多数の紅魔族が俺とシルビアの乗るムカデを囲み、遠目から成り行きを見守る中、めぐみんが、こちらに杖を突きつけたままの姿勢で固まったまま。
「……お、おい、今なんて言ったのかをもう一度聞こうじゃないか」
俺は、そのめぐみんの声を聞きながら。
シルビアの胸の感触を頬に感じながら、ひどく落ち着いた心で、荒ぶるめぐみんへと諭すように。
「めぐみんは今幾つだっけ。十七ぐらいじゃなかったっけ。その、いきなり子作り、結婚! とかじゃなく、まずは清いお付き合いからスタートした方が良いと思うんだ。冷静になって考えてみたら、俺達まだデートすらした事ないのに、その場の勢いだけで子供作って出来ちゃった婚とか、子供の為にもイケナイ事だと思います」
「あなたが言い出したんですよ子供が出来たら云々の話は! どうしたんですか? そこの魔王の幹部に何か術を使われたんですか!? と言うか、胸に顔を押し付けた状態でそんなマトモな正論とか言われると凄くイラッとくるんですが!」
めぐみんがそんな事を言って、シルビアをキッと睨んだ。
「ア、アタシっ!?」
冤罪はよくない。
「いや、違うよ。凄くクリアな頭でお互いの将来の事を考えてみたんだ。よく考えてみたら、まだお互いの事を殆ど何も知らない状態だろ? めぐみんに妹が居た事だとか、今日初めて知ったんだぜ。めぐみんはもう大人なんだろ? 好きになった、結婚しよう! だなんて、幾らなんでもそれは子供の考えだと思うんだ」
「だから、それはあなたが言い出したんですよ! どうしたんですか本当に、いつもおかしいですが今日は特に……!」
めぐみんが慌てる中、シルビアが何かに気付いた様に小さく呟く。
「……あっ……」
それは、モゾモゾしている俺と引っ付いているせいで分かったのか、どうやらシルビアに察知された様だ。
そんなシルビアが、困った表情を浮かべ、俺の頭を優しく撫でてきた。
「ごめんなさいね、アタシの所為ね……。お嬢ちゃん、彼氏の事は許してあげて? あなたの彼氏はね、しばらくの間全く欲望の無い状態になっちゃったのよ」
そんな事を、同情する様に言ってくる大人なシルビア。
大人の女性というのはここまで物分かりが良い物なのか。
そのシルビアの言葉に、めぐみんもどういう事かを察した様だ。
その表情がみるみるうちに冷めたものになり……。
俺を見るその目が……、
それは、そう、屋敷を薄着でウロウロしているダクネスを、ジッと見ている俺に送る、虫けらを見るようないつもの視線だ。
「ど、どうしましょうこの男……。予想外です、ここまでどうしようもない男だとは思ってませんでした……。私とあれだけ色んな事したクセに、その数分後には他の女で満足して冷静になるとか…………!」
「おいちょっと待て、まだ布団の中で抱き合ってただけで何もしていないのに、あれだけ色んな事したと言われるのはおかしい」
「よし、それ以上くだらない事を何か喋る気なら私にも覚悟がある」
おっと、ゴミでも見るような目ですね。
「まあ、邪魔したアタシが言うのもなんだけれど、そんなに嫌わないであげなさいな。やりたい盛りの男の子はね、目先の一晩の欲望の為なら人生を棒に振る事も多々ある物よ? むしろ、スッキリした今の彼なら本当の想いを聞けるってものよ? 今こそ彼の、飾らない本音を聞いてあげてごらんなさいな」
未だに俺を胸に縛り付けた状態のまま、そんな物分かりの良い事を言ってくるシルビア。
シルビアのそんな言葉に、未だ険しい表情ながらも、俺を見るめぐみんの視線が、ゴミを見る目から胡散臭い物を見る目ぐらいに和らげられる。
