魔導師協会
多くの魔導師が集まる中、ワシはその中心で拍手喝采を浴びていた。
「魔導師ゼフ=アインシュタインよ、汝の素晴らしき魔導に敬意と賞賛を評し、ここに緋の魔導師最高の称号”フレイムオブフレイム”を授ける」
「ははあっ、ありがたき幸せ」
「この名に負けぬよう精進せよ」
もうワシ、69歳なんだがな
緋系魔道師、最高位の称号「フレイムオブフレイム」
幼き頃から緋の魔導を中心に修行を続け、ついにこの称号を得ることが出来た。
初めて魔道を目にした時から緋の魔導師を志し、どうすれば効率的にこの魔導を練り上げることが出来るか。人生のほぼすべてを費やしここに至ったのだ。感無量である。
拍手の中、手を降りながらゆっくり講壇を降り、観客に見送られながら往く。若い魔導師たちの尊敬のまなざしが心地よい。
この後は二次会、写真撮影、インタビュー……スケジュールが詰まっているな。
人気者は辛い。
ワシは目立つのは嫌いではない。
賞賛され、持て囃されることで歓喜し、成長できる。
貶められ、馬鹿にされることで憤慨し、成長できる。
目立つということは、非常に効率的な成長方法なのだ。
しかるに、また目立たせて頂こう、我が更なる成長の為に!
「ワシは更なる高みを目ざす! フレイムオブフレイム、その中でも歴代最強の座を手に入れてみせよう!」
ワァァァァァァァァァァ!!
拍手と歓声の渦に包まれながらワシは右手を突き上げた。
パシャパシャと魔道で小型化された
映写機が鳴る。
この言は魔道新聞にも掲載され、全国に広まり、今年、魔導師たちの話題はワシの事で持ち切りであった。
翌年
一人の天才がスカウトスコープなる新しい魔導を持って魔導師協会を訪れる。
これは魔導師の才能を測る魔導、念じることで自分の得意な魔導の系統を知る事が出来るのだ。
魔導というものは基本的に5つの系統に分かれている
「緋」
炎に干渉する魔導で攻撃性能、制圧能力は五系統で一番
「蒼」
水に干渉する魔導で攻撃、補助、回復など様々な効果の魔導を覚える事が出来る。ちなみにスカウトスコープはこの系統に属する魔導である。
「翠」
大地に干渉する魔導で極めれば地形や空間を変動させる事が出来る
「空」
大気に干渉する魔導で風や雷を自在に操る事が出来る。強力だが気まぐれな自然を対象とする為コントロールが難しい
「魄」
冥界に干渉する魔導で悪魔や天使、極めれば神や魔王にまで声を届ける事が出来るとか…あまりこの系統を極めた魔導師はいないので詳しいことはよく知らぬ。
魔導にはこの五系統があり、魔導師達はこのいづれかを中心に修行を続けるのが現在の魔導の主流な修行である。
ワシはこの中で緋を選んだ訳だ。
スカウトスコープによる魔導の才能測定、当然ワシも興味はある。というかない魔導師などおらんだろ。
先輩方は何故か遠慮しておったがワシは当然才能測定を行った。
どれ、フレイムオブフレイム様の「緋」の才は……
ゼフ=アインシュタイン
レベル99
「緋」魔導値62 限界値62
「蒼」魔導値49 限界値87
「翠」魔導値18 限界値99
「空」魔導値21 限界値89
「魄」魔導値15 限界値97
え……?思わず目が点になった。ワシのもっとも得意とする「緋」の魔導、その才能限界が一番低い……だと……?
ばかなっ!?
ゼフ=アインシュタイン
レベル99
「緋」魔導値62 限界値62
「蒼」魔導値49 限界値87
「翠」魔導値18 限界値99
「空」魔導値21 限界値89
「魄」魔導値15 限界値97
思わずもう一度やって見る。が変わらない
レベルというのは昔から存在する概念で、成長と共に力を大きく力を得ることがある。我々これをレベルと呼んでいるのだ。
ある程度レベルが上がると成長は止まり、レベルも上がらなくなる。これを才能限界と呼び、そこが修行の終着点とされていた。
ワシも少し前に限界を感じた事がある。思えばこのレベル99というのはそういう事なのだろう。
しかし使いにくいので殆ど修行しなかった「翠」や「魄」が一番才能限界が高いだと……他のも大して修行していないが軒並み「緋」より才能限界が高い。
完全に選択ミスである。
しかももうワシはジジイ、先は長くはない。レベルももう上がらない。ありえない……こんな結末が認められるか!!
思えば先輩方がこれをやらなかったのは、こうなる事を見越してだったのか。もう成長の見込めない状態で自分の修行の成果を完全に否定されるなど悔しいに決まっている、こんな事実を知っては死んでも死に切れないだろう。
この年、ワシより緋の魔導値が高い、どこの馬の骨ともしらぬガキがワシから
「フレイムオブフレイム」の称号を奪い去って行った。
魔導値が高いとはいえ、実戦経験もないガキにこの称号を渡すとは…
納得は行かないが理解はしていた。
もはや終わったワシとこれからさらに伸びる若者。
どちらに栄誉ある称号を与えるか……
だがワシは諦めない、人間は死ぬまで死なない、修行は死ぬまで続ける事が出来るのだ。
ワシは足掻き、苦しみ、そして修行につぐ修行の末
死を目前にしてワシはついに新しい魔導に辿り着く。
時間遡行
まだまだ未完成で、知識しか
時間遡行ないのだがそれで十分。ワシ、修行好きだし
子供まで戻り、この知識とスカウトスコープをフルに活用して魔導を極めて見せる。
意識はどんどん遠くなり、昏くなる。
そして……
「ゼフ、早く起きなさい!学校に遅刻するわよ!」
白いベッド、懐かしい母親の声、ミソのスープの匂い
ワシの体は10歳くらいだろうか、体が軽い……力が漲ってくるわ……大成功だ!
レッドボール!
右手をかざし、緋魔導初等レベルの呪文を念じるが出ない。
む……体に意識を集中すると、どうも魔力線が上手く働いていないらしい。
早急に何とかしなければな。魔導を使えない魔導師はただの豚だ。しかし今は腹が減っている。
「今いくよ、母さん」
階段を駆け下り、久しぶりの母親の顔を見るとちょっと涙が出てしまった。
「どうしたの?ゼフ、怖い夢でも見た?」
「違うんだ……ワシ嬉しくて……」
「変な子ねえ」
ワシはジジイまで生きて、時間の大事さを痛い程わかっている。
一分一秒でも無駄には出来ない。効率よく魔導の修行を行わねばならないのだ。
涙を拭き、腹いっぱいに懐かしい味を詰めこむと、拭いたはずの涙がまた零れた。