ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
五部
21話
「ねえカズマ。ちょっとこれを見て頂戴」

 セレナのデスで死亡して、死後の肉体と魂の損傷を癒すため、屋敷でゴロゴロして既に3日。
 綺麗な死に方だった為にあまり療養はいらないと言われたのだが、俺は毎日を快適にゴロゴロと過ごしていた。

 現在俺は、屋敷の広間のソファーの上で裸足であぐらをかきながら、鍛冶スキルを使用してある物を製作中。
 それを同じくソファーに腰掛け、隣から興味深々でダクネスが見守る中、アクアが俺に1枚の紙を渡してくる。

 ……?

 俺は作業の手を止めて、アクアからその紙切れを受け取った。
 ダクネスも、その紙を俺と一緒に覗き込む。

 そこには、えらく達筆な字でタイトルが書かれていた。

『魔王に対する好感度アンケート』

「…………魔王って響きがなんかカッコイイ(パン屋の店主)。部下に隠れて野良ドラゴンとかにエサやってそう(ペット屋の人)。そんな事より金貸して欲しい(チンピラ)。城を出て店を出すと言ったら、それは良い事だと最初の資金を少し貸してくれました(顔色の悪い店主)。魔王より我輩の方が強い(問題外)。ウチのカミさんが魔王(疲れた顔のおじさん)。…………えっと、なにコレ」
「ああっ! 違う、そっちじゃないわ! そっちは見せちゃいけない方のアンケートまとめ!」

 それは既にアンケートとは言わない。

「さあ、コレを見て頂戴! ここに、街の住人達がいかに魔王に対して苦しみ、怯えているのかが書かれているわ!」
 言言いながらアクアが再び差し出してきた紙を、俺は渋々受け取った。

「……この街で店を出しましたがちっとも客が来ません。よく分からないけど、多分魔王の所為だと思います(えっちな店の店長)。魔王が怖くて夜も眠れず昼寝してます。おかげで仕事したくても出来ません。俺が親のスネ齧っているのも魔王の所為です(ニート男性)。魔王が実在する所為で、ウチの神様の人気がちっとも出ません(破壊神崇拝者)。怖い怖い、魔王が怖い、あとはキンキンに冷えたネロイド怖い(劇場の人)。彼女が出来ないのは魔王の所為(中年男性)。彼氏が出来ないのは魔王の所為(冒険者のお姉さん)…………。もう一度言うぞ。……なにコレ」

 俺がアクアに尋ねると、アクアは驚愕の表情を浮かべ、オーバーアクション気味に後ずさる。

「なんて事! カズマったら、こんなに困っている街の人の声を聞いて、何にも思わないの!? そんなだから、巷ではカスマさんだのクズマさんだの言われるのよ!」
「お、おい、聞き捨てならない事言ったな、今なんつった」

 アクアは俺の言葉には耳を貸さず、こちらに指を突き付けながら。

「一冒険者として、恥ずかしくはないの? カズマがこうしてダクネスとイチャイチャしている間にも、世界中の人達はこうして魔王に怯えているの! 謝って! 冒険者を名乗ってごめんなさいって謝って! 世界の人達に謝って!」
「べ、別にイチャイチャはしていない、カズマが何か作っているから見ていただけだ!」

「……めぐみん、まだかなー。腹減った…………」
 アクアとダクネスを放置して、今日の昼飯当番のめぐみんを待つ。
 そんな俺の態度に、アクアがバンとテーブルを叩こうと……!

「ねえ、ちゃんと私の話を……!」
「おいバカ止めろお! いいか、衝撃を与えるなよ!」

 俺は慌ててアクアを止めると、テーブルの上に置いてあった、作業に使っていた小瓶をそっと持ち上げた。
 俺の慌て様に、アクアが興味を持ったように。
「……それ、なーに?」
「ウィズの店で買ってきた、衝撃を与えると爆発するポーション」
「「えっ!?」」

 俺の言葉にダクネスが慌てて立ち上がり、アクアと共に一歩離れる。
 テーブルの上には俺が作業途中だった物が散乱している。
 それらは、紙にスポイト、そして、吸水性が高く燃えやすい、何かの植物が腐敗してできた特殊な土。
 俺は先ほどから、衝撃を与えると爆発するポーションの中身を、スポイトで少しづつ吸い取り、せっせと紙の上に乗せた土に染み込ませていた。
 アクアがジリジリと後ずさりながら、不安気にこちらに問いかけてくる。
「ね、ねえ……。なぜそんな物騒な物を持ってるの? それで一体、何をするつもりなの?」

