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一部
17話
「卑怯者! 卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」
「あんた最低! 最低よ、この卑怯者!  正々堂々と勝負しなさいよ!」
 ミツルギの仲間の、二人の少女による俺への罵倒。
 それを俺は甘んじて聞いていた。

「き……きき……君って……やつは……。こ、これで勝って満足なのか……!?」

 俺の新しいスキルで、身動きが取れなくなったミツルギに小剣を突きつけながら。

 『不死王の手』
 それがウィズに教えて貰った新しいスキル。
 ポイントを30ほど消費して、貯めてたスキルポイントが全部無くなったが、その価値はあった。
 というか、有用すぎるスキルだ。
 効果は、素手でも武器越しでも、触れた相手に、毒、麻痺、昏睡、魔法封じに弱体化の状態異常を引き起こすもの。
 状態異常の効果はスキルレベルに依存する。
 そして、状態異常を引き起こす確率は幸運依存。
 まさに、幸運だけ高い俺にうってつけのスキルだ。

 ミツルギは、今はどうやら麻痺の状態異常に陥っている様だった。
 まだ俺のスキルレベルが1なだけあって、完全に身動きが取れない訳ではないのだろう。
 だが明らかにその動きが緩慢になっていた。
「俺の勝ちって事で。何でも一つ言う事聞くって言ってたな? それじゃこのまま魔剣を貰っていきますね」
 俺の一言に、ミツルギが驚愕する。
「なっ!? ば、バカを言うなっ! それに、その魔剣は君には使いこなせない。その魔剣は僕を持ち主と認めたんだ、僕以外には魔剣の加護は効果がないよ」
 自信たっぷりに言ってくるミツルギに、俺はアクアの方を振り向いた。
「……マジで? この戦利品、俺には使えないの? せっかくチートアイテム取り上げたと思ったんだけど」
「マジよ。残念だけど、魔剣グラムはあの痛い子専用よ。装備すると尋常じゃない膂力が手に入り、石だろうが鉄だろうがばっさり斬れる魔剣だけれど。カズマが使ったって、ちょっと良く斬れる剣ってだけよ」
 なんだ、良く斬れる剣ってか。
 なら、貰っておこう。
「じゃあな、それじゃまたどこかで会う事もあるかもしれんが、これはお前が持ちかけた勝負なんだから恨みっこ無しだぞ。……それじゃアクア、ギルドに報告に行こうぜ」
 言って踵を返す俺に、ミツルギの仲間の少女が武器を構えた。
「ちょちょちょ、ちょっとあんた待ちなさいよっ!」
「キョウヤの魔剣、返して貰うわよ。こんな勝ち方、私は認められないわ」
 その二人の少女に、俺は手をワキワキさせて見せた。
「別にいいけど、男女平等主義者の俺は女の子相手でもドロップキックを食らわせられる公平な男だぞ。手加減してもらえると思うなよ? と言うか、女相手なら、この公衆の面前で俺のスティールの餌食にしてくれる」
 俺のワキワキと動く手を見た二人の少女は、違う意味での身の危険を感じ取ったのか不安気な表情で後ずさった。