「そんなフォローをしてくれるのは嬉しいんですが、胸に顔を埋めた俺をめぐみんが凄い目で見ているので開放してもらえませんかね」
「あら。それじゃあ、ちょっとだけよ? 逃げたりはしないでね?」
シルビアが、俺を縛り付けていたロープを爪先でヒュッとなぞると、それだけで俺を縛っていたロープが切断されて、はらりと落ちた。
俺はシルビアから一歩離れ、硬いムカデの背に立つと。
めぐみんが、そんな俺の言葉を待つかの様に、真っ直ぐ俺を見詰めたまま動かなくなる。
しかし、飾らない本音だとか言われても。
正直、めぐみんとは長い付き合いだがいきなりこんな関係になるなんて思わなかった訳だし、そもそも自分の気持ちが分からない。
付き合った事はおろか、ロクに女とデートした事もない俺には、好きになるだとか、恋焦がれるだとか、そんな気持ちがイマイチ……………………。
……………………。
あれっ。
何だろう、いきなり結婚、子持ちになるのは重いなと思ったが、別にめぐみんと付き合うとか、そういうのはちっとも構わない気がする。
むしろ色々溜まっていた旅の間の諸々がスッキリ解消した今なのに、これからめぐみんと一緒に、デートとかするのも結構楽しみだったりもする。
何をするでもなく一緒にグダグダとダベって、おいめぐみん、暇だから弁当持って、景色のいい湖に行って、爆裂魔法で波でも起こして遊ぼうぜ! とか言って。
……あれっ。
何だろう。
何だろう、これ。
「お、おいめぐみん、大変だ! 俺、本当にお前の事が好きかも知れん!」
「最低です! あなたは最低です! 本当に本当に最低ですよ! 私の事が本当に好きかも知れんだとか! それは告白してくれているんですか!? もう少し言葉を選べないんですか!!」
童貞にそんな高度な事を求められても。
俺が変な汗をかきながら困り顔でオロオロしていると。
そんな困り果てた様な俺をめぐみんが、
「……はあ…………。本当に、肝心な時には締まらない男です全く。そんな所も好きだと言ってしまった手前、怒るに怒れない所がまた……」
何かを諦めた様な、それでいてちょっとだけ面白い物でも見るような表情で呆れた様に言ってくる。
そんなめぐみんの顔を見て、安心した様にホッと息を吐くとめぐみんにジロリと睨まれた。
ご、ごめんなさいっ!
「……はあ。……それで、これからどうします? その……。そ、その……これからの、関係……と、言うか…………」
めぐみんが、少し不安気な表情で。
そしてちょっとだけ頬を赤くしながらボソボソと。
ええっと、ど、どうしようか。
「ど、どうしようか。本音を言うと、俺は今までの人生の中でロクに浮いた話も無かったのに、唐突にお前みたいな美少女に告られたってだけで、実は俺にとってはいっぱいいっぱいだったりする。友達以上、恋人未満な関係で、少しずつ進みたいなと思うんですがダメでしょうか」
そんな俺の言葉にめぐみんが。
「……い、良いです……。とりあえずは、それで……。……そ、それに、そんな間柄なら皆とも気まずくならずに済みますし……」
照れながら。
美少女呼ばわりとか色んな事に照れながら。
杖で足元をほじくりながら、少しだけ、安心した様にホッと息を吐きながら、めぐみんは小さな声で言ってきた。
そんなめぐみんを見ながら、俺も何だか照れてくる。
何だこれ、初々しいカップルみたいだ。
ヤバイ、何これヤバイ、なんか新鮮で甘酸っぱくてドキドキしてきた!