 俺は手にしたポーションをそっと離れた場所に持って行く。
 そして、静かに床に置くと。

「いやな、今までずっと、これって魔法のポーションか何かだと思ってたんだよ。そしたらさ、これ、火を付けても爆発するんだわ。ほんの一滴、火に近付けたらボンってなった。つまり、これってニトロに近いものなんじゃないかと思ってな」

 俺の言葉に、テーブルの上の材料を見たアクアが、何を作っていたのかピンときたようだ。
 そう、あの有名な……
「なるほど……。季節は夏。カズマさんに流れる日本人の血が、打ち上げ花火を作らせるのね」
「ダイナマイトです」

 ダクネスが、不思議そうに。
「にとろ? だいなまいと? 聞かない言葉だな。それは何をする物なんだ?」

 そう言って首を傾げるダクネスに、俺は既に完成した2本のそれを見せつけた。
「昼飯食ったら見せてやろう。驚くぞ? めぐみん辺りが特にな」
 自信満々に言う俺の言葉に。
「ご飯ですよー。さあ、テーブルの上を片付けて、みんな手を洗ってくるのです。…………? どうしました? みんなして私の顔をジッと見て」
 お盆の上に食事を乗せて運んできためぐみんが、不思議そうな顔をした。








 街から離れた、岩の多い山の中。
 ここは、めぐみんの爆裂散歩のオススメ地なのだが。
「みんな珍しいですね、今日は全員で私の散歩に付き合ってくれるなんて。こんな事なら、お昼はお弁当にして外で食べれば良かったです」
 日課の一日一爆裂に全員が付き合ってくれるのが嬉しいのか、杖を振りながらいつになく上機嫌なめぐみん。

 そんなめぐみんは、早速爆裂魔法を唱えると……。

「『エクスプロージョン』ッッ!」

 轟音と共にビリビリと辺りを震わせる衝撃波。
 あらゆる物を粉砕する最強の魔法は、いとも容易く目標物の大岩を爆散させた。
 頭を低くして、パラパラと降ってくる岩の破片から身を守っている俺達。
 その俺達の傍にさり気なくダクネスが立ち、それらの破片から守ってくれる。

「ほう、今日のは高得点だな」
「でしょう。自分でもなかなかの出来でした。ふう、満足です。では帰りましょ……? カズマ、それは何です?」

 そんな中、懐から取り出した二本の紙巻きのダイナマイトもどきを取り出すと、それにめぐみんが興味を抱いた。
 爆発するポーションを染み込ませた土を紙で何重にも巻き固め、中心に、同じくポーションを染み込ませた導火線を入れただけの質素な物。
 試作品一号なのでこんな物だ。
 あのニトロもどきが無ければ作ろうとも思わなかったが。

「これはな、レベル1になってしまった俺でも、金に物を言わせて簡単に敵を葬れないかと試作した物の第一号だ。まあ、見とけ?」

 俺はそれを近くの岩の陰に差し込むと、導火線を良く見える様にこちらに向ける。
 そして一定の距離を取り。

「『ティンダー』」

 導火線に、離れた所から着火魔法で火を付けた。
 それがジリジリと火花を散らし……。

 ふと思い付き、俺は片手をそちらに突き出して、大声で叫んでみた。

「エクスプロージョーン!」
「えっ!?」
 その声に、めぐみんが声を上げ。

 それをかき消す爆音と共に、簡易ダイナマイトは見事に爆発し、それを差し込んだ岩にヒビを入れた。
 流石に発破工事に使える程の威力は出ないか。
 だが、武器としてなら十二分に使える。

「あ……ああ…………」

 隣では、めぐみんが呆然としながら小さく震え、ダクネスが顔を赤くして拳を握った。

「す、凄いぞカズマ! お前、いつの間に爆裂魔法を習得したんだ!」
「ふ……。努力家な俺は、お前らが寝ている間にひっそりと鍛錬していたのさ」
 興奮するダクネスに、俺は調子に乗って適当な言葉を返す。