「「「…………」」」
 そんな俺を、無言でじっと見ている後ろの仲間達の視線が痛いです。

「ま……、待て……。まだだ、俺はまだ終わっちゃいない……っ!」

 麻痺を喰らったはずのミツルギが、痺れる身体をなんとか動かし、怯んでいる二人の少女の前に庇う様に立ち塞がった。

 ……あれ、理不尽な喧嘩売られたのは俺なのに、なぜか俺が悪者みたいな雰囲気に。

 ミツルギは脂汗をかきながら、懸命に手足を動かした。
 負けられない、負けるわけにはいかないとかブツブツ言いながら。
 俺はそんなミツルギを……。
「……とおっ」
 小剣で突いた。
 ほっぺたに軽く傷を負わせるように、小剣の先でツンツンする。
 更なる状態異常を引き起こす為だ。
「ぐああああ!? な、何だこれは、力が抜ける!?」
 痺れてロクに動けない所を俺の小剣で何度も突つき回されて、ミツルギが悲鳴を上げた。
 力が抜けると言う事は、『不死王の手』の最悪の状態異常、弱体化が発動したのだろう。
 弱体化。
 効果は、レベルの減少。
 某有名RPGでお馴染みの、レベルドレインというヤツである。
 ……この際だ、今後逆恨みされて絡まれても厄介だ。
 こいつ、レベル1にまで下げてやろう。
「ちょっと!? あ、あんたキョウヤに何してんの!?」
「おい、止めろ! 止め……! おい、ほんとに止めろ! 止めろって! お願い止めて!」
 ミツルギを突つき回す俺を二人の少女が止める頃には、ミツルギは昏睡状態に陥り地面に寝転がっていた。
 ミツルギが首からぶら下げている冒険者カードを確認すると、そこにはソードマスターレベル1の表示。
 これでよし。
「……私はこの男は生理的に受け付けないが、さ、流石に気の毒だ……」
「……多分、レベル37まで上げるのって、魔剣持ちだとは言っても相当な時間が掛かったはずよ」
「カズマ、その新スキル本気で怖いんで、スキル発動中は近くに寄らないでくださいね」
 俺の後ろの仲間達が、流石に憐れんだ様に深く眠るミツルギを見ていた。





 多分毒に侵されてるから、早めに治療した方がいいよとの俺の言葉に、二人の少女が慌ててミツルギを抱え連れて行ったその後。
 俺達は借りてたオリを引きずりその場を後にし、ようやくギルドへと帰って来た。
 報酬は全部アクアにやると決まったので、クエストの完了報告はアクアに任せ、俺とダクネスとめぐみんは夕食を食べていたのだが……。

「な、何でよおおおおおっ!」
 喧しいアクアの声が響き渡る。
 あいつは、とにかく騒ぎを起こさないと気が済まないのだろうか。
 俺は定食を頬張りながら受付カウンターの方を見る。
 そこでは、涙目になったアクアが職員に掴みかかっていた。
「だから、借りたオリは私が壊したんじゃないって言ってるでしょ!? ミツルギキョウヤって奴がオリを捻じ曲げたんだってば! それを、何で私が弁償しなきゃいけないのよ!」
 なるほど、そういやミツルギがオリを曲げてアクアを助けようとしてたんだっけ。
 アクアが、その壊れたオリの請求を受けているらしい。
 しばらく粘っていたアクアだったが、やがて諦めたのか、報酬を貰って俺達のテーブルへとぼとぼとやってきた。

「今回の報酬、壊したオリのお金を引いて、10万エリスだって……。あのオリ、特別な金属と製法で作られてるから20万もするんだってさ……」
 しょんぼりしているアクアに流石にちょっと同情する。
 今回に関しては、アクアはとんだとばっちりだ。
「何だったんでしょうねあの人は。なんか勝手にアクアを助けたがってましたが、余計なお世話と言うべきか……。しかし、それにしてもカズマはエグい攻撃ばかり考えますね。スティールで武器を奪う発想は今までにもまあありましたが、斬りかかられながらスティールされたら、相手はたまったものではないですよ。どんな熟練の戦士でも、今手元にある武器なり盾なりで対処するもんです。いきなり持ってる物を取り上げられるぐらいなら、あのミツルギとか言う人も最初から素手で戦っていた方が、身をかわすなり何なり、まだ対処はできたでしょうね」
 めぐみんが呆れた様に呟く中、テーブルに着いたアクアはメニューをギリギリと握り締め、
「あの男、今度会ったら絶対ゴッドブロー食らわせてやるわっ! そしてオリの弁償代払わせてやるっ!!」
 アクアが悔しげに喚く中。

「ここに居たのかっ! 探したぞ、佐藤和真っ!」
 ギルドの入り口に、その話題のミツルギが立っていた。


 教えてもいない俺のフルネームをいきなり叫んだミツルギは、俺達の居るテーブルにツカツカと歩み寄り、バンとテーブルに手を叩きつけた。
「佐藤和真! 君の事は、他の冒険者に聞いたらすぐに教えてくれたよ。君は結構有名なんだね。ある盗賊の女の子はパンツ脱がせ魔だって言ってたし、あるマジックショップの店主のお姉さんは、ヤクザみたいな人の飼い主だって言っていた。ある魔法使いの女の子は、何でも出来るカズマさんだとか。ある戦士風の男は、君はとてつもない苦労人だとか……。……君は、一体何なんだ?」

