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ギルド
「それじゃゼフ君の隣が空いてるし、そこでいいかな?」

 勝手に決められてしまった。
 ツインテールを揺らしながらミリィと名乗った少女はワシに近づいてくる。
 視線が交錯し、何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべると、隣の席についた。

「それでは授業を始めまーす!」

 ミリィは真面目に授業に参加するようだが、ワシは眠りについた。

 休み時間、隣りが騒がしい。

「ミリィちゃんどこから来たの?」
「かわいー服!どこで買ったの?」
「やっぱり都会から来たの?」

「父が都会で魔導師をやっているのですが、近くに引っ越すことになりましたの。それでこの学校に通う事になったのですわ」

「下手な嘘だな」

 空気が凍る。
 しまったな、つい口に出してしまった。
 そういう風に誘導されたか?

「何か私に御用です?えーとゼフ君でしたか?」

 名前を言った記憶はないのだが、やはりワシが狙いか。

「ワシと話したいなら回りくどい手を使わなくていい。今から裏にでも行くか?」
「素敵な提案ですが、すぐに授業が始まりますよ?」
「はっ……なら放課後まで待ってやろう」

 そういうとすぐ机に突っ伏し、寝息を立て始める。
 ミリィちゃんあいつはやばいよ!とか聞こえる。やばいだと?ワシがやばいなら、こいつも十分やばい。

 恐らく12才位か?年齢はワシより少し上だがまだまだガキ。
 そんなガキが発していい魔力ではない。
 天才というヤツか。
 末恐ろしいガキだ……

(まさかワシと同じ……?いや、それは流石に……)



 ーーそして放課後

 校舎裏でワシとミリィが対峙する。
 遠巻きに視線を感じる、話を聞いていたクラスメイト共が成り行きを見守っているのだろう。
 好きにするといい。

「朽ち果てた教会で君の戦いぶりを見ましたわ」
「ほぉ……貴様のような子供も狩りをしていたのか?」
「いいえ、私はギルド“蒼穹の狩人“のスカウトです」
「なるほど」

 初級者用の狩場でギルドの者が、ソロで狩りをしている者を勧誘する、ということはよくある。
 ギルドというのは冒険者たちの集まりで、一人では困難な仕事や、アイテム、仕事の融通、その他諸々をギルドの仲間で協力し合い、達成していこう。
 とまぁこういったものである。

 しかしこれは建前でただだらだらと馴れ合うだけのギルド、ギルドマスターの兵隊のように扱われるギルドなど、良いギルドばかりではない。
 人が集まれば軋みも生まれるということだ。

「“蒼穹の狩人“か、聞いたことがないな。意味もわからぬ名前だし、半端にカッコつけようとしてるところがなんかダサい」
「はぁっ!?だ……ダサくないわっ!“蒼穹“も“狩人“もかっこいいじゃないっ!」
「バカめ、単語の一つ一つの響きが良いからといって安易に混ぜれば良いというわけではないのだ。と言うか“素“が出ているぞ?」

 ぐっ……と口を噤むミリィ。
 やはりガキか、このワシに口喧嘩で勝とうなど百年早いのだよ。

「はぁ……やっぱり慣れない喋り方はヤメヤメ。子供らしく本音で語らいましょう。私の事はミリィと読んで。私もあんたの事、今からゼフって呼び捨てるから」

 ガキが生意気に大人ぶるからだ。
 最初からそうしろ、馬鹿め。
 ギルドの勧誘自体は大歓迎だが、腹を割って話さぬ奴の話などマトモに聞けるかよ。

「ギルドの勧誘の話、実はワシも興味がない訳でもない」
「ほんとっ?」

 ぱあっと!明るくなるミリィだが、ワシもギルド関係で何度か痛い目を見て来た。当然但し書きを付け加える。

「ただし、条件がある。まずギルドメンバーのレベルは15以上である事!」
「オーケイ、問題なし」

 レベルは15前後になってようやくまともな冒険者といえる。これに達しない者ばかりのギルドはすなわちやる気のないギルド、そんなギルドに入っても足を引っ張られるだけだ。

「次に自由である事!ワシは束縛されるのが何より嫌いだ。ギルドメンバーの集会への参加するかどうか、決めるのはワシだ!」
「オーケイ、問題なし」

 おっ
 これを認めてくるか。
 かなりワガママな要求なのだがな。
 これだけで安心は出来ぬが、少なくともこのギルド加入、ワシにとってプラスの可能性が高い。

 なれば、断る理由もない。
 ギルド自体は出来るだけ早く入りたいと思っていたのだ。

 ゾンビ狩りもそろそろ効率が悪くなって来た。パーティでの狩りができるようになれば、金銭面でかなり楽になる。
 そうすればこの村から出て、もっと美味い狩場がある所に住む事も可能だ。

「ではギルドマスターの元へ案内して貰えるか?」
「その必要はないわ、“蒼穹の狩人“ギルドマスターは私だからね」

 ーーやはりそうか。
 なんとなくそんな気はしていた。
 ギルド名をバカにした時やけに食ってかかって来たし、何よりこいつには人を惹きつけるオーラがある。

「ギルドマスター直々のお誘いか、光栄だな」
「驚かないの?」
「ワシのような優秀な者はそういうことも珍しくないのでな」
「んなわけないでしょ!」

 ツッコミを入れられるが嘘ではない。
 少なくとも何十年か後の世界では。

「まぁいいわ、それじゃ加入してくれるのね?」
「あぁ」
「では早速やりましょうか」

 ギルド加入式。
 やり方は色々あるが、“蒼穹の狩人“はたいして大きなギルドではないだろうし、こんな場所でやるのだ、簡単なものだろう。

 考えているとミリィはポケットをごそごそやっている。
 おいおいギルドメンバーの証をポケットにいれてるのかこの女は。
 ……まぁワシもこういうのはズボラだけど

「じゃ〜ん!円環の水晶〜!」

 仲間同士の繋がりを高める水晶である。
 地味に高価な代物で主に……

 ーーギルドを作成する際に使用する。

「おい!まさか貴様……」
「ミリィ=レイアードの名において今ここに新たなギルドを設立する!集いの場は蒼穹の狩人!円環の水晶よ!われらを導きたまえ!」

 パアァ……と辺りを光が包み、円環の水晶が消滅する。

「これでよし!んじゃ、私がギルマスで、ゼフが副ギルマスね」

「な……な……」

 ぺろ、と舌を出すミリィ
 それと対称にワシは怒りに染まってゆく
 弱小ギルドどころか新規ギルドだとぉぉぉ!?
「騙しおったなぁぁぁぁ!!」

 ワシの叫び声が校舎裏に響いた。




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