「ああ……ああああ…………」

 めぐみんがわなわなと震える中、アクアが俺の服の袖をクイクイと引っ張った。

「カズマさんカズマさん、私にも一つ頂戴。私も爆裂魔法が使いたいの」
「これは試作品だから、もっと導火線伸ばしたヤツが出来たらな。俺もおっかないから、遠くからティンダー使ったんだから」

「あああああ…………あああああああ…………」

「分かったわ。それじゃあ、ちゃんとしたのが完成したら遊ばせて頂戴」
「いいけど、このポーションって結構高いし数が少ないからな。そう何度も遊びには使えないぞ」
「そ、それを使えば、クルセイダーの私にも爆裂魔法が撃てるのか? 本当に魔法を習得したんじゃないんだろ? な、なあ、新しいのが出来たら私にも試させて欲しい……」

 興味津々のアクアやダクネスと違い、めぐみんの反応が非常に気になる。
 先ほどから小刻みに震えて小さく声を上げるだけだ。

 俺は、そんなめぐみんの前に立つと片手を突き出し、ポーズを決めた。
「我が名はカズマ! アクセル随一の冒険者にして、爆裂魔法を操りし」
「ああああああああああああああああーっ!!」

 途中まで言い掛けた言葉を遮り、めぐみんが叫びながら掴みかかってきた。

「あんなものは! あんなものは、爆裂魔法じゃありません! 威力にしたって、精々が炸裂魔法程度の物! あんなものは! あんな……あんな……っ!」
「ちょっ、分かった落ち着け、待ってくれ! あれは唯のアイテムだ、ちょっとした冗談だよ冗談!」
 喚きながら、俺の胸ぐらを掴んでくるめぐみん。
 やがてめぐみんが、俺の懐に手を突っ込み残りの一本を取り上げる。
「あっ、こらっ! おい、それ一つ作るのに結構金と手間掛かってるんだから、返してくれよ!」
「駄目です! この私がいるのですから、こんな物は必要ないです! なんですか、こんな物っ!」
 叫ぶと同時、めぐみんがせっかく作った俺の力作を放り投げた。
 あーあ…………。

「今後、あれを見つけたら捨てますからね! あんな物は邪道です! 認めませんよあんな物!」
「分かった分かった、分かったよ」
 めぐみんに見つからない様に、今後は自室でこっそり作ろう。
「えー……。あれを大量に作れれば、魔王退治だって出来そうなんですけど……」
「駄目です!」
 しょんぼりと残念そうなアクアにめぐみんが噛み付く。

 せっかく作ったのに……。
 ………………。
 ……俺は、遠く離れた地に落ちている、めぐみんが捨てたダイナマイトに手をかざし。
 未だ怒っているめぐみんの隙をつき、小さな声で魔法を唱えた。
「……『ティンダー』」

 …………。

「エクスプロージョーン!!」
「!?」
 捨てるのも勿体無いので、本日二度目の擬似爆裂魔法。


 めぐみんが、晩飯の時まで口を聞いてくれなくなった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 死んだ後の後遺症を癒すため、ゴロゴロする毎日。
 そんな大義名分があるため、なんら恥じる事もないニート生活。

「コケコッコ――――――――!」

 ……そのはず、だったのだが。

「コケーッ! コッコッコッコッ」
「ダメよゼル帝! 騒いじゃダメ! あの男は、昨日もあなたを晩御飯にするべきだって騒いでたのよ! やるわ。鬼畜のカズマさんならきっとやる! いいこと? 素直で可愛く、大人しかったあの頃に戻って頂戴。荒ぶるあなたもとても気高く美しいけれど、こんな早くから騒いじゃダメ。そう、魔王退治には、ドラゴンであるあなたの力が必要なの。もっともっと成長して、私達を乗せて飛べるぐらいに大きくなるまでは、まずは大人しくして力を蓄えるのよ」
「コケエェェェェェェェェ!」
「ダメよゼル帝、静かになさい!」
「お前の方がうるせーよ! 朝から何だよ、静かにしろよおおおおおお!」

