体が痛い。
と言うか、首が痛い。
具体的には、俺が殺された時に攻撃を食らった所が凄く痛い!
「アクア、首が痛い! これ大丈夫なのか? 俺、いきなりまた死んだりしないのかよ!?」
絶対安静と言われた俺は。
「大丈夫よ。……多分。その痛みは体の痛みじゃなくて、カズマの魂の方が、死ぬ瞬間のダメージを覚えているの。つまり、体の傷は癒えたけれど心の傷がまだ癒えていない感じね。そっちの傷は、魂だけの存在になってる時にでも蘇生魔法のでもかけてもらえばいけるんじゃないかしら。もう一度エリスの所に行って治してもらって来る? 一日に二度も蘇生させるなんて前代未聞だけど、なんとかなるんじゃないかしら。……多分」
「だから、多分はやめろよこえーんだよ!」
現在、支援魔法で一時的にドーピングされて紅魔の里への道を進んでいた。
「うう……。すいませんカズマ、私をおぶる際、もうちょっと手を……。手を、太ももとかにはやれませんか? さっきからお尻こねくり回してません?」
そんな体でめぐみんを背負いながら、
「こねくり回してはいない。少しでもお前を効率的に運び易い様に、数分刻みで持つ位置を変えたり尻を握り直したりしているだけだよ」
「それをこねくり回すと言うのですよ! なにか私、一番カズマに色々されている気がするんですが」
そんなめぐみんの苦情を背に受け、聞き流していた。
遠くで何かが弾ける音。
何気なく振り返ると、その方角には炎の柱が立ち上っていた。
それをめぐみんが、俺の背中から首だけをそちらに向け、心配そうに見続けていた。
「ゆんゆんの魔法は凄いわね! 大丈夫よめぐみん、ダクネスも付いてるし! ちゃんと後から追いついてくるわ!」
ダクネスとゆんゆんは、現在魔王の手先と交戦中。
先ほど目を覚ましためぐみんが、遠巻きに見ていた魔王の手先を大量に巻き込み、盛大に爆裂魔法を炸裂させた。
敵の近くにいたダクネスが爆風で転がったが、平気な顔ですぐに起き、そして、戦えない俺とめぐみんがいると凄く邪魔だと言われてしまった。
そしてなんだか凄く嬉しそうに、ここは私に任せて先にいけとか騒いでいた。
既に魔王の手先達は凶悪な爆裂魔法の威力を見て、ほとんど戦意を失っていたのだが。
ダクネスがはあはあ言いながら、本当に嬉々としていたので置いてきた。
ゆんゆんが火力要員として付いててくれると言うので遠慮無く。
爆発の音を聞きつけて、きっとワラワラとモンスターが集まって来るのだろうが、ダクネスがゆんゆんを守り、ゆんゆんが攻める。
あの二人だと何だか凄くバランスが取れている気がする。
うん、任せておいても大丈夫だろう。
俺は、ドレインでギリギリまで体力を吸われ、動けなくなっためぐみんを背に、里への道を早足程度の速度で歩く。
隣には、アクアが皆の荷物と俺の武器や鎧を背負いながら、文句も言わずに運んでいた。
そんなアクアが、少しだけ懐かしそうに、楽しそうに。
「ねえねえ、こうして三人で居ると最初の頃を思い出すわね! カズマがまだ何のスキルも覚えていない、ショートソード振り回すだけの子だったあの頃!」
そんな舐めた事を言い出したアクアに、俺も過去を懐かしく振り返る。
「あったな、そんな頃が。お前が、手も足も出ずにカエルに食われ、泣きじゃくっていた頃な。そういや弱っためぐみんをおんぶするのって久しぶりだな。あの頃は、魔法を撃つ度に動けなくなっていたな」
「……懐かしいですねえ。あの頃は、まだカズマも今よりずっと紳士的でピュアでした。何度もおんぶしてくれましたが、こうしてお尻触ったりはしませんでしたよね」
背中のめぐみんが、懐かしそうにクスッと笑った。
「お前が、ゆんゆんに物事には対価が必要だって言ったんじゃないか。おんぶにだって対価が必要だろ?」
「対価と抜かしましたね、やはり気のせいでなくお尻まさぐっているんじゃないですか!」
俺にかなりギリギリまで体力を吸われためぐみんは、何だか結構元気そうだ。
めぐみんが耳元で騒ぐ中、再び遠くから音が響いた。
向こうも頑張ってくれている様だ。
今のうちに距離を稼いでおかないと……。
「……でも、本当にこうしていると昔を思い出します。馬小屋で寝泊まりして、カエル相手に苦戦したり、ダクネスが、モンスターの群れに嬉々として突っ込んでいったり」
背中でのんびりと、懐かしそうに言うめぐみん。
思い出すなあ、苦労したあの頃を。
思えばあの頃は、全員にもっと手を掛けさせられたもんだった。
アクアはヘマをやらかし、めぐみんは魔法を撃つ度に倒れて俺がおぶり。
ダクネスは嬉々として敵の囮になりたがり、俺もとばっちり食らったり死んだりしたり……。
それが今となっては、皆も随分と頼もしく……。
頼もしく。
頼もし……?
