カズマです。
日本出身の冒険者です。
夢は、金銭的に何の心配も無い状態でのんびりだらだら好き勝手に生きて行く事。
そんな平凡な夢を持ち、適当に、そして平和に生きてきた俺ですが。
「いたかっ!? こっちの影にはいない! 相手は潜伏スキル持ちだ! 何も無さそうな所でも、触ってみろ! 絶対に逃がすな、捕まえろ! ダスティネス家の名に賭けて、あの男を絶対に捕まえ、私の前に連れて来い!」
「「「かしこまりましたお嬢様っ!」」」
現在、マジギレのダクネスからどう逃げようかと思案中です。
「カズマーっ! どこだっ! 今自分から大人しく出てきたならば、全力パンチ十発で許してやる! だが、私が見つけた場合はそんな温い物で済むと思うなよっ!」
ブチ切れたダクネスが、潜伏している俺のすぐ傍で叫んでいた。
暗がりに身を潜め、俺はジワリジワリとそこから離れる。
そしてなんとかある部屋の前に辿り着くと、どうか鍵が掛かっていません様にと祈りながらドアノブへと手を掛けた……!
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俺はダクネスの口元を右手でガッとわし掴むと、そのまま部屋の中に押し入った。
ダクネスが目を見開きうろたえ、俺の右手を左手で掴んだ。
そのまま俺を引き剥がそうと、俺の肩に右手を置くが……、
アクアの支援魔法で強化されている俺は、そのぐらいではビクともしない。
ダクネスのむーむーと呻く声を聞きながら、後ろ手にドアを閉め鍵を掛ける。
ガチャリという鍵の音を聞いたダクネスが、なぜか一瞬、ビクリと身を震わせた。
俺はそのままダクネスに反撃されない様、右手で口を押さえたまま、左手で俺の肩に置かれたダクネスの右手首を掴み、素早く部屋の中を確認する。
今まで寝ていたからだろう、部屋の中に灯かりは無い。
窓から射す月の光だけが、俺とダクネスの顔を照らしていた。
声真似をしていた時に、顔を隠していた黒いマフラーは下ろしている。
暗視能力の無いダクネスにも、月の光で俺の顔がしっかりと見えているはず。
このまま取り押さえて話をするにも、まさか床に押し付けるわけには……。
ダクネスの後方には大きなベッド。
俺はダクネスに右腕を掴まれたまま、そのまま右腕に力を込め、グンとダクネスを
持ち上げる。
「ッ!?」
まさか貧弱な俺に、片手で持ち上げられるとは思わなかったのだろう。
持ち上げるというよりも、俺が口元を掴んだ右腕をダクネスが掴み、ダクネスが自分の力で俺の腕にぶら下がっている格好だが。
そのまま一気にベッドまで駆け、勢いはそのままに、掴んだダクネスをベッドに押さえつける様にその体を押し倒した。
バフッと柔らかい音と共にダクネスの身体がベッドに埋まり、そのままダクネスに蹴られない様にと、ダクネスの両足の間に身体を入れる。
そして左手で掴んだままのダクネスの右腕を、ダクネスの頭の上、枕の上部に押さえつけた。
結果。
下着も付けず、黒のタンクトップ一枚と同じく黒のスパッツみたいな物を履いた薄着のダクネスを。
俺は片手を掴んで口元を押さえつけたまま、のしかかる様にベッドの上に押し倒す形となっていた。
よし、これでようやく抵抗されずに話ができ……?
…………途端にダクネスが、俺の右腕を掴んでいた自分の左手から力を抜いて、そのままクタッとベッドの上に投げ出した。
ダクネスの目尻に薄く涙が浮かび、瞳が潤む。
そして月明かりの下、ほんのりと火照った頬が見て取れた。
俺に口を押さえつけられている為、フウフウと荒い息の音だけが部屋に聞こえ……。
…………あれっ!?
ナニこの状況、ヤバくないか。
おい抵抗しろよ、いやされたら困るんだけど!
支援魔法のおかげで今ならダクネスに力負けする気は無い。
が、こんな、諦めたような無防備な状態になられると色々と……!
色々と、色々と問題が…………!
