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通話圏内を知らずにPHSを携行する作業責任者と、汚染水の危険性を知らない作業員たち〜福島第一原発のいま

20131009
写真:東京電力

 13年10月9日午前9時35分に福島第一原発の汚染水から放射性物質を除去する除染装置の配管取り替え作業中、誤った配管を取り外したため高濃度の放射性ストロンチウムなどを含む汚染水が11トン漏洩した事故の報告書が、12月6日に公表された。報告書から、福島第一原発の作業員の質が低下している懸念が強まったほか、作業の進め方にも問題があることが改めて明確になった。

福島第一原子力発電所汚染水処理設備淡水化装置(逆浸透膜装置)RO-3からの漏えいに関する「発電用原子炉施設故障等報告書」の提出について
http://www.tepco.co.jp/cc/press/2013/1232742_5117.html

 この時の漏洩事故では、汚染水は除染装置が設置されている蛇腹ハウスの堰内にとどまったが、漏洩を止めようとした作業員6人が放射性物質に汚染された。被曝量は計画線量の範囲内で、除染によって退域したが、作業員らはアタマから汚染水をかぶりズブ濡れだったようだという関係者もいる。東電は当初、「飛沫」がかかったと説明していた。

 通常の原発では、作業時に水があればそれだけで警戒をし、責任者に報告することになっている。しかし福島第一原発は、責任者ですら水に対する警戒心が極端に希薄であることに加え、放射線防護の知識が少ない可能性が高い。

 漏洩した汚染水による身体汚染があった作業員らは、汚染水を扱う場所での作業にもかかわらず、長靴ではなく短靴だったことがすでに明らかになっている。今回公表された報告書によれば、作業員が短靴だった理由は、作業の責任部署が水に触れる作業という認識がなかったうえ、重汚染の水という認識が薄く漏れるという想定をしていなかったことから、作業前に作業員らに長靴着用を指示しなかったとしている。このことは、現場責任者がアノラック(カッパ)を着ていなかった理由にも符号する。

 さらに身体汚染があったのは、アノラックを脱がせる際に水滴を拭き取らなかったためだという。その理由は、拭き取る必要があることを知らなかったためだと記載し、アノラックを脱がせる作業を補助した作業員は「放射線管理教育を受けていたが、十分に理解していなかった」としている。しかし拭き取り作業はアノラックを着ていた作業員が気がつけば拭き取るはずで、それもなかったことになる。

 このことから推測できるのは、作業員には原発での作業経験が少ないかほとんどないことと共に、責任者の中にも原発作業の経験が浅い人がいることだ。そして報告書のとおり作業責任者の汚染水に対する認識が希薄だとしたら、水を扱う場所にもかかわらず短靴での作業をしているのは、この事故現場だけはない可能性もある。事故後の2年半、そうした作業を続けていたと考えるのが自然だろう。

 しかし尾野昌之本部長代理はこの疑問に対し「水の危険性について承知してなかった集団が作業していたとは理解していない」と説明し、知識不足を否定した。もっとも東電は作業員の経験年数を把握していないので、この回答の根拠はわからない。

 報告書にも、なぜ水に対する認識が希薄だったのかという理由の説明はなく、単に「拭き取りの指導を受けていなかった」とだけ書いている。なぜ認識が希薄なのか、拭き取りの指導を受けていないという状況がどこまで広がっているのかが不明なままでは、同じことがまた発生する可能性を否定できない。

 もう一点、報告書の中で疑問だったのは、現場責任者はPHSを持っていたが、敷地内のどこで通話ができるのか知らなかった(!)ことだ。このため漏洩の連絡が遅れ、11トンという大量漏洩の一因にもなった。この間、作業員らは汚染水にまみれながら配管を元に戻そうとして、さらに被曝が増えた(通常、汚染水があればいったん離れて汚染や被曝を避けるのが手順だが、それも知らなかった)。

 そして報告書では、PHSの通話可能範囲について「当社は、ジャバラハウス近傍におけるPHS通話可能エリアについて、社員向けに周知は行っていたが、協力企業への周知は十分に行っていなかった」としている。当社というのは、東京電力だ。

 通話可能エリアを知らずに現場責任者がPHSだけを持ち歩くというのは、理解に苦しむ。これでは通信手段の意味がない。なぜ携帯電話を持っていないのか、なぜ東電が通話可能範囲の周知徹底をしていなかったのか等については、報告書では説明していない。

 この点について尾野昌之本部長代理の回答には少なからず驚いた。結果としてこのようなことが起こったことの反省として「十分ではなかった」という記載をしたのであって、なぜ通話圏内を知らなかったのかはわからないというのである。また通話範囲が広い携帯電話を配付しないのかと聞くと、「考えていない」という。

 報告書では対策として、通話可能範囲の周知徹底をするなどとしているが、周知徹底が不十分だった理由がわからないまま周知していくといってもどこに周知するのだろうか。それとも、わかっているが公表はしないということなのだろうか。

 前述したように東電は、作業員たちの汚染水に対する認識が低かった理由はわからないという。PHSの問題も放射線防護の問題も、「なぜそうなったのか」の根本的な部分が抜けている。原因不明のままでは、汚染水の漏洩事故が続いたように似たようなケースが再発する可能性がある。それとも過去に、すでに起きているのだろうか。東電からも規制庁からも発表はない。

 福島第一原発は、突発的なことがいつでも起こりうる状況にある。にもかかわらず、この2年間、どこが通話圏内なのか知らずにPHSを持ち歩いている作業責任者が数多くいたというのは、まったく理解し難い。仮に一刻を争う事故が起こっても、即時の連絡は期待できないことになる。

 RO膜除染装置の事故報告書について事故対策室の金城室長は、「内容の検討はこれから」としつつも、報告書に記載されている内容も含めて「先日の委員長と東電社長の面談になった」と述べた。しかしその時は、こうした現場対応の詳細は公表されていなかった。

木野龍逸
ライター。著書に、「ハイブリッド (文春新書)」などがある

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