シュボッ!
「「「おおっ!?」」」
ジッポで付けた火に、めぐみん、ダクネス、そしてウィズの三人が驚いた。
デュラハン事件から二週間。
その間クエストも受けられない状態だったので、俺はポイントを30ポイントほど使って鍛冶スキルを習得し、早速ジッポを作ってみたのだが。
「こ、これは思ったよりも便利ですね! 本当に、まんまティンダーの魔法じゃないですか! カズマさん、これは売れますよ!」
ウィズが大喜びで、興奮した面持ちでジッポを手にはしゃいでる。
その言葉に、俺は持って来ていたジッポの山をカウンターの上にドンと置いた。
ここはウィズのマジックショップ。
完成したジッポを、売れるかどうかウィズに見てもらっていたのだ。
「これ、簡単な構造なのに良く出来てますね。これが魔法を使ってないってのが信じられないです。大事に使えば凄く長く使えそうですしね」
感心した様にジッポを色んな角度から眺め回しているめぐみんは、興味深そうにジッポの感想を言った。
「うん、これは私も一つ欲しいな。火打石では湿気った場所では使い辛かったり、火を起こすのに時間が掛かったり。他にも、火種となる燃え易い物を濡らさない様に持ち歩いたりと面倒だ。これなら、それらが一発で解決する。……カズマ、一つくれ。幾らだ?」
ダクネスがジッポを手に、サイフから金を出そうとする。
「金なんかいらんさ。ダクネスとめぐみんには鍛冶屋スキルを教えてくれる人を紹介してもらったしな。二人とも、気に入ったの持ってけよ。あ、ウィズさんも、ジッポお店に置いて貰うんだし、良かったらお一つどうぞ」
俺の言葉に嬉々としてジッポを選ぶ三人を見ながら、アクアが小バカにした様に鼻で笑った。
「未開人なんだから……。ジッポ一つで何を喜んじゃっているのかしら。こんな物、本当に簡単な作りなのよ? まったく、これだから文明が遅れてる人達は、まったく……」
三人を上から目線でからかいながら、アクアも俺の作ったジッポの一つに手を伸ばし……。
その伸ばした手を、俺がぺしっとはたいた。
「…………何よ、なにすんのよカズマ。私にも選ばせてよ」
「いやお前は金払えよ」
当たり前だろと後に続ける俺に、アクアが食って掛かってきた。
「はあ? なんでよ、なんでいつもいつも私にだけ意地悪すんのよ! 何でそっちの三人は良くって私だけ駄目なのよ、私だけ仲間外れにしないでよ!」
「この三人をからかったりしなきゃ、別に一つくらいくれてやっても良かったんだが。つーか、お前今回何もしてないだろ。この三人には色々とジッポ作りに協力して貰ったが、お前はこの二週間近く、屋敷で食っちゃ寝してただけじゃねーか。分け前が欲しいなら、ちょっと店の外で客引きの一つでもして来い」
俺の言葉にアクアはじわりと涙ぐむと、捨て台詞を吐きながら店の外に飛び出してった。
「わああああーっ! カズマの甲斐性なし! カズマが私達の脱ぎ散らかした洗濯物、クンクンしてる事黙っててあげようと思ったのにっ!」
「おい待て! お、俺そんな事してないぞっ! 滅多な事言うなよ、おい! ……本当だって! めぐみんもダクネスもそんな目で俺を……。ちょ、ウィズまで! 違うよ、濡れ衣だって!」
アクアが口走った誤解を解くために俺が必死で弁解する中、店から出てったアクアが入り口から、ひょこっと顔だけ覗かせた。
「…………人一杯集めたら、私にもジッポ一つくれる?」
「ジッポぐらいやるから、まずはこの誤解を解いていけ!」
ウィズのマジックショップの前には、凄まじい人だかりが出来ていた。
ウィズ曰く、この通りにこれだけの人が殺到するのは初めての事だそうだ。
