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キングニッパー
「よーし、そうと決まれば……」

 そう言うとレディアは袋から大きな斧を取り出した。
 長い柄の先に、大きな刃がついた戦斧、かなり重そうだが、レディアは軽々と振り回し……構える!

「……行っくよーっ!」

 地を蹴るレディアにキングニッパーが攻撃を仕掛けるが、振り下ろされたハサミの一撃をすり抜け、瞬時に肉薄する。

 ーー疾い!

 だが近づきすぎだ。
 キングニッパーは離れた時はハサミでの攻撃しかないが、接近戦では多様な攻撃パターンを誇る。
 レディアが近づくと、ブクブクと口から泡を出してきた。

「レディア!泡を吐いて来るぞ!」

 言うが早いか、キングニッパーは泡を放出してくる。
 この泡は非常に粘着性が高く、当たるとまともに動けなくなるのだ。
 広範囲に散らばる 泡を確認したレディアは、後ろに構えた斧を地面に突き刺し、そこを支点に、バク転の要領で泡を躱す。

 後ろに下がり、バランスを崩したレディアを、ハサミでのなぎ払いが襲う。が、レディアは斧をハサミに当て、そこを支点に一回転して避ける。

 避ける。
 避ける。
 避ける。

 しかも派手に。
 完全に遊んでるな。
 遊び場と言っていたのはまさかこういうことなのだろうか。

 レディアの斧捌きは、力点の操作に重点を置いたものだ。
 重い斧の先端部を上手く使い、不思議な動きで敵を翻弄している。
 昔、都会で見た棒を使った踊り子の動きに似ているな。

 おっと見とれている場合ではない。
 魔力は完全に回復している。

「大地の守りよ、彼の身に纏いて汝を守護する鎧となれ」

「セイフトプロテクション!」

 レディアを大地の守りが覆う。
 あの調子では攻撃など当たらないだろうが念の為だ。
 レディアはこっちを向いて、さんきゅー、と手を振ってきた。
 そのすぐ後ろをキングニッパーのハサミが通り過ぎ、ポニーテールが風圧で揺れる。
 ……なんか今、攻撃を見ずに躱していた気がするが気のせいだろう。

 キングニッパーにスカウトスコープを念じる。

 キングニッパー
 レベル58
 魔力値65824/65824

 かなり魔力値が高いな。
 高いのは問題無いが、四倍レッドゼロは相性が良くないので使えない。
 燃費も悪いしな。
 かと言って他の魔道では……
 まぁ試してみるか。
 マジックアンプを念じながら少し近づく。

「ブラッククラッシュ!」

 旋風がキングニッパーの甲羅を削る、と同時にワシはすぐ後ろに下がった。
 ダメージを受けたキングニッパーは、ワシの方をギロリと睨みつけるが、すぐさまレディアがキングニッパーに攻撃を当て、意識を自分に向ける。
 レディアの奴、相当戦い慣れしているな。

 もう一度スカウトスコープを念じる。

 キングニッパー
 魔力値63458/65824

 約2000か……

 ちなみに二倍ブラッククラッシュはワシの魔力三分の一を消費する。
 それをあと32発か……無理だな。
 それならベルタに来る前に実験した魔道を使ってみるか。

 この間も当然瞑想を行っている。
 ちなみに考え事や会話をしながらの瞑想は地味に難しく、ミリィにはまだ出来ない。

 ある程度回復したし、とりあえずやってみるか。

 タイムスクエアを念じる。
 緩やかになった時間の中で、レッドクラッシュを念じながら、ブラッククラッシュを唱える。
 すぐに時間の流れが戻り、二つの魔道が同時に発現された。
 爆炎と旋風の入り混じった強力な螺旋が、キングニッパーの片足を捉え、巻き込み、ぐちゃぐちゃとへし折っていく。
 ズズン……とバランスを崩し、脚をつくキングニッパー。

「うわっすご……」

 レディアが斧の上に逆立ちで乗り、キングニッパーの泡を避けながら感嘆の声を上げる。
 今、完全に顔がこちらを向いていた。
 前を見ろ、前を。

 タイムスクエア中に同じ魔導を同時詠唱すると威力倍化だが、別種の魔導を同時詠唱した場合、それは全く別の新たなる魔導となる。
 何が起こるかは組み合わせが膨大な為、実験中だ。

 緋と空の組み合わせは攻撃特化。
 同時詠唱した魔導は広範囲、高威力になる傾向が強い。

「火炎旋風……パイロクラッシュとでも名付けておくか」

 しかし一気に魔力を持っていかれた。
 タイムスクエアで中等魔導を二つ同時行使するのはきつい。
 瞑想の前にキングニッパーにスカウトスコープを念じる。

 キングニッパー
 魔力値55280/65824

 約8000か!悪くないダメージだ。
 緋が混じっているのでダメージが落ちるかと思ったがそうでもないらしい。
 固有魔導は、編み出した本人が覚えている様々な系統の魔導が個性として混じり合い、何の系統にも属さない魔導になることも多い。
 この合成魔導も似たようなものなのだろうか。

 とにかく瞑想に入る。
 その間レディアの戦いを見ているが、相変わらず攻撃が当たる気配はない。

「ねーっ」

 ブォン!

「ゼフくーん」

 ドゴォ!

「魔力回復薬いるー?」

 ボゴッ!

 こちらを気にする余裕まである。
 ワシが頷くと、レディアは後ろに跳び、魔力回復薬を20個程袋から出す。

「これ、清算の時に引いとくから」
「わかった」

 流石商人、こういうところはしっかりしている。
 ごくごくと数本の魔力回復薬を飲む。
 よし、魔力も回復したな。

 近づきながらタイムスクエアを念じる。
 レッドクラッシュとブラッククラッシュを同時行使。

「パイロクラッシュ!」

 パイロクラッシュがキングニッパーの脚をまたまた粉砕する。
 凄まじい威力だ。
 どう見ても数値以上のダメージが出ているように感じる。
 あと47000。
 ごくごくと魔力回復薬のビンを空けていく。

 ~中略~

 ……何度か同じ事を繰り返し、ワシらはキングニッパーを撃破した。
 かなり時間がかかったな。
 レベルも上がったように感じる。

「いやぁタフだったねぇ」

 レディアも流石に疲れたようだ。
 息も切れ、服も汗でびっしょりになり、白いシャツの下に肌色が透けて見える。

「でも魔道ってやっぱすごいな~私が殴っても全然平気だったのに」
「キングニッパーは魔道で倒す魔物だからな。それにレディアが居ていてくれたから楽に勝てた。すごい動きだな」
「い、いやだな~それ程でもあるけど……でもこんなのお父さんに比べたら全然だよ!」

 謙遜なのか自慢なのか。
 ていうか親父さんあれよりすごいかよ。

「それじゃまたニッパ狩り再開しましょうか」

 そしてあれだけ動いてまだ狩るのか。
 恐ろしい体力だ。
 商魂逞しいとはよく言ったものだな。


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