 俺はベッドから飛び起きると、窓を開けて怒鳴りつけた。
 俺の部屋の真下の部分。
 そこにゼル帝の小屋がある。

 最近、ひよこから上質の鶏肉にクラスチェンジしたゼル帝は、毎朝、ああして騒ぎ立てていた。
 強制的に朝早く起こされるようになった俺は、昨夜、提案したのだ。

 そろそろ食おう、と。

 そして結果は……
「ほらみたことですか! ゼル帝、ここは私があの悪魔を食い止めるからあなたは早く逃げなさい! 私の事はいいから早く逃げて! そして、立派に成長した暁には、共に魔王退治に旅立ちましょう! 三丁目の肉屋のおじさんには気を付けるのよ!」
「コケッ、コッコッ……」
「ああっ、ゼル帝! 私を置いては行けないって言うの? いいわ、共にあの悪魔と戦いましょう! あなたのお母さんとして、ちゃんと守ってあげるからね!」

 妙な小芝居をして、ゼル帝を鳥小屋から出して抱きしめるアクア。

「もう何でもいいから静かに寝かせて欲しい。頼むから。ほんと頼むから」
「なら、もうゼル帝を食べるとか言い出さない?」
「分かったから。もう言わないから、代わりに鳥小屋を他の場所に移動させろ」

 そう告げると、アクアは両手で目の前に掲げたゼル帝に向かって、力持ちのダクネスに小屋を運んでもらおうねとか語りかけている。

「……しかしお前、まだ魔王魔王言ってるのかよ。もう諦めようぜ。魔王の城なんて、まだ幹部が二人も残っていて、きっと精鋭なモンスターもワラワラいるんだぞ。そんな危ない事は強い人達に任せて、俺達はのんびり暮らそう。大丈夫だよ、誰かなんとかしてくれるって。せっかく大金手にしたんだし、俺達はこれからだろ?」
 窓枠に肘をついて二階からアクア達を見下ろしながらの俺の言葉に、アクアがゼル帝を抱いたままやれやれとばかりに首を振る。

「これだから平和ボケした日本人は……。どうしてそう、良い方向良い方向へとしか考えないの? そんな甘っちょろい考えだから、スペランカーごっこが趣味なんですかってぐらいにカズマさんはポコポコ死ぬのよ?」

 アクアが、ゼル帝を自分の目線の高さまで持ち上げて、視線を合わせて、ねー? とか言ってる。
 このやろう、俺が死ぬ一番の原因はお前らのお守りがあるからだ。
 アクアは、俺が二階にいる事で手が出せないと踏んでいるのか言いたい放題だ。

「平和ボケも大概にして頂戴。現在、この世界では戦争中なんです。これから、国の首都が魔王の娘率いる大軍に攻められそうなのよ? しかも、この街まで敵が攻めてくるって言う時……に……」

 平和ボケと言われても、ピンとこないものはしょうがない。
 これが長年平和馴れした日本人のサガ…………。
 ……?

「ど、どうした急に、そんな口をパクパクさせて。人をスペランカーごっこが趣味とか言っときながら、鯉の真似か? お前にしてはありきたりな芸だな」
 俺も二階でアクアを真似し、口をパクパクさせてみる。

 アクアは慌ててゼル帝を小屋に戻すと。
「違うわよ! そうよ、魔王よ! ねえカズマ、今が魔王を倒すチャンスなの!」

 まだ言ってんのか。

「あっ、あっ! 待って! カズマさん二度寝しないで、ねえ聞いて! これから王都が魔王の娘と大軍に攻められるって事は、魔王の幹部の一人と、魔王軍の大半が城を留守にするって事なのよ! しかも、おまけにこの街にも攻めてくるって事は……! 連中は結界があるから、安心しきって大軍を送り込むわ! 軍が出払った後に襲撃すれば、城には魔王ぐらいしかいないかも! だって、結界があるから留守番を残す必要なんてないでしょ!? 魔王の所にカチコミに行くなら、これ以上無いチャンスじゃないかしら!」

 ……確かに平時に攻めるよりは、少しはチャンスがあるのかも知れない。
 だが問題は、幾らなんでも魔王しか居ないなんて事はありえない事。
 そして、例え魔王一人だったとした所で、俺達にはその魔王一人ですらまずどうにもならないと言う事。

 俺は高所から、浅い考えのアクアを見下ろし。
「……フッ」
 鼻で笑った。






「……二人とも、朝から何を騒いでるんだ? カズマ、朝食ができたから……。……な、なんだか楽しそうだな……」
 朝飯が出来たのか、部屋まで俺を呼びに来たダクネスが、俺達を見ながらそんな気楽な事を言った。

