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二部
1話
 俺がこの世界に来て、数ヶ月が経った。

 その間、様々なスキルを習得したり、屋敷を安値で手に入れたり。
 こつこつスキルを使い続け、習得したスキルレベルも順調に上がっている。
 初級属性魔法と不死王の手、片手剣修練は、使用頻度が高いからか、スキルレベルはそれぞれ、レベル11、9、10に。
 潜伏、敵感知、窃盗スキルはスキルレベルが5まで上がった。

 鋼鉄製の胸当てと篭手とすね当てを身に付け、切れ味が鈍くなってきた小剣は、鍛えた鋼鉄製の、俺の注文で刀っぽい形にしてもらった、片刃の剣に買い換えた。
 腰にはダガーを差して、弓と矢を背中に背負った状態が今のスタイルだ。

 アーチャーのキースに教わった、遠視と暗視が可能になるスキル、千里眼。
 そして、遠距離武器の飛距離が劇的に伸び、長距離狙撃が可能になるスキル、狙撃。
 ここしばらくで俺はレベルが22になり、スキルポイントに余裕が出来た俺は、この二つのスキルも習得していた。

「よし、いい位置だ。それじゃ仕掛けるぞ!」
 木の上で、狙撃スキルでの長距離狙撃体勢に入った俺は、仲間に今から仕掛ける合図を出す。
「いいわよ、こっちは何時でも大丈夫よ!」
 アクアが俺の登っている木の下で、腕を組み、仁王立ちで見下ろすかのように俺の標的を見つめている。
「ん、アクアの支援魔法もかけて貰ったし、これなら何匹でも耐えれる」
 大剣をずんと地面に突き刺し、それの柄に両手をかけて堂々と立つダクネスの姿が頼もしい。
「撃ち漏らした時は任せてください。今日はいつもよりいい感じで魔力を練れてます。近づいてきたらまとめて吹き飛ばしてあげますよ」
 めぐみんが、杖を振りかざし余裕を持って佇んでいる。

 攻撃的なスキルが無い為、あまり攻撃に参加できないアクアを除き、レベルが20を越え、装備も充実した俺達は、今や駆け出しではなく一人前の冒険者だ。

「よし、それじゃ始めるか! じゃあ手はず通り行くぞ! まず俺が、王様ランナーと姫様ランナーを狙撃! 王様ランナーと姫様ランナーさえいなくなればリザードランナーの群れはほっといても解散するそうだから、後のリザードランナーはほっとく。狙撃に失敗してこっちに襲ってきたら、ダクネスが耐えてる間に俺が王様と姫様ランナーを続けて狙撃。それすら失敗したなら、囲まれる前にめぐみんの爆裂魔法でまとめてぶっ飛ばし、撃ち漏らしたヤツを俺が上から撃破。アクアは全体の援護を頼む。……じゃあ、いくぞ!」

 スキル千里眼により、遠く離れたリザードランナーの群れを捕捉する。
 そこには、他のリザードランナーとは二回りも大きいヤツが1匹。
 頭にトサカの様なツノを生やし、他のリザードランナーをはべらせる様に従えていた。

「おいアクア、頭にトサカみたいなツノのあるリザードランナーがいる。こいつが姫様なのは分かったが、王様はどいつなんだ?」


 リザードランナー。
 普段であれば特に危険の無い、草食性の二足歩行のトカゲなのだが。
 姫様ランナーとか言う大きなメスの固体が発生すると、このリザードランナー達は途端に厄介な生物に変貌する。
 この姫様とやらに率いられたリザードランナーは、どんどん集って群れを成し、そして群れの中では、姫様ランナーとのつがいになれる権利を勝ち取る順位決めが始まる。
 その順位決めの仕方が独特で……。

 走るのだ。
 二足歩行で、とてつもない速さで走るのだ。
 まるで、昔流行ったエリマキトカゲみたいに。

 しかも連中は、同種族で並んで走って実力を測るのではなく、他種族の足の早い生物を見つけては、勝負を挑み、並んで走り、抜き去っていく。
 そして、抜き去った数が一番多い者が見事姫様ランナーとつがいになれ、そしてそいつは群れを従える王様ランナーと呼ばれる存在になる。
 なぜ姫様なんだ、王様とのつがいなら女王ランナーか王女ランナーじゃないのかとか、リザードランナーって呼ぶのなら、王様ランナーじゃなく普通にキングランナーとか呼べよってのは、突っ込んだら負けなのだろう。