「……なあ、俺は相変わらずアッサリ死ぬし、こうしてまためぐみんをおんぶしている。そしてダクネスは現在、嬉々としてモンスターの群れに突っ込んで囮になっている。……なあ、ちゃんと成長してるのか? 俺達、昔と比べて実はあんまり変わってなくないか?」
俺のそんな言葉に、めぐみんとアクアが黙り込む。
「……わ、私は成長しているわよ! ほら、今だってこうして荷物背負って二人を守りながら里に向かっているでしょう? 少しは頼りにしたっていい頃だと思うの。私だっていつまでも、カエルに食べられて泣いている訳じゃないわ。この辺りはさっきみたいな悪魔崩れのモンスターがウロウロしているでしょうね。今は二人が戦えない状態だし、何かが出たら私を頼りにしていいからね」
アクアが強気でそんな事を言ってくるが、こいつがそういった系の発言をするともう嫌な予感しかしない。
だが、確かに今戦えるのはアクアのみだ。
正直、こうしてめぐみんを背負って歩いているだけでも首後ろがズキズキ痛み、そこからジンワリ血が滲んでいる様な感覚に囚われてくる。
触ってみると血など付いてはいないのだが。
しばらく進んでいると遠くから敵の気配を感知した。
体は万全では無くとも、こんなスキルぐらいはちゃんと使える。
俺はアクアに立ち止まるように合図をすると、しばらくその場に留まった。
先の気配は動かない。
「……この先に敵がいるな。動く様子も無い。……検問でも張ってるんじゃないだろうな」
そんな予想は当たるもので、先ほど見た鬼みたいなモンスター十匹近くが街道を封鎖していた。
俺は、遠く離れた茂みの中から千里眼スキルでそれを確認し、めぐみんを背負ったままアクアに尋ねる。
「一応このままダクネスとゆんゆんを待とうと思う。あいつらもそろそろ追いついてきてもいい頃だ。ここで連中を遠目に監視しつつ、ちょっとだけ休んでおこうか」
それにアクアが頷いて、背負っていた荷物を街道脇にドンと下ろした。
なんだかんだで結構歩いた上に、よく考えたら朝飯も食っていない。
時刻はそろそろ昼になりそうだが、ダクネス達はそろそろ現れてもいい頃合いだと思うのだが。
めぐみんを、街道から離れた、地面に敷いたレジャーシートみたいな布に寝かせると、俺もその隣で寝転んだ。
生き返った後は絶対安静と言っていた意味がよく分かった。
今までは安静にしていた為にそんな事は無かったのだが。
今は、酷くダルく、首が痛い。
ぐったりしている俺とめぐみんを見ながら、珍しくアクアがテキパキと動いていた。
甲斐甲斐しく朝食兼昼食の用意を始め、俺とめぐみんの分のコップを用意してくれる。
一体どうしたんだこいつはと思っていたら。
「ねえ、どう? どう? 昔と比べてどう? 私だって頼りになるようになったでしょ?」
……ああ、先ほどの話を引きずっていたのか。
「偉い偉い。頼りにしてるよ。それよりもめぐみん、何か少しでも腹に入れておけよ。里までは後少しだからな。寝るなよ? 次に寝たら流石にもう、ドレインでの緊急措置は出来ないぞ」
アクアを適当にあしらって、グッタリしているめぐみんを見る。
……と、めぐみんが、アクアが下ろした荷物を背にして寝転んだまま。
「……そう言えばカズマ。……見ました?」
そんな事を聞いてきた。
見ました。
「……ええと、どれの事だろう。心当たりが多すぎまして……」
「お尻の刺青の事ですよ! 他に何を見たんですか!? そう言えば、目が覚めたら下着がずり降ろされていたんですが、本当に、どこまで見ました!?」
興奮しためぐみんが食って掛かるがどこまで答えていいものやら!
