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レディア●
 ーー死者の王との戦いから一週間。

 ワシとミリィは毎日のように、朽ち果てた教会でためこみ狩りをしていた。
 狩場のゾンビをかき集め、ただひたすらホワイトボールを撃ち込んでいる。
 ボスは強力な力を持つが故に、復活にはかなりの月日がかかる。
 しばらくは邪魔者無しでためこみ狩りができるというものだ。

 ……しかし。

「ねーゼフーぅ。もう飽きたーっ」

 ミリィはこの狩りがお気に召さないらしい。
 突っ立ってひたすらホワイトボールを撃つだけの簡単な作業だからな。

「もうレベルも上がらないしさぁー他の狩場に行って見ない?」

 恐らく現状では最高効率を誇るであろう、ゾンビのためこみ狩りだが、死者の王というアクシデントがなくなり、緊張感の全くない狩りは、流石のワシでも眠気を誘う。
 少し放って置くとすぐ寝てしまうようなミリィには、さぞかし退屈であろう。
 そしてワシのレベルも25を超え、殆ど上がらなくなってきた。

「確かに、どこか違う狩場を探したいところだな」
「でしょーっ?何処かいい所ないかなぁ」

 甘えるように唸るミリィ。
 まぁそろそろ死者の王が復活する頃だ。
 他の狩場に行くのも悪くない。

「ではしばらくは二手に別れよう。ミリィは新しい狩場を開拓してくれ。ワシは金を稼いで来る」
「へ……?」
「別に探すだけなら一人の方が効率的だろう?それに新たな狩場に行くにはこの装備では心許ない。アクセサリーを売りに露店をしに行こうと思ってたしな」
「そ、そーだけど……あの……その……」
「安心しろ、銀水晶のロッドは手放さんよ」
「……っちが……っもういいわよっ!わかったわよっ!私だけでもすごい狩場を見つけてやるんだからっ!」

 そう言ってミリィはテレポートで飛び去って行った。

 やれやれ。
 ミリィは少し寂しがり屋なところがあるな。
 ある程度は一人で行動させて、自立を促した方がいいだろう。
 この辺りの狩場は大体知っているが、一人で良い狩場を探すのは、ミリィにとっても良い修行になるはずだ。

  ーーそして数日後、ワシは商業都市ベルタに足を運んでいた。

 目的は露店でアイテムを売り、所持金を増やすこと。
 増やした金で使えそうな安いアイテムがあったら購入する事。
 時間があったらレディアの店を冷やかす事。
 以上が目的だ。

 というわけでまずは露店広場に足を運ぶ。
 金がなければ話にならないからな。
 露店広場は休日しか開かれていないし。
 いつものワシ用露店スペースが見えてきたので、背負った荷物を肩から降ろしながら、十字路を曲がろうとすると……

「きゃあああああ!?」

 側面から突進してきた少女と、思い切りぶち当たる。
 柔らかな感触に跳ね飛ばされ、ワシの荷物は宙を舞った。
 ワシの方は何とかバランスをとり、踏みとどまったが、ワシにぶつかって来た少女は尻餅をついている。

「いったたた……」

 大丈夫か?と手を差し出そうとした時、気づく。
 ……ん?どこかで見た様な……

 白いシャツを素肌の上から大きな胸の前で括った、青い髪のポニーテールの少女。
 尻餅をついて、ホットパンツの隙間から白い布地をちらり、と覗かせている。
 そして道に投げ出された花柄のカート。

「……レディアか!」

「あれ、キミは確か……ん、と……名前聞いてないよね?」

 そういえば言ってない。

「ゼフだ。ゼフ=アインシュタイン、余所見をしながら歩いていた。すまない」
「あぁ、だよねぇ。私一度見た顔と聞いた名前は絶対忘れないから」

 こんこん、とゴーグルをつつきながら、あっはは、と笑うレディア。
 彼女はふと、何か思いついたように、バッと股間を隠す。

「……見た?」
「ちらっとな」
「あっはは、見えるワケないじゃん!私ホットパンツだよ?ゼフ君、意外とノリがいいねぇ」

 いや、普通に見えてたんだが……まぁいいや。

「ってうわっ、カバンの中身散らばってるじゃない!大変、拾うの手伝うよ!」

 そう言うとレディアは、ひょいひょいと地面に散らばった、ワシのアクセサリーを拾い集めていく。
 拾うのがやたら早い。
 流石は商人である。
 商人と言えばレディアのカートは全くの無事だ。
 先刻、激突の瞬間にレディアは身を呈してカートを庇っていた。

 荷物を撒き散らし、自分は無事だったワシ。
 自分は尻餅をつき、荷物を守ったレディア。

 商人としてのプロ根性は流石と言った所か。

 ワシと一緒にカバンの中身を全て拾い上げ、ふぅ、と一息つくレディア。
 うーむしかしレディアは背が高い。
 話す時、どうしても見上げる形になってしまうな。
 まぁいいけど。

「すまないなレディア、ところで急いでいたようだが、何か用だったのではないか?」
「あーあっちの店前で、体力回復薬の特売露店をやってたんだけどねぇ、有名な錬金術師の露店なんだけど、人気あるからすぐ売り切れちゃうのよ。だからもう間に合わないし、気にしないで」
「そうか。では気にしない事にする。ありがとう」

 きょとんとした目でこちらを見て、あっはは、と笑う。

「いやー本当正直だねゼフ君は。商人やってると腹の探り合いばっかりだから、キミみたいなバカのつく正直者は嫌いじゃないよ」

 ……あまり褒められた感じがしない……
 複雑な表情のワシにレディアは続ける。

「ゼフ君ってベルタの人間じゃないよね。今日は何しに来たの?もしかして私に会いに来てくれたとか?」

 うーむ……
 三分の一は当たっているからな。
 否定できん……

「まぁ一応はな。世話にもなったし」

 照れ臭いが正直に答えておく。
 金を稼ぐなら、商人であるレディアとは仲良くしておいた方が効率的だし。

「本当?嬉しいなぁ〜サービスしたの、わかってくれたんだね。ゼフ君はまた露店?」
「あぁそうだ、所持金が心許なくてな。アイテムはあるが換金に一苦労なんだよ。実家はナナミの街なんだが、あそこは露店広場がないからな」
「ほうほう、お金に困ってるのね?……だったらおねえさんのウチに来ない?」
「レディアのか?」
「そ、お金の相談なら任せなさい。いい方法があるから」

 そう言うとレディアは、その大きく育った膨らみを組んだ腕で挟み上げ、妖艶な笑みを浮かべる。

「おねえさんがイイコト教えてあげる♪」

挿絵(By みてみん)


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