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三部
9話
「おい、まだ何もしていない女の子相手に、この仕打ちはあんまりと言えばあんまりじゃないか」

 現在めぐみんは、詠唱を始めたらいつでも口を押さえられる様、俺は後ろから首を羽交い絞めに。
 そして、それぞれの腕には屈強な冒険者が取り付き、それをしっかりと捕まえていた。

「おいおっちゃん、コイツに見つかった以上、その商売はもう止めとけ! コイツは街で噂の爆裂狂だ。その商売は、コイツの琴線を刺激し過ぎる」
 俺の言葉に引きつった青い顔で、慌てて店仕舞いを始める露店のおっちゃん。
 それを見ためぐみんが、ジタバタともがき出した。

「ああっ! 破壊出来るのに! 我が爆裂魔法なら、間違いなく破壊出来るのに!」
「逃げろ! 早く、早く逃げろおっちゃん!」
「ひいいいいっ!」
 店仕舞いを済ませ、慌てて駆け出す露店のおっちゃん。
 それを、残念そうにめぐみんが見送っていた。

 それを確認し、めぐみんが拘束を解かれ、自由になる。
 人だかりが散っていく中めぐみんに、
「……全く、目を放すと何かやらかすのはアクアだけにしといてくれ。……ダクネスはどうした? 一緒じゃなかったのか」
「ダクネスは、我慢比べの露店を見つけて参加してます。結界で密閉した空間をファイアー系の魔法で温めていく我慢比べですが、我慢出来た時間だけ賞金が貰える仕組みなので……、まあ最後まで残っているでしょう。アクアも見かけましたが、路上パフォーマンスやってお金を稼いでいた人の隣で無償で芸をやり、泣かせてましたよ。ダクネスと一緒に、後でそっちも回収して行きましょう」

 き、気の毒に……。

 でもまあ、せっかくの祭だ、毎回俺があいつらのお守りする必要も無い。
 可哀想だが、露店の人と路上パフォーマーの人に押し付けておこう。
 俺の袖をめぐみんがクイクイッと引いた。
「せっかくなので、一緒に街を回りましょうか。向こうにも今の露店と似たような商売してた人がいたので、店主の目の前をウロウロしてやろうかと」
「俺、お前の事はもっと常識ある普通の子だと今まで勘違いしてたよ」

 言い合いながら、その場を立ち去ろうとする俺とめぐみんの後ろから、小さな声が。

「あ……」
 見ると、寂しそうなゆんゆんがこちらを見ていた。
「……一緒に来るか?」
 俺の言葉に一瞬嬉しそうな顔をするも、めぐみんを見て、ハッとした様に首を振る。
「わ、私はめぐみんに勝つ為にこの街へ来たのよ! 馴れ合いに来たんじゃないわ! さっきの射的の事にはお礼は言います。どうもありがとうございました! ……でも、一緒には行かないわ!」
 そう言って、ゆんゆんはあの忌々しい姿をしたぬいぐるみを胸に抱き、俺達から一歩離れた。
「だそうです。行きましょうカズマ。今しか食べられない物も多々あります。今日はモリモリ食べるのです」
「お、おう……」

