ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
四部
20話
 窓から差す月明かり。
 それにほんのりと照らされながら、俺はひたすら固まっていた。

 俺の視線の先には深く眠るめぐみんの姿。
 今この空間には二人きり。
 酒が入っているアクアは既に寝て、何か言ってきそうなひょいざぶろーとダクネスは、奥さんの手により眠らされている。
 ……何よりも、外から魔法で鍵が掛けられ、部屋には誰も入れないし出られない。

 
 何と言う据え膳。


 部屋の中に布団は一つ。
 今の季節は春とはいえ、こんな時間帯はまだまだ冷える。
 部屋の中とはいえ、布団も被らず寝たら風邪ぐらいはひくかも知れない。

 万が一風邪をこじらせて肺炎にでもなったら?
 そう、この世界の回復魔法は病は治せないと聞く。
 つまり、戦闘で死んだりするよりも、病で倒れる事は最も恐ろしい事だと言えるだろう。
 俺が布団に潜り込んでめぐみんの隣で寝ていてもなんら問題は無いわけで……。


 何と言う大義名分。


「……………………」

 俺は深く考えてみた。
 ここでスヤスヤと眠るめぐみんにいたずらしてしまっては、俺はそれこそダクネスやアクアの言う所の、鬼畜だの外道だののいわれなき中傷を否定出来なくなってしまう。
 俺は紳士だ、そんな男ではない。

 しかし、今の状況はつまり親御さんが許可をくれているのだ、訴えられても勝てるだろう。
 いやいや、勝てるだろうか?
 そもそもこの世界の裁判システムはどうなっているのだろう。
 クソッ、もっとしっかりと法律とかも勉強しておくべきだった!
 こんな事ならもっと…………。



 …………違うそうじゃない。

 訴えられたらとかそんな話じゃない、論点がズレている。
 ダメだ、俺も色々と混乱している様だ。
 落ち着け、落ち着くんだ佐藤和真、まずは落ち着いて考えよう!

 何か考えるにしても、とにかく寒い。
 こう寒くては、何かを考えるどころではない。
 まずは布団に入って落ち着いてから考えよう。
 俺は、めぐみんを起こさない様に細心の注意を払いながら布団の中に潜り込むと、隣のめぐみんの体温を感じながら、深い寝息を聞きつつ、今一度良く考えを…………。


 ………………。


 ……そうじゃない!

 なんという狡猾な罠だろう!
 気がつくと、俺は無意識の内にめぐみんの隣に添い寝していた。

 俺は慌てて身を起こそうとして気がつく。
 今慌てて布団から飛び出したとしよう。

 すると、丁度めぐみんが目を覚ますんじゃないのか?
 そして、そんな時は漫画やアニメで実に簡単に予想できるお約束の展開だろう。
 そう、俺が何を言っても問答無用で制裁を受ける流れだ。

 そんな展開になれば、俺は何もしていないとか親御さんが勝手にだとか幾ら言い訳しても、どうせ誰も聞く耳持ってくれないのだ。
 そう、痴漢冤罪と同じな訳だ。


 何と言う理不尽。

 俺は、そんな先人達と同じ轍は踏まない。
 どうせ、何もしていないのにそんな不当で理不尽な展開が予想出来ると言うのなら……!







 冤罪では無くしてしまう事にしました。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 めぐみんの深い寝息。
 眠るめぐみんの隣で、布団の中でそっと手を握ってみる。
 ひんやりとしためぐみんの手が心地良い。
 もう魔力が体に篭る事も無い様だ。

 俺は考えた。

 このままガッと行ったら唯の強姦魔だ。
 俺は出来るだけ紳士でありたい。
 となると、めぐみんの布団の中でモゾモゾしている事への正当な理由が欲しいのだが。

 そこで俺は閃いた。

 めぐみんが目を覚まし、なぜ布団の中で寝ていたのかと聞かれたら、春とはいえ今夜は特別寒くて……と言い訳しよう。

 そして、それを言い訳ではなく事実にしてしまえばよい。
 俺には、それを事実にするだけの力がある。
 そう、俺がこの力を手にしたのは恐らくはこの日の為だったのだろう。
 長い時を掛けて鍛えあげた俺の初級属性魔法スキル。
 コツコツと使い続けてきた結果、初級属性魔法のスキルレベルは、俺の所有スキルの中でも最も高い物になっている。

