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タイムスクエア
「私は武器屋をやってるレディアっていうの。
っていっても今のメイン稼ぎは露店商人だけどね。駆け出しだから武器を叩ける程の腕もお金もないのよ」
「そうか……相場か……」

 考え込むワシにレディアは構わず話しかけて来る。

「あ、相場って言ってもわかんないかな。相場っていうのはね……」
「知っている。現在の市場での適正価格だろう」

 あら詳しいね、と驚いた表情を見せるレディア。

「それにワシらは使いで来たわけではない。これでも冒険者の端くれだ」

 非正規だけど

「へえ、この年齢で?すごいじゃない」

 フレンドリーに話しかけてはいるが、このレディアとか言う女、ワシを狙っているな……
 相場を知らないワシから安く買い叩こうとしているのだろう。
 だが時間がない。
 少しだけなら買い叩かれてやるのも悪くないかもしれん。

「レディア、ワシは回りくどいのは苦手だ。少しならカモって構わん。魔力回復のアイテムと、魄の魔導を行使する為の高級媒体を持っていないか?大量にだ。あとそれを入れる袋が欲しい」

 袋とは大量のアイテムを収納できる魔法の袋だ。魔導師協会の偉大な発明の一つで、冒険者必須アイテムの一つでもある。

「あっはは。カモっていい、か。キミ面白い事いうね。」
「急いでいるのでな」
「交渉下手ねぇ。そんな事言ってたら足元見られちゃうよ?」
「だから少々カモられても構わん」
「正直だねぇ……キミみたいなの珍しいよ」

 そういいながらレディアは立ち上がり、カートの中をごそごそ漁り始めた。

「魔力回復薬はそこそこあるけど袋は今在庫が少なくてねぇ……」

 ふーむと考え込み、ワシの顔と寝ているミリィを交互に品定めしている様だ。
 ちっ、カモるなら出来るだけ控えめに頼むぞ。

「このリングとなら袋と魔力回復薬、高級媒体を各50個セットで交換してもいいかな?」

 リングか、腕力強化系のアクセサリーだ。
 高価ではあるが、袋と魔力回復薬、高級媒体50個づつなら悪い交換ではない。
 魔導士のワシらには必要ないしな。

「それでオーケイだ」
「交渉成立ね」

 カートから袋と回復薬、媒体を取り出し、袋に50個詰める。
 うむ、確かに。
 ワシの方もリングをレディアに渡す。

「ありがとう、助かったよ」
「カモられたかもしれないよ?」

 にやり、と笑うレディアに少々構わんさ、と答える。
 レディアは毒気を抜かれた様な顔をして、握手を求めて来た。

「こっちこそ、良い交渉だったわ。これ名刺、私の武器屋の場所書いてあるから、今度遊びに来てね」
「あぁ」

 そう言ってワシはレディアの手を握り返した。

 ガラガラとカートを引きながらレディアは去って行った。
 ワシも店じまいするか。
 アクセサリーは次来た時に売ればいいだろう。
 ミリィを起こすと何故か不機嫌そうな顔をしていた。
 朝の事といい、寝起きが弱いタイプなのだろう。



 帰り際に相場を把握する為、軽く露店を見て回ったが今の相場は未来の相場に比べ、全体的にかなり安めであった。

 そして先ほどの交渉、悪くないどころかレディアの方がむしろ少し損をしている位のもので、逆にこちらが悪い気になった。
 思えば店の場所を教えてくれていたし、宣伝のつもりもあったのかもしれない。
 商店街の外れか、今度行ってみてもいいか。

 全ての目的を果たすと日は暮れ始め、夕方になりつつあった。
 そろそろ帰らねば真っ暗になってしまう。

「帰るぞ、ミリィ」

 そう言って振り返ると、店のショーウインドウに並んでいる人形の前で張り付いていた。
 本当に子供だな……
 ため息をつきながらミリィの手を引っ張り、街の外まで歩いて行く。
 今度は一人で来よう……そう誓いながらテレポートを念じるのであった。



 ーー帰途、ナナミの街まであと少しと言ったところだろうか。
 視界にブルーゼルが映った。

 ふむ、少し試すか……

 ワシがテレポートを止めるとミリィも一緒に止まる。

「どうしたの?ゼフ」
「あぁちょっとした実験だ。先に帰ってもいいぞ?」
「そんな事言われたら気になるじゃん、私も見たいわ!」
「勝手にしろ」

 実験と言うのは、死者の王相手に使う「とある魔導」を使用する際、魔力が足りるのかという実験だ。
 これは時間遡行を覚える前、その実験段階で編み出したワシの固有魔導。
 いやこれを進化させたのが時間遡行と言うべきか。

 時間遡行自体、完全に成長しきったワシの全魔力を使っても完全にはなし得ない程、莫大な魔力を消費する。

 これを今のワシに使えるかどうかは怪しいが、使えるならボス狩りの成功率は飛躍的に高まる。

 瞑想を行い、魔力が全快になり、ブルーゼルを対象に念じる。

 タイムスクエア!
 そして……
「「レッドブラスター」」

 赫い線がブルーゼルに伸び、貫く。
 がそれだけでは終わらない。十重二十重に線は伸び、その全てがブルーゼルを消滅させんが為、貫き続ける。

 一瞬にしてチリも残さずブルーゼルを消滅し尽くした赫い線はワシの手から離れ、宙に散る。
 残ったのは一筋の煙だけであった。

「す……すごいじゃない!ゼフ!何それ!?どうやったの!?」
「……」

「こんな魔導を隠してたなんて、憎いねーっこのこのぉ!」
「……」

「……ゼフ?」

どさり。
 ワシは魔力を極限まで使い果たし、盛大にぶっ倒れた。

「ゼフーーっ!?」

 倒れたワシにミリィが駆け寄って来た。

 意識が遠くなっていく……
 うむ、タイムスクエア自体、ワシがジジイ(レベル99)になってから編み出した固有魔導だからな。
 その時でもかなり魔力の消耗を感じた。
 もう少し成長せねばまともには使えぬな。
 ミリィが帰っていなくてよかったと言ったところか。

 


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