クロード
ーー朝
「それでは世話になった」
「なーに気にしないで。私も弟が出来たみたいで楽しかったよ」
弟扱いか。
なるほどイニシアチブを取りたがるわけだ。
ミリィと会わせたら、妹が出来たみたいと喜ぶのだろうきっと。
というかミリィになにも言わずにレディアをギルドに誘ってしまったが、怒られるかもしれないな。
ワシはミリィにギルドメンバーは増やさない方がいい、とか言った気がするし。
……しかしミリィ自身はギルドメンバーを増やしたがっていたから、喜ぶ可能性もあるか。
まぁ話してみるとしよう。
ダメならダメで仕方ない。
レディアと別れ、ベルタの街を出る。
そういえば昨日母さんが、家に何度かミリィが来たとか言っていた。
家に帰る前に寄って行こう。
ナナミの街につくと、ギルドメッセージでミリィに呼びかける。
「ミリィ、いるか?ワシだ」
「ゼフ!?もう、どこ行ってたのよ!探したじゃない」
「悪いな、ベルタにいたのでな。だが目的は達したぞ。あと報告する事がある」
「そうなの?こっちも話したい事があるの。すぐウチに来てくれる?」
いい狩場が見つかったのだろうか。
少し嬉しそうな感じだ。
テレポートでミリィの家まで飛ぶ。
ミリィの家に着くと、入り口の前にミリィが立っていた。
中で待ってればいいのに。
ワシに気づくとすぐ駆け寄ってくる。
相変わらず犬みたいだ。
揺れるツインテールが犬の尻尾に見えた事は黙っておこう。
「ゼフ!」
「元気そうだな、ミリィ」
元気な笑顔を見せてくる。
「何だか嬉しそうだが、いい狩場が見つかったのか?」
「まぁね。北に水霊が棲む湖畔、そして南にコボルトの棲む森を見つけたわ」
「北の湖畔とコボルトの森……共に悪くないレベルの狩場だが、湖畔は魔導師に相性の悪い遠距離攻撃を持つ魔物、コボルトは属性がバラバラでこれまた魔導師と相性が悪いではないか」
指摘するとミリィは、甘いねーと言わんばかりの顔で、人差し指をチッチッと振る。
う……うざい……
「話は最後まで聞くものよ?狩場もだけど、一番の収穫があるの!」
「何だ?」
ミリィはニコニコしながらワシの様子を伺う。当ててみろ、と言わんばかりの顔だ。
勿体ぶってくるな。
大体わかるぞ。
ワシと同じだろう。
「……ギルドメンバーが見つかったのか?」
「え?何でわかったの?」
「偶然だがワシも一人目星をつけたからな。ミリィも同じかと思ってな」
むっとした顔を見せるミリィに続ける。
「ワシの方はベルタの街に住んでいる商人だ。今、アイテムを委託して売ってもらっている。来週辺りにでも会いに行こう」
「……女の子?」
「何故わかったのだ?」
「…………会ってから決める」
「最初からそういう話だ。安心してくれ」
一気に不機嫌な顔になるミリィ。
クレア先生と手を繋いでいた時もこんな顔をしていた。
もう少し器を広げた方がいいと思う。
この調子では最強のギルドなど程遠い。
「それで、ミリィの方は?今連絡つくのか?」
「あーうん、今ウチにいる」
ぶっきらぼうに答えられた。
不機嫌が治らない。
仕方ないのでミリィの頭をゴシゴシ撫でてやる。
「ちょ……っ何するのよ!ゼフっ」
「そんな不機嫌顔で新入りを紹介するつもりか?ワシの方はどちらでも構わんよ。相手もそこまで乗り気ではなかったしな」
「…………」
ミリィは俯き顔を赤らめ、しばらく頭をゴシゴシと撫でられるがままになっていた。
「は……はいはいもう終わりっ!行くわよ!」
さらにしばらく後、ワシの手を振り払い、部屋に向かって早足で歩くミリィ。
ワシもそれについて行き、部屋の中に入る。
以前片づけたミリィの部屋は、また結構な散らかり様であった。
しかし足の踏み場くらいはあるようで、ガラクタを踏まないように慎重に歩いてゆく。
すると部屋の床に一人の少年が礼儀正しく座ってる。
白銀に赤のラインが入った軽装の鎧に身を包み、傍には片手剣とシールドが置かれ、整えられた金髪が部屋から入ってきた日の光に照らされ、きらきらと光っていた。
年はワシらよりそこまで変わらないか、少し上くらいか?