 俺は右手でめぐみんの手を握ったまま、布団から頭と左手だけを出すと、部屋の窓に左手を向けて魔法を唱えた。
「『フリーズ』ッッッ!」

 体内にある殆どの魔力を込めた、鍛え上げた俺のフリーズ。
 それは容易く部屋の窓の表面を凍りつかせると、窓全体を暑さ数センチの氷で覆った。
 一々地面に水を撒き、それを凍らせていた頃が懐かしい。
 今ならば地面に直接フリーズを掛けても、大気と大地の水分で地表を軽く凍らせる事も出来るだろう。

 俺が、そんな自身の成長に喜んでいると……、
「…………ん…………」
 俺の隣で、今のフリーズの声でめぐみんが目を覚ました様だ。

 めぐみんは、そのままトロンと眠そうな目で状況を把握しようと隣で寝ている俺を見てくる。
「おはようございます。よく眠れたか?」
「ああ……。おはようございますカズマ。ええ、大分楽になりました。私はどのぐらい寝ていたのでしょうか……?」

 今の時刻は夜半過ぎ。
 深夜とまでは言わないが、めぐみんがローブに着替え、それから崩れるように眠りに落ちて既に十時間以上は過ぎたのだろうか。

「半日ぐらいかな? 寝てたのは」
 俺が告げると、めぐみんはなるほどと呟いて……。

 そして、ハタと今の状況に気がついたらしい。
「………………で、なぜ私はカズマと手を繋いでいるのでしょう」
 そんな事を、俺の顔は見ずに天井を見上げたまま言ってくる。
 言いながらも、布団の中で手を振りほどいたりはしない様だ。

 俺も同じく天井を見上げたまま。
「そりゃお前、ちゃんと魔力の発散が出来ているかが心配だからだよ」
 俺のその言葉に、めぐみんがなるほどと呟いた。

 そのまま天井をじっと見上げたまま。
「……ここはどうやら、元私の部屋のようですが。なぜカズマが一緒に同じ布団で寝ているのでしょうか」
 そんな事を、静かな、消え入りそうな声で呟いた。

 それに俺は……。
「……言わせんな恥ずかしい」
「何をっ!?」
 その俺の言葉に、めぐみんが手を振り払って跳ね起きた。

「おい、布団めくるなよ寒いだろ。まあ落ち着け」
「何を平然としているんですか! 寝て起きたら懐かしの自分の部屋で、カズマと手を繋ぎながら一緒に寝てたんですよ!? 落ち着いていられるはずが……!」

 言いながら、めぐみんが布団から飛び出してババッと自分の体を手で探る。
 何かされたのかと確認しているらしい。
 そして、そのままホッとしたような表情を……。

「おい、俺が本気で、寝ているお前に何かをする様な最低な奴だとでも思っていたのか? お前らアレだよ? 最近、俺に対する扱いが酷過ぎないか? さっきだって、ダクネスとアクアの奴、俺がお前の妹に何かするとでも思ったのか随分な扱いだったぞ。俺とめぐみんが一緒に寝るって事に関しても、ダクネスの奴えらい言い草だった。……そもそも俺がここ、紅魔の里に居るのは、めぐみんを助ける為、この危険な道のりを頑張って来たからなんだからな?」

 俺はめぐみんが飛び出したせいでめくれた布団をモソモソと直し、寒いので布団から首だけ出した状態で言ってやる。
 それに対して、めぐみんが少しだけ言葉に詰まった。

「……う。そ、それは……まあ、感謝しています……し……、いつも、なんとかしてくれているのはカズマです……。そ、そうですね、ごめんなさい……。私もちょっと言い過ぎました、起きたらこんな事になっていたのでちょっと混乱しまして……。そ、そうですよね、カズマは冗談のノリではセクハラしますけど、こんなシャレにならない状況では、本気で何かをしてくる様な人ではないですもんね」
 言いながら、めぐみんが少しだけ安心した様に微笑んだ。

 凍りついた窓から漏れる、淡くおぼろげな月光の中でめぐみんが立つと、しっとりと濡れた様なその黒髪が、普段はあまり色気を感じさせないめぐみんを、急に大人びて魅せた。
 そんなめぐみんに、俺は相変わらず布団から首だけ出した状態で。