前もって、『安価で便利な着火道具販売!』と書いたチラシ撒いといたのが功を奏したのかもしれない。
人だかりの中には、俺が撒いた物と思われるチラシを持った人の姿も見受けられた。
「……しかし、凄い人だかりだな」
「……そうだな」
ダクネスの呟きに、俺は適当に相槌を打つ。
「……これが、全部ジッポ目当てのお客さんなら、良かったんですけどね……」
「…………そうだな」
めぐみんの言葉に力無く返事を返す。
俺達は、人だかりの中心に再び目をやる。
俺の隣で、ウィズが困り顔でおずおず言った。
「……ウ、ウチへ来るつもりだったお客さん達まで、みんな取られちゃってますね……」
「ああ、そうだな! あああああああ、もうあいつは一体何なんだよおおお!」
俺達が見つめる先には、凄まじい人だかりの中持ち前の芸を披露し、喝采を浴びるアクアの姿。
そこには、チラシを見て来てくれたであろう人までもが人の輪に混じり込み、安価で便利な着火道具の事など忘れてしまっていた。
客引きしろとは言ったが、誰が目的忘れるまで夢中にしろっつった。
当のアクアも、すでに店に客を集めると言う当初の目的を忘れ、全力で芸を披露している。
「さあ続いては、取り出したるこの何の変哲も無いハンカチから! なんとビックリ、鳩が出ますよ!」
言って、アクアが一枚のハンカチを広げて見せた。
それはよくあるあの手品。
事前に服の中に鳩を入れ、それをハンカチから飛び出す様に見せるアレだ。
アクアはハンカチを一振りすると、そのハンカチの中から…………
「「「「うおおおおおおおっ!?」」」」
驚愕する観衆の声を受けながら、ハンカチから数百を越える鳩の群れを羽ばたかせた。
「多いだろ! 多過ぎだろあれ! 何だあれ、あいつ今どうやった!? 物理的に不可能だろ今のは!」
俺は自分の目を疑い隣のウィズに慌てて聞くも、
「な、何でしょうか……。召還魔法を使った訳では無さそうですし、あれだけの鳩の大群をどこかに隠しておくわけにも……。……えっと、本当にどうやって……?」
俺に聞かれた魔法のエキスパートであるリッチーは、口元に手を当て真剣な顔で悩み出した。
「あ、おひねりは止めて下さい。私は芸人ではないので、おひねりは止めて下さい」
観衆から投げられる大量のおひねりを、アクアが丁重に断わっている。
芸に関しては譲れない物があるらしい。
というか、あいつ芸で充分食っていけるだろ。
俺達が半ば呆れ、そしてアクアの芸のレベルの高さに、俺達も観衆に混じって眺め始めていたその時だった。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』
例の緊急を告げるアナウンス。
「またかよ……? 最近多いな、緊急の呼び出し」
俺がウンザリと言うと、ダクネスが全くだとばかりに頷いた。
「放っておけ。どうせ大した事じゃないし、我々にはそんなものよりもっと大切な事がある」
そういやそうだ。
俺達にとってはそんな金にならない緊急の呼び出しよりも、せっかく作ったジッポが売れるかどうかの方が大切だ。
同じ思いのダクネスが、拳を握り。
「見ていろカズマ。あの、アクアが取り出したシルクハット! あそこからは、ネロイドが出るぞ! 間違いない、昨日アクアが、路地裏に逃げ込んだネロイドを追い掛け回していたのを目撃した。ネロイドだ、きっとあのシルクハットからはネロイドが飛び出すんだ……!」
拳を握り締め、子供みたいにワクワクした面持ちのダクネスは俺と同じ思いでは無かった様だ。
……ってか、今ネロイドって言ったか?
俺こないだ、ネロイドのシャワシャワとか飲んだんだが路地裏に居る様な何かなのか?
