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ボス狩り
「は?」
「なーに間抜けな返事してんの。ボス狩りよ、ボス狩り。やってみない?」

 無謀すぎる。
 何を言ってるんだこいつは。

「ワシはまだ死にたくはない」
「私だって死にたくないわよ!」

 逆ギレされてしまった。
 キレたいのはこちらなんだが。

「私がギルドを作ったもう一つの理由がボス狩りなのよ!ソロじゃ倒せないのが悔しくて悔しくて……いつか絶対倒してやるーっ!て作ったのがこのギルドなんだから!」
「二人しかいないが……」
「ゼフが勧誘はやめろって言うんじゃない!」

 そうだが。
 そうなんだが。

「大丈夫!ちゃあ〜んと戦略は考えてある!イケルイケル!」

 ニコニコしながら自信満々で言い切るミリィ。
 確かにペアならボスを狩る手段はいくつかある。
 しかしリスクが高い。このレベルでは死者の王に軽く撫でられただけで死にかねない。
 ボスはレベル80、最低でも70以上の冒険者たちが、パーティを組んで倒すモノなのだ。

「やはり無謀すぎる。やめた方がいい」
「大丈夫!確実に勝てる方法があるから!」

 怪しい商人かおのれは

「まず私がボスに魔導を撃ち込んで、ボスが気づいてこっちに近づく前に、ゼフが私を連れてテレポートする!魔力が尽きたら回復、それを繰り返すの!」
「何回繰り返すつもりか知らんが、死者の王は自己再生を持っている。低火力での逃げ撃ちは非効率的だ。削り切れぬぞ」

「じ、じゃあゼフがグリーングラスで死者の王の動きを封じてる間に魔導を撃ち込みまくるとか……」
「状態異常系の魔導はボスには効かない」

 はぁ〜とため息をつき、ワシは続ける。

「ミリィはボスと戦った事ないのだろう。あれは本当に甘く見ない方がいい。ボス狩り自体はワシもいつかやるつもりだが、今はまだ時ではない。もっとレベルを上げてからの方が効率的だ」
「いつもいつも効率効率……」

「ゼフのばかーーーっ!!」

 そう言ってミリィはテレポートで飛んで行った。
 やれやれ、あいつは短絡的だな。
 ん……あの方角は……

「あのバカまさか……!」

 すぐさまテレポートでミリィを追う。

 ーー死者の王から5ゼイルほどの距離、ミリィは死者の王に狙いを定め、レッドブラスターを撃ち込む。
 ミリィの手のひらから放たれた熱線はゾンビを一撃で消し去り、対象に直撃しつつも攻撃は終わらない。
 熱線は死者の王を焼き続ける。

 ーー緋系統魔導レッドブラスター

 単体用の魔導で最も魔力と攻撃力の変換効率がよく、魔力が続く限り熱線での攻撃が可能だ。

 しかし死者の王は怯まず、ミリィ目がけて突撃して来る。ミリィはレッドブラスターを解除し即座に離脱の姿勢をとる。

「テレポート!」

 すんでのところで攻撃を躱し、気づかれない距離まで下がる。

「ふふん♪どうよコレ、私一人だってボスと戦えるんだから!」

 瞑想を行いながら、死者の王との距離を調節する。レッドブラスターの射程ギリギリ、死者の王に気づかれない距離……

 そしてまたレッドブラスターを死者の王に撃ち込む。
 寄って来られたらテレポート。
 それを3,4回繰り返しただろうか……

 ほんの僅かな時間でミリィは顔に疲労を浮かべ、憔悴していた。
 汗びっしょりで息も荒い。
 僅かなタイミングのズレで死に至る戦い。
 緊張と焦りから精神は削られ、瞑想や魔導を上手く行えない。

 死者の王は全く堪えている様子はない。
 このまま続けても効果はないだろう。
 理解はしている。

「でもここまで来て……!」

 ふらつく体で、距離を測る。
 目が霞む。足がふらつく。

 そして

 目測を誤り、死者の王の視界内に入ってしまう。
 当然、即座にミリィをその眼孔に捉え、突撃して来る死者の王。
 ミリィは靄のかかった頭で自らのミスに気づき、テレポートで逃げようとするが、集中出来ていないため、上手く発動できない。

 死者の王が錫杖を振り上げ、ミリィの脳天を叩き割ろうとする次の瞬間、

 テレポートで飛んで来たワシは、ギリギリでミリィの前に立ちふさがり、錫杖を左腕で受ける。
 みしみしと腕がへし折れる感触。
 地面に叩きつけられ、バウンドした身体はミリィと共に後ろにぶっ飛ばされる。

 気が遠くなりそうな一撃、しかしまだ意識を切る訳にはいかない。
 ミリィの腕を掴み、テレポートで離脱する。

 獲物を逃した死者の王はカラカラとはその歯を鳴らし、またフラフラ徘徊し始めた。

 --ミリィの家

「馬鹿者!!だから戦うなと言っただろうが!ワシが間に合わなかったら確実に死んでいたぞ!!」

 涙でぐしょぐしょな顔のミリィを叱り飛ばす。
 ミリィは部屋に帰ってからずっと泣きながら謝っている。

 先刻、ワシは自分にセイフトプロテクションをかけていた。
 詠唱は長く、戦闘中に使える魔導ではないが、一度だけ相手の攻撃を九割カットする防御用の魔導だ。
 それでも腕が砕ける威力。
 ミリィもボスの恐ろしさがよくわかっただろう。

「ボスの恐ろしさ、わかってくれたか?」
「うん……もう私、ワガママ言わないから……ごめんなさい、ゼフ……」

 ……トラウマになったかもしれない。
 ミリィは将来的に使える人材。
 ボス狩りを目的の一つとしているワシにとって、それをトラウマにされてしまうのは非常に困る。

 早めに払拭させねば根は深くなり、回復にも時間がかかる。
 くそ……面倒事ばかりだ……
 非効率的なのに……
 それにワシの腕をへし折ってくれたんだよな。
 くそ、だんだん腹が立ってきたぞ……
 死者の王め。

「ミリィ」
「はい?」

 何故か敬語になっている。
 ダメージは大きいようだ。
 やはりやるしかあるまい。

「一週間後だ。準備をし、計画を立て、死者の王を倒す」

「ワシら二人で倒すんだ」

 キョトンとした顔のミリィに、ニッとイケメンスマイルで笑いかけた。


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