金
「ところでクロードは今、何処に住んでいるんだ?」
夕暮れ時。
ナナミの街に戻り、空き地の中、雑貨屋で買った果実のジュースを飲みながらワシらは少し話をしていた。
「今は冒険者用の宿に泊まっていますね。でもミリィさんというボクの仕えるべき主を見つけたし、しばらくはここに住もうと思うので、借り家を探そうと思っています」
クロードは家を出て数か月、今一人で旅をしてきたらしい。
一人で狩りをして、アイテムも自分で売り、宿に泊まる金がなければ野宿をしていたと。
冒険者としては珍しくはない境遇だが、ミリィはそれを聞いたときひどく驚いていた。
「そうだ、クロード。よかったらウチに住まない?」
「えっ……でもそれは流石に……」
「待て!それはダメだ」
ミリィの家にはスカウトスコープのスクロールもある。
それに同居ともなれば色々とトラブルを抱える事もあるだろう。
何か事が起こってからでは遅い。
「宿の方がクロードも気軽でいいだろう。どうしてもいうならワシの家に部屋が空いてるから、そこを貸そう」
「そ、それはダメっ!」
ミリィが必死な顔で否定する。
「あのーボクは宿で大丈夫ですから……ミリィさんのお心遣いだけで十分です」
「ミリィ、クロードだってずっと人の家に居るのは気が引けるだろう」
「うーん……わかった」
説得に応じるミリィ。
クロードもどこかホッとしたような感じだ。
結局クロードの住む場所については、しばらく宿に泊まり、借家探しをワシらが協力する事で落ち着いた
「おおっクロードではないか!」
街の中心、繁華街から、高価そうな鎧と剣の鞘、そして手には馬を引いた身なりの良い男があらわれた。
短い金髪を後ろで括り、あごひげを指でなぞる。
「ケイン兄様!何故ここに?」
クロードがケインとやらのところに駆けてゆく。
兄妹かよ。
似てないな。
「どうしてここに?」
「遠征の途中で寄ったのだ。まさかクロードに会うとは思わなかったが……ん?彼らは友達かい?」
クロードと共にいるワシらに気づくと、鋭い視線を向けてきた。
ワシらを見定めているようだ。
なんかムカつくのでこちらも見定めてやろう。
ケインにスカウトスコープを念じる。
ケイン=レオンハルト
レベル45
魔力値39
魔力値39かよ。
半端にあるくらいなら0の方が潔い。
まぁレベルの高さは認めるが。
所持魔導はクロードと同じ。
やはりスクリーンポイントなる魔導も持っている。
恐らくはレオンハルト家に伝わる固有魔導と言ったところだろうか
くそっ気になるな。
「彼らを紹介してくれるかい?」
「あ、すみません。ゼフ君にミリィさんです。ボク、彼らのギルドに入れてもらったんですよ」
「”蒼穹の狩人”ギルドマスターのミリィ=レイアードと申します」
「これはこれは、礼儀正しいお嬢さんだ。私はケイン=レオンハルト。妹がお世話になっております」
ミリィが余所行きの顔を見せ、ケインも応じ、礼をする。
「君は……君たちは魔導師だね?それもかなり強いと見た。クロード、よいギルドを見つけたね?」
「……はい」
ワシらが魔導師という事に気づいたか。
ボンクラというわけではないらしい。
クロードはどこか浮かない顔だ。
兄の事が苦手なのだろうか。
「それじゃあ私は宿に帰るから、君たちも早く帰りなさい。もう遅いからね」
そう言ってケインが行こうとするのは、ナナミの街で一番の高級な宿のある繁華街。
それを見て、閃いたミリィが割って入る。
「そうだクロード、お兄さんと同じ宿に泊めて貰えばいいじゃない!」
ナイスアイデア、といった顔でミリィが二人に話しかける。
「残念だがそれは出来ない」
強い口調で拒絶された。
「レオンハルト家は名声高き騎士の家系。実の妹とはいえ、下……冒険者と同じ宿に泊まるわけにはいかぬ。そうだな、クロード」
「はい……」
とある騎士崩れの冒険者から、騎士の家は序列に厳しいと聞いた事がある。
