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二部
8話
「た、大変だ! カズマ、大変なんだ!」
 それはベルディアを討ち取って四日目の朝の事。
 俺達が屋敷の広間でゴロゴロしていると、屋敷に突然、一人の美女が飛び込んで来た。
 それは清楚なイメージを与える高そうな純白のドレスを着ながら、白いハイヒールを履き、長い金髪を綺麗にまとめて片方の肩から流した、どこかの令嬢みたいな人だ。
 そんな格好だが、大変けしからんエロい身体をしている。
 そんな人が、俺の名前を叫んでいた。

「……あんた誰?」
「んんっ……!? くっ……! カズマ! 今はふざけている場合じゃ無い! そういったプレイは後にしてくれ!」
 目の前の清楚な美女が、頬を赤くしながら言ったそのロクでもない発言で、ようやく気付いた。

「なんだ、ダクネスか。そのコスプレはどうしたんだ? 何か新しいジャンルでも開拓中なのか?」
「違うっ!! こ、コスプレじゃない! とにかく、まずはこれを見てくれ!」
 言って、ダクネスがバンとテーブルに一枚のアルバムを叩きつけた。
 ソファーでゴロゴロしていた俺とアクアとめぐみんは、どれどれとそれを見る。
 アルバムと言うか、これは……。

「……何だこれ? おお? なんだこのイケメンは。ムカツク」
 爽やかそうなイケメンが写っていたそれを、俺は思わず無意識の内にびり……と。

「ああ!? な、何をするんだっ! そんな事したら、見合い写真を返して断わる事が出来なくなるだろうがっ!」
 ハッ!? 
「おお? スマン、つい! なぜだろう、自分でも手が無意識に……。って言うか、見合い写真?」
 俺はアルバムを手に首を傾げた。

 しばらく部屋に閉じ込もっていたダクネスが、ようやく出てきたのが昨日の事。
 そのまま、ちょっと家に行って来ると言って、今朝まで帰って来なかったのだが……。
「そうだ! 普段なら、見合い話が持ち上がった瞬間に全てぶち壊して来たのだが! 私が三日ほど部屋に閉じ込もり、世間から離れている間に、あっと言う間に見合いの段取りが組まれていたっ! 私が引き込もる原因を作ったカズマの所為だぞ、どうしてくれる!」
 うろたえるダクネスが、オロオロしながら言ってくる。

「ちょ、待てよ、俺は日頃お前らに苦労掛けられてるストレスをここぞとばかりに晴らしただけで、まあ涙目で、本気で恥ずかしがるお前を見て、楽しくなかったと言えば嘘にはなるが……ああっ! こ、こらっ、止めろ! でも、見合いが嫌なら断われば良いだろ、今アルバム直してやるから。アクア、悪いんだけどご飯粒持って来てくれないか?」
「はいはーい」

 ばたばたと駆けて行くアクアを見送って、俺は涙目で掴みかかってくるダクネスを落ち着かせようと、テーブルの上の飲み物をすすめた。
 テーブルの上には朝から、アルコールが弱い物とはいえ酒類が置かれている。
「……なんだ? 朝から酒を飲んでるなんて珍しいな、アクアでもあるまいし」
 そのダクネスの言葉に、ちびちびと果実酒を舐めながら、めぐみんが上機嫌で。

「実は、ダクネスが閉じ込もってる間にギルドから通達がきまして。今日の夕方、ギルドに領主さんの使いが来て、ベルディア討伐の報酬が貰えるそうなんですよ。戦闘に参加したこの街の冒険者全員に貰えるそうで、街の冒険者達はお祭り騒ぎです」

 そう、仮にも魔王軍の幹部だったベルディア。
 そのベルディア討伐と言う事で、この地方の領主が腕利きの傭兵や冒険者を集め、さあベルディア討伐だと意気込み、この街へ行こうとしていた矢先に、それをこの街の駆け出し達で倒してしまった。
 大手柄を上げられると意気込んでいた領主としては随分と複雑な思いだろうが、それでも評価しない訳にはいかないのだろう。

