣技も、ケインの方がかなり上だ。
防戦一方、決着まで長くはかからないだろう。
「ゼフ君っ!早く逃げてください!長くは持ちません……!」
「バカが!逃すわけないだろう!レオンハルト家の面汚しがっ!そしてその秘密を知り!私に恥をかかせたクソガキもなっ!」
ケインの重い剣撃が攻撃のたびにクロードの剣を削る、ぐらぐらと揺れる刀身、今にもへし折れそうだ。
「終わりだ……っ!」
そう言って放った一撃で、バキン!とクロードの剣がへし折れる。
くるくると舞い飛んだ刀身が壁に突き刺さり、ニヤリ、と嗤い勝ちを確信するケイン。
「くっ……!」
「もういいだろう。勝負はついた。血縁のよしみだ、今すぐそのガキを殺せば、許してやってもいい」
勝負は決した。
そしてこの勝負、この実力差では何度やっても同じ結果だろう。
外野のワシにわかる位だ、相対しているクロードはそれを百も承知のはず。
それでも。
クロードは構えを解かない。
折れた剣を握りしめ、かたかたと震えている。
「何故だ、クロード。そのガキ、所詮は赤の他人だろう?」
「赤の他人じゃありません。同じギルドの仲間です……!」
「同じではないか」
「違う!!」
釈然としないケインを、泣きそうな顔で睨みつけるクロード。
声は震え、瞳からは涙がこぼれそうだ。
「ボクはずっと一人だった……家でも、家を追い出されてからも……女のボクは、最初は優しくされたこともあったけど、いつも最後は裏切られて……」
少しは罪悪感もあるのだろうか、聞き入るケイン
「だから今度は男の格好をすればいいって思ったんです……男の格好をして、一人で旅をすれば誰にも裏切られることはない。……でも誰とも繋がることもなかった……」
成程、男の格好をしていた理由はそれか。
「寂しさを紛らわせるため、戦って、戦って、魔物に囲まれて、もういいやって思ってる時にミリィさんが助けてくれたんです……魔物を蹴散らし、微笑むミリィさん……あの姿をボクは一生忘れないでしょう。」
戦天使。
思わず笑ってしまう。
これもある意味、クロードとの思い出と言えるのだろうか。
「ゼフ君もミリィさんも、会ってすぐのボクにすごく親身になってくれた……!生まれて初めて、仲間と呼べる人に出会えた!だからボクは彼らの為に!命を賭けることが出来る!」
咆哮するクロード。
「ほう……いい顔をするようになったな、クロード。いつも家では俯いてばかりだったのに……そのガキに惚れたか?」
「ゼフ君は僕の為に、初めて怒ってくれた人です」
キッ、とケインを見据えるクロード。
そこにもう涙はない。
死を覚悟してでも止める、そんな決意を秘めた顔。
「だから、逃げてください。ゼフ君」
そんな奴を、見捨てて逃げれる訳がないだろうが。
「クロード」
「ボクは大丈夫ですから……!」
勘違いしているなコイツ。
折れた剣を持つクロードの手に、ワシの手を重ねる。
「なにを……?」
タイムスクエアを念じレッドブラスターとレッドウエポンを同時に念じると、クロードの折れた剣から魔導の光が発せられ、それは剣を形成してゆく……
クロードは驚き、疑問の声をワシに投げかけてきた。
「これは……?」
「クリムゾンブレイド、とでも名付けておこうか」
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