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二部
17話
 小さな金槌を使い、鍛冶スキルで薄い鉄板を伸ばしていく。
 そして形を整えてから暖炉の前の火を使い、それを鍛冶スキルで綺麗に溶接。

 俺が朝から暖炉の前でせっせとジッポ作っているそんな様子を、暖炉の前に斜めに置いたソファーに陣取り、アクアがじっと眺めていた。
 アクアとの暖炉前の争奪戦は、毎日続けていた結果、半分づつ場所を使うという事で和解した。
 というか、毎日毎日ジッポ作りの邪魔をするので、俺が折れた感じだが。

 一体何が面白いのか分からないが、そんな風に作業の様子を見ていられると凄く気になる。
 今の所邪魔してくる様子が無いのが救いだが、こいつの事だ。
 また何をやらかすか……。

「……っと。完成」

 そうこうする内、今日一個目のジッポ完成。
 それをテーブルに置き、俺は二つ目の製作に取り掛かる。
 いい加減作業に慣れてきた為、今では一日に5つぐらいは作れるようになっていた。

 俺が作ったばかりのジッポをつまみ上げ、アクアは興味深そうにしげしげ眺める。
 それを両手で隠す様に覆って見せると。
「カズマ、みてみてー」

 ……?

 アクアがそのジッポをテーブルの上に、コトリと置いた。
 ……というか、アクアが手で覆ったジッポが、二周りぐらい小さくなってて……。
「小さくなっちゃった」
「バカ野郎!!」
 アクアが縮めたジッポを慌てて取り上げるが、どこかのお笑い芸人がやるあの手品と違い、本当に物理的に小さくなっていた。
「おま……! 人が朝から時間掛けて作った物になんて事してくれんだ! どうすんだこれ、元に戻せるのかよ!?」
「戻せる訳ないじゃない」
 頼んでもいない芸を見せてきたアクアは、悪びれもせずにしれっと言った。

 こいつどうしてくれようかと悩んでいると、アクアは退屈そうに伸びをする。
「冬ってのは暇ねぇ……。ダクネスは一日一爆裂の護衛でめぐみんに付いてっちゃったし。クリスは、どこかに逃げたサキュバス狩りだって言って、どっか行っちゃったし。私もいい加減、お酒飲んでゴロゴロしてるのにも飽きてきたわ。何か面白い事は無いかしら?」

 そんなアクアに、俺は縮んだジッポをどうにか直せないかと弄くりながら。
「なら、お前もジッポ作りくらい手伝えよ。ダクネスとめぐみんは、たまに手伝ってくれるぞ。クリスなんて家事全般こなしてくれてるんだ。お前、手先は器用だろ?」
「私がやると五個に一個は小さくなるわよ?」
「何でだよ! 体の中にスモールライトでも埋まってんのか! ったく、じゃあ完成品のジッポが貯まってきたから、ウィズの店に卸しに行くの手伝ってくれ。箱一つ持ってくれるだけでいいから」
 俺はそう言って、一応アクアが縮めたジッポもポケットの中に放り込んだ。





 街の中は未だ雪がたっぷり積もっており、春の訪れにはまだ遠い。
 どこかのチート持ち、例えば魔剣持ったあの男とかが、冬将軍を倒してくれないものだろうか。
 俺が散々レベル下げておいてなんなのだが。

 俺はジッポの詰まった箱をアクアと共にそれぞれ一つずつ抱え、ウィズの店へとやってきた。
 しかし、そろそろ新しい商品を考えるべきだよな。
 専門知識が無くてもお手軽に作成出来そうな物。

 うーむ……。

 そんな事を悩みながらドアを開けると、ドアの鐘が涼しげな音を響かせた。
 店内に入ると、物の見事に客はいない。
 と言うか、この店に客がいる姿をロクに見た事が無いのだが……。
「あっ、カズマさんいらっしゃい! それと、アクア様も……」
 客が俺とアクアだと気付いたウィズが、尻すぼみな挨拶をしてきた。