「お、落ち着け、お前今、体力がギリギリな状態だろ! 安静にしとけ! 見たのはケツのバーコードだけだよ、大丈夫、それ以外は見てない、見てないから! て言うか距離はあるけど静かにしろよ、敵に見つかったらどうすんだ!」
興奮しためぐみんが俺の胸ぐら掴んではあはあ言ってのし掛かって来る。
そんなめぐみんは俺の言葉に、掴んでいた俺の胸元から手を離し、
「はあ……。全く、本来ならば紅魔族は、あの刺青を見られる事が最も恥ずかしいはずなのですが……。ですが、カズマ相手だと見られたのが刺青で良かったと思えてくるから不思議です」
そう言ってため息を吐き、再び荷物を背にして横たわった。
ケツバーコードは、そんなに恥ずかしいものなのか。
……いや、と言うかなぜバーコードが。
あれか、日本からのチート持ちが異世界入りした時に、ノイズって国に仕官でもしたのだろうか。
でもバーコードなんて作れる技術、ちょっと現実的じゃない気がする。
バーコード付いてるって事はピッてする奴もあるって事だろ?
それに紅魔族の肉体改造だの、技術大国と言われた、俺の居た日本ですらそうそう出来ない事だと思うのだが。
アクアがここに送った奴の中に、そんな技術チートを貰った奴がいたと考えるのが一番妥当なのだろうが。
大体、時系列とかどうなってるんだ。
と言うか、紅魔族の歴史は浅いそうだが、そもそもの疑問が……。
「……なあアクア。お前って今幾つなのか聞いてもいいか?」
カランッ、と音がした。
それは、火を起こそうとでもしていたのか、アクアが、拾い集めていた薪を落とした音。
「……ねえカズマ、女神に年聞くってどういう事? あんた、そろそろ本気で罰当てるわよ。……言っておきますけど、私があなたと出会ったあの部屋は、時間の流れが凄くゆっくりなんです。つまり、あなたの言う所の年齢計算では、私の年齢を表すことが出来ないと言う事。その辺が分かったなら、二度とこんな質問はやめてください。でないと本当に天罰を与えますよ佐藤和真さん」
妙に真面目ぶった口調でそんな事を言ってくるアクアに、俺は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。
「……なんだ、ババアか……」
「なんですってええええええ! ふざけんじゃないわよあんた誰がババアよ住んでた場所の時間の流れがゆっくりだからあんたよりも長く生きてるだけでババアではないわちょっと待ちなさいよっ、わああああああああああああああーっ!」
「アクア! アクア、声が大きいです、向こうの敵に気づかれますよ!」
そんな警告をするめぐみん自身も、結構小さくない声を出す。
もちろん気づかれました。
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「やっぱりだ! やっぱり、ちっともお前は成長していない! いつもより役に立つ時は絶対に何かやらかす、そんな奴なんだよお前は!」
こちらに向かって駆けて来るのは、先ほど戦った鬼みたいな姿の魔王の尖兵達。
「あんたちょっと待ちなさいよ! 私がついつい叫んじゃったのは、あんたが失礼な事言うからでしょ! 言ってみれば、今回の件は私じゃないわ! 私が成長していないんじゃない、カズマがちっとも成長していないのよ! このヒキニート! ロリコンニート!」
「お前って奴はまた言いやがったなクソビッチが! 俺はロリコンじゃないっていつも言ってるだろうが! 俺は子供好きなだけなんだよ! 頭に来た、今日こそここで決着つけてやる!」
「二人とも、いい加減に少しは成長してください! ほらっ、こっちに来ますよ!」
めぐみんの言葉の通り、十匹ほどの魔王の手先がこちらに向かって駆けて来た!
「おいどうすんだ! お前、あいつら相手に戦えるのか!?」
俺のその言葉に、アクアが首をクリクリとひねって見せた。
……どうも、ゴキゴキと首を鳴らしたかったらしい。
そのまま、地を何回かザッザッ、と蹴り、体を半身にして拳を構え。
「ふふ。私の事を成長していないって言ったカズマ。私が近接格闘スキルを持っていたのを忘れていない? あんな雑魚が相手なら片手で十分。まあ見てなさいな、たまには女神らしい所を見せてあげるわ!」
……アカン。
もうこの後の展開が目に見えるので、俺はめぐみんを背負おうと立ち上がる。
見れば、もうかなりの距離にまで魔王の手先が接近している。
めぐみんを背負ったままどこまで逃げれるか分からないが、もう、いつゆんゆんとダクネスが追いついてきてもおかしくない頃合いだ。
来た道を引き返せばなんとかなるかも知れない!
