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二部
4話
「知ってるか? 何でも魔王軍の幹部の一人が、この街からちょっと登った丘にある、昔放棄された廃城に、派遣されて来たらしいぜ」

 ギルドに併設された酒場の中。
 俺はそこの一角で、昼間から酒を飲んでだべっているキースの話を聞いていた。
 俺はと言えば酒ではなく、ネロイドのシャワシャワを飲んでいる。
 ネロイドとは何なのか。
 シャワシャワとは何なのか。
 なんか、酒をあまり飲まない多くの人達がいつもコレを飲んでいるので、興味本位で飲んでみたのだが……。
 美味いのかと言われたらこう答えるしかない。

 ……うん、分からん。

 だが、シャワシャワの意味は分かった。
 飲んだ後シャワシャワする。
 別に炭酸ではない。
 自分でも、シャワシャワするの意味が分からないが、これはシャワシャワとしか表現できない。
 俺はネロイドとやらを飲み干しテーブルに置く。
「魔王の幹部ねぇ。物騒な話だけど、俺達には縁の無い話だよな」
「違えねえ」
 キースが、俺のやる気の無い無責任な言葉に笑いながら同意した。

 今俺は、ギルドに一人で留守番している。
 いや、正確にはキースや他の冒険者や職員がいるから一人って訳じゃ無いのだが。

 リザレクションで蘇生したばかりの俺は、アクアに二週間は安静にしてろと言われた。
 何でも、初心者殺しの巨大な牙にかじられた俺は、それはもう無残な状態だったらしい。
 どんな状態になってたのかと聞いても、皆目を逸らして教えてくれない。
 そんな訳で、今日は俺はギルドの酒場で、クエストに行ったみんなの帰りを待ちながら、他の冒険者達に色んな話を聞いていた。
 冒険者ギルドでだべっている連中は意外に多く、面白い話が色々聞ける。
 どこそこで危険なモンスターを見掛けたから、暫くはあの辺りでのクエストは受けない方がいいとか。
 あのモンスターは、柑橘系の果物の汁を身体に付けておくと匂いを嫌って寄ってこないだとか。
 と言うか、今まで生きていくのに精一杯で、こういった情報収集みたいな事はした事が無かった。

「しかし、カズマが一人でここでだべってるなんて珍しいな。いつもの連中はどうしたんだ?」

「何か、三人でクエスト受けてったよ」
 俺の言葉を聞いたキースは、そ、そうかと小さな声で気まずそうに頷いた。
 気持ちは分かる。
 きっとロクでもない結果になって帰ってくると思っているのだろう。
 俺も勿論そう思っている。

 もうこのギルド内で俺を上級職のお荷物呼ばわりするヤツは居ない。
 ダストとか言ったキースの仲間の戦士が、いかに俺が苦労しているかを、酒が入る度に他の冒険者達にトクトクと語ってくれたらしい。
 今度アイツに会ったら酒でも奢ってやろう。
 そして、あの時アイツがどんな目にあったのかを聞いてやろう。
 きっとその思いは俺とアイツにしか分かり合えないだろうから。

「ま、何にせよ。街の北の外れにある廃城には近づかない方がいい。王国の首都でもないこんな所に、何で魔王の大幹部様がやって来たのかは知らないがね。幹部ってからには、アークデーモンやヴァンパイア。はたまた、ドラゴンかリッチーか。いずれにしても、俺達が会ったら瞬殺される様な化け物が住んでるのは間違いない。廃城近くでのクエストも、避けた方が無難なとこだな」





 キースと別れた俺は、街中をプラプラと歩いている。
 あいつらがクエストから帰ってくるのは、昼過ぎから夕方にかけてだろう。
 俺はそれまで、普段はロクに見る事も無かった街の中をのんびりと散歩していた。

 この街の名はアクセル。
 この国の中では結構大きな街らしいが、そもそも俺はここ以外の街を知らないのでなんとも言えない。
 ここは別名始まりの街とも呼ばれ、駆け出しの冒険者から中堅までがここの街を拠点にするらしい。
 カエル討伐ですら食われ掛けてた俺達からすれば、これで駆け出し向けの街? と言いたくなるが。

 と、俺はフラフラと宛も無く街を歩く中、暇そうにする冒険者達が多い事に気が付いた。
 冒険者は基本的に貧乏だ。
 ほぼ毎日あくせく働くものなのだが……。
 不思議に思っていると、冒険者達は皆、街の入り口の方からゾロゾロと帰ってきている様だった。





