「スカウトスコープ……!」
そう呟くワシの顔を見てミリィが驚きの表情を浮かべる。
「ま、まさか知ってるの……?」
「い、いや……こんな魔導は知らなかったよ。凄いな、革命的な魔導だ」
「で、でしょーーっ!?よーっし!私の勝ちぃ!」
という事にしておく。
何十年も存在が知られていなかった魔導。
恐らくミリィの家族が編み出した固有魔導であろう。
勘ぐられると厄介な事になりそうだ。
しかもこんな昔からスクロール化までされていたとは。
「お父さんがね。最強の魔導師を目指していたんだけど途中で自分の限界に気づいたんだ。後悔したらしいよ?何でもっと早く気づけなかったんだってさ」
ワシにはその気持ち、よく分かる。
魔導のレベルは後半になるとあまりに上昇が遅く、自覚する事すら難しい。
仕方がないとはいえ、その後悔は測りしれるものではない。
「それがきっかけかな。それから私が生まれて、私には同じ思いをさせたくないからって、お父さんが編み出したのがこのスカウトスコープ」
魔導を生み出す事が出来るのは、強い意思を持つ魔導師だけだ。
まず明確な意思を持って魔導の「イメージ」を創り上げ、それを何年もの年月をかけ、熟成させる。「雛形」がだせるようになると、それを何度も行使しながら、形作ってゆく。
そうしてやっと完成するのが術者オリジナルの魔導、固有魔導と呼ばれるものだ。
ちなみにスクロールは術者が売ってある「白紙のスクロール」に使い方を記した指南書で、誰でも使えるようにレベルを落としたモノ。
当然スクロールで覚えた魔導は術者本人のものとはレベルが違う。
スクロール化にもまた長い月日がかかるが、これを持って協会で売り出して貰えば生涯金に困らない程の富を得る事が出来る。
しかし魔導師というのは変わり者が多く、術者の寿命とともに消えていく固有魔導も多い。
家族の為に編み出し、スクロール化までするとは。
「良い父上なのだな」
「ぜんっぜん!すぐ怒るし、修行修行で全然遊んでもらえなかったし、家の事はやらないしっ!」
「そ、そうか……」
怒ってはいるがどこか嬉しそうな表情だった。
ワシがそれに気づくと少し照れ臭そうに笑う。
「しかしスクロールが公式化されていないという事は、それはミリィのために遺した固有魔導だろう。ワシみたいな赤の他人にホイホイおしえてよいのか?」
「何言ってるの、ゼフは“蒼穹の狩人“副ギルドマスター、全然他人じゃないわ!」
そう言えばそうだったか。
ギルドの事など完全に忘れていた。
ミリィはギルドというものは初めてなのだろう。
一つ忠告しておいてやるか。
「ミリィ、ギルドと言うのはそんな強い繋がりではない。利害が一致して“たまたま一緒にいる他人“位の認識でいた方がいいぞ。ギルド内での殺人や強盗なんかも良くある話なんだからな。」
「私は見る目があるからだいじょーぶ!ゼフはそんな事するヤツじゃない!目を見れば分かる!」
屈託無く笑うのは人間の闇を知らないからか、はたまたそれすら知った上で、なのか。
「……とにかく、あまり固有魔導は見せびらかすモノではない。教える相手は選ぶ事だな」
「はいはい、副ギルマス様の有難い進言、耳にいれておきます!」
もうこの話はやめやめ!と両手をあげてジェスチャーする。
全く困ったヤツだな。
「そんな事よりさっきの賭け、私の勝ちよねぇ」
「あ、あぁ……そういえばそんな話だったかな」
完全に忘れていた。
というか物忘れ激しすぎだろう、ワシ。
老化が止まらん……
ミリィはにた〜〜っと悪戯っぽい笑みを浮かべ、顔を近づける。
「何でも言う事一つ、聞いてもらうからね♪」
くそ、もうどうとでもなれだ。
「んっ……くぅ……はっ……あっ」
「おい、無理するな。汗びっしょりだぞ?」
「だいじょうぶ……だからっ……いっきに……っ……!」
「……わかった。一気に行くぞ」
「「せーの」」
ずごごごご
ギシギシと床を軋ませながら、ベッドを部屋の片隅に一気にぶち込んだ。
「ふぃ〜なんとか終わったねぇ部屋の荷物出し」
「あぁ、汗で気持ち悪い。」
ミリィの頼みで部屋の荷物出しを手伝ったワシは埃まみれの部屋から顔を出し、夕暮れを眺める。
頬を撫でる風が心地よい。
「なぁミリィ」
「ん……?」
「ギルドメンバーを集める件だがしばらく待った方がいい。人数が増えるとマスターの面倒が増えるし、そもそもミリィの眼鏡にかなう同年代のヤツなどそうはおらん」
それにスカウトスコープの存在を世に出すのはまだ早い。
出来ればワシらだけで独占したい魔導だ。
ニィ……と歪めた顔を見せぬ様に外に顔を向け、続ける。
「なぁにワシがいれば百人力よ。ワシはまだレベルは低いがお前の思っている以上に使えるぞ?ミリィの戦闘力もおそらく高いのであろう?しばらくは二人でなんとかなるだろう」
「だからミリィよ」
へんじがない
見るとベッドの上ですぅすぅと寝息を立てていた。
ぐっ……ワシの有難い進言を……
むかついたので、気持ち良さそうに眠っているミリィのほっぺをつんつんしてやった。