 今の季節はもう冬に入り始めている。
 冬は、冒険者達はあまり仕事はせず、じっと街に篭り大人しくしている。
 冬になると、討伐対象のモンスターがあまり活動しなくなるからだ。
 僅かに活動するモンスターはと言えば、少ないエサを求め、狂暴性が増している肉食系の、割に合わないとびきり危険なモンスターばかりだ。
 本来なら冬を前にし、金を蓄えておきたい所だったのが、ここ最近ベルディアが現れた事による勅令クエストのせいで、他のクエストを受けられずにいた懐の寂しい冒険者達。
そこに、領主から今回の勅令クエストの報酬が出るとなれば、それは浮かれるのも仕方が無い。

「……む、私が引き込もってる間に、そんな楽しげな事になっていたのか……」
「そーいうこった。あ、今日のお昼ぐらいからギルドで宴会があるぞ。アクアがやたら張り切ってた。……でも、あいつ虫取り網と虫かご持って、昨日から不審な行動取ってたんだよな……。なんか、アクアの部屋からケキョケキョ鳴く声が聞こえたり、何かが暴れる音がしたり。……犬やら猫やらも、ほっとくと何でも家に持って帰ってくるからな。アクアが変な生き物拾ってこない様に注意しないと」

 俺のその言葉に、なぜかダクネスが泣きそうな顔を浮かべた。

「カズマ……。どうしよう。その……。見合いが、今日のお昼からなんだ。宴会があるのに本当に申し訳無いんだが、一緒に来ては貰えないか?」





「……つまり、こういう事ですか? ダクネスのお父さんが、危険な冒険者稼業を辞めさせたくて、隙あらば勝手にお見合いをセッティングしてくると。で、ダクネスとしてはまだまだ結婚はしたくない、と」
 めぐみんが、ちびちび酒を舐める様に飲みながら言った。

 テーブルではアクアが、持ってきたご飯粒で俺がちょっと破ってしまったアルバムの部分を丁寧に修復していた。
 破った俺がやろうとしたのだが、なんか楽しそうに、やたら器用に修復していくので任せている。
 こいつは、どうでも良い様な事では本当に多芸だな……。

「……ん、そうだ。正直言って、私は今の暮らしに満足している。この稼業を続け冒険者として名が売れれば、やがて邪悪な魔道士や魔王軍の手の者に目を付けられ、抵抗むなしく捕まり、とんでもない目に合わされてしまうかもしれない。それはもうきっと凄いもので、手枷足枷を付けられ、あられもない姿で……っ! や、やめろお……っ!」
「お前はもう引退して、嫁に行った方がいいんじゃないかな」
 自分の想像に浸り、赤い顔でもじもじし出したダクネスから、俺はちょっとだけ距離を置く。
 めぐみんが、ちびちび舐めていたコップを置き、不思議そうに言った。
「でも、そんなに嫌なら断わっちゃえば良いじゃ無いですか。政略結婚でもあるまいし、ダクネスが相手を気に入らないと一言言えば済む話じゃないんですか?」

 その言葉に、ダクネスが俯き。
 手を胸の前で組み、しばらく指をぐにぐにした後言ってきた。

「その……。わ、私は本名を、ダスティネス・フォード・ララティーナと言う。その……。そこそこ大きな貴族の娘だ……」

「「「ええっ!?」」」
 俺達三人が驚くのを、ダクネスがちょっと寂しげな顔をして表情をかげらせた。
 きっと、今までも名前を名乗り、こうやって驚かれる様な事があったのだろう。

「ダスティネスって……! そこそこじゃなく、メチャメチャ大きな貴族じゃないですかっ! この国の懐刀とまで言われている、あのダスティネス!? この街に居を構える!?」
 驚きの声を上げるめぐみんに、ダクネスが小さな声で。
「……そうだ……」

 それに続いてアクアが言った。
「なに!? じゃあ、ダクネスの家の子になれば毎日ゴロゴロ贅沢三昧できるって事!?」
 見当ハズレな事を口走るアクアに、ちょっと戸惑った声でダクネスが。
「そ、そうだ……、い、いや、まず家は養女は今の所必要としていないから……」

 戸惑うダクネスに、俺は一番大事な事を突っ込んだ。
「ダクネス、お前……! 普段、うむとか、ああ、とかそうだな、とかそんな口調なのにっ! 本名はララティーナなんて可愛らしい名前なのかよっ!!」
「ら、ララティーナと呼ぶなあ……っ!」
 ララティーナが赤い顔で、涙目になって大声を上げた。

 驚きのあまり立ち上がっていためぐみんが、改めてソファーに座り直し。
「ふう……。まあ、確かに驚きましたがダクネスはダクネスですし。私にとっては超硬いクルセイダーで大事な仲間。まあそれだけの事ですよ」

