BSオンライントップ > BSコラム > サッカーの秋(2) (by 吉松欣史)

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いよいよ9月1日から、サッカー女子の2012年ロンドン五輪出場をかけた最終予選が中国・山東省で開催されます。出場するのは日本の他に、タイ、韓国、オーストラリア、北朝鮮、中国の計6チーム。この中から上位2チームがオリンピックへ出場できます。「なでしこジャパン」にはまずはこの予選を無事に勝ち抜いてもらって、来年のオリンピックでW杯に続く“2冠”に期待したいものです。

それにしても、ドイツW杯優勝後、国民栄誉賞を受賞するなど、“なでしこフィーバー”はまだまだとどまるところを知りません。8月19日に国立競技場で行われたなでしこリーグ選抜との東日本大震災復興支援チャリティマッチも、2万人以上の観客を集めました。これは、女子単独で行った試合で約3万1000人という過去最高の観客を集めた、2004年のアテネ五輪予選・北朝鮮戦には及びませんでしたが、異例の数字だそうです。また22日から最終予選の事前合宿が始まる岡山県美作市での熱烈歓迎ぶりは、毎日テレビのニュースで紹介されるほど盛り上がっています。
この衰えを見せない“なでしこフィーバー”は、W杯優勝がいかに熱い感動を日本人に与えてくれたか。その大きな証しに違いありません。それに加えて、これまでは男子のサッカーにしか目が行かなかったファンが、「女子も意外と面白い試合をする」とそのレベルを再認識し、注目している結果だと私は思っています。これで来年のロンドン五輪で優勝するようなことがあると、男子もオチオチしていられませんね(苦笑)。

私が “なでしこジャパン”を生で目撃したのは、恥ずかしながら、つい最近のことです。ドイツW杯前の6月18日に松山市ニンジニアスタジアムで行われた韓国との親善試合でした。結果は1-1の引き分け。ちなみにこの試合の観客数は約4200人。四国での開催であったため、先日都内で行われたチャリティマッチとは単純な数字の比較はできませんが、彼女たちに送る観客の視線の熱さは、やはり今とは少し違っていた気がします。
このとき私は、体は決して大きくないものの、体幹の強さはあるし、俊敏性にも優れていると、彼女たちに大いに驚かされたことをよく覚えています。数年前までは、女子サッカー代表のレベルは男子の中学生くらいとの見方をする人もいました。ところが最近では、男子高校生の全国レベル。とくにW杯で優勝したいまの“なでしこジャパン”に関しては、高校生で勝てるチームが果たしてどれだけあるのかと言われるほど、関係者の間で評価はウナギ登りとなっています。一概に男子と比較するのがいいとも思えませんが、その実力は確実にアップしているのは間違いないようですね。

松山で私がまず目を引き付けられたプレーヤーは、W杯でも活躍した川澄選手です。この試合には出場しませんでしたが、練習だけ見ても、その魅力はよく伝わりました。ハードワークしても呼吸が乱れないようでしたし、ボールコントロールもよく、瞬間の判断の速さもあると感じました。そして何より、身体は小さいけれど、その身体を生かしたプレーをよく知っているという印象を強く受けました。
川澄選手に代表されるこの“なでしこジャパン”のよさが全開したのが、ドイツのW杯でした。ゴール前にボールを蹴り込んで、身体の大きい選手に当て、そのこぼれ球をシュートするというチーム戦術を採用する国が多い中、日本は身体が小さい分、豊富な運動量とスピードを生かしてしっかりボールをつなぎ、ゴールを狙いました。
そのサッカーは、中盤のイニエスタ、シャビ両選手が中心となって、相手とのボディコンタクトを避けながらボールを受け、芸術的につないでゴールに迫るバルセロナ(スペイン)のサッカーを見ているような感覚にもなりました。私がうれしかったのは、サッカーを見る目が肥えたドイツのファンが“なでしこジャパン”のプレーに魅了され、途中から大きな声援を送ってくれるようになったことです。これはある意味、優勝よりすごい勲章かもしれませんよ。

もちろんキャプテン澤選手の能力の高さにも、ドイツでは十二分に驚かされました。対メキシコ戦でハットトリックを達成し、日本代表の得点ランキングで、75点を挙げているあの釜本邦茂さんを抜いて一躍トップに躍り出た澤選手は、みなさん、忘れてはいけませんよ、フォワードではなく中盤の選手なのですから! MFがこれほど得点するには、無駄のない動きが求められます。それはゲームの流れを読む力、判断の速さ、周囲の選手に的確な指示を出せる…など、サッカーに関するあらゆる要素において、パーフェクトでなければできないことだと私は思っています。
それに加えて、澤選手のあの明るい性格も大きな武器ではないでしょうか。大一番の決勝・アメリカ戦で最後の最後に追いついた、宮間選手のCKに澤選手が合わせたあのプレーなどは、互いの信頼感、日頃からのトレーニングの結果ともいえますが、相手選手の心理状態やちょっとした動きを敏感に感じ取れる澤選手ならではの“劇的な得点”だと私は感じました。それは明るい澤選手を中心として長い時間をかけて熟成されたチームワークの勝利というか、“なでしこジャパン”の絆の強さが生んだ“奇跡のゴール”ともいえるものでした。澤選手はゴールの数以上に見えないところでチームを支えているなと思った次第です。そんな澤選手がMVPを獲得するのは、当然の結末といえるのではないでしょうか。

次回はロンドン五輪の最終予選で日本が勝ち抜くための条件を考えてみたいと思います。お楽しみに! 

(取材:大平 裕之)

吉松 欣史(よしまつ・よしふみ)

1991年NHK入局。現在はMLB、NBAをはじめ、さまざまなスポーツ中継に携わる。サッカー実況にも初任地・京都から長く携わり、アテネ五輪、ドイツW杯北京五輪などで担当。日本が優勝した今年のAFCアジアカップでも現地から熱戦を伝えた。

吉松 欣史(よしまつ・よしふみ)

投稿時間:12:00 | カテゴリ:BSスポーツ

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