あれっ、つまりコレって、ダクネスやアクアにはどうすんだ。
言った方がいいのかコレ。
どんな関係になるんだろう。
恋人未満……。
恋人未満って事は、恋人っぽいことはしてもいいんだろうか。
恋人っぽいというと、大体どこらへんまでが……。
そんな事を悩む俺に、めぐみんが。
「ではとりあえずは、ちゃんとした恋人に昇格するまではダクネスとアクアには内緒の方向で。……あと、内緒の方向なので、もちろんキスとかえっちな事はお預けです」
「えっ」
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「ウフフッ、いいわー。あなた達、最高よ! 最高に甘酸っぱくてドキドキしちゃったわよ!」
完全に空気だったシルビアが、唐突にそんな事を言ってきた。
しまった、俺の後ろに居たのに完全に存在を忘れていた。
そんなシルビアに対し、めぐみんがキッと睨みながらも。
「……あなたが乱入して来なかったなら、なし崩し的にこの男の嫁になり、きっと毎晩えらい目に遭わされていた事でしょう。……そ、その。今となっては、私としても、少しだけ、早すぎたかなとちょっとだけ安心もしています。なんでしょうか、旅の間衰弱していた事もあり、色々と弱っていた所に優しくされ、グラッと来ていたのでしょう」
あれっ。
「なので、丸く収まった事では一応あなたに感謝します。……そこで、どうでしょう? 私も今は、里の外で暮らしているとはいえ、れっきとした紅魔の者。私から、今日の所は見逃してくれるように皆に頼みましょう。……カズマを置いて、立ち去る選択肢はありませんか? ハッキリ言ってそこのアホな男には、モノ好きな私以外の者にはそこまで人質としての価値などありませんよ?」
……あれっ。
「……なあめぐみん、一応聞きたいんだけど、お前って俺の事好きなんだよな?」
「好きですよ?」
めぐみんが何を今更といった表情でサラッと言ってくる。
そ、そうか……。
釈然としないながらも、とりあえずは自分を納得させてみる。
と……、
「残念だけれどそうはいかないのよ、ごめんなさいね! アタシ、人間の言う事は信用しない事にしているの! その昔、このアタシに甘い声で近づいておきながら、一晩を共にした後はアッサリと逃げていった男が居たのよ! その男は人間でねえ! いつだって、人間は小さな事で区別する。差別する。アタシの場合も、取るに足らない些細な事を理由にその男に逃げられたわ!」
そんな事を口早に並べたて、素早く俺の背後に密着する。
「我が名はシルビア! 強化モンスター開発局局長にして、自らの身体に複合と改造を繰り返してきた者! そう、私は強化キメラのシルビアよ! さあ、この男は貰っていくわ! 里から安全な場所まで逃げ切ったなら開放してあげてもいいわよ! 可愛いボウヤ、もう一度一つになりましょう! 『バインド』ッ!」
……この人も、紅魔の里の連中との長い交戦により、多少影響されたのかもしれない。
シルビアは叫ぶと同時、俺の背後で自分の手をバンザイさせて、すかさずロープを使って俺を再び拘束した。
ハッキリ言って、蘇生後で不調な今の俺の状態じゃあ、背後を取られている以上はとても抗う事など出来はしない。
抵抗する事も無く、俺はされるがままに拘束された。
「カ、カズマっ! カズマを返し……! …………カズマ、今大した抵抗も見せずに再び拘束されたのは、わざとではないですよね?」
「違うよ」
後頭部をシルビアの巨乳の間に埋めたまま、俺は長身のシルビアの体へと、再び両手を縛られて拘束された。
シルビアは満足そうに、俺のリュックの、背負う部分に指を掛け、それを人差し指一本でブンブンと振り回している。
先ほど俺が、めぐみんの家で目潰し代わりに投げたリュックを、まだ律儀に持っていたらしい。
顔を胸に埋める体勢ではなくなってしまったものの、それでもこの体勢は非常に収まりが良い。
シルビアが背が高い為に、胸の部分に俺の後頭部がある状態でも俺はまだ足が地面に届かず、シルビアと一体となったまま、プランとぶら下げられていた。
なんだろうこの安心感は。
……と、そんな俺にめぐみんが、シラッとした冷たい視線を送ってくる。
そんな時だった。
「くっ……! この私が、こんな時に何と言う……! 何と言う不覚……っ!」
その聞き慣れた声に顔を向けると、そこには鎧は外し、ラフな格好のダクネスが荒い息で立っていた。
薄手の黒シャツにタイトスカート。
足元はめぐみんと同じく裸足で立ち、手には大剣だけを持っている。