「アクア、逃げるぞ! 変なポーズとって威嚇していないでとっとと来い!」
魔王の手先相手にちょろちょろと色んなポーズで威嚇するアクア。
俺は、既にアクアに背を向けて、そのままめぐみんを背負おうと……。
俺がそんな逃げる準備をしていると、アクアが小さく呟いた。
「……あっ」
その声に振り向くと、そこに見えるのは必死の形相でこちらに向かって駆けて来る魔王の手先。
それらが皆、武器を構えるでなく、その場に武器を投げ捨てながらこちらの方に駆けて来ていた。
…………!?
何事だと思ったその時、突如として何もない空間から黒いローブを着た集団が現れた。
いや、全員が黒いローブではない。
二人ぐらいは、黒色の、ライダースーツみたいなツナギを着て、指先が空いた手袋をはめていた。
その集団は、それぞれが短めの杖を持っていたり、手に何も無かったりと武器の類はマチマチだ。
他にもまだ隠れているのかも知れないが、現れた人数はざっと四人。
持っている武器や服装はマチマチだが一つだけ共通して言える事があった。
それは、彼らの瞳が赤い事。
めぐみんやゆんゆんと同じ、深い真紅の瞳だった。
紅魔族。
俺はすぐさま理解した。
何もない空間から突然現れた様に見えたのは、ゆんゆんが使っていた光を屈折する魔法の為だ。
きっと魔王の手先を襲撃する為に、姿を隠して襲いかかったのだろう。
今、俺達にその姿が見えているのは、きっと光を屈折する魔法の効果範囲の中に入った為。
そして、魔王の手先がこちらに向かって必死になって逃げているのは、きっと俺達に気付いたから襲いかかって来ていたのではなく、いち早く紅魔族の襲撃に気がついて慌ててこちらに逃げて来たのだろう。
その証拠に、魔王の手先が今更ながらに足を止め、追って来る紅魔族と、こちらの俺達三人を、戸惑った様に交互に見ていた。
やがて、そいつらは俺達三人の方が与しやすいと踏んだのだろう。
こちらに向けて駆け出そうと……!
した、その瞬間。
「肉片も残らずに消え去るがいい、我が心の深淵より生まれる、闇の炎によって!」
「もうダメだ、我慢が出来ない! この俺の破壊衝動を鎮める為の、贄となれええーっ!」
「さあ……! とこしえに眠るがいい……。我が氷の腕に抱かれて……!」
「お逝きなさい……。あなた達の事は忘れはしないわ……。そう、永遠に刻まれるの……。この私の魂の記憶の中に……」
それは、魔法の詠唱……。
ではなく。
きっと、それぞれの決め言葉か何かだったのだろう。
彼らは魔法で身体能力を強化しているのだろうか、あっという間に魔王の手先に追いつくと。
やがて、全員が全く同じ魔法の詠唱を開始した。
それを見て、魔王の手先が手を突き出し……!
「ちょっ……! 待っ……! やめっ……!」
魔王の手先の一人が何かを言おうとした瞬間、既に紅魔族の魔法は完成していた。
「『ライト・オブ・セイバー』!」
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」
「セイバーッ!」「セイバーッッッ!」
次々と叫ぶと同時、彼らの手刀が輝いた。
その輝く手刀が魔王軍の兵士達に向かって、次々と振るわれる。
やがて……。
ズッタズタ。
その場には、ズッタズタにされた魔王の手先十体分の残骸が残るだけとなっていた。
何これ怖い、紅魔族超怖い!
数の多かった魔王の手先の方が逃げる訳だよ!
先ほどお前らが決め台詞で言っていた、闇の炎だの氷の腕だのはどこに行ったんだなんて、そんなツッコミすら躊躇するほどに恐ろしい。
……と、その紅魔族の一人が俺達に視線を向けた。
思わずドキリとするが、大丈夫。
俺達はめぐみんの仲間な訳だ。
そう、紅魔族の仲間の命を助ける為にやってきたのだ。
その内の一人、先ほど、魔王の手先相手に肉片も残らずに消え去るがいい、だの言っていた男が。
「遠く轟く爆発音に、魔王軍襲撃部隊員と共になんとなくこんな場所まで来てみれば……! なんと、そこに居るのはひょいざぶろーさん家のめぐみんじゃないか? 一体こんな所でどうしたね?」
そんな普通の口調で気さくに話しかけてきた。
めぐみんがそれを受け、よろめきながらも立ち上がると。
「おっと、靴屋のせがれのぶっころりーじゃないですか。お久しぶりです。ゆんゆんから手紙が届きませんでしたか? 実は恐るべき強敵との死闘の末、紅魔族ローブが使い物にならなくなりまして。ぶっちゃけ、もうすでに体力の限界に近いのです。ボンッってなる瀬戸際なのですよ」
そんな、どこからツッコめばいいのか分からない事を言い出した。
そんな中、他の紅魔族の人達も、こちらを興味津々といった感じで眺めている。
「なんとまあ……。そりゃあ難儀な事だろう。ゆんゆんからの手紙? そりゃひょっとして、『ゆんゆんの癖に生意気だ!』とか言いながら、族長の姪っ子のねりねりが、紙飛行機にしていたヤツかな?」
ゆんゆんはこっちじゃそんな扱いなのかオイ。
ぶっころりーだとか言ったその男は、やがて遠くを見ながら片手を両目の上にかざし。
「おお? 噂をすればだ。ありゃゆんゆんじゃないか? 鎧の騎士と一緒だが」
その言葉にそちらを向くと、遠目に見えるそれは確かにダクネスとゆんゆんの姿。
それに俺は手を振ると、二人はこちらに向かって走り出した。
やがて、無事合流できた二人を見ると、二人とも目立った傷も無く、元気そうな姿にホッとする。
やがて、俺の傍に並ぶダクネスとアクアを見て。
「ところでめぐみん、こちらの方達はお前さんの冒険仲間かい?」
そんな事を尋ねてきた。
それに、少しだけ嬉しそうにめぐみんがはにかみながら、コクリと頷く。
それを見て、ぶっころりーがいたく真剣な表情を浮かべ、マントをバサッと翻した!