 めぐみんの言葉に、ダクネスが少しだけ嬉しそうな表情を浮かべ。
「…………ん、これからも、よろしく頼む……」
 そう言って、安心した様に微笑んだ。

 アクアが、そんな二人を見て嬉々として自分を指差す。
「……ねえねえ、私もびっくりする事言っていい? その、こないだは二人とも信じなかったけど、私……。実は、本当に、女神なのよ!」
「「そうなんだ、すごいね!」」
「信じてよー!!」

 ぐすぐす言いながらご飯粒で破れたアルバムを修復する作業に戻るアクア。
 そんな三人を見ながら、俺は一人考えていた。

 なるほど、これで納得いった。
 ダクネスが場違いなコスプレしてる理由も、理由も無しに見合いを断われないという事も。
 となれば、これは確かにギルドの宴会どころじゃない話だ。
 ほっておけば、ウチの大事なクルセイダーが嫁に行ってしま…………。
 ……ん?
 …………んん?

「これ持っていけばお見合い断われるの? はい、これ。どう? 完璧でしょ?」
 誰かがこれを見ても一体どこが破れていたのかが分からないぐらいに完璧に修復された見合い写真のアルバムを、アクアは得意気な顔で、はいと俺に手渡した。

 待てよ。ダクネスが嫁に行く?
 それはつまり、ウチのパーティから攻撃が当たらないクルセイダーが寿退社すると言う事だ。
 寿退社。
 そう、つまりはめでたい事だ。
 別にいらない子としてパーティから追い出す訳じゃ無い。
 別に、ダクネスの事が嫌いだとか言うんじゃない。
 おかしな所は多々あるが、悪い奴じゃない。
 だが先行きも不安な俺のパーティで、貴族の令嬢のダクネスを冒険者として縛り付けてもいい物だろうか?
 いや、良くない。
 ダクネスが結婚すれば、きっとダクネスの親御さんも安心する。
 俺も何だかんだ言ってダクネスの事が心配だ。
 断言できる。
 有り得ないが、もし万が一俺達が魔王の城にでも行ったなら、こいつは間違いなく魔王に捕縛されたがり、足を引っ張り出すだろう。
 そうこれはつまり……っ!

 みんなが幸せになれる訳だ!

「ああ……。一応理由が必要だが、それを丁重に相手に返して、こういった理由があるのでと謝ればなんとか……。そこで、できれば誰かに付いて来て貰いたいのだが……」
俺の手に渡された、修復されたアルバムを見たダクネスが、少しだけホッとした様な表情で、俺達にそんな事を頼んできて……。

「これだあああああああああああっ!」
「「「あああああああっ!?」」」

 俺はアルバムを真っ二つに裂いていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「じゃあ行ってくるわね! ごめんねダクネス、ギルドの職員の人に頼まれてて、私、どうしても外せないのよ。昨日からの芸の仕込みもあるしね!」
 ギルド職員に宴会奉行として指名されている宴会を司る神様は、ダクネスに申し訳なさそうな顔で謝った。
 俺としても、この展開は大変都合がいい。
 あの宴会を司る神様がいると、間違いなくお見合いはぶち壊されるだろうから。
 アクアは俺から貰った小遣いを上機嫌で握り締め、何度も振り返りながらギルドの宴会へと出掛けて行った。
 せっかくアクアが修復したお見合いのアルバムを俺が勢いで再び破ってしまった際、アクアがグズり出し、その機嫌を直す為に宴会での軍資金として小遣いをやったのだ。
 それに多少金を持っていれば、その分ギルドの宴会に長く居てくれるだろうと言う打算もある。

 アクアを見送りながら、俺は背後に強烈な視線を浴びていた。
 それは、涙目で無言で俺を睨みつけるダクネスの視線。
 そして同じく、無言で冷たい目で見てくるめぐみんの視線。