「ったく、やってらんねーよなぁ! 何様だっつーの! 魔王の幹部だか何だか知らねーが、そんなの俺達みたいな駆け出し連中にはどうにもなんねーだろうがよ!」
 俺がギルドに帰ってくると、ギルドの中では、一人の酔っ払いが仲間と共に愚痴っている。
 そう、ダストとか言った奴だ。
「お、カズマ。お前の連れはまだクエストからは帰ってきてないぞ。でもまあ……、多分この様子じゃもうそろそろ帰ってくるだろうさ」
 ……どういうこった?
 テイラーの言葉の意味が分からず、俺がきょとんとしていると、リーンがため息を吐きながら。
「なんかねー。魔王の幹部だかが引っ越してきた所為で、この街の冒険者に勅令クエストが出ちゃったの」
 ……?
「勅令クエスト?」
 オウム返しに尋ねる俺に、リーンがこくりと頷く。
「そ、勅令クエスト。この国の偉い人達が出せるクエストの事なんだけどね。これは全冒険者が対象で、このクエストが出されてる間は他のクエストは後回しになっちゃう訳。で、今回出された勅令クエストの内容がね……?」
 困った様に言い淀むリーンの後を引き継いで、俺が散歩してる間にすっかり出来上がっていたキースが言った。

「駆け出しや中堅しかいないこの街の俺達に、大魔王の幹部様をぶっ殺せだってよー! 無理に決まってんだろ! うひゃひゃひゃひゃっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ただいま! カズマ、聞いてよ! 聞いて! やったわよ、やったわ私達! カズマ抜きでも、失敗する事無くクエスト完了してきたわよ!」
 何時になく上機嫌なアクアが帰って来た。
「……うむ、私達だってやれば出来る子だと言う事だ。苦労を掛けたなカズマ。これからは、お前一人に苦労はさせない。もう、カズマのあんな無残な姿を見るのは勘弁だ」
 何時になく優しげな顔で微笑むダクネス。
「ふっ、我々にかかればこんなものです。まあ、クエスト自体は簡単な物でしたしね。畑に大量発生したマイマイつむり。動きがノロくて、ダクネスでも難なく倒せました。何であんな弱いのに討伐依頼なんて出てるのかって思ってたら……。何でも、畑の持ち主が、マイマイ系だけは駄目なんだそうで!」
 何時になく得意げなめぐみんが胸を張る。
 ……マイマイつむりってなんだよ。
 かたつむりつむり?
 ……というか、それだとめぐみんは今回何もしていないと思うんだが、何故一番自信満々なのだろうか。

 でも、せっかく何事も無くクエスト達成してきたと思ったら……。
「えーと……。申し訳ありません、現在勅令クエスト発生中ですので、一切の他のクエスト処理ができません……」
 報酬を受け取ろうとしたアクア達に、申し訳無さそうな受付のお姉さん。

「な、なんでよおおおおおっ!?」

 ……コレばっかりは流石にアクアに同情した。





「全く……! 何でこのタイミングで引っ越して来てんのよ! 幹部だか何だか知らないけど、もしアンデッド系なら見てなさいよ!」
 アクアがジョッキを一気に煽り、ぶはーと息を吐きながら愚痴を零した。

 他の冒険者達も皆思いは同じな様で、やってられないとばかりにいつもより多めに飲んだくれている。

 国のお偉いさんとやらも無茶言うものだ。
 一体何の目的でこんな所に来たのかは知らないが、仮にも魔王の幹部だのを討ち取れだとか。
 ハッキリ言って、この街の冒険者達の実力は俺達とあまり変わらない。
 俺達より強いパーティは勿論あるだろうが、それでもパーティの平均レベル的には、レベル30以下の者ばかりだ。
 聞いた話では、今はどこで何をしているのか知らないが、あのミツルギのパーティがこの街では一番強かったらしい。
 そのミツルギに、例え不意打ちとはいえ勝った俺ですら、先日初心者殺しにあっさり殺られた。

 魔王の幹部なんて、ゲームで言えばラストの方で出てくるもんだ。
 初心者殺しを見て逃げ回っている冒険者グループが、例え百組以上集まってもどうにかなるとは思えなかった。





「つまり、国の首都から腕利きの冒険者や騎士達がここに来るまでは、暫くは仕事が出来ないって事か」
 俺はぶらぶらと歩きながら。
「ですね。……まあ、こう言っては何ですが、生き返ったばかりのカズマの、良い休養だと思っておきましょうか。……まあ、となると、クエストの無い間はしばらく私に付きあって貰う事になりそうですが」
 そんな事を言ってくるめぐみんと共に、街の外へと散歩していた。
 街の近くには危険なモンスターはいない。
 害をなすモンスターは軒並み狩られているから。

 俺は、今日のクエストで爆裂魔法が撃てなかった消化不良のめぐみんに付き合い、めぐみんの日課の一日一爆裂を放つ場所を探し、街を出て散歩していた。
 ひょっとして、俺はこれから毎日、腕利きの冒険者達が魔王の幹部を倒すまでこれにつき合わされるのだろうか?
 一人で行けと突き放したら、万一調子に乗って全魔力を込めて魔法を放ってしまったら、一体誰がおぶって連れ帰ってくれるんですかと開き直られたのだが。