「当たり前だろ、見損なうな。そもそも俺がこの部屋に居るのは、お前の母ちゃんに閉じ込められたからだからな? 背中を突き飛ばされて部屋に入れられ、ドアに魔法で鍵を掛けられた。だから、仕方なく布団に入らせてもらった訳だ」
 その俺の言葉に、めぐみんが深くため息を吐いた。

 それで全てが合点がいったとばかりに。
「全く、家の母は……。すいませんカズマ、謝ります。いらぬ誤解をしてしまいました、随分と失礼な話ですよね、カズマはここまで私を連れてきてくれて、そして、今もこうして隣に寝ていただけで何もせず……。……そうです。私は、いつかカズマに言いたかったのですよ」

 めぐみんが、おぼろげな月明かりの中照れた様に。
 普段は、怒ったり、呆れたり、可哀想な物を見る目で俺を見たりと、そんな表情ばかり印象にあっためぐみんが。
 珍しく、素直そうな少女の顔ではにかんだ。

「……あの時、爆裂魔法しか使えない手の掛かる魔法使いを拾ってくれてありがとう。魔法を使って動けなくなった際、いつも背負って帰ってくれてありがとう。私が廃城を破壊した時、私に借金を全て被せて追い出してしまえば良かったのに、文句の一つも言わずパーティに残らせてくれてありがとう」

 そのまま、淡い月明かりの下。
 黒髪とは対称的な白い頬をほんのりと赤く染め。
 紅魔族の名の元になった、その赤い瞳を幻想的に輝かせながら。

「毎日爆裂魔法を撃ちたいなんて、そんなわがままにも付き合ってくれてありがとう。私が遭難した際も、文句も言わずに捜索隊と一緒に救援に来てくれてありがとう。そして、他にもまだまだ……。沢山の借金を背負わせたり、私が迷惑を掛けた際、いつも尻拭いばかりしてくれて。……皆がいつも一緒に居られる様に頑張ってくれてありがとう。……カズマが居ない所では、いつもダクネスと、カズマの事ばかり話しているんですよ」
 そんな事を、照れながら言ってきた。

 あれっ、何だか凄く気恥ずかしいんですけど。

 普段の俺への扱いが扱いなだけに、急にそんな、改まってお礼を言われたりすると困るんですけど。
 俺は、まともに返す言葉もなく。
 戸惑いながらも、布団に入ったままでなんとか言った。

「……お、おう。まあ、アレだよ。俺もその、何だかんだ言いながらも、お前らの事嫌いじゃないからな。アレだ、お前ら風に言うと……。我が名は佐藤和真。最弱職にして、厄介事にばかり巻き込まれる者。アクセルの街において随一の冒険者。やがては大金を手にし、お前らとおもしろおかしく暮らす予定の者。…………こ、今度ともよろしく頼むよ!」

 自分で言っておきながら途中で恥ずかしくなってきて照れる俺に、めぐみんがクスクスと笑った。

「こちらこそ、今後ともよろしくです。……所で、何だか今日は凄く寒いですね、部屋の中だと言うのに。まあ、ボロ家なので隙間風でも入ってくるのかも知れませんが。……そ、その。カズマは何も、しません……よね? 寒いので、私も布団に入りますよ」
 そう言いながら、めぐみんがちょっと頬を赤くしながら、布団の中にゴソゴソと潜り込んでくる。
 こんな雰囲気の中で布団に入って来られると、物凄くその……、緊張するんですが。

 まあ、確かに今日は寒いししょうがな……………………。








 …………俺は今更ながらに気がついた。


 何と言うフリーズの魔法。


 凍りついた窓を見られたら、何と説明すれば良いのやら。
 あれを見られたなら、せっかくここまで上昇したカズマ株が大暴落するのは間違いない。
 と言うか、ダクネスやアクアに、ドヤ顔でそら見た事かド変態がと罵られるのが目に見えてくる。

 俺は何を血迷ってあんな頭の悪い事をしてしまったのか。
 きっと、俺も少しヤケッパチになっていたのかもしれない。


 めぐみんが、ピタリと俺にくっついてきた。
 先ほど隣で寝ていた時よりも密着している。
「…………め、めぐみん、ちょ、ちょっと近い気が……」
 先ほどまでとは違った意味で緊張している俺に、めぐみんが可笑しそうにクスクス笑った。