「止めろこらっ! 窓に穴が開いたら蚊が入ってくるだろ! 窓が割れたら、直るまでお前の部屋と取り替えてもらうからな! 『ウインド・ブレスト』ッ!」
「魔法を使うのはズルイわよ! 窓割られるのが嫌なら、もう少し前向きに魔王退治に協力しなさいよ!」
 庭に落ちている石を広い、それを窓目掛けて投げるアクア。
 俺はその石を風の魔法で撃墜していた。

 しかし、このままでは分が悪い。

「『クリエイト・ウォーター』!」

 アクアの頭上に突如水が出現し、それがバシャンとアクアに掛かる。
 ずぶ濡れになったアクアは、だが涼し気な表情で勝ち誇っていた。
「暑苦しいこの季節、涼しい水のサービスですか? 忘れちゃったの? 私にとっては、水の中での生活だって苦痛じゃないんですけど。もっと寒い季節ならいざ知らず、こんなもの、ただのご褒美……」

 俺は、アクアが皆まで言う前に。

「『クリエイト・アース』!」
「そ、それは止めてええー!」
 水で濡れたアクアの上に、大量の土が降り注いだ。



 アクアを泣かせて満足し、一階の広間へと降りて行く。
 そこには、ここ最近は黒のワンピースがメインで、寝る時以外は脱いでいた暑苦しい紅魔族ローブを着込み、しっかりと杖を握っためぐみんが、ソファーに腰掛けお茶を飲んでいた。

「食事を終えたら、ちょっと付き合ってもらって良いですか? 用事があるので、立ち会ってもらいたいのです」

 泥まみれにされたアクアは風呂に入り、ダクネスがその間、アクアの一張羅の羽衣を洗ってやっている。

「別にいいけど。……立ち会い? 何だか決闘でもするみたいな言い方だな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「私達、友達なのに! ねえ、友達じゃなかったの!? 親友じゃなかったの!?」
「何を言いますか! 大事な話があるから森まで来て欲しいだなんて手紙を寄越しておいて! ほら、とっとと掛かって来ると良いです!」

 街の近くに広がる森林の近く。
 めぐみんが、杖を振り回して猛っていた。
 泣きそうな顔で手をワキワキさせて怯えているゆんゆんと対峙しながら。

「なんだ、ゆんゆんに決闘を申し込まれてたのか」
「違います! 違いますよ! 決闘じゃないです、めぐみんに話があって呼び出しただけなんです!」
 俺の言葉にゆんゆんがいよいよ泣き出しそうになる中、威嚇するかのようにめぐみんが杖を振る。
「だったら、なぜこんな人気の無い所に呼び出すのですか! 用があるなら家にでも来ればいいではないですか!」
「えっ! その……、私が家に行っても……。……い、いいの……?」
 めぐみんの言葉に、ゆんゆんが言葉尻をどんどん小さく、自信なさ気に言ってきた。
 ああ、事前に約束してたり誘われないと、友達の家に遊びに行けないタイプなのか。

「来るなら勝手にくればいいじゃないですか。タイミングが悪かったりと、邪魔な時はちゃんと帰れと言って追い払いますよ」
「えっ!」
 それは余計にダメージきそうだが。
「で、めぐみんに用事って一体何なんだ?」





 俺の言葉にゆんゆんが、手紙をめぐみんに向かって差し出した。
「これが、紅魔の里の人から送られてきて……」
 それを受け取っためぐみんは、手紙に目を通していく。

「……魔王軍が王都を攻める。紅魔の里へ、国から王都防衛の要請が来た為、各地の紅魔族は全員集合、ですか。……フフ、とうとう我が力が必要とされる時が来たわけですね。いいでしょう! ゆんゆん、それでは共に魔王の連中……を…………」

 手紙に目を通していためぐみんが、途端にその言葉を途切れさせた。
 それを見たゆんゆんが、気まずそうに。

「あの……。一応、めぐみんにも見せろって書いてあったから……。そ、その……」

 動きの止まっためぐみんの傍に寄ると、横からひょいと手紙を覗いてみる。
 そこには……。

「……おっ、ゆんゆんの名前が一軍の頭に載ってる。めぐみんは……。二軍の隅っこに名前があるな。横に、めぐみんだけ(補欠)って書かれてるが」
「以前、紅魔の里に帰った時に、めぐみんが上級魔法を使えない事がみんなに知れたせいだと…………あああーっ!」