 俺達は、そのままこちらに背を向けたゆんゆんから離れ……。


「…………はぁ…………」
 やがて、寂しそうな、深いため息を吐いて肩を落とし、とぼとぼと歩いていくゆんゆん。

 そして寂しそうに、チラリと肩越しに後ろに視線をやるゆんゆんと。

 ……そのゆんゆんの数歩後ろを、そこの露店で買った、クレープみたいな物をもしゃもしゃ食べながら堂々と付いて行く俺達は、バッチリと目が合った。

「…………え、えっと。何で、付いてくるの?」
「相変わらずぼっちなゆんゆんの、寂しそうな泣きっ顔を拝もうかと」

 その言葉に、ゆんゆんがめぐみんへと掴み掛かってきた。






「ゆんゆんは、紅魔族でも自分の名を恥ずかしがる変わり者で通ってまして。学園の中では、大体一人でご飯食べてました。その寂しそうにご飯食べてるゆんゆんの前をこれ見よがしにウロウロしてやると、それはもう嬉しそうに私に何度も挑戦してきて……」
「待ちなさいよ! そ、そこまで酷くは……、無かったと……、思……。ま、まあ、毎日勝負を挑んだ気はするけど、別にぼっちでは無かったわ。友達だっていたもの」
 俺達三人は、話しながら街の外れへと向かっていた。
 話の流れで、またこの二人が勝負する事になった為だ。

 ゆんゆんの言葉に、めぐみんがピタリと足を止めた。
「……今聞き捨てなら無い事が……。ゆんゆんに、友達……?」
「な、何でそんな反応なの!? 居るわよ、私にだって友達ぐらい! 毎月月末になると、ふにふらさんとか、どどんこさんとかが、私達友達よねって言って、私の奢りで一緒にご飯食べに行ったり……」
 オイ止めろ、それ以上は聞きたくない。

 ……つまりあれか、この子は変人ばかりの紅魔の里で、唯一の常識人だった事から、まわりから浮いていたと。
 なんて不憫な……。


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「……おい貴様、このどこからどう見ても善良な一市民である我輩が、何ゆえ不審者扱いをされねばならぬ。我輩が不審者だと言う証拠はあるのか証拠は。この一市民の姿は仮の姿。相手を見て言葉を選ばないと、大変な目に遭う事請け合いである」

「今ご自分で、一市民の姿は仮の姿って言っちゃったじゃないですか。勘弁して下さいよ。まずはその仮面を取ってからにして下さい」

 俺達三人が門の前に行くと、なんか居た。

 服装はそこらの街の人の普段着だが、とても普通の街の住人とは見えない、鍛えられた長身の体。
 ……そして、どう見ても不審者にしか見えない、口元だけが開いた黒いフルフェイスの仮面をかぶる、守衛さんと口論している奴がそこに居た。
 守衛さんは普段は二人居るものなのだが、今は一人しかいない。
 不審者が来たので、応援でも呼びに行っているのだろうか。

「……あの人、魔族ですね。間違いないです」
「えっ?」
 めぐみんがさらりと言った。
 それに俺は、思わずマヌケな声が出てしまう。

「ええ、しかもとびきりの。悪魔族……? この魔力……。きっとよほどの大悪魔。階級は、公爵級相当かも」
「えっ」
 ゆんゆんまでそんな事を言い出した。

 俺は仮面の男に目をやるが……。
「何を言うか! この肉体の方が魔力で作り出した偽者にして、こっちの仮面こそが我輩本体。その本体である所の仮面を外せとは何事か! 外した瞬間に仮面が風にでも飛ばされたら、途端に体が崩れ土となる。やがてそこには、豊富な魔力を含む我が身体を糧にして、花は咲き乱れ蝶が舞い……」
「すいません、お願いですからもう帰ってもらえませんか? 魔族の方は、ここは本当に通せないんですよ……」
 守衛さんも、もう魔族の方って言ってるじゃん。
 バレバレじゃないか。

 ……いや、あの変なのが、本当にそんなに力の強い悪魔……?


 と、守衛の一人が、誰かを連れてやって来た。
 やはり応援を呼びに行っていたらしい。
 それは……。

「……む? 佐藤和真! そんな所で何を……。いや、今は君と話している場合じゃ無い」

 街で一番の実力者、チート魔剣持ちのミツルギだった。
 ミツルギは、門の所で守衛と揉めている魔族に向かって歩いて行く。

 俺達三人が、その様子をちょっと離れて見守っていると……。

「そこの悪魔! この街に一体何の用だ?」
 問い掛けながら、ミツルギが魔剣の柄に手を掛けて、何時でも抜き放てる体勢に入る。
 その魔族はミツルギを一瞥し、ほう、と小さく呟いた。