こちらに気付いたのか、綺麗な金髪を揺らしながら立ち上がる。
「ミリィさん、おかえりなさい!」
大きく元気な声だ。
真正面から見つめる視線が眩しい。
ワシに握手を求めてきたので応じた。
「初めまして、ボクはクロード、剣士です」
どこかで見た顔と名前だ。
思い出せないが、よく考えればワシは人生2回目。
「元」知り合いなどいくらでもいるだろう。
いろんなギルドにも入っていたから、顔見知り程度なら多いしな。
気にせずこっちも挨拶をする。
「ワシはゼフ、魔導師だ。いきなりだが、何故ウチみたいなしょぼいギルドに入ろうと思った?この辺りならもっといいギルドもあるだろう」
「しょぼくないしっ!」
ミリィの抗議の声を無視して続ける。
「見たところ、駆け出しの様だが、初心者の場合、人の多いギルドの方が見るべき物も多いぞ?」
「ボクは騎士の家系の末子です。でもここ数年、家がお金に困っていて、ボクを養うことは難しくなり、冒険者にならざるを得ませんでした。ですがこれでも騎士の末端、冒険者として日銭を稼ぐだけでなく、騎士として自らが仕えるべき主人を探す事も目標としていたのです」
何とも世知辛い話だ。
騎士は装備のメンテナンスにやたらと金がかかる。
正面切って戦うことが多いため、体力回復薬にも金がかかる。
騎士とは金があってこそ映える華。
ゆえによい装備を与えられるのは、年長者、または実力者から順番ということになる。
クロードは末子、装備を与えられるどころか、家から追い出されたようだ。
しかし別に、ぐれたり家を恨んだりとかはないらしい。
「未だ若輩故、コボルト共に囲まれ窮地に陥っていた所を、ミリィさんに助けて頂きました。凄まじい魔導で全ての魔物を倒すミリィさんの姿はまるで戦天使……気が付けばボクはミリィさんに弟子入りしていたのです!」
お、おう。
戦天使と来たか……少し夢見がちな少年のようだ。
が、駆け出しの冒険者はこんなものだろう。
「我が剣を捧げるに相応しい主人をミリィさんと認め、迷惑とは思いながらもここまで押しかけてしまい、申し訳ないことをしました……!」
まぁミリィの方も、クロードがいればワシにべったりと言う事もなくなるだろうか。
悪い奴じゃなさそうだし、これはこれで悪くはない。
「ゼフ君、ミリィさんの弟子として共に頑張りましょう!」
ーー硬直
するワシの顔から、ミリィが目を背ける。
にこり、とさわやかに微笑むクロードにワシは苦笑いを返す事しか出来ない。
え?弟子ってワシのこと?
(どういうことだ?ミリィ?)
(いや~つい口が勝手に……)
(つい持ち上げられて話を盛ってしまった、という事か?)
(まぁ……ごめんね)
でへへ、とだらしなく笑っている。
全然ごめんねって顔じゃないぞ、ミリィ。
「ごめんね、クロード。弟子ってのは嘘なの。彼はウチの副ギルマス」
「なるほど、そうでしたか」
素直に受け入れてくれて良かった。
「で、ゼフ。どうかな?入れてもいい?」
「まあいいんじゃないか?真面目そうだし、変なことをするような奴には見えないな」
「本当ですか?やったぁ~~!」
両手を上げ、喜ぶクロード。
ぱちぱちと手を叩くミリィ。
悪くはないな、こういうのも。
「そうだ!クロードの歓迎会をしましょうよ!クロードは何かしてほしい事とかある?」
「うーんそうですね……」
クロードは少し考え込み、ぱっと何か閃いたような表情をする。
「そうだ!ゼフ君と勝負してみたいですね!この年でミリィさんを支える副ギルマスの実力が気になります!」
3人とも大して年変わらんだろう。
「ワシはかまわんがクロード、勝負とは何をするつもりだ?」
「それはもちろん実戦勝負ですよ。武器を取り、互いに雌雄を決するのです」
「えーっ!?危ないよそんなの!」
セイフトプロテクションをかけていればそこそこ心配はないだろうが……
大方ワシみたいなチビが自分より立場が上、というのが気に入らないのだろう。
これでワシに勝っておけば立場上ナンバー2となる。
中々血気盛んなことではないか。
こういう奴は嫌いではないよ。
「おもしろい。どうせなら負けた方が何か一つ言う事を聞く、とかにするか?」
「ありがとうございます。胸を借りるつもりでいかせてもらいます……!」
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