 このリザードランナーとやらの訳の分からない生態を説明された時には、俺はいよいよこの訳の分からない世界が嫌になったものだ。
 この世界ではモンスターまでもが非常識なのかと悩んだが、馬や騎竜、騎鳥等に乗っている人達にとっては他人事ではない。

 普段は大人しいリザードランナー達だが、駆けっこ勝負の為ならば、相手が馬だろうがドラゴンだろうが物怖じせずに蹴る。
 蹴って、そのまま逃げるのだ。
 リザードランナーの蹴りは凄まじく、当たり所が悪ければ骨折程度では済まない。
 そして、姫様ランナーが現れたとの報告を受け、ギルドからリザードランナーの群れの解散クエストが発注されたのだが……。

「どれが王様かなんて、私には分からないわよ。王様ランナーってんだから、一番偉そうなのが王様なんじゃないの?」

 どうやって偉そうなトカゲを見分ければいいんだと言いたいが、アクアに聞いた俺がバカだった。
 姫様ランナーは特徴があるから分かるのだが、駆けっこ勝負で勝ったトカゲの見分け方なんて……。
 と、姫様ランナーがくっついて離れない、一匹のトカゲを見つけた。
 そうだ、姫様とつがいになるとか言ってたな、なら姫様と仲のいいヤツが王様ランナーだ。
 俺はそのトカゲに狙いを絞ると、弓をキリキリと引き絞り…………!

「そうだわ、任せてカズマ、私に考えがあるわ! 駆けっこ勝負で一番になったのが王様ランナーなら、王様ってのは一番速い訳よ! 神聖魔法の一つに、敵を寄せ付けない魔法の対になるヤツで、モンスター寄せの魔法があるわ! これで呼んで、一番にここに着いたランナーが王様よ!」

 遠くから安全に王様を狙い撃ちする為にどいつが王様かを知りたかったのだが、アクアが、敵をおびき寄せて王様を選別すると言う、本末転倒な事を言い出した。

「おい、お前は何を言っている。女神には火を見ると油を注がなきゃ気が済まない習性でもあるのか? もう王様の目星は付けた。頼むから余計な……」
「『フォルスファイア』!」
 俺が説く間も無く、アクアが魔法を唱えていた。
 アクアの手に青白い炎が灯り、その火を見たモンスターではない俺ですら、何だかアクアを殴りたい衝動にかられる。
 余計な事しやがってと言う感情の所為も少しはあるが、この衝動の大半は魔法の力だ。

 もちろんその炎はリザードランナー達にも遠目に映ったらしく、トカゲ達が甲高い奇声を上げてアクア目がけて駆けだした。

「「「速っ!?」」」

 俺とダクネス、めぐみんが、走ってくるトカゲの速さに驚愕する。
 めぐみんが慌てて爆裂魔法の詠唱を始めるが、この速さでは魔法が完成するまでに攻めかかられるだろう。
 ダクネスがめぐみんの前に立ち、俺は弓を構えてアクアに怒鳴る。

「このクソバカ、毎度毎度何かやらかさないと死ぬ病気なのかお前は! 王様と姫様さえこっそり討ち取れれば無力化できるのに、何でわざわざ呼び寄せるんだ!」
「な、何よいきなり! 私だって役に立とうとしてやってる事なんだから怒んないでよ! ああ、分かったわよ! どうせこの後の展開なんていつもの事でしょ! きっとあのランナー達に酷い目に合わされて泣かされるんでしょ! 分かってるわよいつもの事よ! さあ殺すなら殺せー!」
 俺に怒られた事に開き直り、ヤケクソになったアクアが叫び、不貞腐れた様に地面に大の字に寝転がる。
「このバカ、せめて支援と回復ぐらいしろ! そんな所に寝るな、本当に踏まれて死ぬぞ!」

 俺は叫びながら、こちらに凄まじい速さで駆けて来る王様ランナーに弓を絞って狙いを定め、狙撃スキルで狙い撃つ。
 狙いは違わず、王様ランナーと予想した、群れの真っ先をひた走るリザードランナーの眉間に矢が突き立った。
 狙撃スキルの命中率は、スキルレベルと器用度、そして幸運の高さに依存される。
 弓なんてロクに扱った事のない俺でも、スキルを使えば持ち前の運の強さでそこそこ当たる。
 王様を討たれた事で他のトカゲが怯むかと思えば、トカゲ達は何故か益々いきり立った。
「おいアクア、いつまでもふて寝してんな! 王様っぽいのを倒したのに、かえって凶暴になってるぞ!」
 アクアが大の字に寝そべったまま。
「王様を先に倒すと、新しい王様ランナーに成れるチャンスが出来たトカゲ達がはりきり出すわよ。倒すなら姫様ランナーから倒さないと」
「そんな大事な事は先に言えよおおお!」
「ちょっ……! 無理、魔法が間に合わな……!」
「ふははははっ! 来ーいっっ!」
 それぞれが叫ぶ中。
 リザードランナーの群れが、めぐみんの前に嬉々として立ち塞がるダクネスに突っ込んできた。


