ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
大魔導
 黒い雲が流れてきた。
 小雨が降りだし、風が吹いてくる。

「大降りになる前に帰りたいな」

 盗賊共とワシの間にはかなりの距離がある。
 先刻使ったブルーショットは「ボール」の速射版だ。速射版とはいえ、不意をつかねばこれだけ離れていると避けられる。
 さっきの奴は油断していたからな。

 盗賊共はバラバラと、左右に散ってゆく。距離を取りつつ弓矢で攻撃するつもりだろうか。
 魔導師相手の戦闘は距離を取っての遠距離合戦か、犠牲を覚悟の突撃である。
 相手は前者を取ったワケだ。
 あまりバラけられても困るのでレッドウェイブを念じる。

 赤い熱風が地を駆け、馬の脚毛を焼く。

「ヒヒィィィン!」

 馬が鳴き、盗賊たちの動きが止まる。
 初等や中等の範囲魔導では殺しきれない。
 単体魔導では一人は倒せても他の三人に殺される。

ーー大魔導を使うしかないか。

 雨がバラバラと降り始め、風も強くなってきた。
 頃合いだろう。呪文の詠唱を開始する。

「あまねく精霊よ、嵐のごとく叫び、雷のごとく鳴け、天に仇なす我が眼前の敵を消し去りたまえ」

「ブラックサンダー!」

 天を覆う黒雲から稲光が鳴り、盗賊四人に降り注ぐ、眩しい光が辺りを包み、少し遅れて轟音が鳴り響く。
 盗賊たちの立っていた場所に、ものすごい土煙が上がるが、雨と風ですぐにそれは収まった。
 経験値の上昇を感じる。おそらく全員倒したな。
 一応、雷の落ちた場所を確認しに行く。
 雷が落ちた後の地面は抉れ、土は黒く焼け、盗賊共は跡形もなく消滅していた。

 ほっと一息ついた瞬間、意識を持っていかれそうになるが、ギリギリの所で踏みとどまる。
 座り込み、深呼吸を行う。
「瞑想」
 ほんの少しだけ楽になった。
 ほんの少しだけな。

「空」系統大魔導、ブラックサンダー

 他の大魔導に比べ消耗は少ないが、天候に左右される上、呪文の詠唱まで必要な、ワシに言わせれば欠陥魔道なのだが……
 対象を全てサーチし、不可避の強力な一撃を繰り出す。効果は腐っても大魔導と言ったところか。


 瞑想を続ける。

 瞑想
 瞑想
 瞑想


 意識がある程度回復し、まともな思考力が戻ってくる。だが未だ倦怠感はつきまとい、気分も悪い。

 キャラバンの方を見やると、ワシの方をちらちらと見ていた。
 本来の目的を果たすとしよう。歩いてキャラバンの方に向かう。
 その前に遠くの少女の遺体に向かい、手を合わせる。


「素晴らしい!君が私達を助けてくれたんだね!幼いのにこんな強力な魔導がつかえるとは!」

 壮年の、恰幅の良いもじゃもじゃの髭を束ねた男性がワシの事を褒めちぎる。
 おそらくこのキャラバンのリーダーであろう。10才の小僧にとはいえ、助けてもらった恩は感じているようだ。
 この世は力が全て、小僧相手でも自分より力が上の相手にはきちんと対応せねば、機嫌を損ねると何をされるかわかったものではない。
 この男もそれを理解しているようだ。

「しかし運が良かった。君が助けてくれねば我々は全滅していたよ。本当に感謝している!」
「だが犠牲も出てしまったな。残念なことに」
「最悪の事態は回避出来ました。やはり運がよかったですよ!」

 脳天気な男だ、こんなリーダーで大丈夫か?
 まぁいい、本来の目的を果たそう。

「それはよかった。それでは是非礼を頂きたい。よいマジックアイテムなどはあるだろうか?」

 きょとん、とするキャラバンのリーダー。
 いかん、ストレートすぎたか?いまいちこういった交渉事は苦手だ。

「はっはっは。いや、そうですな。言葉だけの礼に意味はありません。当然私の方で存分の礼をさせて頂きます。」

 ……子供な見た目なのが幸いしたようだ。少しばかり失礼な物言いだっただろうが、勘弁して貰えたようだ。
 ワシは昔からこういった人の心の機微を読むのが苦手だからな。

「しかし流石にこの状態ではもてなす事も出来ませぬ。町につき、明日辺りにでもまたいらして貰えますか?」
「わかった」

 とりあえずキャラバンは町に向かう。馬車に乗せてもらったが、盛大に英雄扱いされて良い気分を味わえた。とはいえ一部の者はひどく沈んでいたが、おそらく犠牲者の仲間であろう。あの少女の仲間もいるのだろうな。

 仕方があるまい。ワシも長年連れ添ったパーティメンバーと死に別れた事など幾度としてある。可哀想に、としか言いようがない。

 町に帰ると彼らと別れ、家に帰る。
 夜も遅いのに部屋には明かりが灯っている。

 ……うむ、これは確実に一時間説教コースだな……



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。