 何なんだと言われても。

「僕のレベルを1にしてくれたそうだな。レベルドレインなんてスキル、どのクラスにおいてもそんなスキルを教えられる職業なんて、僕は知らない。君は一体何者だ?」
 真剣な表情で俺に詰め寄るミツルギに、アクアがゆらりと立ち上がり、ミツルギの前に出た。
「……アクア様。僕はいずれまたレベルを上げ、そしてその男から魔剣を取り戻し、必ずあなたを迎えに行きます。あなたを守るに相応しい男になって。その時は、僕と同じパーティぐぶえっ!?」
「「ああっ!? キョウヤ!」」

 アクアに無言でぶん殴られて、ミツルギが吹っ飛んだ。
 慌ててミツルギに仲間の二人の少女が駆け寄るが、なぜ殴られたのか分からないといった表情のミツルギに、アクアがツカツカと詰め寄り、そのミツルギの胸ぐらを掴み上げた。
「ちょっとあんたオリを壊したお金払いなさいよ! おかげで私が弁償する事になったんだからね! 30万よ30万、あのオリ特別な金属と製法で出来てるから高いんだってさ! ほら、とっとと払いなさいよっ!」
 さっき、あのオリ20万って言ってなかったか。
 ミツルギは殴られた所を押さえ、尻餅をついた体勢で、アクアに気圧されながら素直にサイフから金を出した。
 気を取り直したミツルギが、上機嫌でメニューを片手に店員を呼ぶアクアを気にしながら、俺に悔しそうに言ってくる。

「……あんなやり方でも、僕の負けは負けだ。そして何でも言う事を聞くと言った手前、こんな事を頼むのは虫がいいと言うのも理解している。……だが、頼む! 魔剣を、返してはくれないか? あれは君が持っていても役には立たない物だ。君が使っても、そこらの剣よりは斬れる程度の威力しかない。どうだろう? 剣が欲しいのなら、店で一番良い剣を買ってあげてもいい。返してはくれないか?」

 本人も言ってるが、また随分と虫のいい話だ。
 いくらいらない子とはいえ、アクアは、一応この世界への移住特典として俺にくっ付いてきたオマケな訳だ。
 それはつまり、俺もミツルギの持つ魔剣相当の特典を賭けたって事になる。
 魔剣に相当してるのかと言われれば黙るしかない訳だが。

 俺はウキウキしながら注文した料理を待っているアクアに、ワザとらしく話しかけた。
「アクアさーん、アクアさーん! 魔剣1本のお値段って、おいくら万円? 店で一番良い剣と、どっちが高い?」
「そりゃあ魔剣に決まってるじゃない。魔剣1本の値段なんて、下手しなくても屋敷が建つわよ。この街で一番良い剣なんて、魔剣を売って屋敷を買ったお釣りで余裕で買えるわよ」
 そりゃすげー!

「と言う事は、これを売り払ってしまえばミツルギにわざわざ買って貰わなくても自分で買えちゃう訳か。しかも、最近欲しかった拠点まで付いて」

 俺の言葉にミツルギの顔が青ざめた。
 そりゃそうだろう、一度売ってしまえばもうミツルギの手元に戻ってくる保障なんてない。
「ままま、待ってくれ! うん、そうだな、そうだ。確かにちょっと値段が安過ぎた。よし、剣だけじゃなく、最高の装備一式揃えさせてくれ! それも、君だけじゃなく君のパーティメンバー全員の分だ!」
 迂闊な事を口走ってばかりのミツルギ。

「おいお前ら聞いたか! 金に糸目は付けなくていいぞ、考えうる限り最強の装備をオーダーできるぞ! なんせ、今は宝島フィーバーで希少鉱石がこの街には溢れてる! 俺、最高純度の希少鉱石で作ったフルアーマーが欲しい」
「私もそれが欲しい。しかもミスリル銀をふんだんにコーティングした、小さな城でも買えてしまいそうなヤツだ」
「私は総マナタイト製の杖と、マナタイトをふんだんにあしらったローブが欲しいです。あと特に意味はないけど、ミスリル銀でできた腕輪が欲しい。絵的にカッコイイから」
「めんどくさいから、私はこの街で最高値の希少鉱石をありったけ使った、大型の鎧か何かでいいわ。貰ったら、もれなく売り飛ばすから」