俺がダクネスに、ネロイドとは何なのかを聞こうとすると、再び緊急の呼び出しが鳴り響く。
すでにウィズやめぐみんはアクアの芸に夢中で、放送自体を聞いちゃいない。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください! ……特に、冒険者サトウ・カズマさんとその一行は大至急でお願いします!』
俺達はウィズにジッポの販売を任せ、正門に向かっていた。
「アクア、あのシルクハットからはネロイドが飛び出すんだろう? 昨日追い掛けていた、あのネロイドが飛び出すんだよな?」
「ふふん、どうかしらね? いい、ダクネス。芸ってのはね、見せるまでは種明かしはできないの。ネロイドかも知れないし、そうじゃないかも知れない。続きはまた来週、あの店の前に並びなさい」
「わ、分かった、来週だな? よし、並ぼうじゃないか!」
俺はみんなの先頭を走りながら、アクアとダクネスの二人の場違いな会話を聞きながら、俺達が呼び出される理由を考えていた。
だがまあ、大体予想は付く。
「お、やっぱりな。またアイツか」
俺達が街の正門前に着くと、そこには既に多数の冒険者が集まっている。
そして多くの駆け出し冒険者達が遠巻きに見守る中、ヤツは居た。
そう、あのデュラハンだ。
デュラハンは俺とめぐみんの姿を見つけると、開口一番叫びを上げた。
「なぜ城に来ないのだ、この人でなしどもがあああああっ!!」
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俺はめぐみんを庇う形でジワジワと前に出ると、デュラハンに問い掛ける。
「ええっと……。なぜ城に来ないって、なんで行かなきゃならないんだ? 後、人でなしって何だよ、あれからまた毎日爆裂魔法撃ち込んでくのが気に入らないのか?」
俺の言葉に、怒ったデュラハンが思わず左手に抱えていた物を地面に叩き付け……ようとして、それが自分の頭である事に気付き慌てて脇に抱え直した。
「爆裂魔法を撃ち込んで行く事にはもう諦めた。そこの頭のおかしい紅魔の娘は、どうせ言っても聞かないだろうしな。……だが、貴様らには仲間を助けようという気は無いのか? モンスターと化した俺が言うのも何だが、不当な理由で処刑され、モンスター化する前は、これでも真っ当な騎士のつもりだった。その俺から言わせれば、貴様を庇って代わりに呪いを受けた仲間を見捨てると言うのは信じられないのだが」
デュラハンの言葉に、俺とめぐみんは思わず顔を見合わせた。
後ろを振り向くと、まだダクネスが着いていない。
着ている鎧が重いのと、アクアと訳の分からない話をしながらだったので遅れてしまったのだろう。
そう思っていると、やがて噂のダクネスが、アクアと共にやって来る。
俺とめぐみんはデュラハンの方を向きながら、これを見ろとばかりにぴんぴんしているダクネスを指差した。
「あれえ―――――――――――!?」
それを見たデュラハンが素っ頓狂な声を上げた。
兜の所為でその表情は見えないが、多分、何で!? と言った表情をしている事だろう。
「なになに? どしたん? あのデュラハンなんであんな挙動不審なの?」
ダクネスと共に遅れてきたアクアが、事の経緯を聞いてくる。
「ダクネスに呪いを掛けて二週間が経ったのに、未だダクネスがピンピンしているから驚いてるみたい」
説明を聞き、アクアがデュラハンを指差し笑う。
「あははははっ! じゃあ何!? このデュラハン、私達が呪いを解く為に城に来るはずだって思って、ずっと城で私達を待ち続けてたの? 帰った後、アッサリ呪い解かれちゃったとも知らずに? プークスクス! マジうけるんですけど!」