俺は暗く静かな部屋の中、小さな声で囁いた。
「お、おいダクネス、誤解するなよ。今凄く妙な状態になっているが、アレだからな。俺はお前に話を聞きに来ただけだからな。勘違いするなよ……、おっ、おいっ! 諦めた様に目を閉じるなよ! 止めろよ! どんどん妙な空気になっていくだろ! 止めろ! ヤバイ、色々ヤバイって!」
ナニがヤバイって俺がヤバい。
具体的にはナニがヤバイ。
事情を聞くのと説得の為に侵入してみたら、ダクネスがエロかったのでそのまま流されるままに一線越えてきましたなんて言ったら、連日、あいつらが飽きるまで爆裂魔法とリザレクションのコンボを食らうかもしれない。
領主にダクネスの純潔が散らされるのを阻止する為に、先に俺が散らしてきたのでこれで問題解決! なんて言えない、言える訳が無い。
俺はダクネスの口を押さえながら、そのままガクガクと揺さぶった。
「おい、いいからそのまま聞けよ! 俺はお前に事情を聞きにここに侵入して来たんだよ! いいか? 今から口を押さえてる手を離すから、大声出すなよ? いいか? 俺は話をしに来たんだからな? な?」
俺の必死の訴えに、ダクネスが薄っすらと目を開けてそのままコクリと頷いた。
良かった……。
どうしてだか、今までのどの敵との戦いよりも緊張したし焦った。
「よし、じゃあ離すぞ? 叫ぶなよ?」
ダクネスが、コクコクと頷くのを見てから俺はその手をそっと離した。
もし叫んだら、またいつでも口を塞げる体勢を取りながら。
口を開放されたダクネスは、そのまま恥かしそうに、フイッと横を向く。
「その……。カズマ、せめてお前も横を向いてはくれないか。こんな至近距離でこんな状態で見つめ合いながら話をすると言うのは……」
そのダクネスの言葉に、俺は慌ててダクネスが向いている方とは反対側に顔を向け。
「お、おう、そうだな。す、すまん、こんな状態で! ……しかし、お前アレだよ、何であんな手紙……」
俺がダクネスから顔を背け、ダクネスから注意を外したその時だった。
「曲者ーっ! 犯され……むぐう……っ!」
ちょっ、やりやがったなこの女!
畜生油断したクソッタレ!
慌ててダクネスの口を押さえたが既に遅く、廊下からバタバタと音がする。
それはこちらに駆けて来る誰かの足音。
ヤバイヤバイヤバイどうするっ!
俺の下では口元を押さえられたダクネスが、勝ち誇った様な挑発的な目で俺を見ていた。
あきらかにその目は笑っている。
この女ー!
「お嬢様! どうなされましたお嬢様! 只今ドアを開けます、失礼します!」
そんな声が聞こえると共に、ドアの鍵の部分からガチャガチャと……!
くそっ、勝ち誇ったダクネスの顔が憎たらしい!
俺がこれ位で終わると思うなよ……っ!
俺は一つ咳払いをする。
そして、ドアに向け……!
「開けるな! 今ちょっと人に見せられない格好をしている! すまない、ちょっと激しい遊びをしていて、感極まって叫んでしまった!」
その俺の声を聞いたダクネスがギョッと目を見開いた。
そう、ダクネスの声色である。
「ハ……、しかし、お嬢様の無事を確認しません事には……。それに、こんな夜分に遊びなどと……」
ちょっとこちらの様子を怪しむような、屋敷の住人の声。
それもそうだ。
侵入者に脅されているとも限らないからな。
「激しい遊びと言うのは大人の一人遊びだ、言わせるな恥ずかしい」
「お嬢……っ!?」
ドアの外でギョッとした様な声。
ダクネスが、空いている左手で俺の右手をガッと掴んだ。
「何だ、無事を確認だとか言って、そんなに私のけしからん姿を見たいのか、このど変たいいいいっ!?」
ダクネスが、目に涙を浮かべて物凄い目で俺を睨み、俺の右腕を握り潰すかの様にギリギリと締め上げてくる。
痛みで声が上擦るが、それを聞いた外の人間が、再び慌てた様に声を上げた。
「ど、どうなさいました!?」
俺は右腕を締め上げられる痛みに耐え、
「な、なんでもない! いかがわしい魔道のおもちゃを付けっぱなしだったのを忘れてええええっ! ああああ、お、折れちゃう! おかしくなっちゃう! これ以上は本当に! 本当に壊れるーっ!」
「しっ、失礼しましたっ! じじ、自分はこれでっ!!」
ドアの外からバタバタと慌てて駆けて行く音。
どうやら外にはダクネスの大声を聞きつけて何人かの人々が集まって来ていた様だったが、今の見回りの人間がどんな説明をしているのか、外からは人が離れていく気配がした。