 ちょっとレベルが上がった程度で、一人前とか調子に乗ってすいませんでした。







「おっ、ようカズマ! ……って、ボロボロだなおい。リザードランナーの群れを解散させるクエストだったか。失敗したのか?」
 ギルドに帰った俺達の姿を見て、最近めっきり仲良くなったキースが声を掛けてくる。
「いや、一応クエストは完了した。ボロボロなのはいつもの事だ」

 俺とダクネスは、それぞれボロボロになって気を失っているアクアと、比較的軽症のめぐみんを背負っていた。
 ダクネスは流石に硬く、リザードランナーに一番蹴られまくっていたのに平気な顔だ。
 めぐみんは一撃だけ蹴りを喰らっていた様だが、それほど深い怪我は無い。
 問題は、高いステータスと神器の羽衣のおかげで、ダクネスに次ぐ防御と耐久を持つアクアだった。
 普段は多少の攻撃を受けても大した怪我はしないのだが、今回は開き直ってあんな所に寝転んでいた為、トカゲ達に踏まれまくり蹴られまくり、途中から泣いて助けを求めていたが、こればっかりは自業自得としか言い様がない。
 結局、ダクネスがめぐみんを守りながら耐えている所を、俺が姫様ランナーを木の上から狙撃して群れを解散させたのだが、今回はどうにも手こずった。

 今日の報酬は10万エリス。
 四人で割れば日当2万5千か。
 アクアとめぐみんの負傷を考えれば、割に合わない話だ。

 ううむ、やっぱり冒険者稼業は儲からないなぁ……。


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 報酬を受け取り屋敷に帰った俺達は、目を覚ましたアクアの手で傷を癒した後、屋敷の広間に集まる事に。
 ちょっと今後の事でみんなに話したい事がある。
 俺より先に広間に来ていたダクネスとめぐみんは、広間に元から備え付けられていたソファーに寝転び、くつろいでいた。
 のんびりとアクアを待っていると、アクアが何かを持って広間に慌ただしく駆け込んで来る。

「カズマああああ! 聞いてよ! またよ、またやられたわっ! 見てよこれっ!」
 アクアが涙目で突き出してきたのは、空になった酒の瓶。
「はいはい、また貴族のなんたらさんが現れて、お前の酒を飲んだんだな。分かった分かった」
「ちょっと信じてないでしょ! 何度言ったら分かるの!? 本当にこの屋敷にはその子が住んでるんだってば!」

 いつぞやの悪霊騒ぎの時に、アクアが霊視したと言い張っている貴族の少女。
 それが、たまに取って置きの酒を飲んでいくとアクアが文句を言ってきて困っている。
 きっとこいつは、そんな訳の分からない事を言って俺に酒代をせびりたいだけに違いない。
「じゃあ、お前には見えるって言うのなら、とっととその子を成仏させてやればいいじゃないか」
 その言葉に、アクアがもじもじと指をもにょらせ、困った様な顔をする。

「だ、だって、冒険者にこの屋敷に住んでもらって、毎日冒険話を聞くのが夢だったって言われたら、もうちょっとだけこの世に居させてあげたいじゃない…………」

 珍しくそんな事を言いよどむアクアの様子に、俺は少しだけ、ひょっとしたらアクアは本当の事を言っているのかも知れないという気になる。

「……今、その女の子はどうしてるんだ? 今も俺達の話を楽しそうに聞いてるのか?」

 もし、そうなのだとしたら。
 独り言になってもいい。
 寝る前に、その日あった冒険話でも…………。
「私にしか姿が見えないのを良い事に、カズマの後ろでヒゲダンスみたいな踊りを踊って、カズマが邪魔で手が出せない私を挑発してるわ」
「そんな陽気な地縛霊が居てたまるか!」
 一瞬信じかけた俺がバカだった。
 いや、今はそんなしょうもない話をする為にみんなに集まってもらった訳じゃない。

 俺とアクアとの訳の分からないやり取りを、いつもの事だとのんびりとくつろぎながら聞いている、ダクネスとめぐみんに向き直った。


「拠点は手に入った。レベルも上がって装備も揃った。冒険家業もいいんだが、次の目標として、俺は店的な物を出したいと思うんだが」


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