「……この我輩の変装を一目で見破るとは大した物だ。我が名はバニル。魔王軍幹部が一人、悪魔バニルである」
 その悪魔は。
「何の用かと聞いたか。我輩は魔王の奴に、ベルディアを倒した冒険者達に挨拶して来いと言われてな」
 ミツルギに向かってそう告げると、バニルは悪魔らしく、ニヤリと口元を歪め。

 そして、俺とめぐみんは、その言葉を聞きUターンして帰る事にした。

 こいつはベルディアにトドメを刺したアクアを探している。
 もう嫌になるぐらいに俺達が関わっている。
 これ以上変なのと関わり合いになるのは沢山だ。

 と、帰ろうとした俺とめぐみんの手を、ゆんゆんが慌てて掴んだ。

「ちょ、ちょっと二人とも、どこ行く気!? あの人の手助けしないと!」

 マジ勘弁。

 と言うか、俺と違いミツルギならチート持ちな訳だし。
 何より、今俺は丸腰一般人です。

 その、ミツルギが。
「……僕がベルディアを倒した。僕の名はミツルギキョウヤ。異世界から、この世界を救う為に神に選ばれ、この地へと降りた者だ」

 そう言って、バニルに魔剣を突き付けた。






 街から離れた平原で対峙する、バニルとミツルギの二人。
 そして、俺達三人はその二人を遠く見守りながら、
「……あのミツルギって人、ベルディアを倒したアクアを庇ってあんな事言ったんですね。何だか凄くウザイ人だなって思ってましたが、私の中ではちょっとウザイ人ぐらいに昇格しました」
 ウザイ事はウザイのか。
「ね、ねえ……、手助けしなくていいの? あの人、一人で幹部相手に……」
 ゆんゆんが腰のワンドをぎゅっと握り、助太刀しようかを決めかねていた。

 しかし……。
「俺、今普段着で武器も無いしなあ。早く逃げたいんだが」
「同じく。杖が無いので魔法の威力が半減です。逃げましょう、早く逃げましょう」

「あ、あなた達って……! いいわ、私は助太刀してくる!」
 言って、ゆんゆんがワンドを握り、向かって行った。

 と、言うか……。
「なあめぐみん、アイツ魔王の幹部を自称してたけどさ。そんな大物が、守衛さんに知られてない訳が無いんじゃないのか? ほら、ベルディアが襲来して来た時は、あっという間に緊急の呼び出しがあっただろ。あのバニルっての、何か無害そうなんだが本当に悪魔なのか? 随分と守衛さんが余裕そうなんだが」
 俺はめぐみんに言いながら、ミツルギと対峙しながら変な事をペラペラ喋っているバニルへと目をやった。

「と、言う訳でだ。貴様がベルディアを倒したと言うなら、挨拶をせねばならぬ。魔王に頼まれてきたのでな。……では、改めましてこんにちは! 我輩は魔王軍幹部、悪魔バニルだ。趣味は、人間にうわあと言わせる事。特技はバニル殺人光線と目ビームで……うおっ!?」
 訳の分からない口上を並べる悪魔に、ミツルギが有無を言わせず斬りかかった!
 バニルはそれを難なく回避し、ミツルギから距離を取る。
「下らない戯言はそれまでだ! 僕は女神に選ばれ、神の力を宿す武器を与えられた者。魔王軍幹部、バニル! お前には、ここで経験値の足しになって貰う!」
 ミツルギが随分熱くなっているが、あいつにとっては、人知れずアクアを守る勇者の気分なのかも知れない。

「おい貴様、紳士的に挨拶する我輩に対し、いきなり斬りかかるとは随分な礼儀知らずではないか。何を怒っているのかは知らぬが、怒りっぽい時は小骨を食べると良いと聞く。我輩の仮面の一部には魔人の骨が使われているが、一口ならかじってよいぞ?」
「ふ、ふざけるな、魔王の手先め!」
「そこの人! 助太刀しますっ!」

