それからワシらは全てのニッパを狩り、レディアの家に戻った。
海辺の洞窟のキングニッパーは何匹もいて、復活時間もバラバラだ。
この空洞のキングニッパーは産卵を終えると消滅し、また一年経つと復活するらしい。
「いやーでもあんまり取れなかったねぇ。海神の涙」
「途中でキングニッパーを倒してしまったからな。」
結局、海神の涙は10個しか手に入らなかった。
合計10000ルピか。
レディアは不満そうだがかなり儲かったな。
折半でも5000ルピだし。
「それじゃ清算と行きますか。はいっ12500ルピ」
そう言ってワシに手を差し出す。
「?」
「海神の涙が10本で10000ルピ。使った魔力回復薬が35本で−35000ルピ。合計−25000ルピを二人で折半して各−12500ルピね」
あ、そうか。
「いや、今手持ちがなくてな……店に預けているアクセサリーが売れたらで良いか?」
「もちろん。今回は残念ながらマイナスになっちゃったけど、また一緒に狩りに行こうね」
そういえばミリィは強いギルドメンバーを探していた。
レディアを誘ってみるのはどうだろうか。
戦力的には申し分ないし、店があるからアイテムの売り買いも可能だ。
バタバタして忘れていたが、レディアにスカウトスコープを念じてみる。
レディア=ランディア
レベル11
「緋」魔導値0 限界値0
「蒼」魔導値0 限界値0
「翠」魔導値0 限界値0
「空」魔導値0 限界値0
「魄」魔導値0 限界値0
魔力値0
うむ、魔力を持たない人間だとこうなるのか。
というかレベル11って……
たしかに体術センス、特に回避センスはレベルとは関係ないので、低レベルのうちからやたらと強い奴はいる。
しかしワシより低いとは……
あれほどの戦いをこんな駆け出しに近いレベルの娘がやっていたとは驚愕である。
是非、前衛としてギルドに欲しい。
そんなことを考えながらレディアの顔見ていると、気づかれてしまった。
「私の顔に何かついてる?」
「いや、ギルドメンバーを探していてな」
あ。
つい言ってしまった。
だが狩りの際、前衛がいると後衛としては安心だ。
先刻のキングニッパー戦、レディアのお陰で負ける気がしなかったし。
もちろんミリィのギルドなので決めるのはミリィだが、誘うだけなら構わないだろう。
「スカウト?うーん嬉しいけど私は店があるからねぇ……考えさせて貰っていいかな?」
「もちろんだ。またアクセサリーが売れた頃に来るから、その時にでも答えを貰うさ。マスターにも許可を取らないといけないしな」
「あっはは、許可とってから誘いなよ。私の事、お気に召さないかもしれないじゃない」
戦闘力は申し分ないし、金銭にも強くワシみたいなガキにもきちんと接するレディア。
お気に召さないはずはない。
「まぁ多分大丈夫だ。結構自由なギルドだから基本的に好き勝手やっててもいいし、居心地は悪くないと思うぞ?」
「わかった。前向きに検討しておくね。預かったアクセサリーは、次の来る時には売れてるだろうから、ゼフ君が来た時にマスターさんと話してから決めようかな」
中々慎重な事だ。
流石商人。
むしろこれが当然なのかもしれない。
ワシは割と誘われるとホイホイついて行ったからな。
そして抜ける時も気分で抜けていた。
「ふあぁ……あ」
「あっはは、大きなあくび。お疲れ様だね」
そう言うレディアもかなり眠そうだ。
笑いながらも目は少し、とろんとしている。
もう深夜だしな。
「それでは夜も遅いし、ワシは帰るとするよ」
「え?今からナナミの街まで帰るの?危ないからやめた方がいいよ」
「テレポートがあるから大丈夫だ」
「真っ暗だし、夜は魔物もよく見えないし、やっぱダメだって。ウチに泊まって行きなよ」
「いや、流石にそれは……」
「いーからいーから!遠慮せずにホラ!はーいお一人様ごあんなーい」
ぐいぐいと背中を押され、レディアの家に連れ込まれる。
まぁ確かにこの暗闇の中帰るのは危険なのだが……
正論なだけに逆らえない。
「汗かいたし、お風呂入るでしょ?」
「……そうさせてもらう」
もう逆らうだけ無駄だろう。
おとなしくいう事を聞く事にする。
レディアの家の風呂は石畳の床に、湯の入った木の桶がどんと置かれたものだ。
風呂とは、一般的に魔道による熱で湯を沸かし、その中に浸かって身体の汚れを落とすというものである。
少しぬるめがだが十分入れる温度だ。
レディアの親父さんが帰ってすぐ入れるように、温めてくれていたのであろう。
小さい桶で体を流し、湯船に浸かる。
「ふはあぁ~~~生き返る……」
今日一日の疲れが湯の中に溶けてゆく。
この風呂というものは、昔この国に流れ着いた異国の者が広めたらしいが、素晴らしい発明だ。
「お湯加減はどーぉ?」
「だ、大丈夫だ。問題ない」
いきなり話しかけられたので驚いた。
よく考えたらここはレディアの家なんだよな。
レディアもかなり汗をかいていた。
早く風呂に入りたいだろうし、もう上がった方がいいだろう。
湯船から上がり、脱衣所の戸を開ける。
「悪いな、先風呂を頂いてしまって」
「あれ?もう出たの?」
そこには上半身裸のレディアがいた。
ポニーテールを解き、長い髪が身体に張り付いている。ギリギリで大事な所は見えていないがそういう問題じゃない。
「いっしょに入ろうと思ったけど逃げられたか」
あっはは、と笑うレディア。
ワシは完全に硬直していた。
硬直しつつもレディアからは目を逸らさないが。
逸らす方が無理だろう。
「じゃ私も入るからー」
そう言って下も脱ぎ、風呂場に入る。
よく考えたらワシの見た目は子どもだし、一緒に入るというのも、冗談ではなかったのかもしれない。
ちっ、惜しい事をした。
その後、ワシは応接間の大きなソファーを借り、そこで眠らせてもらった。
レディアが一緒に寝ないかと誘ってきたが、流石にヤバいと思ったので全力で断った。
あんなものを前にして、理性を保てる自信はない。
疲れた……
子どもの身体というのは夜遅くまで起きれるようにはなっていないらしい。
若い頃はこの時間まで狩りや修行をしている事などそんなに珍しくはなかったのだが。
疲れて眠いハズなのだが、先刻のレディアの裸がチラついてイマイチ寝付けない。
しかしあんな小娘の裸に、ここまで動揺させられるとは……やはり精神が子どもの身体に引っ張られているのだろうか。
目の前に居なくても調子を狂わせられっぱなしだ。
おのれレディアめ。