 俺達四人の好き勝手な無茶な注文に、ミツルギが涙目になる。

 バカめ、考え無しに適当な事を口走るからだ。
「そ、そんな無茶な……! わ、分かった。有り金だ! 僕の有り金を置いて行く。それで、魔剣グラムを返してくれ! どうだ、これで文句無いだろ!」
 半ばヤケクソ気味に言ってくるミツルギに、俺はミツルギではなく三人に聞き返した。

「おいお前ら、今何か聞こえたか?」
「私には、有り金と所持アイテム、それと装備している鎧一式差し出すので返してくださいと聞こえたわ」
「私もそう聞こえましたね。あと、今日一日語尾に、ごめんなさいっ! を付けて生活するからと聞こえました」
「……ん、あと、鎧一式を脱いだ状態で土下座して謝るのでどうか許してくださいと聞こえたな」

 ミツルギは、泣きながら着ている鎧を脱ぎだした。
「お前ら、僕をこんな目にまであわせたんだから、今後どうなるか覚えてろよごめんなさいっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ところで。アクアが女神だとか何とか言っていたが、何の話だ?」

 ミツルギがパンツ一枚で土下座して、泣いて帰って行ったギルド内にて。
 あの騒ぎでギルド内の冒険者達の好奇の視線を遠巻きに浴びる中、ダクネスが言ってきた。
 ……まあ、あれだけ女神だ何だと言ってればなぁ……。
 この際だ。めぐみんとダクネスには言ってしまってもいいか?

 俺がアクアに視線をやると、アクアはこくりと頷いた。
 そして、アクアは珍しく真剣な表情で、ダクネスとめぐみんに向き直る。
 ダクネスとめぐみんも、その雰囲気を察し、真剣に聞く姿勢に入る。

「今まで黙っていたけれど、あなた達には言っておくわ。……私はアクア。アクシズ教団が崇拝する者にして、水を司る女神。そう、私こそが、女神アクアなのよ」

「「って言う、夢を見たのね」見たのか」
「違うわよ! 何で二人とも変にハモってんのよ!」

 ……まあ、こうなるわなぁ……。





 俺達は、未だキーキー騒いでいるアクアを連れて不動産屋にやって来ていた。

 ちなみにミツルギの装備やアイテムは売り払った。
 ミツルギの持ち金も含めると結構な一財産になった。
 これなら、もしかしたら小さい家の一つも買えるかもしれない。

 …………そう、簡単に考えてました。

「無理ですね」
 不動産屋の店員が、一言で切り捨てた。
 身も蓋もない一言に、アクアがすかさず食って掛かる。
「何でよ! これだけのお金があれば、屋敷とまではいかなくても小さい家の一つは買えるでしょ! 私達が冒険者だからって足元見てると、私達の知り合い全員にある事無い事言い触らして、悪評って名前の天罰食らわせるわよ!」
「や、止めてください! 別に我々も、意地悪してる訳では無いんですよ。単純に、売れる物件が無いんです」
 噛み付くアクアに、店員がなだめる様に言ってきた。
「……どういう事だ?」
 ダクネスが先を促すと、店員が途方に暮れた顔で説明を始めた。
「……実はですね…………」




「悪霊?」
 という事らしい。
 最近この街の空き家には、なぜか様々な悪霊が住み着きまくっているのだと言う。
 冒険者ギルドにも相談したのだが、こんな事は初めてで対処のしようが無いとの事。
 なんせ、悪霊の討伐クエストを出して退治しても、またすぐに新しい悪霊が住み着いてしまうのだと言う。

「悪霊を、払っても払っても、幾らでも新しいのが湧いて住み着いてしまうんですよ。それで、今は物件を売るどころではなく、物件の除霊をするので精一杯でして」

 店員が、疲れた表情でため息をついた。
 他の客にも同じ様な説明を何度もして、疲れ果てているのかもしれない。
 まあ、そういう事なら仕方が無い。
 冒険者ギルドが絡んでいるのなら、今は無理でもじきに解決はするだろう。
 それまでは、段々寒くはなってきたが、まだしばらくは馬小屋で……。

 俺がそう考えた時だった。

「ふふん。あなた、運が良いわね」

 アクアが自信たっぷりに店員へと笑いかける。
 何だろう、嫌な予感がヒシヒシとする。
 アクアは、腕を組んで胸を張り。


「悪霊なんて舐めた連中、アークプリーストのこの私の手に掛かればお茶の子よ! まあ、この私に任せなさいな!」


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