「いつもはあんなにセクハラとかしてくるクセに、こんな時は怖じ気づくんですね。それに、さっき言ったじゃないですか。カズマは何もしないんでしょう? なら、別にいいじゃないですか」
 いいんですけど。
 いや、別にいいんですけどね。
 でもあんな会話の後で、しかもそんなに信頼してくれている状態で、今凍った窓とか見られたら普段の比じゃないほどに切れられそうな気がする。

 そんな事を考えていると、俺の右手がひんやりした物に包まれた。
 めぐみんが手を握ってきたらしい。
「……お、おい、年頃の若い娘さんがそんな積極的な事をするんじゃありません。……さっきお前ん家の親御さんにダクネスが言っていたが、ダクネスいわく、俺と一緒に寝かせるのは、一週間絶食させた野獣のオリに、美味そうな子羊でも投げ込む様なものらしいぞ」


 緊張で若干上ずった声で、俺は寒い部屋の中だと言うのに変な汗をかきながら言った。
 それに、めぐみんはクスクスとイタズラっぽそうに笑う。

「ダクネスがそんな事を言っていたのですか? でも以前は、本気でそんな雰囲気になると冗談で誤魔化そうとするヘタレだと言ってましたよ?」

 あんのアマー!

 めぐみんが、俺の手をワキワキと握りながら。
 どこか楽しそうに、からかうように聞いてきた。

「……その後、ダクネスは何か言いませんでしたか?」
 ……なんだっけ。
「確か、お前の父ちゃんのひょいざぶろーさんと俺が寝れば解決だとか言っていたな」
「あ、あれっ? そ、そうですか……」

 その後は、他になんか言ってたか?

 いつものごとくバカな妄想を口走って、めぐみんの母ちゃんに眠らされていた事ぐらいしか記憶にない。

 何だろう、めぐみんのこの反応。
 凄く気になる。
「……なあ、さっき、ダクネスと二人で居る時はよく俺の話をするとか言ってたな。いつも何話してんの?」
 そんな俺の言葉に、めぐみんがちょっとだけ慌てた後、フイッと首を横に逸らした。

「……おい。どうせロクでもない事ばっか言ってんだろ」
「内緒ですよ。そ、それより、もう寝ましょう。カズマも何だかんだ言いながら、私と同じぐらいに寝ていないじゃないですか? いくらアクアから体力を吸っていたとは言っても、体はともかく、寝ないと脳が休めませんよ」

 こいつ誤魔化しやがった。
 ……と、そんな時、めぐみんのお腹が軽く鳴る。
「……ちょっと、何かお腹に入れて来ますね」
 そんな事を恥ずかしそうに言って、めぐみんがムクリと起き上がる。
 まあ、よく考えたらめぐみんは、ろくに食事も取らず、昼から今までずっと寝ていた訳だ。

 ……あれ、ちょっと待て。
「あ、オイ。ドアに外から魔法の鍵が掛かってる。お前の母ちゃんが掛けていったぞ」
 そんな俺の言葉に、めぐみんは苦笑する。

 そして……。
「全く。カズマ、私の母に大金が入る事でも言ったのでしょう? 家は事情があり、昔から困窮していましてね。私も、朝と夜の自分のご飯はこめっこにあげて、族長の娘ということで裕福なゆんゆんから、良心が痛む中、毎日あの手この手で昼ご飯を巻き上げたものです。まあ、家は見ての通り貧乏なボロ家です。二階でもないんですし、窓から出れば……………………」
 めぐみんは、言いながら窓を見て固まった。

 …………俺は布団の中に頭を潜らせ丸くなる。

 そう、今こそ潜伏スキル発動の時。

 俺がそんな事をしている間、めぐみんが窓を見ながら呆然と。
「……カズマ、これは一体なんなのでしょう」
「…………さっき、通りすがりの冬将軍が窓を凍らせて立ち去ってったよ」

 めぐみんが、俺が隠れていた布団をバッと捲り上げた。

「カズマ、これはどういう事ですか!? いや、カズマがやったんでしょう? カズマがやったんでしょうけれども、意図がサッパリ分からないんですが! 何を血迷って窓を凍らせたんですか!?」

