ーー街の外
平地に風が吹き、草がなびく。
ワシとクロードは向かい合って構えていた。
その間にミリィが立っている。
二人とも私の為に戦うのはやめて!といった構図で、ミリィは不安ながらもちょっとワクワクしてる感じだ。
「互いにセイフトプロテクションをかけ、先に一撃与えた方が勝ちとしよう」
「せいふとぷろてくしょん?」
「何ですか?それ」
ミリィとクロードが首をかしげる。
おいおいクロードはともかくミリィは知っとけよ!
というかセイフトプロテクションもかけずに死者の王に向かって行ったんだろうか。
恐ろしい奴だ。
「セイフトプロテクションは受けるダメージを一度だけ九割カットする魔道だ。ワシもそこまで強い魔導を使うつもりはないが、万が一という事もあるしな」
「ボクもゼフ君に深手を負わせるのは忍びないですし、それがあるならありがたいですね」
クロードはワシにニヤリ、と笑いかけてきた。
言いおったなコイツ。
とはいえ手加減はする。
初等魔導だけで相手をしてやる。
自分の知っている魔導だけで倒されればクロードもワシとの力量差を思い知るだろう。
クロードは木剣と自前の盾を使うようだ。
ワシは素手で迎え撃つ(ロッドを装備すると威力が上がりすぎ、9割カットした中等魔導でも大ダメージを与えてしまう恐れがあるため)
「開始位置は?」
「ゼフ君の好きな位置でいいですよ」
生意気な奴だ。
その自信はどこから出てくるのか。
スカウトスコープで見てやろうかと思ったが、初等魔導だけで相手をすると決めていたのでやめた。
一撃勝負なら、レベルはあまり当てにならないし。
まぁ、普通に実力で黙らせればいい。
「5ゼイル。ワシとクロードにとって、おそらく一番中立な距離だ。」
「わかりました」
ざっざっと距離を取る。
魔物がワシらを視認するのが大体この5ゼイルだ。
歩いて30歩くらいの距離である。
ワシにとっては魔導を2発撃てる距離。
クロードにとってはそれを防げば切り込める距離。
本来の決闘なら10ゼイルなのだが、これはワシなりのハンデだ。
「いきます……!」
「来るがいい」
言うが早いか、クロードは盾を正面に構え、ワシに向かって突進してくる。
先ずは小手調べだ。
駆けてくるクロードの足元を狙い、ブルーショットを念じる。
放たれた青い弾丸をジャンプで躱し、そのまま木剣を振り下ろす。
ワシが少し後ろに下がって避けるのを、なぎ払いで追撃をかけようとする……が。
「うわああああああ!?」
クロードの着地した地面が崩れ、崩落した地面に飲みこまれる。
先刻ワシは勝負の前に、地面をグリーンボールで削っていた。
離れているとわからないが、ワシの足元はグリーンボールで空けた穴でボコボコだ。
盾なんか構えているから前が見えてないのだ。
残念だったな。
穴に落ちたクロードにトドメを刺すため、中を覗き込む。
ーー瞬間
ワシの顔目掛けて火球が飛んで来た。
レッドショットだ。
躱しきれぬ……っ!
直撃の寸前、タイムスクエアをギリギリで念じる。
そしてテレポートで、少しだけ後ろに移動する。
時間停止が解除された直後、レッドショットがワシの眼前を通り過ぎていった。
「そんな……」
「ブラックショット!」
無念そうな声を上げるクロードに容赦無く魔導を叩き込む。
「うわーーっ!」
ズズン……と穴の中に衝撃が走る。
土煙を上げブラックショットがクロードに直撃した様だ。
あ、危なかった……
クロードのやつ魔道を使えたのか。
それにあの高さから落ちてワシに反撃してくるとは大したものだ。
油断していた。
今度こそ倒したのを確認する為、穴の中を覗き込む。
……こっそりと。
穴の中ではクロードが大の字になって倒れていた。
思ったより威力が出てしまったようだ。
……もしかしたら穴に落下した時点でセイフトプロテクションが切れていて、まともに攻撃が当たったのかもしれない……
ブラックショットなら大してダメージはないだろうし、まぁいいか。
勝利を確認し、ミリィに向かって腕を上げる。
「ゼフの勝ちーぃ!」
ミリィはそれに応じて赤旗を上げ、ワシの勝利を宣言する。
どこに持っていたのだろうか。
ワシとミリィはテレポートで穴まで降りると、あぐらをかいたクロードが座っていた。
鎧は無事だが服が少し破れてしまっているか。
悪い事をしたな。
「痛たた……流石はゼフ君。副ギルマスやってるだけはありますね。ここまで強いとは正直驚きました。必中の確信をもって放ったレッドショットだったのですが……」
「クロードこそ大したものだよ。初等魔導だけで勝つつもりだったのだが」
「やはり、手加減されてしまいましたか。そうさせない為に挑発を試みたのですが……非礼を詫びさせて下さい。そして次は本気を出させて見せます!」
悔しがりながらも、クロードはワシに向かってはにかむ。
中々のイケメンスマイルだ。
ワシ程ではないけどな。
「クロードったら傷だらけじゃない!ほら鎧脱いで!ヒーリングしてあげるから」
「いや、別に鎧は脱がなくても……」
「私ヒーリング下手だから、傷を見ながらじゃないと上手く効かないの!ホラ早く!」
「わかりました……」
としぶしぶ鎧を外していくクロード。
その服はところどころ破れ、白い肌を覗かせる。
すらっとしつつも丸みを帯びた身体のラインは、まるで少女のような……
「あれ……あの、えーと……クロードってもしかして……女の子?」
「あの、えーと……はい」
「えーーーっ!?」
女だと……まさかそんな……
ぞわり、とワシの背に悪寒が走った。
鎧と上着を脱ぎ、シャツ1枚になったクロードにヒーリングをかけながら、ミリィは複雑な顔をしている。
「まさかクロードが女の子だったなんて……」
ちらっとクロードの胸を見て呟く。
胸の膨らみは明らかにミリィより大きい。
ミリィはそれを見てさらに複雑な顔になる。
「すみません、黙っているつもりはなかったのですが……何となく言いづらくてその……」
「い、いいのよ別に。聞かない私も悪かったし」
ミリィも驚いているようだが、ワシの驚きはその比ではないだろう。
女。
魔導師。
クロード。
この三つのキーワードが、「以前見た事がある」顔と名前に結びついてしまった。
確信を得る為、クロードにスカウトスコープを念じる。
クロード=レオンハルト
レベル16
「緋」魔導値9 限界値45
「蒼」魔導値5 限界値39
「翠」魔導値0 限界値40
「空」魔導値0 限界値47
「魄」魔導値0 限界値51
魔力値324/324
やはりか。
年を取り、雰囲気が変わっていたのでわからなかったが、フルネームを知ってワシの予感は確信に変わった。
よく見れば彼女の面影があるし、間違いないだろう。
初めてミリィがスカウトスコープのスクロールを見せてくれた時、なぜ疑問に思わなかったのだろうか。
魔導師協会にスカウトスコープを持ち込んだ天才魔導師。
その名前がミリィ=レイアードでなかったことに。
ワシの記憶が確かなら、その天才魔導師の名前はクロード=レオンハルト。
目の前にいる少女、その人だったのである。