俺はへし折られる寸前の腕の痛みになんとか耐え、涙目でブルブル震えるダクネスにニヤリと笑い掛けた。
俺の右腕から手を離し、ダクネスが口を押さえている俺の手の平を、指でツンツンと突いた。
もう大声は上げないから離せと言う事だろう。
俺が右手を離すと、ダクネスはふうと息を吐く。
ダクネスに握られていた自分の右腕を見ると、そこには真っ青な手形が付いていた。
アクアの防御力強化の支援魔法が無ければ本気で折られていたかもしれない。
ダクネスが、疲れたようにため息を吐き、
「……全く、相変わらずとんでもない奴だ。どうするんだ、これで明日から私は、家の者に陰で変態令嬢呼ばわりをされてしま……、んん……っ!?」
言い掛けて、ダクネスはブルリと体を震わせた。
「お前今、それも悪くないとか思っただろ」
「思ってない」
「思っただろ」
こんな時でもコイツは……。
「で、一体何がどうなったんだよ。パーティ抜けるってどういうこった。あいつらも心配してるぞ。せめて事情を説明しろよ。俺達は……」
俺達は仲間だろと言い掛け、勢いで臭いセリフを言いそうになった自分に恥かしくなる。
ダクネスは、そんな俺の気持を見透かした様にふふっと笑い。
「大切な仲間だからこそ、言えない事もある。……まあ、大した事では無い。家の事情だ。当家は、あの領主に金を借りていた。それは、父がゆっくり返していくと言う事だったのだが。……実は最近、父の体が思わしくなくてな。それで、あの領主が催促をしてきた。父の存命中に返せるのか、とな。……で、私が嫁に来るなら借金をチャラにするそうだ。ただ、それだけの話だ」
なんだそりゃ。
「お前ん家、あの領主にそんな借りがあったのか? つーか、お前の父ちゃん国のお偉いさんじゃなかったのかよ、王様とかはなんとかしてくれないのかよ。それにそんなの……」
俺は言葉に詰まってしまった。
そんなの……。
まるで、
「そう、借金のカタに取られる訳だ。……だが、これは貴族の家では珍しいことでは無い。貴族の娘が他家に嫁に行く。ただそれだけの事だ」
ダクネスが、何でもない事を口にするかの様にそう言った。
………………。
俺の表情を見たダクネスが、
「そんな顔をするなカズマ。……私の男の趣味は知っているだろう? あの領主は、よほど早く私を物にしたいのだろうな。結婚の日取りをとにかく早くと、色んな儀礼もすっ飛ばして話を進めている。鼻息荒いあの豚領主は、それこそ結婚式が終わった瞬間に、初夜まで我慢できずに私を控え室で押し倒してきそうな勢いだったな。ふふっ、あの様子では飲まず食わずで数日はこの体を貪られてしまいそうだ。壊されてしまいそうでドキドキするな……!」
俺を誤魔化すかの様に、冗談めいて軽く笑った。
……なら、なんでそんなに悲しそうな、寂しそうな顔なんだと言ってやりたくなる。
俺は覆いかぶさった状態で、月明かりの中、久しぶりに会うダクネスを改めて見た。
ダクネスの、気高そうな、そして気の強そうな青い瞳が俺を真っ直ぐに見つめている。
金糸の髪がベッドに広がり、それが月の光を反射して、淡く輝いていた。
口を押さえられた状態で暴れたせいか、若干荒い息をつき。
火照った頬から鎖骨にかけ、ひとしずくの汗が伝った。
まだ荒い息のせいで、呼吸の度にタンクトップの胸元が強烈な存在感と共に上下する。
そして、俺との揉み合いの所為でタンクトップの裾はめくれ上がり、全身に熱を持ったままのダクネスの体は、艶やかな赤みを帯び…………。
……俺は急遽、頭の中で、精神がクリアになる魔法の詠唱を開始した。
―――居間に寝転がる半裸の母親―――
―――誰のだと期待した、黒レースの祖母ちゃんの下着―――
―――そして赤ショーツに覆われたダストの尻よ―――
―――願わくば我が心に、一時の平穏を与えたまえ!―――
魔法の詠唱が功を奏し、ビックリするぐらいに冷静になる。
よし、大丈夫だ。
これなら余裕で耐えられる。
そんな平静を取り戻した俺に。
下から、じっと俺の顔を見続けていたダクネスが、月明かりの下優しく微笑み、小さな声で囁いた。
「……このままあの豚領主にむざむざと奪われるぐらいなら……。……カズマ。……いっそ、ここで二人で大人になってみるか……?」
先ほどの魔法の効果はどこかへすっ飛んで行ったらしい。
落ち着け佐藤和真、よく考えろ。
ダクネスはもう嫁に行く気だからそんな事を言っているんだ。
もう諦めているから。
俺達とは二度と会う事は無いと、そう考えている。
このままで終わる訳が無いだろう?