 寒い!
 布団取られると本当寒い!
 俺は丸くなりながらもめぐみんから目を逸らしたまま。

「……素直に言ったら怒らないか?」
「何も言わない気なら、アクアの蘇生を前提に明日の朝には爆裂魔法を撃ち込みますよ」



 俺は素直に全てを白状した。



「……………………アホなんですか? カズマは、賢いのかアホなのかどっちなんですか? 先ほどの私の気持ちを返してください。後、思い切りダクネスやアクアの言った通りじゃないですか」
「何も言い返す言葉もありません。今思えば、俺もなぜこんなバカな事をやらかしたのやら」
 俺も長旅で脳がおかしくなっていたのかも知れない。

 めぐみんが、凍りついた窓に張り付きそれを軽く叩いてみる。
 殆ど全ての魔力を注ぎ込み、そして長い間に鍛えられた俺の全力のフリーズは、ちょっと叩いたぐらいでは割れない程度の氷の厚さを保っていた。

 それを見ためぐみんがドアに駆け寄ると、
「我が母ゆいゆい! ここを開けてください! ちょ、開け……! お母さーん、お母さーん!」
 叫びながらドアをドンドンと叩く。
 だが、家の中はシンと静まり返り誰も起きてくる気配はない。

 俺は、寒いのでモソモソと布団を自分に掛け直し。
「……もうアレだよ、寒いし寝ようぜ。大丈夫だよ、何もしない、俺を信じろ」
「先ほどまでなら信じられましたが、今はこれ以上にない身の危険を感じますよ」

 めぐみんが、言いながら部屋の隅っこで膝を抱えて丸くなる。
 さっきまでの良い雰囲気はどこへ消えた。
「悪かったよ、何もしないってば。窓にフリーズ掛けた時は、色々とムシャクシャしてたんだ。反省している。悪かった」

 そんな俺の言葉に、
「……せめて布団から出て言ってくれればいいのに」
 言いながらも、やはり寒いのか何かを諦めたかの様に、めぐみんは布団の中に入ってきた。
「わあい!」
「カズマ、本当に、夜が明けたら覚えておいてくださいね」
 喜ぶ俺に、めぐみんが赤い瞳を爛々と輝かせて釘を刺す。

 明日の事は明日になったら考えよう。
 先ほどは自分から手を握ってきてくれためぐみんが、今では布団の端っこでこちらに背を向けていた。
 何だか倦怠期の夫婦みたいだ。

「……おい、寒くないか? 俺は寒い。もっとこっちに来ようぜ」
「……本当に、先ほどの良い雰囲気を返して欲しいですよ」
 ため息をつくめぐみんに、俺は出来るだけ小さく呟いた。

「『フリーズ』」

「今、寒いとか言っときながらまた凍結魔法を使いましたか!? どれだけくっつきたいんですか!」
 めぐみんが、呆れたように怒った後。

「はあ……。枕は一つしかないですから、カズマが使ってください。その代わりに腕を貸して貰います」
 何かを諦めたかの様に、そんな事を言いながらくっついてきた。

「あれっ、そんな急に素直にくっつかれるとそれはそれで困るんですけど」
 そんな俺の言葉を他所に、俺の右腕を勝手に枕代わりにし、布団を頭まで被っためぐみんは、胸元に顔を埋めてきた。
 そのまま、俺の胸元に顔を寄せた状態で。

「ダクネスに、『本気でそんな雰囲気になると冗談で誤魔化そうとするヘタレ』と言われるだけはありますね」

 めぐみんは、そんな事を布団の中で言いながらクスクス笑った。
 そんな近くで布団の中で息を吐かれると、めぐみんの吐く息で熱がこもって、胸元が熱いんですけど。
 ドキドキするんですけど。

 と言うか、このままだと俺の下半身がエクスプロージョンを唱える事態に。

「おい、好きでも無い相手にこういう事すんなって以前言っただろ、お前、男ってのはな、こういう事されると勘違いするんだよ。もてない男なんてな、手を握られただけでもうっかり好きになったりするんだからな。マジ気をつけろ」
 俺が緊張で上ずった声で、布団を被っためぐみんに言う。

 すると、布団の中でそっと背中に手を回されて、そのままギュッと抱きしめられ。
「野宿してた時、言いませんでしたっけ?」
 布団の中で表情が見えないまま、めぐみんのくぐもった声が聞こえてきた。


「私はカズマの事好きですよ、って」
続きはノクターン(ry






この作品なので、次回でラブコメ展開か?
などと淡い期待はしないでください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。