「あらあら? なぜこの私には、そんな元気なさそうな声の挨拶なのかしら? ひょっとして、嫌われてるのかしら? せっかくこうして、わざわざ売れ筋商品を持ってきてあげたのに?」
 早速ウィズに絡みだしたアクアに、ウィズが慌てて否定した。
「ち、違います違います! その、いつもはカズマさんお一人なので、珍しいなと思っただけで!」
 まあ、普段は俺一人で納品に来てるしな。

「ほら、箱よこせ。ウィズが怖がってるから、納品終わるまでお前はちょっと向こうで遊んでろよ」
 俺がそう促すと、アクアは一旦離れ、商品棚の陰から頭を覗かせ、ウィズをじっと見つめ出す。
 棚の陰からウィズを威嚇しているらしい。

「……え、えっと、いつもありがとうございます。で、では、これが今回の金額で……」
 やはりそんなアクアが気になるのか、ウィズがビクビクしながら俺に売り上げを渡してくれた。
「おっと、いつも悪いな。……しかし、この店はいつ来てもあまり客がいないが大丈夫なのか? いつも、暇でしょうがないだろうに」
 そんな俺の疑問に、ウィズが困った様に笑った。
「あはは……。まあ、あまりお客さんは来ませんね……。売れるのはカズマさんが持ってきてくれたジッポぐらいですから。お蔭で街の情報にも疎くて……。そう言えば、私最近知ったんですが、あのベルディアさんを倒されたそうで。流石はアクア様ですね」
 そう言って、ウィズは穏やかな笑みを浮かべ……。

 あれ?
「あのベルディアさんって、なんかベルディアを知ってたみたいな口ぶりだな。あれか? 同じアンデッド仲間だから繋がりでもあったのか?」
 俺のそんな疑問に、ウィズが世間話でもする様な気軽さで。

「ああ、言ってませんでしたっけ。私、魔王軍の幹部の一人ですから」

 ……………………。

「確保ーっ!!」
 商品棚の陰に隠れていたアクアが、ウィズに向かって襲い掛かった!





「待ってーっ! お願いします、話を聞いてくださいアクア様!」
 アクアに取り押さえられたウィズが、アクアにのしかかられたまま悲鳴を上げる。

 アクアが、いい仕事したとばかりに頬の汗を拭い、
「やったわねカズマ! これで借金なんてチャラよチャラ! それどころかお釣りがくるわ! 霜降り赤ガニだってまた食べられるわよ!」
 嬉々としてそんな事を言っていた。

 俺は取り押さえられているウィズへと屈み込み、
「……えっと、おいアクア、一応事情は聞いてやれよ。幹部ってどう言う事だ? 流石に魔王軍のスパイとかだと、一応冒険者な手前、見逃すって訳にも……」
 そんな俺の言葉に、ウィズが泣きそうになりながら必死に弁解する。
「違うんです! 魔王城を守る結界の維持の為に、頼まれたんです! 勿論今まで人に危害を加えた事は無いですし、幹部って言っても、なんちゃって幹部ですから! 私を倒しても、賞金も掛かってませんから!」

 ウィズの言葉に俺とアクアは顔を見合わせた。

「……良く分かんないけど、念の為に退治しておくわね」
「アクア様ーっ!!」
 アクアに取り押さえられながら喚くウィズ。

 俺は魔法の詠唱を始めたアクアに、まあ待てと手を突き出し、
「えっと、何だ? つまり、良くゲームとかにある、幹部を全部倒すと魔王の城への道が開けるとか。そんな感じか? で、ウィズは、その結界とやらの維持だけ請け負っていると」
「げーむとやらは知りませんが、そういう事です! 魔王さんに頼まれたんです、人里でお店を経営しながらのんびり暮らすと言うなら止めないから、幹部として結界の維持だけ頼めないかって! 魔王の幹部が人里でお店やってるなんて思わないだろうから、人間に倒されないだけでも充分助かるって!」

「つまり、あんたが生きてるだけで人類は魔王城には攻め込めないし、私達には充分迷惑って事ね。カズマ、退治しときましょう」

 アクアの言葉にウィズが泣き出す。

「待って! 待ってください、アクア様の力なら、幹部の二、三人ぐらいで維持する結界なら破れるはず! 魔王の幹部は元々八人。風の噂で、すでに一人お亡くなりになったと聞いてますし……。ベルディアさんが倒されたのなら、残るは六人。私を倒した所で、後五人も幹部がいたなら流石にアクア様でも結界破りは出来ませんよ? 魔王城に攻め込むには、私を浄化したとしても、どのみち後二、三人は幹部を倒さないと……。せめて、アクア様が結界を破れるぐらいにまで幹部が減るまで、生かしといてください……、まだやるべき事があるんです……」

