「やった!やった!やった!」
ミリィがワシに飛びつき、ぴょんぴょんと跳ねる。
興奮しているな。
まぁワシも初めてボスを倒した時は、討伐パーティの皆で一晩飲み明かしたモノだ。
ーーさて
ミリィを引き剥がし、死者の王の元へゆく。
おっ。
死者の王が消滅したその跡にキラリと光るモノが見える。
ロッドだ
「蛇骨のロッドか」
ボスはそこそこの確率でレアアイテムを落とす。
蛇骨のロッドはレディアに売った(というか交換した)リングの倍近い価値がある。
運がよかった。
「わ!蛇骨のロッドだ!」
ワシが拾い上げた蛇骨のロッドを見て、ミリィが嬉しそうな声を上げる。
「どうするの?それ?」
「売る。ミリィは銀水晶のロッドを持っているし、ワシも二本も同じモノはいらないしな」
袋を取り出し、蛇骨のロッドをしまおうとすると、ミリィがワシの手を止める。
「私、それ欲しい!」
言うと思った。
だってさっきからすごいキラキラした目でこれ見てたし。
「ミリィの銀水晶は結構高い奴だろう。蛇骨より魔力補正は高いし、乗り換える意味あるのか?」
といいつつも理由はわかっている。
ワシと同じものが欲しいのだろう。
「い……いいでしょ!何でもっ!銀水晶のロッドと交換でいいから!」
「……わかったよ」
そう言って蛇骨のロッドを手渡す。
両手で受け取ったミリィはそれを大事そうに抱きかかえ、へへへ、とだらしない笑みを浮かべる。
「………りがと」
「あまり装備に執着するなよ?銀水晶のロッドはワシが持っておく。欲しい時には返すからな」
「~♪」
……聞いてないし。
まぁいいや。
孫におもちゃを買ってあげるジジイはこんな心境なのだろうか。
ワシは孫どころか子供もいなかったが、中々に悪くない気分だ。
ご機嫌なミリィの頭をごしごしと撫でてやると、えへへ、と笑った。
ーーさて清算だが。
魔力回復薬(大)を9個使用。1ビンにつき1000ルピの魔力回復薬を5本使っているから45000ルピか……
このレベルにしてはまぁ安く済んだ方か……というか残り1本しかなかったんだよな。
ギリギリの戦いだった。
蛇骨のロッドもミリィにあげたしプラスは0だ。
合計-45000ルピ
死者の王は、ワシが昔書いた対ボス攻略本では下位に属する。
ペア、トリオなら倒すのはたやすい。
さっきのように逃げ撃ちに徹すれば、三分の一の下位ボスは労せず倒せるだろう。
というか思った以上にタイムスクエアは応用が利くな。
四倍レッドゼロの威力はヤバい。
このレベルであそこまでの火力が出るなら、レベル90とかになったら下位ボスは一撃なのではないか。
まぁ属性相性とかコストがかかりすぎるとか、色々問題はあるが。
先が楽しみである。
ワシは成長した自身の強さを想像し、ニヤニヤと不気味に笑う。
その横でミリィも蛇骨のロッドを抱え、ニコニコ笑っている。
ニヤニヤニコニコ
他人が見ればさぞ不思議な光景だったであろう。
しばらくの間そうした後、ワシらは朽ち果てた教会を立ち去った。
ーー帰途
なんとなくテレポートで帰る気分にならず、ゆっくり歩きながら二人で先刻の戦闘を語り合っていた。
「でもすごいよ!ゼフの固有魔導!あれがあれば無敵じゃない?」
「消耗も激しいし無敵とまではな……だが自分で言うのもなんだが使い勝手の良い魔導だよ」
ククク、と笑うワシにミリィはさらにつっこんでくる。
「タイムスクエア……だっけ?その魔導、私も使えないかな?」
ん~聞いてくると思ったが……
「残念ながらタイムスクエアはミリィには……というかワシ以外他の誰にも扱えんだろうな。タイムスクエアは時間をほんの一瞬だけ停止させる固有魔導。固有魔導はスクロール化の際、かなり弱体化されてしまうが、タイムスクエアには劣化させるほどの代がないのだよ、仮にスクロール化した場合には、おそらく行使しても、何も起きないくらい弱体化しているだろうな。」
そもそもスクロール化作業するほど暇じゃないし
「自分でタイムスクエアを編み出すしかないって事?」
「固有魔導は編み出した本人の強い意志、嗜好が重要になってくる。タイムスクエアはワシの時間に対する強い執着が生み出した固有魔導だ。ミリィが編み出そうにも、性格や生まれ持った魔力の相性が合わなければ、覚える事自体が不可能かもしれない」
理解してるのか理解してないのか。
ふーん、とうなずくミリィに続ける。
「固有魔導を編み出すのは、本人との相性が良くても数年単位での修業が必要となる。他人の真似ではなく、自分の本当に望むものを覚えた方がいいだろう。というかミリィに固有魔導はまだまだ早い。もっと成長してからだな」
ごしごしとミリィの頭を撫でる。
「む~~また年下扱いして……ん?ていうかゼフって何歳?」
ぎくり
「どう見ても私と同じ位よね?私が今12歳でしょ?……そんでゼフが数年修行してタイムスクエアを編み出したとして……何歳で魔導を覚えたの?」
「……さて、遅くならぬ内に帰らねば母さんが心配してしまうな……」
そう言うとテレポートでミリィから逃げ出す。
「あーっ!こらーっ待ちなさーーーーい!」
いらない事を言ってしまったせいで、ナナミの街まで追いかけっこする羽目になった。
まぁしかし、ミリィも完全に復活したようだ。
前の明るい顔に戻ったし。
当面の目標としては金を稼がねばならない。
金があれば高価な装備も買える。
回復剤も使い放題。
幸いまだアクセサリーは何個か残っている。
また露店を出しに行かねばならないか。
鍛冶屋の少女……レディアだったか?優秀な商人といった感じだった。
餅は餅屋。
金は商人。
彼女に会いに行くのも悪くないだろう。
また商業都市ベルタに行ってみるか。
そうこう考えている内にナナミの街に着いた。
直でワシの家までテレポートする。
流石に家までは追いかけてこないだろう。
「ただいま」
「あらおかえり、ミリィちゃんも」
ミリィちゃん……だと……
振り向くと後ろにはぜーはー言いながら、勝った!という顔をしているミリィ。
「よかったらお夕飯食べていく?」
「はいっ!いただいていきまーす!」
おいやめろばか!
三人で早めの夕飯を食べた後、ワシは部屋に押しかけてきたミリィに夜遅くまで質問攻めにされたのであった……