相変わらず表情は見えないが、プルプルと肩を震わせるデュラハンの様子から、きっと激怒しているのだろう。
しかし呪いを解いてしまった以上は、罠を張っていると分かりきっている、そんな危ない所にわざわざ行く理由が無い。
「……おい貴様。俺だって、駆け出しの雑魚共相手とはいえ、頭に来たなら別に見逃してやる理由もないんだぞ? 俺がその気になれば、この街の冒険者を一人残らず切り捨てて、街の住人を皆殺しにする事だって出来るのだ。疲れを知らぬこの俺の不死の体。お前たちひよっ子どもには傷も付けられぬと知れ!」
アクアの挑発に流石に頭にきたのか、デュラハンが不穏な空気を滲ませる。
だがデュラハンが何かをするより早く、アクアが右手を突き出し叫んでいた。
「見逃してあげる理由が無いのはこっちの方よ! 今回は逃がさないわよ。アンデッドのクセに、こんなに注目集めて生意気よ! 消えて無くなんなさいっ、『ターンアンデッド』!」
アクアが突き出した手の先から、白い光が放たれる。
アクアが魔法を放つのを見て、デュラハンはまるで、そんな物は喰らっても余裕だとでも言うかの様に、それを避けようともせずに。
「こないだこの街にアークプリーストが居ると知って、俺が何の対策も無しにここへ来たと思っているのか? 残念だったな。俺は様々な属性の鎧を所持し、それを取り替える事によっぎゃあああああああああああああああー!!」
魔法を受けたデュラハンの足元に、白い光の魔法陣が現れる。
それは天に突き上げる様な光を放ち、デュラハンごと空へ還そうとでもするかの様に、しばらくの間浄化の光を放ち続けた。
自信たっぷりだったデュラハンは、体のあちこちから黒い煙の様な物を立ち昇らせ、ふらつきながらも巨大な剣を引き抜いた。
それを見て、アクアが叫ぶ。
「ね、ねえカズマ! 変よ、効いてないわ!」
いや、だいぶ効いてた様に見えたんだが、ぎゃーって叫んでたし……。
デュラハンは、よろめきながら。
「ク、ククク……。説明は最後まで聞くものだ。俺は様々な属性の鎧を所持し、相手に合わせて装備を変える。普段は貴様らのなまくらな剣など弾き返してしまう鎧を着るのだがな……。今日の装備は、神聖属性の攻撃をほぼ無効化してしまう吸光鉄製の鎧だ。だから、ターンアンデッドは効かぬ。……効かぬのだが…………。な、なあお前。お前は今何レベルなのだ? 駆け出しか? 駆け出しが集まる所だろう、この街は?」
デュラハンの疑問に、アクアが答えようとするも、それまで様子をうかがっていた冒険者達が、急にザワザワとざわめいた。
「吸光鉄……? あいつ、吸光鉄の鎧って言ったか……?」
何だ? 吸光鉄ってのに何かあるのか?
その、小さな誰かの声。それを聞いたダクネスが大剣を引き抜くと、吸光鉄とやらが何か知らず、不思議そうな表情を浮かべる俺に、大剣を正眼へと構え、言った。
「吸光鉄は、酷く脆い。あいつが、自分で言った通りの吸光鉄製の鎧ならば、普通の武器でも傷つけられる。……つまり、この街の冒険者でも充分討ち取れると言う事だ」
ダクネスの言葉を聞いて、街の冒険者達がゴクリと唾を飲み込む。
……やがて多数の冒険者達が、武器を手に、デュラハンを取り囲む様に。
それを見たデュラハンは、片手に頭を、片手に剣を持ちながら、愉快そうに肩をすくめて言い放つ。
「……ほう? 俺は、自分から斬りかかって来る様な連中までは見逃すつもりは毛頭無いぞ? ……我が名はベルディア。魔王軍斬り込み大隊隊長、デュラハンのベルディアだ。俺を討ち取れればさぞかし大層な報酬が貰えるだろう。……さあ、一獲千金を夢見る冒険者達よ。まとめて掛かってくるがいい!」
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