 顔を覆いシクシク泣き出すウィズに、流石にアクアも微妙な表情を浮かべた。
 そのままチラチラと俺をうかがう。
 ……俺に決めろってのか。

「……ええっと。まあ、いいんじゃないのか? どの道、今ウィズを浄化したって、その結界とやらがどうにかなる訳でもないんだろ? それにだ、本来なら幹部全員倒さないと結界とやらは解けないんだろうが、アクアなら、幹部を全員倒さなくても結界が破れるんだろ? なら、ウィズ以外の幹部がある程度減った所で、その時また考えればいい」

 と言うか、魔王だの幹部だの、俺達みたいな未熟なパーティにどうにか出来るとも思えないし、そもそも、そんな危険な事に首突っ込むつもりもない。
 放っておけばチート持ち連中がどうにか幹部を減らすだろう。
 そうなったら、結界を破るその時だけ、そいつらにアクアをレンタルでもしてやればいい。
 その言葉に、ウィズがぱあっと表情を明るくさせた。

「でも、良いのか? 幹部って連中は一応ウィズの知り合いとかなんだろ? ベルディアを倒した俺達に恨みとかは無いのか?」

 俺の疑問にウィズがちょっとだけ悩み。

「……ベルディアさんとは、特に仲が良かったとか、そんな事も無かったですからね……。私が歩いてると、よく足元に自分の首を転がしてきて、スカートの中を覗こうとする人でした。幹部の中で私と仲の良かった方は一人しかいませんし、その方は……、まあ簡単に死ぬような方でも無いですから。……それに」
 そう言った後、ウィズは。

「私は今でも、心だけは人間のつもりですしね」
 と、ちょっとだけ寂しげに笑った。





 ウィズの店からの帰り道。
 俺は後ろを付いてくるアクアに、念の為に釘を刺した。
「おい、一応言っとくが襲撃に行くなよ? ウィズにはこれからも世話になるんだからな?」
「分かってるわよ、ウィズのあんな顔見た後に浄化するほど私だって鬼じゃないわよ。それにまあ、魔王の幹部連中なんて、私が力を与えたチート持ちの人達がなんとかするでしょ。そんな事よりも、私達はお金稼いで借金返さないとね」

 おっと、アクアのその言葉で思い出した。
 アクアに、ちょっと頼みたい事が出来たのだ。

「……なあ、今朝お前が、宴会芸スキルでコンパクト化したジッポな。……あれ、いつも作ってるジッポよりもウィズが良い値段で買い取ってくれる事になったんだ。でさ、お前が芸を金儲けに使いたくないって美学は分かるんだけどさ」
「嫌」
 俺が頼む前に拒否された。

 残念そうな俺を見ながら、アクアが笑う。
「ま、私も一緒に新しい商売を考えてあげるわ。そうね、この冬が終わるまでに、借金を半分ぐらいに減らしたいわね!」
 なんて頼もしくないんだろう。
 だが、腐っていてもしょうがない。
 そう、日本で得た知識でも使って、もっと稼いで、借金返してのんびり暮らそう。
 無理そうなら、逃げて新しい土地でやり直せば良い。

 なんせ、俺はまだこの世界に来て半年も経っていない。
 そう、これからだ。
 俺はアクアに自信有り気に笑みを返し。
「まあ、見とけよ。冬の間に荒稼ぎ出来る手を考えて、残りの余生は温い人生送れるようにしてやる。見とけよ? 今に成り上がってやるからな!」


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 やがてまた雪が降り、それが積もる。

 俺はその間、いつもの連中に、いつものバカ騒ぎに巻き込まれ、そして相変わらずの尻拭い。

 そんな事を繰り返し、やがて、積もった雪が消える頃。

 六千万ほどあった俺の借金は……








 八千万に増えてました。
次回更新から三部に入ります


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