「もうその辺でいいだろ。適当に魔法撃って帰ろうぜ」
 街からちょっと出た所で、俺はめぐみんに魔法を放つ様に促した。
 だがめぐみんが首を振る。

「駄目なんです。街から大分離れた所じゃないと、また守衛さんに叱られます」

「またって言ったか。怒られたのか、音がうるさいとか迷惑だって」
 俺の言葉にめぐみんがコクリと頷く。
 しょうがない、唯でさえ日々色んな所で迷惑掛けてる俺達だ。
 丸腰なのでちょっぴり不安だが、ここはちょっと遠出して……。

 …………俺は思いついた。

 なぜ俺がこんな面倒臭い事に付き合わなければいけないのかと言えば、それは例の魔王の幹部の所為な訳だ。
 そうだ、そうだよ。
 駆け出しの俺達には抗う事なんざ出来ない様な格上様だが、嫌がらせぐらいはしてやれる。
「おい、いい場所を思いついた。めぐみん、行くぞ!」

 俺達は街の近くにある丘を登り、遠い昔に廃棄され、今は魔王の幹部が住み着いていると言う城が見える所までやってきた。
 廃城とは言え、それはまだまだ住むには充分な城。
 俺とめぐみんは、それを遠巻きに眺めていた。
「よし、やれ」
「ええっ!?」
 俺の合図にめぐみんが驚愕の声を上げる。
「しょ、正気ですか!? 魔王の幹部ですよ!? そんなの相手に喧嘩売る気ですか!?」

 冷や汗垂らしながら捲し立てるめぐみんに、
「喧嘩売ってきてるのは向こうじゃないか。どこの誰とも分かんない顔も見た事の無い奴の所為で、今この街の冒険者達は仕事が無くて困ってるんだぞ? こんな離れた所から爆裂魔法撃ったって、すぐ街に逃げ帰れば大丈夫だって。今回お前ら、せっかく俺抜きで無事にクエスト終えてきたのにケチ付けられちゃっただろ? 元々討伐命令が出てる相手だし遠慮はいらない。せめて一矢報いてやろーぜ?」

 俺の言葉にめぐみんはなるほどと呟くと。
「それもそうですね。相手は魔王の幹部です、今は様子を見る気なのか何なのかは分かりませんが、いずれ何時かは戦わなきゃならない相手ですし! それに、万が一爆裂魔法で討ち取れれば儲けものですしね! 城に対抗魔法ぐらいは掛けてあるでしょうが、せめてビックリさせてやりましょうか!」
 言って、ウキウキと魔法の詠唱を始める。


 …………こうして、俺とめぐみんの新しい日課が始まった。


 それからと言うもの、俺とめぐみんはその廃城の傍へと毎日通い、爆裂魔法を放ち続けた。
 それは、寒い氷雨が降る夕方でも。

 それは、穏やかな食後の昼下がりでも。

 それは、朝起きて、爽やかな目覚めの散歩のついででも。

 どんな時でもめぐみんは、毎日その廃城に魔法を放ち。
 いつしかめぐみんの魔法を見慣れた俺も、その日の爆裂魔法の出来が分かるまでになっている。

「『エクスプロージョン』ッッッ!」

「おっ、今日のは良い感じだな。爆裂の衝撃波が骨身に浸透するみたくビリビリ来る。ナイス爆裂!」
「ナイス爆裂! ふふっ、カズマも爆裂道が段々分かって来ましたね。どうです? カズマも随分とレベルが上がり、ステータスもかなり上昇して来たでしょう。いっそ、アークウィザードへのクラスチェンジを目指してみては?」
「うーん、爆裂道も面白そうだがなぁ、今のパーティ編成だと魔法使いが二人ってのもな。でも冒険者稼業を引退する頃には、最後にアークウィザードになってみるってのも面白そうだな」
 俺とめぐみんはそんな事を言いながら笑い合う。
 今日の爆裂魔法の音は何点だった、いや、音量は小さかったが音色が良かった等、そんな事を言い合いながら。



 それは、俺の養生期間とされていた、二週間が経った時の事だった。

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』

 街中に鳴り響くのはお馴染みの緊急のアナウンス。
 そのアナウンスに俺達も、しっかりと装備を整え。
 街の正門前に多くの冒険者が集まる中、そこに着いた俺達は、凄まじい威圧感を放つそのモンスターの前に呆然と立ち尽くした。

 デュラハン。
 それは人々に死の宣告を行い、生きる者に絶望を与える不死身の首無し騎士。
 不死となり、生前を凌駕する剣技を手に入れたその暗黒の騎士は、脇に己の首を抱え。
 街中の冒険者達が見守る中、その抱えていた首を目の前に差し出した。
 その差し出した首がプルプルと小刻みに震え出し…………!


「ままままま、毎日毎日毎日毎日っっ!! おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでく大馬鹿は、誰だあああああああーっ!!」

 魔王軍の大幹部は、もう限界だとばかりにお怒りだった。


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