7.ウエイトリフティングの初心者トレーニングの具体案
1.トレーニング計画の立て方
高校生が自分から考えトレーニング計画を立て実行できればとても素晴らしいことです。しかし、練習を始めて1年や2年の選手では効率の良いトレーニングプランを立てることはできません。そのため、基本的な考え方を述べてみましょう。
(1)フォームの修得
ウエイトリフティング競技はスナッチ競技とクリーン&ジャーク競技の2競技が行われます。現在日本では、採点制競技が行われており、高校生以上では6ヶ月間は採点制競技会に出場しなければいけない。その競技会で一定の得点を得られた場合、通常の大会に参加できる。
採点制競技会の重量制限
男 子 女 子
スナッチ 体重の90%以内の重量 体重の50%以内の重量
C&ジャーク 体重の120%以内の重量 体重の70%以内の重量
フォームの修得については最初の6ヶ月間は上記の重量で反復練習を行い、スムーズな挙上フォームを修得するべきである。
(2)スナッチはどの筋肉を使って挙げるのか?
スナッチ競技は両手による引き上げ動作であるが、バーを頭上まで持ってくる力は何の力であるかを理解する必要がある。初心者が一見すると上半身と腕を使ってあたかも挙げているように見えるが、実際にバーを挙げる力はバーとともに体を垂直方向に飛び上がらせる脚力がその力の源になっている。そのため、いかにバーを持ったまま床を蹴り、地面より上に飛び上がり、その垂直方向の力を上手くバーに伝え、バーを高い位置まで持ってこれるかが大きな技術的なポイントである。脚の筋肉を使いバーとともに飛び上がろうとすると、背筋部の緊張を持続せねばならいことはわかるはずです。また、腕の部分はできるだけ力を入れず、脚部で得たエネルギーをバーに伝えるように床を蹴り終わるまで、腕はバーによって伸ばされた状態であることが望ましい。
(2)クリーンはどの筋肉を使って挙げるのか?
クリーンもスナッチと同じ力の使い方によってバーを方の高さまで引き上げます。技術的なポイントとしてはスナッチと同じように考えれば良い。
(3)ジャークはどの筋肉を使って挙げるのか?
ジャーク競技は両肩にのったバーを頭上まで差し挙げる動作である。これも、一見腕によって挙げているように見えるが、実際は脚の蹴り上げによって、バーを頭上まで持っていき、その後腕を使って差し挙げることになる。そのため、ジャークを修得する点としては、バーを持ったまま小さくジャンプし、そのジャンプでできた力をうまくバーに伝えられることによってより高くバーが挙がるはずである。バーを目線の高さ以上に蹴り上げることができればジャークの成功率は高くなる。
(4)最初の8ヶ月間のトレーニング
初心者については、すべてのトレーニングについて欠点のないフォームの修得が最大の課題となる。一人一人骨格・関節・筋肉の質など違うため、一律に同じフォームの修得は難しいが、基本的な問題点はクリアしておきたい。
初心者に対して行うトレーニングT(0〜1ヶ月間)
@ 連続プッシュプレス
シャフトを用いて行い、挙げることより、バーを降ろすことに重点を置いてトレーニングを行う。1セット7〜10回を7〜10セット行う。肘関節の使い方を修得させる。
A ハーフスクワット
バーを肩に乗せ、背筋を伸ばした状態で、大腿部が地面と平行になるまで脚を曲げる。最初はシャフトで行い、重量になれてきた段階で体重くらいの重量で7〜10回で7〜10セット行う。
B バーを持ってのジャンプ
クリーンやスナッチの導入になるトレーニング。バーを両手でつかみ、地面に対して垂直に立つ。その状態のままで両腕を曲げないように力を入れ、地面を蹴りジャンプする。10回で7〜10セット行う。このトレーニングのあとジャンプのあと両腕の力を抜くとクリーン動作になる。
C ひざから上のデットリフト
バーを両手でつかみ、地面に対して垂直に立つ。この状態から背筋部を緊張させ、背中を丸めないように意識しながらバーをひざの高さまで降ろす。ひざの高さになったらもとの状態に戻す。それを7〜10回を7〜10セット行う。
D 腹筋
ウエイトリフティングの場合、背筋部を鍛えるトレーニングが多いため、体の前後で筋肉バランスが崩れる場合が多い。そのため、腹筋は毎日必ず行い、筋肉のバランスを整えることを意識させる。
@〜Dのトレーニングを約1ヶ月間行わせながら、一人一人の特徴をつかむ。カンの良い選手の場合は初心者のトレーニングUへ進ませる。
初心者に対して行うトレーニングU(1ヶ月〜6ヶ月)
@ プッシュジャーク 5〜7回×5〜7s 重量についてはその回数が行える重量
A ジャーク 5〜7回×5〜7s 〃
B ハイクリーン 5〜7回×5〜7s 〃
C ハイスナッチ 4〜6回×5〜7s 〃
D スクワット 5〜7回×5〜7s 〃
E デットリフト 5〜7回×5〜7s 〃
上記@〜Eの種目を徐々に修得させ、1日4〜6種目を2時間程度で終わるようにプログラムを立てる。採点制競技会に参加させ、技術的問題をクリアするように努める。
初心者に対して行うトレーニングV(5ヶ月〜8ヶ月)
@ プッシュプレス 3〜7回×5〜8s
A C&ジャーク 〃
B スナッチ 〃
C デットリフト(スナッチ幅、ジャーク幅)
〃
D(フロント)スクワット 〃
E ハイプル 〃
@〜Eのトレーニングを加えながら練習スケジュールを立案する。この頃より、記録を狙う日と、技術の修得を意識する日を意図的に分けるようなトレーニング計画を立案すると良い。毎日MAXでは、怪我も多くなり、かえって効率が悪くなる。初心者に対しては最初にセットさせてからMAXまで挑戦させる方法を入れることも良い方法である。私の場合はMAXを行う場合は1ヶ月に4〜6回程度でトレーニング計画を立案する場合が多い。
(5)トレーニングを行うにあたっての意識する点
フォームの修得や技術的な問題は毎日の積み重ねで解消することが多い。常に技術的なポイントを自ら考えトレーニングしないと上達する効率も悪くなる。コーチと技術的な問題点を相談し、よりよいフォームの修得を心掛ける。
(6)記録向上のポイント
@ 筋肉をつけ体重を増やす
A 無駄な体脂肪を減少させる。
B 無駄のないフォームの修得
C 筋出力の増加
以上の4つがポイントとなってくる。
@、B、Cとも練習を多く行うことのよって獲得できるポイントであるが、練習を行う上で重要となるのは1セットあたりの挙上回数である。1セットの回数が1〜2回では筋肉がつく(筋肥大を起こす)ことがあまりない。そのため、1セットの回数は少なくとも3〜5回は行うことが理想だと思われる。ベスト重量の85%〜95%で5〜3回の挙上を行うトレーニングを行うと記録が向上した経験の持ち主が多いと思う。
体重について考えると、階級制の競技のため、56kgの選手がより多くの筋肉を持ちより少ない脂肪の状態の選手の方が有利であることは誰が考えても明らかである。初心者は自分の体重に合わせた階級を考えがちであるが、自分の身長に対してのベスト体重がウエイトリフティングの世界にもあり、身長に合わせて体重をつけていった方がより記録も向上することになるし、無駄のないフォームの修得にもつながるのではないかと思われる。理想の体型になるまでには競技を始めて4〜7年くらいはかかる。自分の目標を考えながら理想の階級を考え、減量などは避けるように考えるべきである。