ミリィ
「ここが私たち“蒼穹の狩人“の拠点よ!」
自宅に案内されてしまった……
旅人たちが狩宿を求めて集う、集合住宅地、その一室にギルド“蒼穹の狩人“の拠点……という名のミリィの部屋はあった。
「まぁその辺に座って座って!」
座る所がないんだがこれは……
引っ越して来てそのまま放置しているのだろう。
部屋は大量の荷物が殆ど手つかずで放置されていた。
服や食器など日常品は出しっぱなし、スクロールや、本も読みっぱなし、ワシも片付けなどあまりしない方だがこれはひどい。
仕方ないので荷物の上に腰掛ける。
「あ!そこ私のイスなのに!」
イスじゃないだろ!
座る場所も見つからないので仕方なく立っていると、コーヒーをカップに注ぎ二つ持ってくる。
……立って飲めと……
「それじゃ、まずは自己紹介から始めるべきかしら」
コーヒーを傾ける優雅な仕草が妙な絵になる。ごたごたした部屋の様子とのミスマッチが特に。
さぞ良い教育を受けたのだろう。
「と言っても学校で言ったのでだいたいあってるわ。違うのは両親がいないって事くらいね」
「それは寂しいな」
「もう慣れたから」
コトリ、と荷物の上にカップを置く手が少し寂しそうに見えた。
「でね!私仲間を集めてるのよ!!最強のギルドを作るために!」
「最強……ねぇ」
「最初はいろんな人を勧誘してみたけど、中々真面目に聞いてくれる人がいなくて……やっぱり同年代じゃないと駄目だな〜って思ったんだけど、同年代で使えるヤツっていないのよねぇ」
「そりゃ冒険者の登録が可能なのは16才からだし、ガキで使えるヤツなどそうはおるまい」
「そこでキミの噂を聞いたワケよ!ナナミの街に幼くして魔導を使える天才少年がいるって」
以前教室で魔導を使い、ワザと目立ったのが良い目に出たようだな。
スカウトを動かすのは駆け出しのギルドか、よく戦力が足りなくなるブラックギルドが多い。大手はスカウトなど出さずとも、入りたい冒険者はいくらでも来る。
“蒼穹の狩人“のような新規立ち上げは想定外だったが、人数が少ないのは自由が効くのでそれはそれで悪くない。
こちらとしてもラッキーだった。
ミリィ=レイアード。
頭の方は少し残念だが、纏った魔力から見て戦闘力は確実に高い。
パーティとしての戦力は期待できるハズだ。
利用するだけさせてもらおう。
「ギルド入ってくれてありがとね!ゼフ!断られたら泣いちゃう所だったよ」
泣くなよ!
まぁこの年齢で家族もいない、その上ここまで魔導を使えるようなヤツだ、同年代で話の合う奴もいなかっただろう。
「ふふふ、ところで新規ギルメンには入団記念としてある物を進呈しているのよ」
おもむろに荷物を漁り始めるミリィ。
あれー?どこいったかなー?とか言いながらさらに散らかっていく部屋、エントロピーが増大してゆく。
「あったあった!これよ!」
取り出したるはスクロール、魔導のスクロールを入団記念に与えるギルドは多い。
しかしワシは公式の魔導は全て覚えているので必要ないんだよな。
「悪いが必要ない、恐らくもう覚えている魔導だ」
「そうかな?きっと初めて見る魔導だと思うよ?」
「売っている公式のスクロールは大体読んだからな」
「ヘェ〜?ふぅ〜ん?本当に?そう言い切れる?」
う、うざい……ミリィの誘いに誰も乗らなかった理由が今わかった気がした。
都会の新作魔導だとかそんなところだろう。
田舎者だからとバカにしているなこいつ。
「……いいだろう、ならば賭けるか?この魔導、ワシが既知か否かを」
「いいわよ?負けた方が何でも一つ言う事を聞く、と言うのでどうかしら?」
「よかろう」
ワシが未来の情報をも持っている事を知らないだろう。
未来の魔導すら頭に入っているのだよ。
「それではいくぞ」
「いっせーの……せっ!」
バッ!とスクロールを広げ、その文字を追う。そこに記されていた魔導は……
「……馬鹿な……」
「ふふん♪どーお?知らない魔導でしょ?」
「……」
ーーワシはこの魔導を知っている。
一人の天才魔導師が協会に持ち込み、今までの魔道理論を覆した魔導。
ワシが時間を遡るきっかけともなった魔導。
「スカウトスコープ……」
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