 こ、怖いです。

「ま、まあ落ち着け。これは、今後の為でもあるんだ」
 俺の苦し紛れの言い訳に、ダクネスが未だ涙目ながらも。
「……どう言う事だ?」

 俺はダクネスとめぐみんに、こんこんと説明した。
 つまり、ずっと冒険者をやって行くのなら、この際一度見合いをやってみてはと言う事を。
 どうせ今回断わったとしても、すぐ次の話を持ってくる。
 それに、家に三日帰らなかっただけでこれほど素早く見合い話をセッティングされてしまったのだ。
 今後、何日も街を出て遠出する様なクエストもあるかもしれない。
 その度に今回みたいな騒ぎになるのか?
 ならば、一度見合いをしてみて、それをぶち壊してしまってはどうかと言う提案だ。
 ダクネスの家の名が傷付かない程度で。
 だが、相手からこの話を断わらせる様に持って行く。
 するとどうだ、ダクネスの親御さん達も、次から持ってくる見合いの話は慎重にもなるだろう。
 何度も見合いをしてその度他家に断わられるとあっては家の恥だ。
 無論、俺とめぐみんの二人も、使用人と言う形で見合いに付いて行ってもいい。
 そして、さり気なくダクネスが相手に嫌われる様にフォローするのだ。

 そんな俺の話を聞いていた二人は。
「そ、それだカズマっ! それで行こう! それが上手くいけば、もう一々見合い話が持ち上がる度に父を張り倒しに行かなくて済む!」
 お、親御さん可哀想に……。
「なるほど、確かにそれなら、今後は安心して長期に渡るクエストも受けられますね。やるじゃないですかカズマ。私は単に、手の掛かるのが一人嫁に行ってくれればその分新しいメンバー入れて、楽ができるぜ! みたいに考えてたのかと思いました」
 めぐみんの言葉にビクリとする。
「ち、違うよ? ダクネスみたいな優秀なクルセイダーを、今更手放せる訳がないじゃないか?」
 そういや、紅魔族は頭のいい種族と言ってたな。
 今後、めぐみんには警戒しとこう。





「ほ、本当に? 本当にいいのかララティーナ! 本当に、見合いを受けてくれるのか! と、父さんを殴りに来たのでは無いのか?」
 ララティーナ、もといダクネスの親父さんが、ダクネスの手を握り興奮して言って来た。

 ここはこの街にあるダクネスの実家である屋敷の中。
 そこで、ダクネスが見合いを受ける事を親父さんに報告したのだが。

「本当ですお父様。ララティーナは、此度、このお見合いを受けようかと思いますわ」
 そのダクネスの言葉を聞いた俺とめぐみんが、思わず顔を俯かせた。
 普段と全然違う言葉遣いのララティーナお嬢様に、俺が笑いを堪えて肩を震わせていると、お嬢様が顔を赤くして俺を睨む。
 そんな俺達を見て、親父さんが不審に思ったようだった。
「ララティーナ、この二人は?」
 その言葉に、ダクネスが俺とめぐみんに手を向けて、
「この方々は、わたくしの冒険仲間です。今回の見合いに、臨時の執事とメイドとして同伴させようかと」
 それに、親父さんが顔をしかめて難色を示した。
「……むう。だが、それは……」
 これはいけない。

 俺はズイと一歩前に出ると、胸の前に片手を当てて、ピシと立ち。
「初めまして。自分は日頃ララティーナお嬢様にお世話になっている、冒険者のサトウ・カズマと申します。この度は、このお見合いが無事成功した暁にはララティーナお嬢様とは、自分達は身分の違いからもう会えなくなるでしょう。ならば最後に、無理を承知で傍に控え、大切な仲間を任せられる相手かを拝見したく存じます」
 そんなセリフを、一度も噛む事も無くスラスラ言って、そのまま深々と頭を下げた。
 今の俺は超クールだ。
 お嬢様を無事嫁に送り出せるなら、どんな事でも出来る気がする。

 そんな突如豹変した俺に、ダクネスとめぐみんがぽかんと見ていた。



「カズマ様、こちらが執事服になります。サイズは合うかと思いますが、試してみてくださいませ」
 俺はメイドさんから服を受け取り、部屋の中で着替えを済ます。
 うん、調度いい。
「大丈夫みたいです」
 俺の言葉を聞いて、メイドさんは一礼して去って行った。

 親父さんに無事臨時の執事として雇ってもらえた俺は、完全な執事の格好で、部屋の外で俺を待っていたダクネスの元へ。
 そこにはすでに、メイド服を着ためぐみんがいた。
 普段前髪を綺麗にぱっつんと切り揃え、そして長い黒髪のめぐみんは、清楚なメイド服が意外に似合っていた。