その者もクロードと同じ末子であったが、家族でテーブルを囲む事など一度もなく、冒険者になれる16歳になるとすぐに家から追い出されたと言っていた。
クロードに至っては14歳かそこらだろうか、
レオンハルト家は財政難だとクロードは言っていたが、件の騎士崩れより財布事情は厳しいらしい。
しかし高級宿には泊まるわけだ。
見栄っ張りめ。
「金がないなら無理に見栄を貼らなくてもよいのにな」
ケインとクロードの動きが止まり、ワシの方を向く。
あ、口が勝手に……
しばし沈黙の後、ケインはクロードを睨みつけ、胸ぐらを掴む。
「かはっ……!?」
苦しそうに息を吐き、歯を食いしばるクロード。
ケインの目は怒りに満ち、睨み殺さん程の勢いだ。
「クロード……他人に家の事を喋ったのか……!」
「……っ!すみませんケイン兄様……」
「黙れっ!この裏切り者がっ!」
拳を握り締め、腕を振りあげるケイン。
放たれた拳は、顔を歪ませ、歯をへし折り、身体ごと地面に叩きつけられる。
ーーま、それを受けたのはワシだが。
「っ……てぇ」
口の中が切れ、鉄の味が充満していく。
奥歯もかけたな。
なんつー力でぶん殴りやがる。
仮にも妹だろうが。
「ゼフっ!」
「ゼフ君!?」
二人が心配そうな声をあげるのを、ケインが苦い顔で見ている。
先刻、ケインがクロードを殴ろうとする瞬間、ワシはテレポートで二人の間に割って入ったのだ。
不容易な発言をして、ケインの怒りを買ったのはワシだしな。
「すまんな、ケイン殿。別に言いふらすつもりも、馬鹿にするつもりもないのだ。これ以上ワシらに手を出さないのであれば」
行き交う人たちが足を止め、ワシらを見ている。
子ども相手に拳を振るう騎士殿だ。
人目につかないハズがない。
「…………チッ」
舌打ちをして、宿の方へ消えて行くケイン。
周りの目が相当気になるようだ。
やれやれ、人目を気にするのも、度が過ぎると非効率的だな。
「あの……ありがとうございます、ゼフ君」
「気にするな、あれはワシが悪い。それに決闘の時、ワシの早とちりでクロードには迷惑かけたしな」
「あれはもう気にしてないですから」
あはは、と笑うクロード。
「全く無茶するんだから……」
ミリィがヒーリングをかけてくれている。
こんなもの大した事ないんだがな。
黙って、されるがままになっていた。
「すみません、兄も昔はもう少し優しい人だったのですが……いつからでしょうね。やはり貧乏というのは嫌なものです」
クロードが寂しそうに笑う。
「いつか僕が冒険者として名をあげる事ができれば、こんなこともなくなるんでしょうか……」
金、か。
金の為にミリィのスカウトスコープのスクロールに手を出した、という事も考えれる訳か。
つまりクロードが金に困る事がなくなるほど、稼げるようになればいいのだ。
「クロード、金を稼ぐ一番の近道は強くなることだ。強くなり、ボスを狩れるようになれば金などいくらでも手に入る」
「ボス狩りなんてとても無理ですよ……兄の騎士団でも安定して狩るのは難しいと言われています。ボクなんかじゃとても……」
「ふふーん♪でも私たちはもうボス倒してるのよねーっ」
ワシに向かってミリィがにんまり笑いかけてくる。
ものすごく自慢げだ。
「本当ですか!?ミリィさん、一体どうやってボスを倒したのです!?」
「それはねー……」
クロードは信じられないといった表情でミリィに詰め寄り、ミリィは自慢げにボス狩りの様子を話している。
そういえば、この頃はまだ世間にボス狩りは浸透していないのだろうか。
ワシも当時は冒険者として未熟だったから、ボスは見た瞬間に逃げていた。
ボスには手を出すなと冒険者登録の時、耳にタコができるくらい言われていたからな。
露店広場にもボスのレアドロップはあまり置かれていなかった。
死者の王も狩りに来るパーティはいなかったし……
もしかして今ボスを狩る事は相当金を稼げるんじゃないだろうか?
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