使いにくい魔導
「グリーンボール!」
「翠」と「空」の魔導は声に出さねば発現させられない。
緑色の弾が手のひらに生まれ、すぐにパチン、と爆ぜる。
グリーンボールはいわゆる飛び道具ではなく、通常打撃に「乗せる」攻撃魔導である。
打撃のインパクトの瞬間、タイミングを見計らい、グリーンボール!と叫びながら使う魔導なのだ。
お分かりいただけただろうか、ワシが「翠」と「空」の魔導を殆ど鍛えなかったワケが。
余談ではあるが「魄」の魔導はさらに制限が多い。これに関しては後々記述しよう、
授業が終わり、休み時間になるとすぐさまトイレで魔導の特訓だ。
「魄」を除く4系統の魔導を1分づつ維持、休み時間は10分しかないのでこれが限界だ。
しかし休み時間になるなりトイレに駆け込み、疲れた顔で戻ってくるワシは、ものすごく変人なのではないか。
まぁいいか、魔導師というものは周りから奇異の目で見られる事に慣れているからな。
休み時間が終わる直前、気にせず教室に戻り席につこうとすると
「またう○こか?ゼフ」
坊主頭で初等部にしては中々デカイ少年。ガキ大将とかいう奴か。そういえばクラスメイトの名前など全く覚えていないな。
「お前よくそんなに○んこが出るな、さっきも行ったんだろ?お前う〇こマンか?オイ!」
「う○こ!う○こ!う○こ!う○こ!う○こ!う○こ!」
周りの奴らも一緒に乗っかってくる。
「あ〜〜……」
そうだな、初等部はそういうところだった。
毎時間便所に行ってればこんな風にもなるか……
「う○こ!う○こ!う○こ!う○こ!う○こ!う○こ!」
バゴン!!
レッドボールを念じた。ワシらの中心で炎の塊が爆ぜる。
ガキ大将の髪の毛がちりちりと焼け、辺りに焦げた臭いが漂う。
「煩いぞ、ガキ共。その口消し飛ばしてやろうか?」
一瞬にして静まり返る教室、魔導師というものは実は相当珍しい。村に一人魔導師が出たら祝杯が起こる位だ。
学校の先生も魔導を使えない者が殆どで、理論として、魔導師の作った本を教えているのである。
魔導師になるには自らの魔力線を感じ、それを鍛える必要があるが、そもそも魔力線を持つ者自体がレアなのだ。(ちなみに前述した学校がどうのは、都会のごく一部の才能ある魔導師達が通う学校の事である)
他の冒険職と違い、派手な力を発揮できる魔導師は子供達の憧れの的、ワシも子供の頃見たレッドボールを見て魔導師を志した位だしな。
静まり返った教室、沈黙を破ったのはクレア先生だった。
「はーいみんな!席についてー!授業始めますよー!」
全く空気を読めていない……やはり大物だった……
この日の授業はすごく静かで、ゆっくり眠れた。
途中何度かクレア先生が起こしに来た気がするが、ワシの眠りを妨げる事が出来ようハズもない。
放課後、皆が下校したり遊んでいるのを尻目にワシは郊外へ歩みを進める。
外には魔物がいる。魔物を狩り、レベルをあげるのが目的だ。
魔導は空撃ちでもある程度は鍛えられるが、実戦で使用した方が上昇率が高い。というか、空撃ちで魔導のレベルが上がる事を知られたのは、スカウトスコープあったればこそだ。それ程、空撃ちによる上昇率は低いのである。
普通町は壁に囲まれており、入り口には門番が立っているのだが、ここは小さな村なので子供が出入りする位はワケがない。
町を出て少し歩くと、青いブヨブヨしたゼリー状の物体が現れる。
スライム系の下等種、ブルーゼル
液状の触手を伸ばし、生意気にもワシを喰らおうとしているようだ。
「グリーンボール!」
木の棒で叩きつける瞬間に叫び、魔導を行使する。触手が爆ぜ、爆散する。
「グリーンボール!」「グリーンボール!」
叫び声を上げながらボコボコと殴る。
はたからみると馬鹿丸出しである。
お分かりいただけただろうか、ワシが「翠」と「空」の魔導を殆ど鍛えなかったワケが。
使いにくい魔導はこういう雑魚で鍛えねばならない。今行ける狩場はここしかないので、効率よく修行するにはこれがベスト。
十発程グリーンボールをぶつけるとブルーゼルは消滅した。子供の魔力ではこの位かかってしまう。仕方ない。
消滅した魔物は倒した者にその貢献分の力を与える。経験値と呼ばれるそれは、ある程度溜まるとレベルが上がり、更なる力を与えてくれるのだ。
経験値が流れ込み、力が溢れてくるのを感じる。どうやらレベルが上がったようだ。
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