そう、ダクネスをあんな奴の嫁になんざ送り出せるか、絶対なんとかしてやる。
そうなると、ここで一線越えてしまえば絶対に気まずくなる。
パーティの中がギクシャクする。
絶対に今まで通りの関係じゃ居られなくなる。
ダクネスと恋人にでもなるつもりか?
違うだろう、しっかりしろ佐藤和真、お前は此処に何しに来たんだ、落ち着け!
ダクネスが、俺の右手をそっと掴んだ。
その手を自分の体に近づけて……!
流石に、そのままいきなり胸に持っていく勇気は無いのか、ダクネスは不安げな表情を浮かべ、掴んだ俺の手をどこにやるのか持て余していた。
俺は二秒ほど深く悩んだ結果……!
もう後の事は考えず、流される事にしました。
ダクネスに掴まれたままの右手をそっとダクネスの白い腹に置くと、ダクネスがピクリと震え。
そのまま、静かに目を閉じた。
俺は何か言わねばならないと思い、そのままダクネスの白く滑らかな腹の上に手を滑らせ……!
「……お前、本当に腹筋割れてんのな」
俺はダクネスに、みぞおちを思い切り蹴りつけられた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
月明かりを頼りに、俺とダクネスは部屋の中央で対峙している。
さっきまでの色気のある展開はどこへやら、殺気立ったダクネスが拳を握って構えていた。
「悪かった、俺が悪かった! ついうっかり! すまなかった、この空気に耐えられなかったんだ!」
「この私だって本気で怒る時もある! おのれ、覚悟を決めた女をここまで愚弄し、タダで済むと思うなよ! ぶっ殺してやる!」
「お嬢様! ぶっ殺すなんてお下品な言葉遣いはおやめください! ……何だよ、お前俺の事好きだったの? ならそう言えばいいじゃん!」
「誰がお前みたいな大バカ者をっ! 真剣に頭にきた! あと、お嬢様って言うな!」
ダクネスが、叫ぶと同時に殴りかかった。
それを、支援魔法で速度も強化された俺は簡単にヒョイとかわす。
廊下の方から、ドタドタと人が駆けてくる音。
夜中にこれだけ騒げば、流石にもう誤魔化せないだろう。
「ふふっ、どうだカズマ。今に家の者が来る。このまま見つかればタダでは済まんぞ。貴族の令嬢の寝室に侵入したのだ。私の擁護が無ければ下手をすれば首が飛ぶ。さあ、土下座の一つでもしてもらおうか!」
攻撃をあっさりかわされた事も頭にきたのか、何時に無く怒りに燃えるダクネス。
やがてドアの前に人の気配がし、ドンドンとドアを叩く音。
「お嬢様! お嬢様、開けますよ!」
その家の者の声を聞きながら、ダクネスが手を広げ掴みかかる体勢を取り、そのまま俺に飛び掛かった。
今の俺はアクアの支援で強化済みだ。
ダクネスにも力負けする事は無い。
散々心配かけさせられて、色々苦労して此処に来てんだ。
今更頭なんて下げられるか!
