ーー商業都市ベルタ
国内有数の貿易都市で、巨大な港には全国から様々な商品が集められる。
ナナミの街から一番近い大きな街だ。
近いと言ってもテレポートで休憩を挟みながら一時間はかかるが。
休日、ワシとミリィは早起きしてこの街に来たのだ。
ミリィの奴、何度呼んでも起きないので開錠の魔導を使う羽目になった。
盗賊の魔導師から命を助ける代わりに教えてもらった固有魔導だが、まさかこんな事に使う事になるとはな。(盗賊連中で使いまわすため、スクロール化されていたらしい。とんでもない話だ)
ミリィは寝起きを見られると、真っ赤になって怒っていたが、起きない方が悪い。
街に入ると道行く先に人々人。
歩くだけでも一苦労だ。
ミリィは早くもワシを見失って、明後日の方向に行こうとしている。
ええい、世話の焼ける奴だ。
がし、とミリィの手を捕み、手を引いていく。
「は、離してよ!恥ずかしいじゃない!」
「駄目だ。はぐれたミリィを探す余裕はない」
そう言って強引に引っ張って行く。
観念したのか、ミリィは手を弱々しく握り返して来る。
この街に来た理由は、キャラバンからお礼として頂いたアクセサリーを売り、ボス狩りのための準備を整える為だ。
広い街だ。
売るのも買うのも時間がかかる。
効率的に行動せねばな。
「あれ?ゼフ君にミリィちゃんじゃない」
声の方を見やると、そこには大きな買い物袋を胸に抱えたクレア先生がいた。
長いパンが袋から飛び出している。
どうやら食料の買い出しのようだ。
ナナミの街は何もない所だ。
休日ともなると列車で遊びに行く若者はおおい。
ワシらはテレポートがあるし、金もないしな。
「もしかして、デート?いいなぁ〜」
「ち、違います!買い物にどうしても付き合って欲しいって言うからついて来ただけで……ほら!ゼフったら腕が折れてるし!」
「ホント〜?最近よく一緒にいるじゃない?怪し〜」
まずい、話が長引きそうだ……
クレア先生は完全に絡みモードに入っている。
「あの先生、ワシらちょっと急いでいるので……」
「二人だけで来たの?だめよ、大人と一緒にいかないと!と言うわけで……」
クレア先生が迷子にならないようにね、とワシの手を繋いで少し前を歩き、 ミリィは反対側の折れた方の手を繋いで、ワシの少し後ろを歩く。
ミリィの握る力がさっきより明らかに強い。
ギリギリと握りしめてくる。
おいやめろばか、折れてるんだぞ!
「ねぇ、クレア先生がいたら目的果たせないでしょ?巻こうよ」
小声で話しかけて来る。
その意見には賛成だが手を離して欲しい。
「丁度人ごみだし、紛れて逃げましょ」
「分かった分かった」
そういうとワシは、クレア先生の手を振りほどき、人ごみに紛れる。
大きな買い物袋を持った先生にワシらを追いかけるのは難しい。
「先生ごめんなさーい♪」
こらこら挑発はやめろ、ミリィ。
ミリィはワシの手を取ると、先生と反対側に駆けだす。
「やれやれ二人で愛の逃避行か、若いっていいわねぇ」
ふぅ、と息をつきながらクレア先生は笑い、微笑んでいた。
……何か多大な勘違いが生まれた気がする。
クレア先生から逃げたあと、ワシらはレアアイテムを求めて商人達が集まる、露店広場に来ていた。
商人と、それを売却しようとする冒険者たちがギラギラした目で行きかっている。
いつ来ても恐ろしい場所だ。
ミリィは好奇心の方が強いのか、辺りをキョロキョロ見回しながらついて来る。
そんなだから迷子になるんだぞ。
ミリィの手を引き、目的地までまっすぐ歩くワシの後ろを、蛇行気味にとてとてついてくる。
気分は犬の散歩だ。
十字路を入ってすぐ、街路樹の下。
未来のワシがいつも店を出していた場所に座る。
「ミリィはここに来るのは初めてか?」
「うん、何するの?」
「まぁ見ていろ」
カバンから看板を取り出し、立てる。
看板には昨日のうちにしたためておいた、キャラバンの商人からお礼として頂いたアクセサリーの名前と売値が書いてある。
「ここは露店広場だ。誰でも店を出す事が出来る。値段と商品を並べて、通りがかる人が買ってくれるのを待つんだ」
「……なんかめんどくさそう……」
「本でも読んでろ」
……すぐ寝てしまった。
店番を頼んで目的のブツを探そうと思ったが、流石に放ってはおけない。
のんびり本を読みながら、客が来るのを待つ。
……
…………
………………
売れない。
客が時々チラ見してくるが買ってくれる気配がない。
うーむまずいな。
予定ではこの後買い物の用事もあるのだが。
かと言って捨て値で売るのも……
「君、お父さんの手伝い?えらいねー」
声の方を見ると、大きな幌付きのカートを引いた、背の高い少女がこちらを見ていた。
長い青髪を後ろで括り、白いシャツはその大きな胸元を隠しきれていない。
さらに短いホットパンツからは、すらりとした長い足を惜しみなく晒し出し、全体的に肌色多めの服は道ゆく人の目を惹きつけている。
花柄でペイントされたカートの中は、大量のレアアイテムが整理整頓して入れられており、中にはかなり高価な物もあった。
少女はカートを止め、ワシの前に座り、話しかけてきた。
「でもこの値段じゃ売れないよ?相場を調べて出直した方がいいかな」
相場……
しまった!ワシの知識は何十年も後の物、この時代のアイテムの相場など知る由もない。
「よかったら色々教えてあげよっか?」
にっこりと、人懐っこく微笑む少女の瞳の奥に光る鋭い眼光を、ワシは見逃さなかった。