奥さんに起こされ、慌てて飛び出して来たのだろうか、軽い寝ぐせが付いたままのダクネスは、シルビアをキッと睨みつけた。
その後ろからは、同じく半壊した壁から靴も履かずに飛び出して、裸足で小さな石を踏んで痛そうにしているアクアの姿。
ダクネスがシルビアに向け言い放つ。
「魔王の幹部! そこで貴様の胸に後頭部を埋め、幸せそうに目を瞑っているどうしようもない男を返してくれっ! 私が……! 私がその男の代わりになるからっ! 頼む、カズマの代わりにこの私を人質にしてくれっ!」
突然そんな事を言い出したダクネスに、シルビアが実に愉悦そうにその妖艶な口元を歪めて言った。
「あらあら……! 随分とまあ、罪作りなボウヤだこと……? あなた、良い人が二人も居るの?」
多分そこの女は違う目的だと思うんだ。
さらって欲しいだけだと思うんだ。
そんな二人のやり取りを聞きながら。
「おい変態クルセイダー、くだらない事言ってないでこの状況を何とかしてくれ。と言うか、完全に膠着状態だ。……なあシルビアさん、ここは一つ俺を信じてくれないかな。初対面で何も知らない人間をとても信じられないってのは分かるんだが。今日の所は引き分けって事でどうだ? 里の入り口までは俺を連れてって、そこで開放してくれるとか。……ハッキリ言って里の外で開放されちゃうと、俺の実力だとモンスターにあっさり食われる」
俺は、シルビアにすがる視線を向けながら言ってみた。
そんな俺にシルビアは、
「フフフッ、ダメよ。それにあなたの事は少しだけ知っているわよ? 里への街道を見回っていたアタシの部下達が、逃げ帰ってきた際にあなたの事を話していたの。ウチの軍の幹部連中にも匹敵する様な非道な男が居たってね? フフフッ、アタシは悪魔の一部も合成しているキメラだからねえ……。そんな、非道なあなたは嫌いじゃないわよ?」
俺の頭を空いた手でヨシヨシと撫でながらそんな事を言ってくる。
…………あれっ、今日はめぐみんといいシルビアといい、本当にどうしたのだろう。
運というのはぶり返しがあると聞く。
良い事があると悪い事。
めぐみんとの事は、正直言って物凄くご褒美だった訳なのだが……。
「……ねえ、何だか知らない間にカズマが敵と仲良くなってるんですけど。頭撫でられたりしてるんですけど」
アクアが俺をジッと見たままそんな事を言ってくる。
「……カズマ。おいカズマ。一体何をどうしてそんな所に張り付いている。……全く、油断でもしたのか? 大方、その女の胸にでも魅了されたのだろう。相変わらずな奴め、今助けてやるから、そこを……」
ダクネスが、剣を構えてそんな事を…………。
……………………。
俺はダクネスに向けて、ぽつりと一言。
「お構いなく」
……………………。
「「「「えっ」」」」
その場の女性四人が同時に言った。
それに対して、俺は後頭部を高級なソファーにでもくつろぐ様に、シルビアの胸にゆったり沈め。
「お構いなくと言ったんです。おいお前ら、特にダクネス。お前、最近俺に対して随分とおざなりな扱いじゃないか。ええ? お前、アレだよ? こちらのシルビアさんはな、俺の事を嫌いじゃないってよ。非道な所が見所あるとか言われちゃったよ。全く、最近の俺への扱いの酷さから、うっかり魔王軍へ寝返っちゃおっかなーとか思う所だよ? 謝って。そろそろ、いつも頑張っている俺に対して謝って! めぐみんなんかはさっき、俺に対して日頃のお礼とか言ってくれたぞ。ほら、謝って!」
そんな事をダクネスに対して言ってやる。
一部をアクアに影響されたかの様なその言葉に、ダクネスはしばし呆然とし。
「お……、おいカズマ。悪い冗談はよせ。お前がそういう事を言うと、あまり冗談に聞こえないんだ。そ、その……、お、おざなりだったのは悪かった。スマン、謝る……。いやしかし、実はそれには訳が」
「誠意を見せて! 言い訳しないでちゃんと誠意を見せて! お前、良く見ろよこの状態を。魔王さんとこのシルビア嬢は、俺にたわわな実りでアピールしてんだ。お前の取り柄はなんなんだ? 言ってみろ。ほら言ってみろ!」
ダクネスの言い訳を遮った俺は、ここぞとばかりに言ってやる。
アクアが、俺達を取り囲む紅魔族と共に興味津々に成り行きを見守り、めぐみんは先ほどのお礼の件を持ち出されて今更ながらに思い出し、赤くなる中。
ダクネスが、怯みながらオズオズと、
「うう……。ぼ、防御力……?」
