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死者の王、前編
 ーー翌日、再び朽ち果てた教会

 ワシとミリィはまたここを訪れた。
 目的は当然死者の王を狩る事である。
 ミリィは少し足が震えている。

 ミリィ=レイアード
 レベル27
「緋」魔導値23 限界値94
「蒼」魔導値32 限界値98
「翠」魔導値19 限界値92
「空」魔導値12 限界値96
「魄」魔導値17 限界値85

 魔力値985/985

 ワシより単純な魔力値は上だが、心身ともに不安定な状態にある。
 スカウトスコープからはわからないが、ワシレベルになるとミリィの纏う魔力から不安と恐怖が伝わってくるのだ。
 心の乱れは体内に構築された魔力線を乱し、正常な魔力の流れを阻害する。
 やはり今のミリィにはアタッカーは無理だな。

「作戦通り行く。ワシがアタッカーでミリィがサポートだ」
「わ、わかった……!」

 おずおずと返事をするミリィの背をバン、と叩く。

「ひゃあ!?」
「しっかりしろ。最強のギルドのマスターなのだろう?」

 若いもんは何かにつけて心が揺らいでしまうものだ。
 そういう時、ハッパをかけるのはいつもワシの仕事だった。

「えーと、たしか”白翼の天馬”とかだったか?」
「…………」

 沈黙が流れる。
 あれ?外した?
 もしかしてワシの冗談、理解して貰えなかったのだろうか。

「ゼフ、私たちのギルド名”蒼穹の狩人”だから」

 どうやらマジに捉えた様だ。
 目が座っている。
 おいおい怒ってるんじゃないだろうな。
 ミリィはずいっとワシに近づき、背中をバン、と叩く。

「行きましょ」

 そう言って前を歩き始めるミリィに、ワシもやれやれ、と言いながらついて行く。

「……りがと」

 何か言ったか?と言おうとすると、ミリィはテレポートで飛んだ。
 二手に別れ、ボスを探すために。
 ワシも行くか……

 先ずは索敵。
 死者の王が誰かに倒されていればいない事も考えられる。
 そうすれば出直しだ。

 テレポート、テレポート、テレポート……

 あ、ゾンビの塊だ。

 ホワイトボールを念じるとゾンビの塊は全て消滅する。
 死者の王はいない。
 ハズレか。

 またテレポートで飛び始める。
 テレポート、テレポート、テレポート……

(いたわ!)

 ミリィがギルドメッセージで話しかけて来た。
 ギルドのメンバーは円環の水晶の力で強い繋がりを得ており、そこまで遠くない距離ならば、念じる事でギルドメンバー同士、会話をする事が出来る。

(マップ”9”の位置、墓地の真ん中辺りにいる!)
(わかった、すぐ行く)

 そう言うとすぐにテレポートで目的の場所に飛んだ。


「ミリィ」
「遅いわよ!」

 ゾンビの塊の中心、赤いマントを羽織り、悠然と歩く死者の王。

 距離は15ゼイルは離れている。
 まず見つかる心配はない距離だ。
 ミリィがまだビビっている証でもある。
 こればかりは仕方ないか。

 瞑想を行う。
 精神を集中させると、みるみるうちに魔力が研ぎ澄まされてゆく。
 百戦錬磨を誇るワシの魔力の「質」、その鋭さを肌で感じとったのか、ミリィがごくり、と息を飲む。

 くくく、昂ってきたな。
 ボス狩りは久しぶりだがこの緊迫感、やはり悪くない。

「手筈通り行くぞ」
「わ、わかったわ!」

 タイムスクエア!中に……マジックアンプをダブルで使用!そして……!

「緋の魔導の神よ、その魔導の教えと求道の極地、達せし我に力を与えよ。紅の刃紡ぎて共に敵を滅ぼさん!!」

「レッドゼロ!!」

 緋系統単体最強大魔導『レッドゼロ』

 ほんの僅かな魔力のみを残し、全ての魔力を消費して発現する大魔道である。
 威力は最大魔力量に応じて上がっていく、燃費は悪いが「一発の威力」だけなら最強の魔導だ。
 マジックアンプの「魔力の消費が増える」というデメリットを消せるため、マジックアンプとレッドゼロの相性は最高によい。

 四倍に増幅された紅い刃がワシの手から伸び、死者の王を貫き、焼き続ける。
 死者の王は苦しそうにうめき声をあげている。
 四倍の、しかも弱点である緋系統の大魔導は流石に効果があるようだ。

 が

 刃をへし折り、死者の王はワシに向かって突撃してくる。

「ミリィ!」
「わかってる!」

 ミリィはワシを掴むと、テレポートで死者の王から5ゼイル下がる。
 ギリギリで死者の王の視界内、ワシらがテレポートで飛んだ後も死者の王は追い続けてくる。
 それを躱し、何度もテレポートで逃げ続けるミリィ。
 その間にワシは袋から魔力回復薬を取り出しごくごくと飲み干し、同時に瞑想に入る。
 魔力が回復してゆくのを感じる……!
 魔力回復薬の回復量は、戦闘前にスカウトスコープで試したが100前後であった。
 だからワシは魔力回復薬を汲み足し、大きなビンに入れ、一飲みで魔力を全快近くまで回復できるよう、調合したのだ。
 名付けて魔力回復薬(大)!

「すご……!今ので15000も削れてる!」

 ミリィがスカウトスコープを死者の王に使用したようだ。

 実験中ふと、スカウトスコープを敵に使うとどうなるか試したところ、やはり魔力値が出てきた。
 試しに攻撃してみると魔力値が減少し、0になると消滅することが分かったのである。

「死者の王の魔力値はあと78000……6発で倒せるよ!ゼフ!」

 死者の王は自己再生持ちだが、これなら十分削りきれる数値である。
 それにこうしてワシらを追ってきているうちは自己再生は使用してこない。
 過去のボス狩りの経験でそれは知っている。
 だからミリィには付かず離れず、テレポートで逃げ回ってもらっているのだ。
 そして隙あらば、スカウトスコープで敵の様子も探ってもらうよう指示もしている。

 これを「逃げ撃ち」といい、攻撃力の高い相手と戦う際、魔導師がよく使う戦法の一つである。
 魔力効率はよくないが、ミスさえしなければ強大な敵をも無傷で倒すことが出来るのだ。

「……回復した。もう一度撃つから大きく距離を取ってくれ」
「りょーかい♪」

 ミリィの調子も戻ってきた。

 タイムスクエア……マジックアンプダブル……「緋の魔導の神よ…………」

「レッドゼロ!!」

 二度目のレッドゼロ。
 ワシの手から伸びた紅い刃が再び死者の王を突き刺さる。
 炎が体中から吹き出し、腕が落ち、マントが千切れ、それでも死者の王はその速度を落とすことなく、ワシらを追い続けていた。




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