「すげーなめぐみん、その姿でギルドに行ったら、多分誰も頭のおかしい爆裂娘だとは気付かないよ。似合ってるじゃないか」
 俺の褒め言葉に、めぐみんが微妙に嫌そうな顔をした。
「褒めてるのかバカにしてるのかどっちなんですか? ちなみに今は杖を持っていないので、魔法を唱えても威力が半減してるのが残念ですが……」
「や、やめろよ、褒めてるんだよ珍しく! ……じゃあ、準備はいいな? ララティーナお嬢様」
「ら、ララティーナお嬢様は止めろ! せめて、人前ではお嬢様だけにしてくれ!」
 ダクネスが恥ずかしそうに食って掛かる。

 見合いはこの屋敷で行なわれる。
 相手も貴族のボンボンだ。
 俺は先ほど、ダクネスの親父さんに頼まれた。
 頼まれてしまった。
 娘が相手に粗相をしない様助けてやってくれないか、と。
 そして、更にこうも言われてしまった。
 見合いが上手くいったなら、報酬を出させて貰おう、と。

 俺と親父さんは元々利害が一致する上に、しかも報酬というおまけまで付いてくる事になってしまった。
 これは嫌でもやる気が出てくる。
 見合い相手が、よほどロクでもない奴だったら俺も邪魔する側に回ってやろうかと思っていたが、ちょっとぐらい嫌な奴でも多めに見てしまいそうだ。

 屋敷玄関の前に使用人達がズラリと並ぶ中、ダクネスと親父さんの両名が玄関前の真ん中に立つ。
 俺とめぐみんはダクネスの両側に控えるように。
 そういやダクネスの母ちゃんはどうしたんだと思ったが、今は気にしないでおく。

 相手は間も無く来るそうだ。
「しかし……。お前が見合いを受けてくれるなんて、本当に嬉しいよ……。相手は本当に良い人だ。幸せになるんだぞララティーナ」
 にこやかに笑いかける親父さん。

 だがそれに、ダクネスがキッパリと。
「嫌ですわお父様。ララティーナは、見合いを受けるとだけ言ったのです。フフフ……。もう今更遅い。ぶち壊してやる。見合いなんて、ぶち壊してやるぞ! フハハハハ!」
 もう演技する必要は無くなったとばかりに、ダクネスが本性を現した!

 それを見た親父さんが俺達の真意に気付き、青い顔をして……
「ま、まさかそこの二人も、最初からそれが目的で……!」
 親父さんが怯えた様に俺を見る。

 いかんな、ダクネスの奴頭に血が昇って、家の名前を傷つけない程度にって所を忘れてやがる。
 もうなりふり構わないつもりだろう。
 ならもう、俺もこれ以上演技する必要は無い。

「……お嬢様、その様な、はしたない言葉使いは止めて下さい」

 俺の言葉にダクネスと親父さんがハッとこちらを見た。

 めぐみんは、貴族の見合いと言うこの状況の緊張の為か、青い顔で先ほどから言葉も発せず固まっている。
 俺の発言の真意を汲み取り、ダクネスはみるみる顔をしかめ、逆に親父さんは目に涙を浮かべ、まるで俺を救いの神かという様な目で見だした。

「カズマ、き、貴様……っ! どう言うつもりだ、裏切る気か!」
「裏切るも何もありませんよお嬢様、今の自分はダスティネス家の臨時執事。お嬢様が幸せになれる事が自分の望みです」
 俺の言葉に親父さんが、おお……と呟く。
「カ、カズマ君と言ったね! この見合いが成功しなくても……、せめて、ララティーナが粗相をしない様にフォローしてくれるだけでもいい! 報酬はたっぷり弾む! だ、だから……」
 俺は親父さんが全てを言う前に、深々と頭を下げた。
「お任せください旦那様。このカズマ、全身全霊を持って、お嬢様を……」

 その時だった。
 玄関のドアがガチャリと開き、そこからあの写真の青年が現れる。
 周りにはお付きの者を引き連れて。

 ダクネスが、先手必勝とばかりに腕を組み、見合い相手を睨みつけながら言い放つ!

「貴様がこの私の見合い相手か! 我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ! 私の事はダスティネス様と呼」
「おっと危ないお嬢様っ! 頭の後ろに刺す虫が止まっておりますっ!!」

 俺はダクネスの後頭部を思い切り引っぱたいた!
次回、カズマとダクネスのバトル回に!
いえ、違う意味でのバトルです、すいません。
今回主人公酷いなあ……


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