 めぐみんが、ゆんゆんから預かった手紙を紙飛行機にして森に飛ばした。

「何するの!? あの手紙、この街にいる他の紅魔族にも見せなきゃならないのに!」
 ゆんゆんがめぐみんに訴えかけるが、当のめぐみんはどこ吹く風だ。
「そんな事はどうでも良いのです。それよりゆんゆん、あなたはどうするんです? 里に帰るのですか?」

 めぐみんの言葉に、ゆんゆんが返事に詰まる。
 なにか、言いたい事があるのに言い出せない。
 ゆんゆんが、そんな態度でもじもじしていると。
「全くこの娘は! なぜそうも、いつもいつもウジウジと! 言いたい事があるならハッキリと言えばいいんです!」
「痛い痛い! 言う言う、分かったから髪引っ張らないで! ……そ、その……。この街にも、魔王の手下が来るって聞いて……。ほら、この街にも、と、友……知り合いの人が増えてきたし……」
 小さな声で、俯きながら両手の指をモニョ付かせるゆんゆん。

 ……ああ、そうか。
「里の人達には帰って来いって言われてるけど、この街に友達もできたし。出来れば残って、街を守りたいって事か」
「えっ! あ、……は、はい、と、友達……。友達が、何人かできたので……!」

 友達ってのはアレの事だろうか。
 最近ゆんゆんが、あまり関わり合いにならない方がいい連中とつるんでいる事が多い。
 関わり合いにならない方がいい連中とは、とあるチンピラと流行らない魔道具店の店員だ。
 ゆんゆんが、こくこくと何度も頷きながら、やがて表情に翳りを見せた。

「でも紅魔の里からの招集は、滅多な事では行われないんです。その、滅多に行われない呼出があった以上、無視する訳にも……」
 なるほど。

 それでどうしようかとめぐみんに相談に来たのか。
 その、相談を受けためぐみんはゆんゆんとは別の方を向いており……、お、おい!
「めぐみんちょっと待て、何を……!」

 俺が静止する間もなく、めぐみんが叫んでいた。
「『エクスプロージョン』ーッッッ!」

 突如森に向けて放たれた爆裂魔法。
 それは、先ほどめぐみんが手紙を飛行機にして飛ばした一帯を跡形も無く消し飛ばし……。

「あーっ! 何するのめぐみん! まだあれ、他の人に見せてないのに! どうしよう、どうすれば!」
 頭を抱えて騒ぐゆんゆん。
 魔法を放っためぐみんが、これ以上にないドヤ顔で俺の方を振り向いた。

「どうですカズマ。これが本物の爆裂魔法です。昨日のカズマの使ったものを爆裂と呼ぶのはおこがましいですよ?」

 どうも、昨日のダイナマイトもどきを作った事を、今でも根に持っていたらしい。
 自信満々なめぐみんに、ゆんゆんが半泣きで食って掛かった。

「ど、どーするの? ねえ、どうしたらいい? って言うか、なんでめぐみんはいつもいつも私を困らせる様な事ばかり……!」
「うるさいですねこの小心者は! あの手紙は、郵便屋さんが野良オークにでも捕まったか、家で飼ってる山羊が食べたとかなんとか適当に言っとけば良いのです! この街を守りたいんでしょう? ゆんゆんは、ごちゃごちゃ考えずにもっと図太くなった方がいいです!」

 めぐみんの、そのあんまりにも理不尽な言葉に、だがゆんゆんは頬を紅潮させて、困った様な、それでいて少しだけ嬉しそうな微妙な表情を浮かべた。

 強引に手紙を処分された事が、ちょっとだけ嬉しかったらしい。

 堂々と胸を張って開き直るめぐみんを、ゆんゆんが眩しそうに見ながらはにかんだ。
 確かに少しばかりめぐみんの押しの強さを見習った方がいいとは思う。
 思うのだが……。



 俺はめぐみんの背中に向けて。


「お前、自分の扱いが補欠だったから行かない事にしたんだろ」
「ッ!?」

 めぐみんがビクッと震えた。
本来は、番外編の仮面悪魔をもう少し進めてからの今回の話の予定でした。
もうちょい、街の人達との絡みを通して、街を守りたい説得力を持たせる筈が。
仮面悪魔の方を合間を縫って何話か書くかも知れません。
向こうを読まなくても勿論話は通じます。

ああ、色々と時間が欲しい。

でも時間があっても、多分遊ぶ時間が増えるだけ……。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。