「我が名はぶっころりー。アークウィザードにして、上級属性魔法と空間転移魔法を操る者。紅魔族随一の靴屋のせがれ。やがては紅魔族の靴屋となる者……!」
突然そんな自己紹介を始めるぶっころりー。
本来ならば唖然とする所なのだろうが、俺は、既にめぐみんとゆんゆんの二人によって耐性が付いている。
「これはどうもご丁寧に、我が名は佐藤和真と申します。アクセルの街で数多のスキルを習得した者。どうぞよろしく」
俺が何となく、軽く相手に合わせた自己紹介をすると。
「「「「おおおおーっ!」」」」
突然、紅魔族の人達がそんな驚きの声を上げた。
……やらかしちまったか?
「素晴らしい、実に素晴らしい! 普通の人は、我々の名乗りを受けると微妙な反応をするものなのですが……! まさか、普通の人がそんな返しをしてくれるとは!」
そのぶっころりーの言葉に他の紅魔族がウンウンと頷く中。
「……。カズマ、随分と仲良さそうでいいですね! 私の自己紹介の時には、そんな返しはしてくれなかったのに!」
めぐみんが、妙な事を口走り出した。
何だろう、これはどう反応をするものなのだろう。
普通ならば妬いてるのか? とかちょっとドキドキする所だが、相手は年上の兄ちゃんで、しかもさっぱり意味が分からない。
……が、紅魔族の感性からすると何かイラッと来るものなのだろうか。
何だろうコレ。
妬かれてる気も全くしないしちっとも嬉しくない。
ラブコメめいた物に発展する色気も全く感じられない。
何これ。
そんな中。
「我が名はアクア! 水の女神にして、世界中で崇められし存在にして、現在はアークプリーストにその身を落とせし者!」
突然、誰かに求められたわけでもないのにそんな自己紹介を始めたアクア。
どうやら紅魔族の連中に早速影響されたらしい。
「「「「そうなんだ、凄いですね!」」」」
「待ってよー! なんで? ねえ、なんで私だけいつもそんな反応なの!?」
喚くアクアから視線を外し、紅魔族の人達が少し期待を込めた目でダクネスを見る。
それを受けて、ダクネスがたじろぎながら……!
「……うう。わ、我が名はダスティネス・フォード・ララ……ティー……ナ……。アクセルの街で……うううう……っ!」
皆の期待に応えようとするも、恥ずかしいのか、注目を集めながら徐々に声が小さくなっていくダクネス。
恥ずかしさに涙目になり、頬を染めてボソボソ言うダクネスを、ニコニコと見ていたぶっころりーが。
「いやいや皆さん素敵な仲間達で何よりだ! そうだ、めぐみんもそんな状態ならば急いで里に帰りたいだろう。私がテレポートの魔法で紅魔の里へ送りましょう! さあ、皆さんこの魔法陣の中へとどうぞ」
おおっ、なにそれ助かった!
めぐみんが、これ以上苦しまなくて済みそうだ!
俺達四人は嬉々として魔法陣の上に乗る。
それに続いて、紅魔の里の人達とあまり喋りもせずに、なんだかずっと大人しくしていたゆんゆんも。
……と、それを見て、ぶっころりーが申し訳なさそうにゆんゆんに。
「悪いゆんゆん。テレポートの魔法って四人用なんだ……」
「!?」
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