ためこみ
ワシの鍛えるべき魔導は当然攻撃用の魔導だけではない。
まず「マジックアンプ」
次に行使する魔導の消費と威力を二倍にする魔導である。
今まで一撃で落とせる魔物ばかり相手にしていた為、使う機会のなかった魔導だが、これも鍛えて行かねばならない。
そして「スカウトスコープ」
ミリィの家でスカウトスコープのスクロールを見たとき気づいたが、スカウトスコープというのはもっと広く使えるようだ。
まず魔導のレベル。
ワシのレッドボールは現在レベル16、これを目安にする事で、修行もさらに効率的に行える。
そしてもっと重要なのが……
ミリィの方を見て、スカウトスコープを念じる。
ミリィ=レイアード
レベル25
「緋」魔導値22 限界値94
「蒼」魔導値32 限界値98
「翠」魔導値19 限界値92
「空」魔導値12 限界値96
「魄」魔導値15 限界値85
ミリィは蒼系統の魔道を中心にバランス良く鍛えている。
特に青系大魔導、ブルーゲイルがお気に入りの様だ。
蒼系統の魔導は攻撃、回復、補助とバランスがよく、ソロ嗜好の強い魔導師はこれを優先的に鍛える場合が多い。
とまぁこんな具合に他人のレベル、所持している魔導とそのレベル、名前を覗けるというものだ。
これはマジでやばい。
魔導師同士の戦いで、得意な魔導を覗かれる事は、思考の傾向を知られるという事でそれはすなわち死に直結する。
スカウトスコープのレベルが上がれば覗ける種類も増えるのであろう。
プライバシーなどあったものではない。
というかミリィのヤツ、才能値高いな。
やはり天才……
おそらく持ち込まれたスカウトスコープは魔導師協会に弱体化され、スクロール化したのであろう。
こんなモノが広がると確実に世界に大混乱を引き起こすからな。
ワシとしてもこんな便利な魔導は世に広がって欲しくはないのだが、残念ながらスクロールを協会に持ち込むかどうか、決定権はミリィにある。
こればっかりはどうしようもない。
先んじて知った事をアドバンテージにしよう。どうせいつかは広まるのだ。
この二つの魔導は授業中にも修行出来る数少ない魔導であるからして、最近ワシは授業中ずっとマジックアンプとスカウトスコープを交互に念じている。
白い目を向けてくるミリィ。
当然無視だ。
お、スカウトスコープのレベルが上がった。
ーー放課後
「ゼフ、行こ!」
「あぁ」
短く会話を交わし、ワシとミリィは教室を出る。クラスメイトがワシらを見て何やらひそひそ言っているが二人共全く気にしない。
ミリィは最初の内は皆から話しかけられていたが、やはりどうも話が合わないのか、一月もすると話しかける者は殆どいなくなっていた。
魔導師とただの子供ではやはり価値観が違いすぎるのだろう。
魔導を子供の内に教えないのはそういうのもあるのかもしれない。
屋上に着くと遠くの岩を目印にテレポートを念じる。
テレポートは高い所から使った方が距離が稼げて効率がよい。
そこからさらにテレポート
テレポート、テレポート……
たどり着いた先は朽ち果てた教会
ここが今のワシらのメイン狩場となっていた。
「じゃ、いつもの所で落ち合いましょ!」
「わかった。ではまたな」
教会の入り口で反対方向に分かれる。
そしてゾンビ達を引き連れゾロゾロと歩いてゆく。
これだけいると何匹か列車から離れるゾンビもいる。
「グリーングラス!」
地面に魔力の蔦を生成する魔導だ。
短時間だが範囲内の敵の足を鈍らせることができる。
ゾンビの塊が足を取られてる間に、散らばったゾンビ数匹を一緒にまとめ、グリーングラスの解けたゾンビの塊を、またズルズルと引っ張ってゆく。
ミリィとの「目的地」まであと5ゼイル位か。
後ろはすごい事になっている。
恐らくゾンビ100匹はいるだろう。
グリーングラスを駆使したとはいえ、ここまでまとめるには苦労した。
遠くでも似たような塊が見える。
ミリィだ。
ミリィの近くまでなんとかゾンビ共を引き連れてゆく。ミリィもワシに向かって近づいて来る。
あと少し、あと少し……
互いにゆっくり寄って行き、ミリィと背中が合わさった瞬間!
「グリーンゲイズ!」
「ブルーゲイル!」
片方の塊は地に飲まれ、もう片方は竜巻に巻き上げられる。
「まぁ合わせて200匹はいるし十分だろう」
「ふふん、私のが多いわね。」
張り合ってどうする。死んでからでは遅いのだぞ。
「いいから早く陣取れ。すぐに復活して来るぞ」
「ハイハイ」
悪態をつきながらミリィもワシも、瞑想を開始する。
ゾンビが数匹、すぐにまた復活してくる。ダンジョン内のゾンビほぼ全てをここに集めているのだ。割と早いサイクルでまとめて復活してくる。
そのゾンビにホワイトボールを撃ち込む。
一撃で全て消し去ると、すぐにまた別のゾンビが地面から湧き出して来る。それをまたホワイトボール……何度か繰り返し、魔力が減ってきた所で、ワシは蛇骨のロッドをミリィに渡し、瞑想に入る。
ミリィもまた、ワシと同じように湧いてきたゾンビにホワイトボールを撃ち込み続ける。
そしてワシに蛇骨のロッドを返し……
交互にゾンビの塊を倒していく、
凄まじい経験値の上昇を感じる。
あ、レベル上がった。
魔物というのはダンジョン内の異物……死体や建築物、岩や水、それらがダンジョンの持つ魔力によって、形を変えたものだ。
倒した魔物はその場でダンジョンの魔力により一定時間で形を取り戻し、また復活するのである。
その性質を利用し、ダンジョン内の魔物を一カ所にまとめて狩る事を「ためこみ」という。非常に効率的な狩りのやり方だが、上手く連携が取れずに決壊したときパーティを危機に追いやる事になるので素人にはお勧め出来ない。
あとダンジョンの持つ魔力は決まっており、ここで魔物が湧き続ける限り、他の狩りをしている人は魔物にありつけない。
ここみたいな穴場じゃないと下手したら因縁をつけられる場合もある。
50サイクルほど続けたであろうか。
ホワイトボールで消し飛ばしたゾンビの塊の中から赤いマントを翻したゾンビがあらわれる。
「やばい!死者の王だ!逃げるぞ!」
「ちょ……まってよゼフ!」
言うが早いかワシはテレポートで離脱する。
少し遅れてミリィも。
「ふぅ……やばかったな」
「あ、あんたね……女の子を一人で置いていくとかどう言う事なの……?」
「触れたら死ぬような敵だぞ。そういう思考は非効率的だ」
ハァハァ言いながらミリィが文句をたれてくる。
二人で戦っても勝てない相手だ。
もたもたしてても、死ぬだけだろう。
お互い一刻でも早く逃げた方が被害が少ない。
「しかしあいつ、邪魔よね……」
しかしどうしようもないだろう。
と言おうとした瞬間、ミリィが何か思いついたように悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ねぇゼフ、あいつ二人で倒してみない?」
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