「掛かって来い、耐久と筋力しか取り柄の無いエロセイダー! 最弱職の冒険者に力でも負けて、泣き崩れるところを拝んでやる!」
俺はダクネスの声で言い返しながら、掴みかかるダクネスと組み合い、がっつり手四つの体勢に入った。
「わ、私の声真似をするなっ!」
「お、お嬢様!? 一体何を遊んでいるのですか!?」
ドアの外から聞こえる戸惑いの声。
俺とダクネスが同じ声で言い合っているので混乱しているのだろう。
続いて、ガチャガチャと鍵を開ける音。
俺はそちらに顔だけ向けて……!
「開けちゃらめえっ! ララティーナ、今全裸なのっ! 見ちゃらめえーっ!」
「ええっ!? も、申し訳……!」
俺の声真似に、鍵を開ける音が一瞬止んだ。
俺と組み合う手に力を込め、歯を食い縛りながらダクネスが怒鳴る。
「私の声でらめえとか言うなっ! おい、遠慮なく入って来い! 侵入者だ、私の声を真似る魔法を使っているっ!」
「はっ、ははっ! 今すぐにっ!」
気を取り直した様な声と共に、再び響く、鍵を開けようとする音。
くそったれー!
「はははははっ! カズマ、私の勝ちだな! 何時ぞやはこの屋敷の修練場でお前と試合した時には負けてしまったが、嫁に行く前、最後にお前に勝てて良かった!」
ダクネスが勝ち誇った様に言ってくる。
俺が急にフッと力を抜くと、前傾姿勢で勝ち誇っていたダクネスが前のめりになる。
その瞬間、ダクネスと掴み合っていた手のうち左手を、なんとかバッと抜き取ると、そのままダクネスのタンクトップの背中に突っ込んだ。
もう声真似する事もなく、大声で。
「『フリーズ』ッッッ!」
「んああっ!?」
いきなり背中に氷結魔法を掛けられて、ダクネスが悲鳴を上げながらビクンと震えた。
そのまま頬を紅潮させて、身を震わせながらぺたんと膝をつく。
俺はダクネスに掴まれていた右手も引き剥がし、
「お嬢様っ!」
バンと開けられたドアに向け、そのまま右手の手の平を上にして突き出した。
「『クリエイト・アース』!」
手の平の上に生成されるサラサラの土。
それを見たダクネスの、警告の声と俺の魔法の声は同時に響いた。
「全員、目を……!」
「『ウインド・ブレスト』ーッ!」
右手の上の土に左手をかざし、部屋に突入してきた連中に吹き飛ばした!
「いたかっ!? こっちの影にはいない! 相手は潜伏スキル持ちだ! 絶対に逃がすな、捕まえろ! ダスティネス家の名に賭けて、あの男を絶対に捕まえ、私の前に連れて来い!」
「「「かしこまりましたお嬢様っ!」」」
そんなダクネス達の声を聞きながら、なんとかあの場を切り抜けた俺は、身を低くしながらコソコソと廊下を進む。
「カズマーっ! どこだっ! 今大人しく出てきたならば、全力パンチ十発で許してやる! だが、私が見つけた場合はそんな温い物で済むと思うなよっ!」
完全に頭に血が昇っている様子です。
これでは話にならないので、今日の所は引き上げだ。
と言うか今のダクネスに掴まったら、アクアのリザレクションを知っているだけに、本気で殺されてもおかしくない。
マジ震えてきやがった……!
俺は屋敷から脱出するべく、その辺の手近な部屋に侵入した。
その部屋には運良く、ドアに鍵は掛かっていなかった。
よし、後は窓から脱出だ。
俺がそう考えながら窓に近付くと……。
部屋の中央、ベッドの方から、とても小さな、弱々しい声が聞こえた。
「……そこに……。誰か居るのか……?」
それは、ダクネスの親父さん。
ロクな灯かりも無い部屋の中。
ダクネスの親父さんの顔が痩せこけ、青白く見えるのは、月灯に照らされているからという理由だけでは決してなかった。
本筋と関係ない妙な所に力入れて書いてたら、まさかの続く。
何があって借金したかを書いてサクッと終わるはずが申し訳ない。
今16話目ですが、三部は20話目で終了予定です。
三部はダクネス編なので、現在彼女がメインヒロインみたく目立っております。
四部がめぐみん編。
五部のアクア編で完結を予定。
当作品はKENZENを目指してます。
+注意+
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