「違うでしょっ! あなたの取り柄はその無駄に男を誘う、いやらしい体でしょっ! 何をすっとぼけた事言ってカマトトぶってるんですか!?」
そんな事を言ってきたダクネスに、俺はシルビアに縛り付けられたままキッパリと。
その俺の言葉に、ダクネスが恥ずかしそうに自分の体を何となく手で隠し、
「わ、私は……っ! べ、別に、誘ってなんて……!」
泣き出しそうに顔をしかめ、そんな事を反論しようとするダクネスに、俺は更に追撃を。
「誘ってるでしょう! あなた、温泉の街ドリスでナンパされたのを忘れたんですか!? 全く、無駄にけしからん体しやがって! 今夜はなあ! 恐らくは俺の幸運が最高潮に達している日なんだよ! 恐らくは人生で一番のモテ期到来って奴だ! ほら謝って! そんな、モテ期で絶好調な俺がホイホイシルビアさんに着いて行かない様に、ちゃんと謝って!」
調子に乗った俺がそんな事を言ってダクネスを困らせていると、ふと、頭に手を置かれた。
どうやらシルビアが手を置いたらしい。
「いいわぁ……。あなた、アタシの見込んだ通りのいい男だったわ! ねえ、本当に魔王軍へと連れて帰って行きたい所よ!」
興奮した様なそんなシルビアに、俺は、彼女にしか聞こえない小声で囁く。
「い、いやあの……。先ほどからのめぐみんとのやり取りを知ってるでしょう? 本気で連れて行かれると困るので、勘弁してくださいね?」
そんな俺に、シルビアもまたコソコソと囁きかける。
「分かってるわ、分かってるわよ色々と。あなた、そんな所も素敵よ、本当に。でもね……?」
シルビアが、今度は皆にもハッキリと聞こえる声で。
「そこのクルセイダーのお嬢ちゃんも大事にしてあげなさいな? あなた、女心に疎いわよ? なんならアタシが色々と教えてあげたいぐらいだわ」
そのシルビアの言葉に、ダクネスが若干動揺した後、シルビアを睨みつける。
そんなダクネスが。
「魔族の者が、随分と人間の女心が分かるものだな。……魔族の年は分からないが、女としての長い経験か何かなのか?」
軽く挑発する様にシルビアへと告げると……。
「あら、そりゃあもちろん分かるわよ。女心も。男心も」
シルビアが、何を当たり前の事をとばかりに言ってくる。
なるほど、男心も女心も全て分かる、魔性の女って奴だな。
めぐみんにはこんな人にはなって欲しくはないものだ。
……だが、後頭部の感触は大変よろしい。
めぐみんには、胸の面ではこんな人になって欲しいものだ。
シルビアが、俺の頭を撫でながら。
「だってアタシ、半分は男ですもの」
そのハスキーな声で、そんな事を言ってきた。
「…………なんて?」
俺は今聞いた事が理解出来ず、首を少しだけ前に出し、シルビアの方を振り向いた。
もう夜明けが近いのかほんのりと、そのシルビアの背後の空が明るくなって来ている。
そしてまだ薄暗いその明かりの中、俺はある事に気がついた。
それはシルビアの顎の下。
それ以外にも、頬の周りが、何だか青っぽい様な…………。
「あら、聞こえなかった?」
シルビアが、俺の言葉に反応し。
その尖った右の耳に付いた青いピアスを煌めかせ……。
「アタシ、キメラだから。あなたの大好きなこの胸は、後から合成して付けたのよ?」
そんな事を何でも無い様に言ってくる。
俺の脳が、その言葉を聞かなかった事にしようと頑張っている。
理解しようとするのを拒否している。
いやだって、それって。
アレですか?
俺は、男性の胸で興奮して、その……?
えっ? …………あれっ?
「……カ、カズマ? そ、その……。き、気を、気をしっかり持ってくださいね? ……ね? しっかりしてくださいね? だ、大丈夫です、落ち着いて……、落ち着いて……!」
そんなめぐみんのか細い声を聞きながら。
俺は、昔どこかで聞いたある話を思い出していた。
右の耳にだけピアスを開けている男は、確か…………。
「でも、あなた本当にいい男ねえ……。こうして撫でているだけで、こう、胸も下半身もキュンキュンきちゃうわ」
そんな事を言いながら。
身長差があるせいか、俺の尻の部分に丁度シルビアの下腹部が当たるのだが。
そこが…………。
「…………シルビアさんシルビアさん。気のせいか、俺のケツになんかあたってるんですが」
シルビアが。
俺が是非一度、女の子に言われたいなと願っていた、俺の世界では有名なあのセリフを、恥ずかしそうにポツリと言った。
「あててんのよ」
「 」
脳が止まった。
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