 ゆんゆんがミツルギの助太刀に入る。
 バニルへとゆんゆんが遠慮なく炎の上級魔法を放ち、だがそれを、バニルは慌てながらも受け止めた。
「こ、こらっ! 友達居なさそうなそこの娘。いきなり襲い掛かるは卑怯であろう! 鏡に日に三回は語りかけていそうな貴様も、なぜ我輩に斬りかかる! 魔王の頼み通り、貴様に挨拶は済ませたのでもうお前に用は無い! それに、我輩は魔王の手先では無いぞ。魔王と昔なじみだからなんとなく魔王城に居ついているだけだ。……そんな事より我輩は、働けば働くほど貧乏になるという、不思議な特技を持つポンコツ店主にこそ用事があるのだ!」

 ……今アイツ、最後に何て言った?
 俺は思わず、めぐみんと顔を見合わせた。



「……つまりあんたは魔王の幹部だけど、今まで人に暴力を振るった事は無いし、これからも、人に危害を加える気は無いって事か?」

 だだっ広い平原に、全員で車座に。
 ミツルギとゆんゆんの二人は未だ警戒を弱めてはおらず、ミツルギはいつでも剣を抜ける体勢を取っていた。

「そうだ。我輩は世間で言う所の悪魔族。悪魔のご飯は、お前ら人間族の嫌だなと思う悪感情だ。我輩達にとって貴様らは美味しいご飯製造機であり、それを壊したり傷付けたりするなどナンセンス。寧ろ、貴様ら人間が一人生まれるたびに、我輩は喜び庭駆け回るだろう」
「そ、そうか……。でも俺達の悪感情って事は、やっぱり危害は加えるんじゃないのか?  平和に暮らしていれば、悪い感情なんてあんまり生まれないだろ」
 俺は、魔王軍の幹部バニルと、普通に話し込んでいた。

 仮にもコイツが幹部と言うなら、戦闘を回避出来るなら勿論その方が良い。
 バニルは地面に胡坐をかき、
「まあ、悪感情と言ってもピンキリであるからな。そこは悪魔によって味覚も違えば好みも違う。人の恐怖や絶望が好きな奴もいれば、絶世の美女に化けて男に近付き、散々惚れさせてみた後で、実は我輩でしたと言って相手に血の涙を流させるのが大好物な、こんな善良な悪魔もいる」
「やっぱアンタは退治しといた方が良さそうな気がしてきた」

 だがまあ、こいつがあまり人に物質的な害が無いのは分かった。
 魔王の幹部をホイホイ信じて良いのか分からないが、何だかコイツは嘘は言っていない気がする。

 まあウィズの例がある事だ、こんな幹部が居てもいい……。
 …………のだろうか。
 なんだか、ロクな幹部がいない気がするが大丈夫なのか。
 しかし、ミツルギやゆんゆんの前でウィズの店への用件を聞くのは止めといた方がいいな。

 と、バニルがよっこらせと立ち上がった。
「では、我輩の無害さが分かって貰った所で、街に入れて貰おうか。これからあの赤貧店主に…………。……なんだ、幸薄そうな娘に魔剣以外取り得の無さそうな男。我輩は、街に用があるのだが」

 立ち上がり、街に行こうとしたバニルの前に、ゆんゆんとミツルギが立ち塞がった。
なぜか人気のゆんゆんですが、大事な役目があるものの、あくまでモブ子なんだ……。

ストーリー展開的に、今回の話みたくしばらくギャグ要素は無いです。

一応、ギャグ小説ではなくコメディ系ファンタジーなので……っ!


これで一通りキャラは出揃い、敵キャラ以外はこれ以上増える事は無いと思います。

増えても謝りません。


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